液晶ペンタブレットでデジタル歯科技工
-人の手による繊細な仕上げとデジタル技術の融合-
有限会社 小澤デンタルラボラトリーは、長野県塩尻市で1989年開業された歯科技工所です。現在、20名のスタッフと共に、県内外の歯科医院、歯科技工所との取引があり、歯冠修復、有床義歯の製作をしています。

―いつ頃からデジタル化に取り組まれたかを教えてください。
5年ほど前から働き方改革に伴い、作業工程の見直しに迫られました。以前は、夜遅くまで作業をしていましたが、ラボをデジタル化することによって作業効率を向上させ、労働時間の改善を図りました。特に有床義歯に関して、維持装置の製作をデジタル化し、合わせて3Dプリンターを活用することによって作業時間が格段に短縮でき、結果働き方改革に対応することができました。
ソフトウェアは、Digistell(有床義歯)、3shape(歯冠修復)、exocad(有床義歯、歯冠修復)を使用しています。ペンタブレットは、Wacom Cintiq 22を4台導入しています。
―どのようなきっかけで液晶ペンタブレットを導入されたのでしょうか。
友達の歯科技工士に有床義歯の製作に使ってみたらと言われたのがきっかけで使うようになりました。現在Wacom Cintiq 22、Wacom Pro Pen 3Dの組み合わせで使っています。Wacom Cintiq 22には、保護シートを画面に貼っています。
液晶ペンタブレットはどのソフトにも使用できましたが、今は、Digistell中心で使用しています。弊社の維持装置への作り方を基にして、液晶ペンタブレットを最大限活用できる仕組みを考え、今では液晶ペンタブレットがないと作業効率が下がってしまうほど重要な機材の一つです。

―今回、Wacom Cintiq 24 touchをご使用いただきましたが、いかがでしたか。
Wacom Cintiq 24 touchは液晶ペンタブレット本体が薄くなった分、場所を取らず、すっきりした感じでした。画面も、現在使用しているWacom Cintiq 22と比べて見やすいと感じました。
Wacom Pro Pen 3で3ボタン対応になったことで、ソフトウェアの機能割り当ての設定をしておけば、無駄な動きもなく作業もはかどると思います。デンチャー製作では、オプションを選択する項目が少ないため、さほどサイドボタンに設定しなくても使えるのではと思います。
Wacom Cintiq 24 touchはマルチタッチに対応していますが、弊社ではペンを持った手を画面の上に置いて作業するので、タッチパネルに関しては必要性を感じませんでした。ただ、新しく液晶ペンタブレットを使い始める方にとっては、直観的に操作できるので、有効だと思います。
使用するソフトウェアは、画面上に絵を描くように描いていくタイプと、画面上に点を打って描いていくタイプの二つがあります。Digistellに関しては、点を打っていくタイプなので、ペンを持った手を安定させるためにも液晶に手を置いて描く方が安定します。
―歯科技工において、デジタル化やペンタブレット導入により、どのようになっていくと思われますか。
小澤デンタルラボラトリーでは、アナログとデジタルの融合によって、より安定した品質と高効率な作業体制を実現することを目指しています。全てを機械に置き換えるのではなく、人の感覚と経験が活きる“匠の部分”は残しつつ、再現性やスピードが求められる工程には積極的にデジタル技術を活用する。この“ハイブリッド”な考え方が、私たちの技工スタイルの根幹にあります。
液晶ペンタブレットは、そんなデジタル技術の中でも特に作業効率の向上に寄与しているツールの一つです。維持装置の設計においては、精度の高い描画や直感的な操作が可能で、作業時間の短縮とミスの削減につながっています。加えて、情報共有やデータ管理も容易になり、チーム全体の連携強化にも貢献しています。

しかし一方で、あまりにもデジタルに依存しすぎると、歯科技工士としての“ものづくりの手応え”や“やりがい”が薄れてしまうのではないかという懸念もあります。工程が簡略化され、操作がパターン化されることで、技工士の創意工夫や試行錯誤の場が減ってしまう可能性も否定できません。
だからこそ私たちは、「あくまで道具は補助であり、主役は人である」という考え方を大切にしています。液晶ペンタブレットのようなデジタルツールは、技工士がより創造的な部分に集中するための“時間と余裕”を生み出すための手段なのです。
今後は、歯科技工士不足が深刻化する中で、限られた人員でも質の高い技工物を安定して提供できるよう、県内外の講演会や技術セミナーを通じて液晶ペンタブレットの有用性や実践的な活用法を積極的に共有していきたいと考えています。
人の手による繊細な仕上げと、デジタルによる高効率な設計。この両者の融合こそが、これからの歯科技工の可能性を広げる鍵であると私たちは信じています。そしてそれは、技工士一人ひとりの“やりがい”を守りながら、未来に繋がる持続可能な技工のあり方でもあるのです。

ワコムは今後も液晶ペンタブレットの提供を通じて、歯科技工士のワークフローのデジタル化をサポートしていきます。
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