イラストレーター、アートディレクター
與座巧デジタルと水墨画を組み合わせた独特の作風で、書籍のカバーイラストやWebサイトのアートワークなどを手がける與座巧さんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 24HD touch」を使ったライブペインティングを公開!
與座巧インタビュー
- ――與座さんが絵を描き始めたきっかけを教えてください。
- 小学生のときから絵が好きでいつも描いていました。その後、高校を卒業するころに絵を仕事にしたいと本気で思うようになり、大阪デザイナー専門学校に入学しました。在学中からWebデザインの仕事に関わるようになったのですが、イラストへの憧れは抱き続けていて所属していた会社の先輩に絵を見ていただいたり絵の仕事があったらやらせてもらったりと、副業としてイラストの仕事を続けていました。
- ――デジタルに触れたのはいつごろですか?
- 高校生のときにPCを買ってもらいフリーのドローイングソフトに触れるようになりました。そのとき描いたイラストをポストカードにプリントして、アメリカ村の雑貨屋で委託販売していました。値段は100円ほどだったのですが、ほかの人に絵を買ってもらうという経験をしたことで自分の絵が「作品」として認められたような気持ちを持つことができ、ますます絵を描くことにのめりこむようになりました。

- ――影響を受けたイラストレーターはいますか?
- 寺田克也さんです。『バーチャファイター2』のキャラクターデザインを見たときに、躍動感や迫力のすごさに引きこまれました。またネットで寺田克也さんの活動を追いかけるうちに、ドローイングの工程を録画して公開されていることを知り、参考にさせていただきました。デジタルイラストレーターの第一人者として尊敬しています。
- ――與座さんは水墨画とデジタルを融合させた作品も多いですが、水墨画を始めたきっかけは何ですか?
- 10年来の友人から「しばらくアナログで描いてみたら?」とアドバイスを受けたことが直接のきっかけです。寺田克也さんもデジタルと平行してアナログで水彩をやられていますし、デジタルでイラストレーションを続けるにしても「アナログで絵を描く」ことを一度経験することで違う世界が開けるかもしれないと思い、アナログでのドローイングを実践してみることにしました。そこでまず初めに手近にあった筆ペンで和テイストの作品を描いてみたのですが、そのドローイングを周囲に見せたところ思った以上に評判がよく、そこからだんだんと和風の絵の描き方そのものに興味がわき水墨画を始めることに決めました。
- ――水墨画はどうやって学んだんですか?
- 水墨画は歴史が深いので技法や考え方の蓄積も大量にあり、そうした深みも含めて学びたかったのできちんとした先生について教わろうと思い、当時お世話になっていたイラストレーターのウラタダシさんのご紹介で、現代水墨画家の土屋秋恆先生に教えていただけることになりました。初めに教室の体験にうかがったときに教わったのは、ひたすら筆で直線を引いて、その直線の中に濃淡によるグラデーションができているのを意識するということでした。その練習が終わったころに師匠が「この技術を使ってこういうものが描けます」といって牡丹の花を描いてくださって、筆一本・墨一色だけでこんなに豊かな色使いの世界が作れるということに感動しました。
- ――水墨画を始めたことで何か変化はありましたか?
- ひとつはメンタル面の変化です。水墨画はやり直しがきかないので、一本の線を引くにも覚悟が必要になります。その感覚がデジタルの絵にも活かされるようになり、プレッシャーに左右されすぎずにじっくりと自分の作品と向き合えるようになりました。 また色の捉え方も変わりました。水墨画は黒一色ではなく墨には茶墨や青墨などがありますし、顔彩を使い鮮やかな色彩表現を取り入れることもあります。ひとつの色の中の微妙な濃淡やにじみを表現するというのが水墨画にとって重要だと思っているので、デジタルの絵に墨のテイストを入れるときもそうした微妙な色合いには特に注意を払っています。

- ――水墨画とデジタルのタッチを融合した現在のスタイルを始めたきっかけは何ですか?
- デジタルと水墨画の両方のよさを取り入れた作品が作れないかと思ったことです。今は絵を描く方法やスタイルの選択肢がどんどん増えていっている時代だと思います。そんな中で自分のイラストレーションを通して、これから絵を描く人たちに水墨画とデジタルを組み合わせるという新しい選択肢を示したいという思いもありました。
- ――実際に制作してみて水墨画とデジタルの相性はどうでしたか?
- 僕は日本画家・水墨画家の伊藤若冲をとても尊敬しているのですが、彼が現代に生きていたらたぶんデジタルで絵を描いていたのではないかと思います。僕の師匠の土屋秋恆先生もビルが建ち並ぶ街の景色を水墨画で描かれることがあります。また僕の作品では、黒うさPさんがプロデュースするnero projectのアルバム『monochrome』のジャケットイラストで、水墨画のタッチをデジタルで再現するという試みを行いました。水墨画のタッチというものは本来幅広く使えるものだと思います。水墨画が生まれた時代にデジタル技術がなかったというだけで、デジタルと水墨画の相性はもともと悪くないと思っています。
- ――與座さんが「CUT&PASTE TOKYO 2012」という、トーナメント形式でアートワークをライブ制作する大会で優勝した作品も、水墨画を使ったものですよね。
-
はい。僕が参加した年は2Dデザイナーと3Dデザイナーでタッグを組むというのが参加条件で、「映画のタイトルシーケンスをリデザインしなさい」というテーマが与えられたので、
モーション/グラフィックデザイナーの山本太陽さん(flapper3 Inc.)とタッグを組みクリストファー・ノーラン監督の映画『MEMENTO』をモチーフにした作品を制作しました。 この映画の主人公は10分間しか記憶が保てないという記憶障害を抱えています。彼が蓄積した美しい偽りの思い出と時間とともにはかなくくずれさっていく記憶を、水墨画の華と3Dモデルのオブジェクトで表現しました。

- ――本日制作いただいた作品も水墨画と2Dのドローイングと3Dのモデリングを融合させた作品ですがポイントはありますか?
- それぞれの描き方ならではの特性を活かしつつ、一枚の絵の中できちんと調和するように心がけました。たとえば龍の角は枝分かれのバランスを細かく取りたかったので3Dでモデリングしたほうが効率的でしたが、そのままでは2Dのドローイングとなじまないため、合成後に上からPainterのブラシでテクスチャ付けを行い、さらにハイライトや表面の凹凸を加筆することで違和感のないように調整しています。同じように龍の身体をドローイングするときも、背景の水墨画となじむようなタッチを心がけています。
- ――與座さんはデザインのお仕事も多いですがイラストと意識の違いはありますか?
- 制作工程は違いますが、絵を完成形のイメージに近づけていくという点では共通しているので気持ちの面ではそれほど違いはありません。プライベートワークでは自分の個性を重視しますが、アートディレクションの場合は自分のテイストを出すこと以上に、第一の目的はデザインする対象の魅力や本質を最大限引き出すことですので、そこは特に意識しています。

- ――デザインの仕事ではペンタブレットをどのように活用していますか?
- 初めはマウスを使っていたので、ペンタブレットを使い始めたときに、その便利さに衝撃を受けました。特に筆圧感知機能には助けられています。たとえば僕は煙のようなモチーフを描くのが好きなのですが、ふわっと広がるようなタッチは筆圧感知によって透明度の調整ができないと出せないものなので重宝しています。Webサイトのデザインのときはマウスでレイアウトを組むほうが多いですが、ペンタブレットも使います。デバイスを切り替えると気持ちや視点もリフレッシュされるので、机の上にはマウスと「Intuos5」と「Cintiq 13HD」が全部置いてあります(笑)。

- ――「Intuos5」と「Cintiq 13HD」はどのような使い分け方をされているんでしょうか?
- 絵の全体像をつかみたい描き始めの段階では画面が手で隠れずに見渡せる「Intuos5」を使うことが多いです。逆に全体像がある程度イメージできて細部を描きこみたいときは「Cintiq 13HD」がメインになります。またコラージュのときに素材を配置しながらレイアウトを考えるときも「Cintiq 13HD」のほうがより直感的に作業ができます。
- ――本日「Cintiq 24HD touch」を使ってみていかがでしたか。
- 画面のサイズが大きいので描いている最中に拡大縮小を繰り返す必要がない分集中が途切れないですし、紙と同じような感覚で描き続けることができて新鮮でした。また今日は試せなかったのですがタッチ機能にも興味があります。以前から「指でデザインのレイアウトができたら便利なのでは」と考えていたので、それに近い操作ができるのではないかと期待しています。
- ――最後に、與座さんの今後の展望について一言お願いします。
- 2014年7月上旬に目白で個展を開きます。展示する作品はほとんどが描き下ろしになる予定です。水墨画も展示しますが、デジタルと水墨画が融合した作品やそれによって和テイスト以外で水墨画を活かす可能性を探るようなこともしたいと思っているので、様々な視点から楽しんでいただける展示になると思います。特に若い方に見てもらえるとうれしいですね。

取材日:2014年4月23日
インタビュー・構成:高瀬司
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