株式会社ウィットスタジオ 浅野恭司氏によるWacom MovinkPad Pro 14クリエイターレビュー
アニメーター・キャラクターデザイナーの浅野恭司氏は、株式会社ウィットスタジオの取締役を務め、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』で作画監督、テレビアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』、『進撃の巨人』、『THE ONE PIECE』ではキャラクターデザイン・総作画監督を担当するなど、数々の話題作を手掛けるトップアニメーターのお一人です。
今回、浅野氏には、2025年10月に発表されたポータブルクリエイティブパッドの新製品「Wacom MovinkPad Pro 14」を試用していただきました。業界の第一人者として長く活躍し、紙での制作からデジタル制作への移行を経験した浅野氏ならではの視点で、制作環境の変化とワコム製品の活用についてお話を伺いました。

普段使用されているデバイスやソフトを教えてください。
Windows PCと液晶ペンタブレットのWacom Cintiq Pro 24、ソフトは基本的にはCLIP STUDIO PAINT EXです。作画監督やキャラクターデザインはCLIP STUDIO PAINT EXですが、動画の工程ではTVPaintを使っている人もいるので、原画を確認するときは2つのソフトを使い分けたりします。版権イラストでは、ハイライトやボケなどの処理が使いやすいのでAdobe Photoshopを使うことがあります。
最初にペンタブレットを使ったのはいつ頃ですか?
会社として本格的に取り入れ始めたのは2014年頃ですね。いわゆるデジタル作画の活用について各社で取り組みが始まっており、当時、2016年放送の『甲鉄城のカバネリ』を作っていました。弊社ではTVPaintに着目して、まずは動画の工程から液晶ペンタブレットを導入していきました。ただ、私は原画作業がメインでずっと使い慣れた紙を使っていました。
私が仕事で初めてペンタブレットを使ったのは、版権イラスト(キービジュアル)を作るときでした。仕上げのときに、紙よりもAdobe Photoshopの方が効率的だったためです。作品は『進撃の巨人』の頃で、2018年あたりですね。
アニメの作画で使い始めたのは、2022年放送の『SPY×FAMILY』の3話からです。1話は紙で描いていたんですが、ちょうどコロナ禍で、自宅で家族が感染してしまい、その濃厚接触者になったため出社ができなくなったんです。社内ではすでにデジタル作業のワークフローが導入されていたので、自宅に液晶ペンタブレットを準備して、3話からデジタル作画に切り替えたんですよ。そこからデジタルに移行しました。
ただ、紙からペンタブレットでの作画に切り替えて、最初はやはり戸惑いがありましたね。紙での鉛筆の描き味を求めて、シートを貼ったりペン先をいろいろ試したりしたんですが、やっぱりしっくりはこなくて。だけどあるとき、鉛筆ツールではなくブラシツール内のGペンで描くようにしたら、「ペンタブレットでの描き方はこれだ」と思える瞬間があったんです。アナログの描き味を求めるのではなく、ペンタブレットなりの描き方みたいなのが掴めた。そこからは描きやすくなりました。
デジタルの導入で効率化したという実感はありますか。
効率という意味で一番大きかったのは、制作の担当者が家に素材を取りに来なくてよくなったことですね。紙の頃は描いた素材を入れたカット袋を制作の担当者がわざわざ取りに来るという工程があったのですが、デジタルだとすべてデータでやり取りできるので、描き終えたらサーバーにアップロードして終わり。これは本当に効率化されました。ペンタブレットだとソフトを立ち上げればすぐに描き出せるので、椅子に座った瞬間から作業が開始できるのも良いですね。
ペンタブレットの設定の社内ガイドラインも定めていますが、ペンサイズ、用紙サイズ、フレームサイズなどを決めているくらいで、ブラシの設定などはアニメーター各自に任せることで、アニメーターの作業のしやすさを確保しています。

Wacom MovinkPad Pro 14を実際に使ってみた第一印象を教えてください。
当初Wacom MovinkPad 11をお借りして使っていたのですが、それと比べてみるとWacom MovinkPad Pro 14は起動が早いと感じました。ペンを画面にタッチをするとQuick drawing機能でWacom Canvasがすぐに立ち上がるので、ペンを持った瞬間に描き出せます。アイデアを思いついた時にすぐに描けるのは、重宝すると思いました。
先日、『水曜どうでしょう』という番組のイベントに登壇して、ライブドローイングをしたんですよね。ライブドローイング自体は紙に描くんですけど、そのアイデアスケッチのためにWacom MovinkPad を使いました。当日の朝に、ホテルのベッドなどで思いついたときに描いていたのですが、すぐに描けるというのは便利だと感じました。自由な姿勢で描けるのが良いですね。

本体のディスプレイについて感想を聞かせてください。
まず、画面がとても明るいと感じました。Wacom MovinkPad 11が液晶なのに対して、Wacom MovinkPad Pro 14は有機ELパネルなので、その違いがはっきり出ていると感じました。解像度も2880×1800と高精細で申し分ないです。そして、Wacom MovinkPad Pro 14は11と比べて画面が広くなっています。これはアニメの作画用紙のサイズ感に近く、描いていてしっくりきました。
普段、PCで液晶ペンタブレットを使用するときはCLIP STUDIO PAINT EXのウィンドウを右側に寄せて作業しているのですが、Wacom Movink Pad Pro 14は画面が広いので、同じような環境にしても十分な作業スペースが確保できます。これがとてもありがたいです。Wacom Movink Pad Pro 14はこれだけ画面が大きくなったにもかかわらず、11と比べて重量が100gほどしか差がなく、むしろ軽いと感じるくらいでした。実際に使用してみると取り回しやすさが際立ちます。
さらに、表面の仕上げが良いですね。Wacom Premium Textured Glassが採用されているそうで、照明の下での反射が非常に少なく、指紋も目立ちにくいと感じました。iPadなどのタブレットの場合、フィルムを貼らないとこうした画面は実現できないので、手間なく使えます。
あと、クラウド上からデータを保存したり、共有したりできるのは便利ですね。これがあると、仕事場以外でもスムーズに制作を続けられます。カフェや出張先など、どこでも制作環境を再現できるのは強みだと思います。
Wacom MovinkPadシリーズは、Wacom Pro Pen 3を採用しています。使い心地はいかがですか?
普段、仕事で使っているWacom Cintiq Pro 24のWacom Pro Pen 2はラバーグリップが付いているのですが、Wacom Pro Pen3はカスタマイズできるので、別売りのフレアグリップや木製グリップに付け替えることで同じペンの太さにして使えるのは、やはり良いです。PCで作業するときと同じ感覚で描くことができます。安定感があって描きやすいですし、ペンの中に重りを入れてバランスを調整できるのも良いですね。
Wacom Pro Pen 2で十分満足していたのですが、Wacom Pro Pen 3はより描きやすくなっていると感じました。摩擦感やサラサラ感もちょうどよく、しっくりきます。感覚的な話ですが、筆圧をかけたときにペン先がわずかに沈み込むような感触があって、それがすごく良いと思いました。完全に固定ではなく、わずかに沈む構造、この改善によって、自然な線の強弱や表情がつけやすく、吸い付くような描き心地を実現しています。

Wacom Movink Pad Pro 14には、PCに接続して液晶ペンタブレットとして使用するInstant Pen Display Modeがあります。
実際にノートPCにつないで液晶ペンタブレットとして使ってみると現時点では試験的に提供されている機能でUSB-Cの接続となりますが遅延も少なく、十分に使えると感じました。スタジオでの活用はもちろん、出先と家や職場のPCでの作業がこれひとつあればできるので、移動が多い人にとってWacom MovinkPad Pro 14は最適かもしれません。
クリエイティブ制作において、ワコムの製品はどのような存在か教えてください。
絵描きにとっては必需品ですね。今となってはワコムの製品がないと、仕事ができない状況です。その上、Wacom MovinkPad Pro 14のような持ち運びのできるポータブルタイプの製品も新しく生まれて、どこにいても同じ環境で仕事ができるようになってきました。こうした使い方は本当に望んでいたことなので、とてもありがたいと思っています。

浅野恭司
WIT STUDIO取締役・アニメーター・キャラクターデザイナー
代表作は「進撃の巨人」「PSYCHO-PASSサイコパス」「SPYxFAMILY」 「THE ONEPIECE」「水曜どうでしょうDVD CIアニメ」。
WIT STUDIO:https://www.witstudio.co.jp/
浅野恭司氏X(旧Twitter) :https://x.com/asanovic7
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