イラストレーター
おぐちデジタルとアナログを股にかけ、『艦隊これくしょん』などのゲームイラストや書籍のカバーイラストから、油彩による展覧会まで幅広く活動されるおぐちさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 24HD touch」を使ったライブペインティングを公開!
おぐちインタビュー
- ――おぐちさんが絵の道に進むようになった経緯を教えてください。
- 子どものころから絵が好きでイラストや美術が得意だったのですが、通っていた学校には美術部がなく中学生までは野球ばかりしていました。本格的に絵を描き出したのは美術部のある高校に入学してからです。高校一年生のときに家族とともにニュージーランドに移り住み、ニュージーランドの高校でも美術部に入り油絵を描いていました。大学は美術系に進みたいと思い、日本で大検の資格を取ったあとに美術予備校へ通い、一年浪人して東京芸術大学の絵画科油画専攻に入りました。今は4年次に在学中です。
- ――絵画とイラストで意識の違いはありますか?
- 初めは勉強として始めた絵画と趣味で始めたイラストを別物だと考えていたのですが、現代美術家の村上隆さんが2012年にキュレーションされたグループ展「A Nightmare Is A Dream Come True:Anime Expressionist Painting」に参加したことで考えが変わりました。Mr.さんやNaBaBaさんといったアーティストの方々がアナログでキャラクターイラストを描かれているところを見たり、市販で最大サイズの300号のキャンバスに油彩でキャラクターイラストを描いたりという体験をしたことで、絵画とキャラクターイラストを分けて考える必要はないと思うようになりました。
- ――キャラクターイラストを描く際のこだわりを教えてください。
- キャラクターの質感や肉感を表現することです。予備校で「物の形を捉えた絵を描く」ことを教わってきたので、絵を見る人に描かれたものの形や質感が伝わるような絵にしたいと常に思っています。また最近は映像的な効果をイラストに取り込むことを試みています。GINGAという音楽レーベルから出た『0005:a galaxy odyssey』のジャケットイラストではAfter Effectsのプラグインであるknoll light factoryやElement 3Dで、レンズフレアや粒子などのエフェクトを描きました。また神高槍矢さんのライトノベル『代償のギルタオン』の表紙イラストではぼかしギャラリーというフィルターを使い、光の輪郭を丸くぼかすエフェクトを加えています。
- ――CDのジャケットイラストやライトノベルの表紙イラストなどメディアごとの描き分けはありますか?
- メディアごとの流行より、その作品や企画の世界観を十分に表現できるビジュアルを第一に考えています。たとえば『代償のギルタオン』のような空間性を重視した表紙イラストはライトノベルでは珍しいですが、作品の世界観を表現するために必要なことだと思い描いています。また可愛い女の子を描くことはメディアを問わずいつも心がけています。
- ――「メカと少女」のモチーフをよく描かれていますよね。
-
もともとロボットのイラストが好きでしたし、画面にメリハリをつけるアクセントとしてメカを加えることも多いです。
肉感的でやわらかいイメージの人体と硬質なメカを同じ一枚の絵の中に描くことで作品上に
対比が作れるところに魅力を感じています。
『艦隊これくしょん -艦これ-』の深海棲艦(敵キャラクター)もそうしたテイストを加えた作品です。 コンセプトは「沈没した艦船」で、加えて「特定の勢力と戦争をしているわけではないので、具体的な艦船をイメージさせないような外観にしてほしい」という要望だったこともあり、艦船を思わせる硬質な要素を持つモンスターをイメージして描いています。ただ、ほかのイラストレーターの方々が女の子のキャラクターを描いているのを見てうらやましくなり、空母ヲ級や戦艦レ級のように強い敵になるほどモンスターと女の子の中間的なデザインになるというアイデアを提案し採用していただきました。
- ――空母ヲ級はファンからの人気が特に高く、関連商品も多数発売されていますね。
- ワンダーフェスティバルで空母ヲ級のフィギュアの原型を見たときは感動しました。『艦これ』は背景を含まないキャラクターだけを描く作品だったためキャラクター単体で印象に残るようなフォルムにしました。ひと目でキャッチーさを感じ取ってもらえ、その後ディテールまで見ていくことで複雑な仕掛けがあることに気づいてもらえるように工夫しました。そのため空母ヲ級はインパクトを持たせるために頭に大きな機械を乗せたキャラクターを中心にして、機械から触手を生やすことで全体のバランスを整えています。
- ――絵を描くときに参考にしているものはありますか?
-
写真を見て絵を描くことが多いです。写真に写っている服のしわがイラストでは見かけないような形だったりすると、それを絵で表現するにはどうすればいいかを考えます。現実のものをイラストに落とし込むために努力することで自分なりの方法論を発見することが多いです。
同様に音楽のPVはイメージを伝えるために世界観を作り上げていくというところがイラストと似ていると思うので勉強になります。たとえばヘビーメタルのPVを見てドクロや衣装、ステージの装飾や映像エフェクトといった要素をどのように扱えば、ヘビーメタルの世界観をイラストに反映することができるのかを研究しました。
また雑誌から学べることも多く、たとえばキャラクターの絵に対する文字やロゴの使い方は非常に勉強になります。ほかにも最近『MiLK』というフランスの子ども向けファッション誌の10周年記念写真集が出たのですが、子ども向けの服は既存の大人向けの服のディテールを単純化した形で作られていることが多いため、イラストで服を描く際に特徴を残したまま簡略化するにはどうすればいいかの参考になります。 - ――クリエイターからの影響はいかがですか?
-
イラストレーターでは沖田雅さんのライトノベル『オオカミさん』シリーズのイラストなどを手がけられているうなじさんが好きです。パッと見たときのキャッチーさとリアリティが調和しているうえ、線一本一本にまで神経を使っていることが伝わってくるところに魅力を感じています。
海外の画家ではフランシス・ベーコンやアントニオ・ロペス・ガルシアに憧れています。ファインアートの画家は作品だけではなく、作家自身の生き方や絵に関する哲学を含めて好きになることが多く、フランシス・ベーコンの破天荒な人生や、アントニオ・ロペス・ガルシアが示したような、マルメロの実の絵をその実が成長するたびに上から描き直すといった「リアルに描くとはどういうことか」を徹底的に考え抜く姿勢には強い尊敬を覚えます。
- ――アナログの絵画に対して、デジタルのメリットは何だと思いますか?
- キャンバスの大きさを好きなサイズに変えられる点です。 絵を描くときはどんな距離から見ても絵の見映えが悪くならないように気を使う必要があると思います。自分では丸を描いていたつもりでも遠くから見てみるとまったく丸には見えないということがよくあります。そのためアナログで描いているときはキャンバスの近くで描くことと遠くからチェックすることを何度も繰り返すのですが、デジタルでは自分と画面の距離は変えずに様々な見え方を確認できる点が非常に便利だと思います。
- ――デジタルツールの変遷を教えてください。
-
初めてペンタブレットに触れたのは中学3年生のころで、当時はお絵描き掲示板でイラストを描いていました。予備校時代にPainterを購入し、pixivがサービスを開始したのでそこで作品を発表するようになりました。GINGAという音楽レーベルから出た『0001:a galaxy odyssey』のジャケットイラストを描いてほしいと、イラストレーターとして初めての依頼をいただいたのもこのころです。
その後しばらくはアナログのテイストを出すためにPainterを使っていたのですが、アナログの質感がほしいときはアナログで描けばいいと思うようになり今はPhotoshopとAfter Effectsを使っています。ペンタブレットは「Intuos3」をずっと使っています。
- ――本日「Cintiq 24HD touch」を使われてみてのご感想はいかがですか?
- 「Cintiq 24HD touch」ではアナログで描いているのと変わらない感覚で描くことができました。これならば普段アナログで描かれている方もすぐに慣れることができると思いますし、逆に液晶ペンタブレットに慣れていればアナログで絵を描くことにもすぐに慣れることができると思います。デジタルとアナログの往復をしやすくしてくれるツールだと思います。
- ――最後におぐちさんが今後チャレンジしてみたいことを教えてください。
- 「レーシングミク」の車体用のイラストやTシャツのデザインなど、書籍やCD、ゲームといった一般的なイラストとは少し違った作品に興味があるため、ジャンルを限定せずこれまで以上に様々な仕事を受けてみたいです。また映像制作や造形芸術などイラスト以外の分野へもチャレンジしてみたいと思っていて、現在もGINGAで音楽PVの制作に協力しています。僕は自分のことを絵を描く人間だと思っていますが、絵以外の様々なジャンルの表現を経験したうえで自分の絵の描き方を見つけていきたいです。
取材日:2014年5月9日
インタビュー・構成:高瀬司
おぐち
イラストレーター。東京芸術大学絵画科油画専攻在学中。現代美術家の村上隆がキュレーターを務めたグループ展「A Nightmare Is A Dream Come True:Anime Expressionist Painting」で、油彩によるキャラクタードローイングを展開。またライトノベル『代償のギルタオン』(神高槍矢/スーパーダッシュ文庫)表紙イラスト、音楽レーベルGINGAの『xxxx:a galaxy odyssey』シリーズのCDジャケットイラストをはじめ、ブラウザゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』(DMM.com)の深海棲艦のキャラクターデザイン(空母ヲ級、戦艦レ級など)を担当し絶大な人気を博す。アナログとデジタル、アートとサブカルチャーを股にかけ、メディア横断的に幅広い活動を展開する気鋭の若手アーティスト。
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