株式会社アシックス

※この記事は2017年に制作されたものです。

世界市場をにらむフットウェアデザイン
2020年に向けてデジタル化を加速

株式会社アシックス
ライフスタイルデザイン•カラーチーム

1949年創業。「スポーツでつちかった知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」のビジョンのもと、主力のスポーツ用品に加え、「オニツカタイガー」ブランドなどでライフスタイル市場向けの商品も展開。
www.asics.com/jp/ja-jp/

導入前の課題

  • ラフデザインの際、手描きのイメージだと部署間の連携に向けたプレゼン力の不足
  • アナログベースのデザイン画では設計部門との連携が難しい

導入後の効果

  • デザイン案のプレゼン力の向上により、よりスムースかつ迅速な商品化を可能に
  • 設計フェイズに近い制作環境を目指し、3Dモデリングツールの試験導入を開始
デザイナー 奥村 勇紀氏

フットウェアデザインのスピードアップのため液晶ペンタブレット導入

株式会社アシックスのライフスタイルデザイン・カラーチームは、株式会社ワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq Pro 13」を6台導入し、グローバル市場にマッチした商品開発を加速させています。アシックスのスニーカーは、海外で欧米ブランドとはひと味ちがうテイストが好まれて大人気とのこと。あの特徴的なアシックスストライプが「舶来品」として愛されているのはとても興味深いことです。同チームに在籍するデザイナーの国分大輔さんは、日本人がデザインすると日本っぽさが出るらしいと語ります。「僕らは日本人なので、よくわからないんです。しかし、海外の同僚に『どこが日本っぽいの?』って聞いても、わからないって返されます」

そんなアシックスは貿易の街・神戸に本社を構え、世界中で販売されているプロダクトすべてのデザインを日本で行う一方、情報を収集するマーケティングオフィスはグローバルに展開しています。デザイナーたちは現地からのオーダーに耳を傾け、「日本らしさ」を持つフットウェアを次々と創造、発信しています。「マーケティング部門との闘いはデザイナーの醍醐味」と国分さんは言います。「まず資料が送られてきます。言葉、写真、あるいは図など。市場の動向を世代や趣味でマッピングして、このターゲットに向けた商品が必要だという指示が来ます。それらを解釈しつつデザイン作業を始めて、3回ぐらいチェックを受け、物の原型にたどりつきます」 デザイン案が決まった後も、開発、設計、生産部門へと引き継ぐプロセスで、製造上の厳しい課題を指摘されることもしばしば。しかし、グローバルな要請を受けとめたデザイナーたちは、後には退けません。プロダクトが完成するその日までひたすら修正あるいは他部門の理解を得るための努力を続けるのです。

マーケティング部門からの要求が特に厳しく、わずか1日で修正を迫られることもあると言います。できれば紙にラフスケッチする手間を省き、より一層のスピードアップを図りたいと考えていた同チームは、2016年末に液晶ペンタブレットCintiq Pro 13の導入に踏み切りました。それまでは社員が個人的に板型ペンタブレットや液晶ペンタブレットを使用していましたが、東京オリンピックが開催されるビッグイヤーの到来を見据え、会社としての導入を決定しました。

デジタルが可能にする絵で「説得力を高める」

同チームには、もともと絵画や彫刻、工業デザインなど異なるジャンル出身のクリエイターが集っており、この道30年のベテランが愛用する鉛筆と、最新のデジタルツールが共存しています。しかしながら、デザインのスピードには歴然とした差があると言います。デザイナーの奥村勇紀さんは、何世代にもわたる液晶ペンタブレットを愛用し、デジタルのメリットを実感してきた一人です。「最初に手にしたのはCintiq  C-1500Xでした。最新型のCintiq Pro 13は完全に表面がフラットでシームレスなので、線を描く時にひっかかりを感じない。それに、視差が少ないのも魅力でした」と言います。

またたとえば、靴のボリューム感を議論する中で、曲線のなめらかさ、あるいは実物に通じる形状の一貫性を訴えたい場合、Cintiq ProとAdobe Illustratorを使えば、ペンでさっと引いた線もコンピューターで補正され、手の震えなどを解消したきれいなカーブに置き換えてくれます。あるいは、一度描いたカーブを微調整し、狙った丸みにすることもできます。鉛筆で描くのと違って、意図する曲線が得られるまで何度も描き直す必要がありません。それに加えて「上手そうに見える絵」に仕上げられることで、大きなインパクトを与えられると奥村さんは言います。「デザイナーでも、めちゃくちゃ絵が上手い人もいれば、アイデアは素晴らしくても絵は下手という人もいますが、絵で表現して訴えなければ駄目なんです。僕の場合、そこまで絵が上手ではないので助かっています」と奥村さん。「僕らがプレゼンする相手は、デザインのことをよく知っているかというと、そうでもない。見た目で判断されたりもするので、やはりクオリティは大事です」と国分さんも続けます。

そもそも、あのアシックスストライプ自体が作りづらい代物だと言います。「けれど、ああいう形状をちゃんと作ろうとするところに日本人のメンタリティを感じてくれている海外のファンもいる。こだわりは必要だし、いいと思うものは追求すべきだと考えています」と国分さんは語ります。 複雑にすれば製品原価が跳ね上がりますが、それをどう各部署に受け入れてもらえるようにするか?説得力を高める
――それはデザイナーにとって至上の命題と言えます。

デザインのデジタル化からものづくり全体のワークフロー改善へ

Cintiq Pro導入は、同チームにとってもう一つ別の狙いがありました。それは、設計から生産に至る後工程までデータを活用できる3Dモデリングツールを試験導入することです。デザイン部門のデジタル化を推し進めることにより、会社全体のワークフローの改善に貢献したいと考えています。

現状、新製品はデザインに着手して市場に出るまでに数年かかっています。しかし、今のやり方ではトレンドの変化に呼応するキャッチーなデザインの実現が難しいと言います。「デザインが確定してから 2回ないし3回正式な試作を行います。工場に依頼して作ってもらうと、一回の試作に1ヶ月近くかかります」。特にフットウェアにとって履き心地が重要なポイント。アシックスの象徴でもある衝撃緩衝材GELなどのマテリアルと、想像した形状がマッチしていなければ意味がありません。「靴底にGELなどを仕込むのですが、物を作ってみないとクッション感がわからない。靴の世界ってびっくりするぐらいアナログなんです」

デザインのためのツールを一新し、設計現場が使うCADツールとの親和性を高め、その後の構造計算まで含めた、ものづくりそのものに踏み込むことができないか?――現在、同チームでは3Dモデリング/レンダリングツールのsolidThinking EVOLVEを試験導入中で、他にもSOLIDWORKS Industrial Designer という三次元形状をCAD向けにエクスポートできるソフトウェアの導入も検討しています。
「デザイナーに求められるのは特殊な能力だと思うんです。マーケティングあるいは開発側の人間がデザインに近づくのはとても難しい。我々が上流と下流に守備範囲を広げていけば、プロセスとしてうまく動いていくだろうと感じます。そのために有効なツールがあれば積極的に導入していきたい」と国分さんは言います。

求められるのはマーケッター、製造ラインにもフィットする柔軟性。まさに上からも下からも要望を受けながら、軽快なフットワークをみせるアシックスのデザインチーム。同チームは、いわばアシックスという靴に埋め込まれた値千金のマテリアルと言えます。新たに導入されたCintiq Proは、各部門を絶妙につなぐ「接着剤」となり、近い将来私たちユーザーに履く喜びを届けてくれるに違いありません。

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