国内でデジタル動仕を推進する気鋭のスタジオ。
液晶ペンタブレットを活用しアニメのクオリティー向上に意欲的に取り組む。
つむぎ作画技術研究所
埼玉県川口市にスタジオを構える「つむぎ作画技術研究所」は、2017年4月に設立された新興のアニメーション制作会社です。同社は国内アニメーション業界の制作フローの中でも、特に作画工程に注力し従来にない発想のもとビジネスを展開、順調にその規模を拡大してきています。
代表の櫻井司さんをはじめ、13 名のアニメーターにより、レイアウトや原画、動画から仕上げまで一括受注し、作画作業を社内のみで完結させるスタイルをとっており、すべての作業をデジタルで行っています。
デジタル作画による動仕一括受注で従来の制作フローのロスを解消
つむぎ作画技術研究所のスタジオには、Wacom Cintiq 16が3台、 Cintiq 13HDが18台、計21台の液晶ペンタブレットが導入され、作画工程の各ワークフローで活用されています。同社が他のアニメーション制作会社と異なるのは、動画を担当するアニメーターがそのまま仕上げまで担当すること。
「受け取ったカットはすべて内製で仕上げまで行い、データで納品しています。クライアントは、発注時には必要な素材をサーバーに上げるだけでよく、制作進行が資料をコピーしたりアニメーターをかき集めたりする必要がなく、 収に走り る必要もありません。そこにかけている時間とコストを、もっと作品のクオリティアップに繋がる部分で使ってもらうことができます」
一般的な作画のワークフローでは複数の作業者、動仕会社によって分担して行われることが多い動画・仕上げ工程ですが、それを一括して請け負うことにより、素材や成果物の受け渡しにかかるコストや、各工程の発注先を確保するためのマネジメントの負担を軽減することができると、代表の櫻井さんはいいます。また、デジタル作画を理解したアニメーターが仕上げまで通してこなすことにより、作画工程のデジタル化によって生じるトラブルも減少、リテイクのコストを圧縮することも期待できます。
「最初に動画と仕上げを一括して作業すると言ったとき、業界からは懐疑的な反応がほとんどでした。一般的にデジタル作画を導入する現場はアニメーター主導で、原画・動画を中心に工程を考えがちですが、アニメーション制作の作画工程を“撮影に必要なセルを作る仕事”と考えると、当然、制作フローの後半にある仕上げ・撮影にとって何が必要かという視点を持って作業を行う必要があるはずです」
アナログ時代は作業者の技術が必要だったセルに色を塗る仕上げ工程は、デジタル化によりある程度効率化が進みましたが、撮影工程に渡すための適正な素材を作ることに注意を払う必要があります。動仕の工程を一括してこなすことができる同社のアニメーターは、クライアントから持ち込まれたリテイク素材の修正にも対応できるデジタル作画のエキスパートとして腕を磨き、同社の強みを活かす原動力となっています。
アニメーターの低収入問題にも一石
新人育成への取り組みも
動仕一括での作業は、ワークフローの改善だけではなく、アニメーターの労働問題として挙げられる「動画マンの低収入」を補い、新人定着率の低下を防ぐことにも繋がると櫻井さんは考えています。また、新人教育は同社にとっても大きなテーマのひとつです。同社は、私塾として「アニメーター予備校」を開設し、最長2年間のカリキュラムでデジタル作画のアニメーターを育成、一定レベルに達した卒業生には同社への採用内定を出すという取り組みを開始しました。
「 新人がレベルアップするには、何よりも沢山描くことが重要ですが、今後、働き方改革でアニメーターの雇用形態が変わって1日8時間労働が基準になると、新人が成長するために修練する時間も限られてしまうことにもなります。国内の動画工程がアニメーターの修行期間として成立していた頃は、先輩アニメーターが後輩を育成することで全体の技術や生産性が上がっていく理想的風土が制作会社の中にありました。しかし、現在の業界はそのサイクルを維持することが難しくなっているため、私塾という形で若手を育成する制作会社が増えていくのでないかと考えています」
同社で動仕を担当しているアニメーターに話を聞くと、原画へのステップアップに限らず、色彩設計や撮影なども含めデジタルの作業工程の中でできることは何でも挑戦してみたいという答えが返ってきました。
「 キャリアの選択肢は広いほうがいいに決まっているので、アニメーターに特化するのではなく、映像チームを作るつもりで作業者のキャリアデザインをしています。もし自分が原画に向いてないと思えば、仕上げや作業管理など得意なスキルを伸ばして活躍してもらえるようにしたいです。作品のクオリティに繋がる部分で注目されやすいのはキャラクターデザイナーや作画監督などの目立つ職種ですが、全体を支えているのは現場の作業者ですから」と櫻井さんは語ります。
同社では通常は制作進行に任せる社内の工程管理もアニメーターが自分達で行い、カットの受注状況などの情報も全員で共有することで、すべての作業者が高い意識を持って制作工程に関わる体制を作っています。
安定した作業キャパシティの提供で業界に存在感
デジタル作画で地方スタジオの設立も視野に
同社は、年度毎にスタッフを増員し、作画工程のキャパシティを広げてきました。さらに2020年には地方に新スタジオを設立する予定といいます。
「 デジタルなら作業する場所は選びませんし、今年の台風による大型停電のような事態があっても、スタジオが分散していれば工程をストップさせる心配がありません。特にテレビアニメの制作では滞りなく工程を前に進めることが最重要なのです」
クライアントに安定した作画工程のキャパシティを提供し続けることで、業界での存在感を増していきたいという櫻井さんは、近い将来、いくつものテレビアニメで、「つむぎ作画技術研究所」の名前がクレジットされる姿を思い描いています。
デジタルの利点を活かして、アニメーション制作会社のあり方を模索してきた同社の活躍には、日本のアニメーション制作の未来に繋がるヒントがありそうです。
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