- ——竹さんが絵の道に進まれたきっかけから伺えますか。
- 3、4才の頃からずーっと絵を描いている子でしたね。あまり勉強が好きではなく、絵を描くとほめられたので、「私はこっちだなあ」と幼心に思ったのを覚えています。友達が私の絵を好きだと言ってくれたり、先生が遠足のしおりなんかの絵に使ってくれたりしたおかげで、誰かに必要とされて絵を描くことは嬉しいことだと思っていました。描くとすぐに友達にあげちゃっていたので、その頃の私の絵を、今でも友達が持っていたりします。
- 仕事にしようとか夢を見始めたのは小学生の時で、卒業文集に「将来は絵に関する職業につく」と書いています。その頃から絵にしか興味がなくて、会社勤めをイメージ出来ないくらいでした。
- ——当時からイラストレーターを目指していらっしゃったのですか。
- 漠然としていて、とにかく絵を描いていきたいというだけだったんです。マンガや絵本を読んでいたので、最初はマンガ家に憧れていたんですけど、同じ顔を描き続けられないのであきらめました(笑)。ライトノベルみたいな、小説に挿絵が付く世界を全く知らなかったんですが、前もって知識がなかったおかげで、こういうものだというイメージがなく挿絵を描けたのは良いことだったなあと思います。
- ——デビューまでは、インターネット上で作品を発表されていたのですね。
- 中学3年生の時に自宅にPCが来て、ネットでお絵描き掲示板というものに出会いました。そこに没頭したのが15〜16才くらい。2000年ごろのお絵描き掲示板は楽しかったです。みんな、絵が好きな同士で交流できるのがうれしくて、機能が少ないツールでがんばるのも楽しかった。今はイラスト投稿サイトとか、便利になりましたよね。
- 17才の時に講談社の編集者の太田さんに見つけてもらって、西尾維新さんの『クビキリサイクル』でデビューしました。西尾さんも私も未成年で若いコンビだったから、大変だったし迷惑もかけたと思います。
- ——突然、仕事のお話が来た時の感想はいかがでしたか。
- 最初に電話をかけた時は、うれしさと緊張のあまり声がふるえていましたよ。「やった!」と思って飛びつきましたね。一方で、「本当かなあ?」っていうのも正直ありました。「イラストをお仕事にしてみる気はありませんか」という感じで切り出されたから、何をするのか全く分からなくて。
- ライトノベル以外の小説にアニメやマンガよりの挿絵を付けるというのは、当時はほとんどなかったような気がするのですが、自分の絵を小説に、と言われてもどういうものが出来るのか想像が出来ませんでした。だからもう、必死で手探りした思い出しかないです。このチャンスを絶対に逃してはいけないと思って、ひたすら自分の描けるものを探して、描いていった感じです。
- ——小説のキャラクターに絵を付けることと、オリジナルのイラストを描くことで、差は感じられましたか。
- キャラクターデザインという言葉に当てはめていなかったのですが、擬人化したりお花っぽい格好の女の子を描いたりっていうのはよく描いていました。ただ、小説に青い髪や赤い髪の人が出るという感覚が最初は掴めなくて、太田さんから「ここの服装は『ジョジョの奇妙な冒険』くらいのリアリティで」とか「この人はシャアなんだよ!」とか、色々アドバイスをいただきました(笑)。
- 文章では書かれていないけれど意味のありそうなものも、たくさん描いています。自分でいろいろ考えるのが楽しいし、小説の書き手に影響を与えられるくらいのデザインが出来たら素晴らしいことだよと太田さんが話してくれて、例えば、戯言シリーズはキャラクターごとに模様が入っているんです。これは、『ドラえもん』のキャラクターがいつも同じ服を着ているように、誰が描いてもその模様が入っていることで、そのキャラクターを描いたんだと分かるようにしたかったんです。私自身が子供時代に好きなマンガやアニメのキャラクターを描いたりするとき特徴が掴みやすいキャラをそれっぽく描けると嬉しかったので、その気持ちを大切にしたいなと思ったんです。
- ——お仕事で描かれる絵と個人的に描く絵では意識の違いはありましたか。
- 仕事として描き始めてから、いろいろなものを調べるようになりました。洋服が出てきたら洋服を調べるし、ナイフが出てきたらナイフを調べるし。調べないと描けないので、ネットで検索をしたり資料をもらったりするんです。自分では目を向けていなかったものを描く機会があるのが、仕事の良いところですよね。最初は「男の子は描いたことがないから描けません」なんて言っていたんです。
- 書籍の仕事では、店頭でアピールすることにも気を遣うようになりましたね。例えば、表紙になる絵は目線を買ってくれる人の方を見つめるように描こうとしたりしています。絵を描く時、目線は外した方が、雰囲気が出たりするのですが、太田さんが打ち合わせの時に言った言葉の中に「本屋さんで目が合うのが大事」という言葉をずっと覚えていて…だから、「竹さんの絵に惹かれて読みました」と言われると、本当に描いていて良かったとしみじみ思います。
- ——アニメ化された『刀語』で、自らの絵が動くのを見た感想はいかがですか。
-
色がすごくきれいですね!切絵みたいな感覚で描いているところもあるのに、よく動くなあと思います。キャラクターデザインの川田剛さんが、「こうやって描いたらいいんだなぁ」という感じにしてくれました。根っこの部分を大事にしながら素晴らしいアレンジをしてくださっていると思います。回を重ねるごとに七花(主人公)が格好よくなっているんですよね。
自分の絵がどういう感じに見えるのかを意識するきっかけにもなったし、自分でデザインしたキャラクターですが、勉強させていただいています。
- ——『刀語』など竹さんが手がけられた作品では、Illustratorで描かれた線が特徴的ですね。
- よく見ていた絵描きさんにベジェを使っている人が多かったので、自分もIllustratorで作画を始めました。ドット打ちなどの細かい作業に没頭するのが好きなので、性格に合っていたんですよ。シュッとしたきれいな線が引けるし、はっきりした色を塗りたかったので、色が混ざらないのも良かったです。解像度に関係なく描けることと、どこまでも拡大できるのも魅力ですね。
- ——現在はどんなソフトを使っていらっしゃいますか。
- 最近はPhotoshopが多いのですが、文庫版『クビキリサイクル』の表紙や『刀語絵巻』の真庭忍軍十二頭領の絵では、線画をSAIで描きました。Illustratorも、もちろん使い続けていきたいです。昔はIllustratorにこだわっていたんですが、描きたいように描いているうちに、他のソフトも楽しいかなと思うようになりまして。Illustratorで作った模様をPhotoshopのブラシにしたりして、データをいろいろ活用するのが楽しいです。絵の中のもの全部が自分の作ったもので出来ているというのが気持ちいいなぁと。
-
絵柄も顔も頭身もどんどん変えたくなるので、優しいタッチにしたい時はPhotoshop、カチッとした文様を作る時はIllustrator。線の入り抜きがきれいなSAIで線画、ベタ塗りがしやすいPhotoshopで色塗り、みたいな感じで。描きたい絵の雰囲気に合わせてツールを使い分けています。
たまにお絵描きチャットでラフを描くこともありますよ。お絵描きチャットのドットが見えるような線だと、きれいに描くことを意識せずにただ楽しく描くことに専念できるんです。
- ——デジタルでは最初からペンタブレットを使って描かれていたんですか。
- はい。気分転換にマウスでベジェを引くこともありますが、ずっとペンタブレットで描いています。お小遣いをためて買った初代のIntuosが、はじめてのペンタブレットでした。メインで使っているのはIntuos3です。太いブラシツールを使って、力を入れたり抜いたりして線を描くので、筆圧検知の感度が高いのがいいですね。
- ——液晶ペンタブレットCintiq 21UXを使われてみて、感想はいかがですか。
- 狙ったところに線が引けるから、いつもよりundoが少ないですね。線画を描いている時点で塗りたい塗りたいと思っているくらいに色を塗るのが好きなので、直接、色を塗れるのが大きいです。これが持ち歩けたら、外出先でもデジタルでカラースケッチが出来て、もっと楽しいですよね。外に出ると刺激がたくさんあって、ヒントがいっぱい転がっているのに、紙とペンしかその場で描く手段がないので。今見ている風景の色をRGBやCMYKで描けたらどんな数値になるかなぁと頭の中でスライダを動かして想像してみるという遊びをよくやります。
- ——竹さんはラフの時点でもかなり精細なカラーラフを描かれますが、配色はどのように決めるのでしょうか。
- 光源とかの整合性にはこだわらずに、その時の閃きで気持ちよい色を塗っていきます。ありもしないハイライトを入れたりするのも、色として見ているからですね。ラフの段階でなんとなく浮かんではいるのですが、実際に塗ってみたら全然違うこともあるので、完成するまでどうなるか分からない感じで描いています。
- ——カラーイラストの色彩の美しさが目を引きつけますが、影響を受けたクリエイターはいますか?
- 父の影響で手塚治虫先生の作品や大人が読むマンガ雑誌などを子供時代から読んでいたので、レトロな感覚があるかもしれません。他にも、ジブリ、タツノコプロ、あきまん(安田朗)さんはじめ、カプコンデザイン室の方々の絵などが好きでした カプコンのキャラクターはみんな色がすごく好きです。春麗の青とか。後はネットを通じて知り合ったたくさんの絵描きさん達の影響も大きいと思います。
- ——竹さんの絵も青や緑が印象的ですね。自然の温かみを感じますが、山河や動植物がお好きなのでしょうか。
- 昔からなじみが深いんです。自宅の前には以前、空き地があって待宵草が一面に咲いていたんです。田舎も山と川があって緑豊かな場所で、訪れるたびに癒されています。花とか虫とか動物とか、そういうものが大好きで描いていて本当に楽しくて。
- 日本画を見に行った時に、花鳥図の屏風を「ここに虫がいるー!」と発見している女の子がいたんです。私もそういう発見のある絵が描きたいなと思って、絵の細かいところにいろいろな生き物を潜ませたりすることもあります。
- ——サークル「RubiconHearts」の『猫と少女』で同人誌にも参加なさいましたが、今後も同人活動をされる予定ですか。
-
『猫と少女』では、いつもより一緒にやる人のことを意識しました。完全オリジナルで、大好きな猫をとにかくたくさん描けたのが楽しかったです。
同人誌はやりたいなあと思ったりもしますが、個人でやるとすごくはまってやってしまいそうで…今はあまり本格的には出来ないかなあと思います。一度にたくさんのことが出来るタイプではないので、自分が納得出来るものが描けるペースを掴んでやっていけたらと思います。
- ——これからお仕事でやってみたいことはありますか。
-
児童書などですね。小学生の時に大好きな絵本があって、ずっと借りては読んでいた一冊があって、あんな風に夢中になれる絵本を私も描いてみたいと思っています。
あと、文房具とか一筆箋とか、物のデザインがしてみたいです。自分のデザインした物が目の前にあったらうれしいだろうし、キャラクターデザインとはまた違った楽しさがありそうです。雑貨を見るのが好きで、ワンポイントで入っている鳥の絵のこのラインが自分ならもっとこうこだわるかもと思うことがあるので、そこを自分の絵でやれたら面白いでしょうね。
- ——最後に、次にインタビューに登場していただくお友達をご紹介いただけますか。
- イラストレーターの丹地陽子さんを紹介します。猫が好きな人の集まりで知り合ったのですが、ずっとずっと憧れていた絵描きさんです。
- 一般書籍を中心に活躍している方で、本屋さんで表紙を見て「あ、いいな」と思って手に取ると、ほとんど丹地さんだったり。それほど素敵なイラストを描かれるし、いろいろなタッチをお持ちで、とても尊敬しています。丹地さんのやさしくてあたたかく、自由な発想の絵が大好きなので、デジタルでどう実現しているのか、私も是非拝見したいと思います。
(C)竹/講談社
書籍紹介
『竹画集 刀語絵巻』
著者:竹
原作:西尾維新
定価:¥3,990(税込)
「本画集の出版を以って、刀に纏わる12の物語は漸く完成する。」
——原作者 西尾維新
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、
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