- ——山下さんが絵を描き始められたのはいつ頃からですか?
- 4歳ぐらいです。親に連れて行ってもらって初めて観た『スターウォーズ』に強烈な印象を受けて、爆発シーンや宇宙船の飛行シーンを自分の手で再現したいという欲求が自然に沸き起こったんですよ。それから絵を描くのが好きになって、当時の戦隊ヒーローや仮面ライダーを描いては親に見せて、褒められたら得意になってまた描いて、という感じでしたね。常にペンか鉛筆を持っているような子供でした。
- ——他にはどんなものを描かれていたんですか?
- 家に大人用と子供用の百科事典が揃っていて、食い入るように毎日眺めては、掲載されている写真や絵を目に焼き付けて模写したり、イメージを膨らませて考えて描いたりしていました。とにかく〝再現欲〟というのがすごくあったんですね。自分で見て「すごい!」と思ったものを紙の上でどうやったら表現できるんだろう、どうやったらこういう風に描けるんだろう 、ということを子供なりに色々と工夫していたように思います。
- ——見たものを自分なりに落とし込むという作業を、ごく早い時期からやられていたんですね。それから途切れることなく絵を続けてこられた?
- 趣味程度には描いていましたけど、中学・高校では美術部には入らず陸上部に入りました。短距離走をやってましたね。美術の授業で、名画の模写が課題として出たときにルノワールの『舟遊びをする人々の昼食』を選んで描いてから印象派にハマったり、読書感想画のコンテストに出して賞をもらったりしていましたけど、本格的に絵でやっていこうとは思ってませんでした。それよりも、CMや映画に関わりたいと思って、映像関係の学科のある大学を選びました。進学してからは絵を描くよりビデオカメラを回す方が多かったですね。
- ——絵をお仕事にされたのはどういったきっかけがあったんですか?
- 大学時代に映画研究部に所属していて、学園祭でお店を出すことになって。出すからには面白いことを、ということで、来店された方の似顔絵をワンコイン500円で描くコーナーを作ったんですね。お客さんにもすごくウケて、絵を描いてお金をもらうことは楽しいことなんだと脳の中に強烈に刷り込まれたんです。それで味をしめて、もっとやりたいと、繁華街の路上に出て似顔絵を描くようになりました。そこで、面白がって来てくれた方からイラストのお仕事をいただいたり、イベント会社の方に誘われて、観光地で似顔絵描きのアルバイトをしたりといったことが始まったんです。
- ——絵のお仕事の原点は似顔絵なんですね!
- 就職活動もしてCM制作会社に一応受かったんですけど、似顔絵を描くのが好きになってしまって、結局ずっと路上でやってました。まだ似顔絵描きは物珍しい頃だったこともあって行列ができるくらいの人気だったんですよ。へとへとになるんですけど、学生の日銭としては充分すぎるほど稼いでましたし、何より楽しくてやっていたことなので全然苦ではなかったですね。似顔絵は今でも自分のチャンネルのひとつとして大事にしています。
- ——それからはどんなお仕事をされてきたんですか?
- 似顔絵描きと平行して、知り合いからイラストやデザインの仕事をいただくようになったんですが、最初の頃はほぼ丸投げ状態で受けていて。例えば企業のパンフレットなら、表紙イラストや中身のデザイン、会社概要の部分まで全部自分だけでやっていたんです(笑)。イラストの実績はゼロの状態だったんですが、どんな発注でも絵を使った仕事を受けられることがまず楽しかったので、やり通していました。そんな中で、似顔絵描きのアルバイトをしていた会社が横浜に出店することになって、そのタイミングで上京したんです。引っ越してきてから井の頭公園なんかを歩いてみると、自分の作品を路上で売っている人がいて、そこですごく衝撃を受けて。それまでは、注文を受けて指示通りに描いて応えていくものだ、というだけで、イラストそのもので収入を得るという概念がなかったんですね。近いようで、そこにはすごく厚い壁があったんです。
- ——上京を経て、イラストレーターを目指されるようになったんですね。
- 自分で作品をプレゼンテーションするという考え方は東京に来てからですね。似顔絵は絵を使ったいわゆる「サービス」で、その枠の中でやっていることはもちろん楽しかったんですが、それとは違うやり方というのを知って、ちゃんとイラストの仕事がやりたくなったんです。それからは徐々にイラストのみに注力できるようシフトしていきました。自宅にネットをつないで、自分のサイトを作ったり、イラスト登録サイトを利用したりして、紹介ではなく自分でイラストの仕事をとるようになりました。その一環としてdigmeoutのオーディションを受けて、イラストレーターとして表現できるようになった感じですね。
- ——作画にペンタブレットを導入されたのはいつ頃ですか?
- 上京する前後くらいにグラフィック系の雑誌でペンタブレットの存在を知って、すぐに初代のIntuosを購入しました。ネットを使い始めてデータのまま納品することも増えてきて、これからはデジタルで描けないとやっていけないなと直感してから、自分の中での必要性が徐々に上がってきた感じですね。ソフトは最初にPhotoshopとIllustratorを導入して、少し後からPainterも使い始めました。ペンタブレットはそれから、Intuos3、Intuos5と使い続けてます。
- ——ずっと板のペンタブレットを使ってこられて、変化を感じる瞬間などありましたか?
- 常にペンの摩擦を最大の状態にしておきたいということで、面がつるつるだった初代Intuosのときは上に紙を一枚敷いて抵抗を作っていたんですが、今使っているIntuos5ではケント紙に直接ペンで描いているような感覚になったので、すごいなと思います。フェルト芯を使ってガシガシ描ける、Intuos5にしか表現できない摩擦具合があるという感じです。紙を敷いていたときは手汗ですぐにベロベロになってしまっていたこともあったので、自分好みの描き味を長時間維持できるのもいいですね。
- ——今回、初めて液晶ペンタブレットのCintiq 24HD touchを触られてみて、いかがですか?
- 初めてだったので少し戸惑いましたけど、慣れてしまえばすごく便利だろうなと思います。個人的には、もう少しペンと画面との摩擦が欲しいところですが、そこもカスタマイズ次第でしょう。アナログの描き方と変わらないので、デジタルとの違いを意識しないですみますし。ここまでくると、デジタルイラストが今後もっとアナログに歩み寄るのか、別次元のものになるのかを考えてしまいますね。もう絵の具を触ったことがないデジタルネイティブがいるわけですから、そういった方が使えば、僕のようなアナログ作画ネイティブの世代には太刀打ちできない、デジタルならではの表現で新しい何かが生まれてくるような予感がしますね。
- ——山下さんにとって、アナログ作画とデジタル作画の違いはどんなところですか?
- 僕はアナログの風合いがデジタルでも出せるんだ、という喜びがすごく強くて、そこにまずハマったんです。ペンタブレットが魔法の道具に思えたくらいですよ。でも自分の個展を開かせてもらえるようになって、デジタルで描いたものをどう展示すればいいのか、というところですごく悩んだんです。デジタル作品は、画面上では完璧なものですよね。それを人に観てもらうにはどうすればいいんだろうということで、しばらくはキャンバスに一度アウトプットしたものをレタッチするという方法で凌いできたんですが、それはやっぱりレタッチでしかない。結局、アートピースとして描くときは全てアナログで描こうという結論に今は至っています。
- ——では、デジタル作画は現在どのような位置づけなんでしょう?
- 現状での答えは「CADとして使う」ですね。最終的にはアナログで描くんですが、作品の制作過程においてフル活用しています。構図の設定から色の配分といった、設計図のようなものを描くときは、全てペンタブレットを使ってデジタルでやっているんです。シミュレーションを重ねてキャンバスに描くという感じです。もちろん、通常の仕事の場合はデータで納品しなければならないので、真逆の使い方をしていますよ。そのときは、キャンバスに描いたものをPC上でコラージュしていく感じです。フィニッシュが何か、という違いだけで、絶対にデジタルは使っています。
- ——山下さんの絵の特徴として、今にも動き出しそうな躍動感が挙げられると思います。この作風はどうやって生まれてきたものなんでしょう?
- デザインとイラストを同時進行していた頃に過渡期を迎えて、次にどう進んでいいかわからなくなったんです。描きたいものがないまま30代を迎えてしまったんですね。仕事も途絶えてしまって、一か月くらい時間が空いたときに自分を振り返って、描きたいものがあったら今描くしかないぞ、と考えて。そのときふと思い出したのが、学生時代にやっていたスポーツの達成感や、もっと小さい頃に観た映画の高揚感だったんです。そういった自分の気持ちいい経験を絵で表現できないか、ということで、そういった質感の絵を狂ったようにいっぱい描いて、自分のサイトにアップしていったんです。それを見てくれた人が注文してきてくださって、どんどん自分がいきたい方向にいけたという感じですね。
- ——今は描きたいものとお仕事の内容が合致しているんですね。
- それに近い状態でありがたいですが、いずれまた変わってくると思います。プレゼンして世の中に認知されて発注してもらえるようになるまではやはりタイムラグがあって、今、仕事でやれているこのタッチも、3、4年前に描きたかったものなんです。でも、「動き」というのは自分でもいいテーマだと思っていますね。絵は絶対に動かないものなので。例えばバイクやスケボーに乗っているような絵では、鑑賞者が自由にスピードを想像できますよね。もちろん、想像させるための絵のクオリティやテクニックは重要ですから、さらに上達するよう努力してます。
- ——イラストレーターとしての目標はどんなところですか?
- ここまできたら一生携わっていきたいですね。描くことで幸せになるというか、心と体が高揚する感じがやっぱり好きなんです。気になっていた部分が思い通りに描けたとき、ばーっと全体が見渡せて一気に仕上げられる、そのランナーズハイのような瞬間の面白みは、一番最初の鑑賞者である作者だけのものですから。
- ——今後、どのような絵を描いてみたいですか?
- 風景画はやってみたいです。人って記憶を辿るときに風景で思い返すことが多いですよね。そういった人の内面、心象風景も含めた広い意味での「風景」を描きたいです。ずっと人間の動きを描いてきたということもあるので、敢えて人を描かずにその存在を感じるような絵に興味を持ち始めているところですね。それを今までの自分のタッチを生かして描いていければいいな、と思います。
- ——次回ご登場いただけるイラストレーターの方を紹介してください。
- 金子ナンペイさんを。サマーソニックで一緒にライブペイントをやらせていただいてからのお付き合いですね。メインはアナログ作画の方ですが、仕事によってペンタブレットを使い分けてらっしゃいます。最近は「ビッグコミック」の似顔絵を担当されてますね。絵も濃いですけど人柄も濃い方なので(笑)、パワーに圧倒される感じで刺激をもらいまくってます。
個展「BUMP!」紹介
個展「BUMP!」
最新作を含む山下良平さんの個展。原画販売のほか、iPhoneケース、グンゼBODY WILDとコラボしたアートパンツ、1万円以下で購入出来る直筆ドローイング原画シリーズも販売されます。
日時:9月15日 9月26日 11:00〜19:00(木曜休み、展示最終日のみ18:00まで)
場所:GALLERY SPEAK FOR
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR B1F
日時:9月15日 9月26日 11:00〜19:00(木曜休み、展示最終日のみ18:00まで)
場所:GALLERY SPEAK FOR
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR B1F
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、
尊敬するお友達を紹介してもらうコーナーです。
いつか皆様にも繋がる「わ」になるかも…? みなさまの今後の創作活動のヒントに活用してください!
の検索結果 : 0件のページが見つかりました。
もっと見る