イラストレーター
ぶーた『不完全ナックル』(十階堂一系/メディアワークス文庫)の装画やSAIを使ったイラストメイキング本『SAI公式イラストメイキング』(晋遊舎)などで活躍するイラストレーター、ぶーたさんによる液晶ペンタブレット"Cintiq 24HD touch"を使ったライブペインティングを公開!
ぶーたインタビュー
- ——ぶーたさんが絵を描き始められたのはいつ頃からですか?
- 一番最初に絵を描いたのは幼稚園か、もっと前の頃からです。小学生になってからは『りぼん』(集英社)を読んでいたので、よく真似して描いていました。
- ——少女漫画がお好きだったんですね。
- 完全に『りぼん』派で、種村有菜先生の作品をよく読んでましたね。他には吉住渉先生の『ミントな僕ら』とか。あと私が読んでいた頃に、槙ようこ先生もデビューされて、絵がすごくかわいらしくて大好きでした。でも、思春期だからなのかわからないんですけど、中学校に入って、だんだん絵を描くことが恥ずかしくなってきてしまったんです。それで中学から高校にかけては全く描きませんでした。
『青臭い夏の恋歌』オリジナル ©ぶーた
- ——再び絵を描き始めるきっかけは何だったんですか?
- 高校を卒業したての時期に、ニコニコ動画の「歌ってみた」界隈の知人に「面白いよ」と教わって、ニコニコを見始めたんです。ちょうどボカロ(ボーカロイド)も流行りだしている頃で、なんだか楽しそうなことをしてるなあ、という印象を受けて。曲を作る人がいて、別の人が絵を描いてコラボする、というかたちがすごく面白そうで、その輪の中に混ざりたくなったんです。曲は作れないけど、絵なら描けるかも、ということで、ボカロのイラストを描き始めました。最初の頃はボカロばっかりですね。
- ——ボカロの中でも特にGUMI(めぐっぽいど)のイラストが多いですね。
- pixivに上げている最初の絵はGUMIが発売されてすぐに描いたものですね。GUMIの登場を知ってキャライラストを見たときに「これはいい!」と思ったんです。もともと『マクロスF』のランカちゃんがすごく好きで、その声の人がボカロになるということもあって、こんなに素晴らしいことはないと、超応援してましたよ。絵もそれまではチラチラとしか描いていなかったんですけど、GUMIに惚れ込んでからは何回も描いて、フェイPさんの『マジ恋~Five Minutes Before It Falls in Love~』という曲に使ってもらいました。
『ぐみちゃんん』オリジナル ©ぶーた
- ——その頃からデジタルで描かれているんですか?
- そうですね。ニコニコ動画を見て自分も描きたいと思ったくらいなので。そもそも「ウェブに絵を上げるにはデジタルだよね」という考え方だったんです。
- ——その頃からペンタブレットをお使いだったんですか?
- 絵を描き始めると同時にペンタブレットも購入しました。デジタル作画を始めた頃は本当に初心者だったので、ネットに絵を上げている人たちはどうやって描いているんだろうと調べてみて、ペンタブレットの存在を知ったんです。「こんなに便利なものがあるのか!」と、躊躇することなくBamboo Comicを使い始めました。今は知人から誕生日プレゼントに頂いたIntuos4を使っています。Intuos4は、持っているだけで絵を描いている人っぽいので(笑)、モチベーションが上がりますね。
- ——現在はどのような作画環境ですか?
- 知人に譲ってもらった、何年も前のwindowsXPのPCを使っています。最初の頃はメモリが1GBのノートパソコンで作業していたので、絵を保存するのに1~2時間もかかっていました(笑)。今でも絵を描くだけで精一杯のひどい環境ではあるんですけど、昔よりは良くなっているということで、なんとか持っている感じです。さすがに今後ちゃんと整えたいですね。モニターはKOREGAというメーカーのものです。モニターの前にキーボードがあって、その手前にIntuo4を置いて作業しています。
『GUMI』オリジナル ©ぶーた
- ——ツールにSAIを選ばれた理由は?
- 最初はフリーソフトでもいいかなと思ってpixiaを少しだけ触ってみたりもしたんですけど、うまく使いこなせなかったんです。SAIは安価ですし書き味もすごくいいと聞いて使ってみたら実際によくて、それからはSAIだけで作業しています。でも、最近は印刷物が多いので、CMYK変換の問題があるんですよね。CMYKを意識せずに色を選んでいて、最終的に「そういえば」と気づくんです(笑)。今はRGBで入稿して変換をお願いしています。
- ——絵の描き方はどうやって学ばれてきたんですか?
- ほとんど独学です。イラスト講座のサイトで塗り方の基本を調べたりしたほかは、とにかく好きな絵師さんが描いた絵を穴が空くほどずっと見てました。真似して描くことはせずに、ただじっと凝視して(笑)。ツールの使い方も、ニコニコ動画にアップされている「描いてみた」動画を見ていたくらいなので、知らない機能もまだたくさんあると思います。
- ——現在はフルデジタルで描かれているんですか?
- そうですね。たまにクロッキー帳とかに線画を描いて、このまま描きたいと思ったらスキャンしてそのまま下書きにしたりもするんですが、最近はほとんどフルデジタルですね。
『ぷらちな』2011年12月カバーイラスト ©ぶーた
- ——液晶ペンタブレットのCintiq 24HD touchを触ってみて、いかがですか?
- 今までは電器屋さんのデモ機で試し描きをしたくらいだったので、今回初めてちゃんと使いました。板のペンタブレットには慣れていたんですけど、液晶ペンタブレットだと、自分が絵を描いているという実感が沸きますね。手と画面に距離がないので「生!」という感覚になりました。欲しいですけど、まずはPCからなんとかしたいので(笑)、仕事をたくさんこなして、資金を作りますよ。
- ——今はお仕事で絵を描かれる機会も増えていますね。絵をお仕事にしようという思いはいつ頃からあったんですか?
- 最初に絵を描き始めた頃は、絵を描いてお金をもらうようになるとは思ってもいなかったんですけど、商業で通用する絵とはどういう絵なんだろうということを考えてはいた気がします。無意識のうちに自分の絵と見比べて「どう違うのかな」と思っていたんです。それで、いろんな描き方に手を出していましたね。
- ——ぶーたさんのpixivなどを見ると、同じ人が描いているように思えないくらいに、絵柄が変化していますね。
- 塗り方やキャラクターのつくり方など、毎回描き方が違っていて、統一感がぜんぜんないんですよね。最近になって、もしかしたらこの方向性で安定していくのかなという手応えはあるんですけど。
- ——その手応えはどうやって生まれたんですか?
- きっかけになったのは、ぷらちなさんで描かせていただいた、トップページの紫陽花のイラストの『六月三日』です。あのイラストがpixivのウィークリーとオリジナルのランキングで1位になったんですよ。ランキングには載れたらいいなとずっと思っていたので、本当に感動してひとりで泣きました。ランキング画面のキャプチャーもバッチリ撮って(笑)。それから次につながるお話をいただく機会も増えたので、すごく嬉しかったです。
「六月三日」ぷらちな2012年6月カバーイラスト ©ぶーた
- ——そこから『不完全ナックル』(十階堂一系/メディアワークス文庫)のイラストを担当することにつながったんでしょうか。
- そうですね。ランキングに載った後に編集さんからメールで連絡をいただきました。キャラクターの個性が強い内容だったので、どのキャラクターを何人描くか、口絵はどういったデザインにするのかということを大まかに打ち合わせをして。実際に描いてみて「どうでしょう?」というやりとりで進んでいった感じです。ほぼ同時に「SAI公式イラストメイキング」(晋遊舎)の依頼もきていたのでなかなか忙しかったのですが、印刷されて世に出ると「デビュー!」って感じがしますね。書籍のお仕事はやってみたかったですし、すごくやりがいがあるので楽しいですね。かたちになると嬉しいです。
- ——実際に仕事として絵を描くようになられて、心境に変化はありましたか?
- 趣味だから、仕事だから、と線引きをせずに、できる限りのことはしようと思っています。技術が不足している部分は仕方がないと思うんですけど、自分の中の「めんどくさい」というような、怠惰な気持ちが絵に表れないようにしようと。常に全力で描いてきたつもりですし、そのときに描ける絵を頑張って描いていたら今のようになっていたということもありますから。
- ——書籍でデビューされて、周囲の反響はいかがですか?
- 友達に「すごいね」って言われた程度です(笑)。実は家族には何も話をしていないんですよ。自分の絵が本屋さんに並んでいるということも隠しています。単純にちょっと恥ずかしいというところがあるので、自分から言うのはちょっと……。絵を描いているのは知っているので、追求されないうちは、言わなくていいのかなと(笑)。
『不完全ナックル』第1巻
(メディアワークス文庫)表紙イラスト
©JYUKKAIDOU IKKEI/ASCII MEDIA WORKS
- ——お仕事のほかは、サークル「ドッペルズ」で同人活動もされていますね。どういったきっかけで始められたんですか?
- 同人活動自体は、たくさんの絵師さんの作品を集めた画集に呼ばれて参加したのが初めてです。それから、そこで知り合ったメンバー4人(ドッペルズ)で合同画集を作ったりしている感じですね。今後ドッペルズとして何をやるのかは未定ですが、12月に開催される「THE VOC@LOiD M@STER 23」では、ちゃんとした個人の画集を初めて出そうと思っています。全部書き下ろしが目標なので、頑張ります!
- ——ネットと同人活動、それからお仕事とありますが、ぶーたさんにとってはそれぞれどういう位置づけになりますか?
- 商業でも何でも、とにかく描いた絵を見て欲しいんです。たくさん描いて、描いたものを見ていただける機会をもっと増やせれば、やっぱりつながっていけると思うんですよね。言葉にするよりも、絵を見て何かを感じ取ってもらえればいいなと思いますし、そういった絵を描けるように頑張っていきたいと思います。
- ——今後の方向性として、やりたいことはありますか?
- 書籍系の仕事はこれからもやっていきたいなと思っています。絵も続けていきたいし、キャラクターデザインにも興味があるんですが、中でも、最近は漫画に挑戦したいなと思っています。実際に漫画のお仕事のお話をいただくまでは全然考えてなかったジャンルですし、自分には無理だろうとも思っていたんですけど、今は意識が向いてきたところなので、ちょっと勉強しているところです。といっても、とりあえず、自分が描くということを意識しつつ、読んでいるだけなんですけど(笑)。
- ——これまでに漫画を描かれたことはあるんですか?
- 全然描いてこなかったですね。本当にどうしていいかわからないので、数年前にイラストを始めたときと同じように完全な初心者からのスタートです。実は一枚絵を描くとき、塗りにはちょっと苦手意識があるんですが、線画を描くほうは好きなんですよ。だから漫画を描くということやモノクロの絵を描くことには全く抵抗はないんです。もちろんイラストを描くこととストーリーを描くことでは使っている脳みそがそもそも違いますし、他にもいろいろ課題はあると思います。
『SAI公式イラストメイキング』
メイキング用イラスト ©晋遊舎
- ——目標にしている作家さんはいますか?
- 少女漫画のターゲットより少し上の世代が読むような『Zipper comic』とか『FEEL YOUNG』(ともに祥伝社)、『Cookie』(集英社)などの作品は読みやすいですよね。西炯子先生の『娚の一生』なんてすごくよかった。男性キャラが本当に魅力的で大好きです。そういった系統の作品を読むのが好きなのですが、実際に自分がどういう漫画を描けるのかはまだわかりません。そういえば、少女漫画ばっかり読んでいた小学生の頃は、漫画家になることが夢だったんですよ。結局またそこに戻って進んでいこうとしてるのが、なんだか面白いですね。
- ——先ほど、キャラクターデザインにも興味があるとおっしゃっていましたが、そちらはどのようなものですか?
- 今は、例えば女子高生のような現実的なキャラクターが私には合ってるのかなと思っているので、そういった絵をしばらくは増やしていきたいなという感じです。一応ボカロ界隈の人間でもあるので、そちらの絵も描いていきつつ、ゲームなどまだやっていない分野も多いので、何でもやってみたいなと思っています。
- ——それでは最後に、ぶーたさんにとってペンタブレットはどのような存在でしょうか?
- 「右手」です。デジタルで描き始めたので、アナログではほとんど描けないんですよ。絵を描くために、ペンタブレットはなくてはならないものなんです。
初出日:2012年10月26日
インタビュー:平岩真輔
構成:草見沢繁
ぶーた
イラストレーター。ボーカロイド楽曲のPVでのコラボなど、インターネットを中心に活動。「ぷらちな」トップページイラストを担当し、透明感のある色彩と、表情豊かなキャラクター表現で注目を集める。2012年『不完全ナックル』(著:十階堂一系/メディアワークス文庫)のイラストで書籍デビューを果たす。そのほか、自身のメイキングを紹介しているムック『SAI公式イラストメイキング』(晋遊舎)、ジャケットイラストを担当したボーカロイド・GUMIのコンピレーションCD『Gumi Rock Splash』(+one)やソーシャルゲーム『妖女大戦』(株式会社ニジボックス)カードイラストなど、活躍の場を広げている。
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