医薬品GMP記録の要件を満たす手書きソリューションの導入
中外製薬工業株式会社 デジタルエンジニアリング部 ファンデーショナルITG:平戸 秀和 氏
中外製薬工業株式会社 デジタルエンジニアリング部 ストラテジックITG:山口 ゆかり 氏
中外製薬工業株式会社
中外製薬工業株式会社は、東京都北区に本社を構え、中外製薬グループの一員として医薬品の開発・生産機能を担当し、世界中の患者さんに、数多くの治験薬と医薬品を届けています。
今回は、デジタルとエンジニアリングを融合させた次世代のスマートファクトリーやデジタルラボの企画・導入をミッションとする「デジタルエンジニアリング部」に所属し、製造を強力に支援するデジタル・AI関連のシステム企画開発、IT部門の戦略を担当されているお二人にお話を伺いました。
導入製品/用途
ワコム液晶ペンタブレット DTH134W5Z 71台、他ペンタブレット
医薬品GMP記録文書のペーパーレス化 (表示装置およびペン入力装置として)
医薬品GMP記録の電子化による業務効率化への挑戦
紙からデジタルへ:GMP記録のペーパーレス化
医薬品製造において、医薬品GMP※1の遵守は必須です。さらに、記録文書の効率的な管理・運用方法が求められています。中外製薬工業では、医薬品GMP記録の対象となる文書や関連帳票が約4,200種類あり、年間で約13万件もの記録書が作成されています。また、これらの書類には手書きで必要事項を追加する必要があり、加えて、医薬品GMP記録は、定められた期間を保管する必要があります。そのため、記録文書のペーパーレス化と手書きされた文書の信頼性を両立する仕組みの導入に踏み切ったといいます。
平戸氏は同社が抱えていた課題を次のように話します。
「当社の中で多くのものは電子化されていますが、一部のGMP記録はどうしても紙で残っていました。紙で記録するものは全て印刷して書き込み、ファイリングをしていましたので、記録作業自体も大変ですが、その後に回覧・送付・維持管理といったプロセスでも多大なコストがかかっていました。」
※1 医薬品GMP(Good Manufacturing Practice):医薬品の製造管理および品質管理の基準
さらに、紙での運用には、データインテグリティ※2の観点からも課題があったといいます。
「現在、紙の記録は、査察当局(日本のPMDA(厚生労働省が管轄する独立行政法人)やアメリカのFDA)が調査する際に信用度が低下しています。医薬品GMP記録は紙媒体による記録・運用も認められていますが、紙の場合、好ましくない結果が出た際に印刷し直して改ざんができるリスクがあるためです。紙の記録では、常に紛失や破損のリスクがあるため回避したいと考えていました。」(平戸氏)
そのため、ペーパーレス化を進めるにあたり、国際標準でISOに準拠したPDFファイル形式で、かつ医薬品GMP要件を満たし、現場担当者が使いやすい「システム+手書き入力可能なハードウェア」の導入が必要だという結論に至ったといいます。
※2 データインテグリティ:医薬品製造に関わる文書や記録の完全性が確保されている状態のこと。
SkyPAS®とワコム製の液晶ペンタブレットの導入理由
そこで同社が採用したのが記録文書のペーパーレス化を実現する「システム」であるスカイコム社のSkyPAS®でした。同社は医薬品GMPに対応する要件をスカイコム社に伝え、医薬品業界向けの要件を満たしたソリューションを新たに提供してもらったといいます。
同社がSkyPAS®を採用した理由は、以下の通りです。
医薬品GMPの要件を満たすシステムであること
SkyPAS®は手書きのコメントやチェック、電子サインの入力が可能で、「改ざん防止」、「記入者の明確化」、「データの一貫性」などの要件を満たしており、同社においては、紙記録と同等以上の信頼性が確保できると判断したため。
大きな追加コストが発生しないこと
SkyPAS®は従来の製造実行システムのように既存の帳票を新しいシステムに合わせて再構築する必要がなく、既存の記録書をそのままPDF文書で取り込むことができるため、大幅なコスト削減が見込めた。また紙の大幅な削減も期待でき、地球環境への配慮という側面もあった。
また、同社はSkyPAS®導入後、更なる展開・活用を目指して「ハードウェア」の一つとして、ワコムの液晶ペンタブレットを導入しました。
同社がワコムの液晶タブレットを採用した理由は、以下の通りです。
普段の筆記用具と変わらない書き心地が実現できること
記録文書の電子化を進めるなかで、手書き部分(コメント、チェック、サイン)の入力をスムーズに行うため、普段の筆記用具に近い書き心地が得られるワコムの液晶タブレットが適していた。導入前に検証用の貸出機をワコムから提供し、同社内で書き心地のテストを実施。ユーザーからは、「直観的に操作できて、いつも通り書き込める」、「高精細で書きやすい」といった評判が寄せられたことも決め手の一つとなった。
電子文書の操作が直感的に行えること
ワコムの液晶ペンタブレットは、ペン入力に加え、マルチタッチ機能が搭載されており、文書の拡大・縮小などを直感的に操作できることから、電子記録においても使いやすいと判断した。
セカンドモニターとして利用できること
ワコム製タブレットは既存のPCにつなぐ外付けディスプレイ型の製品であるため、セカンドモニターとして活用でき、メインモニター上で必要な情報を参照しながら、記録文書を作成できる点が良かった。
これらのソリューションを導入することにより、ペーパーレス化の環境が容易に実現でき、既存のPC資産を有効活用することにもつながったといいます。
導入の結果:
想定通りの電子化とそれに伴う作業工数の削減を完遂できた
SkyPAS®とワコム製のタブレットを導入した結果、社内から想像以上の反響があったと平戸氏は話します。
「まずは社内の反応に驚きました。システムもタブレットも非常に使いやすく、当初の想定を上回るスピードで利用が広がっています。これは嬉しい悲鳴と言えるでしょう」
また、導入の効果について山口氏は次のように語りました。
「現在、記録の電子化・ペーパーレス化が進行中で、デジタル化可能な記録の電子化は9割程度完了しています。最終的には全ての『紙』をデジタル化する予定です。電子化によって想定通りの紙の廃止とそれに伴う作業工数の削減を完遂できました。
紙の運用にかかっていたコストが大幅に削減され、記録の物理的な紛失もなくなりました。製造の補助記録を紛失すると、その薬が正しく製造されたか証明できず、再度製造や廃棄のリスクがありましたが、これが解消されたことも非常に大きな成果だと考えています。」
国内の製造業におけるDXの可能性
医薬品業界のみならず、自動車や航空機など、法規制が厳しい製造現場では同様の課題に直面していることが予想されます。こうした状況で、記録や監査証跡を確保し、法規制要件をクリアできる「手書きシステム」である「SkyPAS®×ワコム製品」を組み合わせたソリューションの需要は今後ますます高まるでしょう。
平戸氏は、この動きに期待を寄せています。
「デジタル化の流れは、どの業界でも加速しており、特に法規制が厳しい分野では記録管理が大きな課題です。弊社も引き続き、世界の患者さんに向けてDXを推進していきます。ワコムさんも日本発のグローバル企業として活躍されることを応援しています。」
■SkyPAS®の紹介
株式会社スカイコムが開発・販売するクラウドおよびオンプレミス型のセキュア・ドキュメント共有システム(サービス)で、医薬品業界のGMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に対応したペーパーレス化を負荷なく早期に実現します。PDFを基盤に、厳格な法規制や業界要件を満たしつつ、電子文書の効率的な管理と安全な共有を可能にします。権限に応じたアクセス制御やセキュリティ設定により、医薬品製造記録や監査証跡のデジタル化をサポートし、記録の信頼性を確保します。また、マルチデバイス対応により、どこからでも柔軟にアクセスでき、業務効率化にも貢献します。
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