マンガ家
酒井まゆ『ロッキン★ヘブン』(集英社)や『シュガー*ソルジャー』(集英社)など、少女マンガ誌『りぼん』(集英社)で活躍されているマンガ家・酒井まゆさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 24HD touch」を使ったライブペインティングを公開!
酒井まゆ インタビュー
- ――絵を描き始めたきっかけは何ですか?
- 小さいころからずっと、一番好きな遊びは絵を描くことでした。幼稚園から小学校低学年くらいまでは、小さな女の子が好きそうな、ひらひらドレスのお姫様の絵をよく描いていました。小学校3年生のときに、友だちの家で『りぼん』を読んだことがきっかけで自分でも買うようになり、同じころに初めてコマを割った漫画を描き始めました。ノートにえんぴつ描きのクラスメイトを登場人物にした漫画で、みんなが面白がって読んでくれたのが嬉しくて、ノート7、8冊ぐらい続けました。
- ――プロのマンガ家を目指したのはいつごろですか?
- 小学生のときから「いつかはマンガ家になりたい!」と思っていて、高校1年生の春休み、『りぼん』に初めて投稿しました。そのときは入賞できなかったのですが、その後もプロを目指してマンガを描き続けていました。通っていた高校にはマンガ部がなかったので、友人と同好会を立ち上げ、翌年には部に昇格してもらいました。みんなでトーンの削り方を練習したりイラストレーターや画家の個展を観に行ったり、向上心の強い子達が集まっていたので、とても良い刺激を受けたと今でも思っています。
『シュガー*ソルジャー』(集英社)第8巻書影
©酒井まゆ/集英社
- ――影響を受けたマンガ家はどなたですか?
- たくさんいるので1人にしぼるのは難しいですが、絵の面で言うなら、細かい描きこみをされる作家さんが好きです。
- ――投稿時代のエピソードを教えてください。
- 初投稿の2ヶ月後に送った作品が『りぼん』の漫画スクールの努力賞に入賞しました。漫画スクールでは努力賞以上に入ると担当さんがつくのですが、3回目の投稿をしたタイミングでその方がアシスタントのお仕事を紹介してくださって、高校3年生の初夏ごろからアシスタントを始めたのですが、本当に勉強になることばかりでした。プロの原稿のレベルの高さはもちろん、コマの枠線の太さや吹き出しの大きさ、見やすいセリフの文字数といった、地味だけれど意外と重要な部分など、独学では気づきにくいこともたくさん教わりました。プロのマンガ家がどう描いているのか、若いときに目の前で見ることができたのはとても貴重な経験でした。
- ――デビューから初連載までの経緯を教えてください。
- アシスタントを始めて約1年後に投稿した『プライマル・オレンジ』という作品で、りぼん漫画スクールの佳作を受賞し、『りぼんオリジナル』に掲載していただきデビューすることができました。デビュー後はとにかくがむしゃらであまり覚えていないのですが、4作目の『ボクたちの旅』で初めて連載をさせていただけることになりました。
『りぼん』2014年12月特大号扉イラスト
©酒井まゆ/集英社
- ――その後さまざまな作品を発表されていますが、印象に残っている作品は何ですか?
-
出来不出来、結果に関わらずどれもかわいいわが子(笑)だとは思っていますが、特に印象に残っているのは『りぼんファンタジー増刊号』と『ジャンプSQ.』に掲載していただいた『クレマチカ靴店』というオムニバス読み切りです。全部で4本描かせてもらったのですが、特に『ジャンプSQ.』掲載の2本はいつもとは違う読者層に向けた作品なので、「どうやったら読んでもらえるだろう?」と画面処理もストーリーもかなり悩みました。実は1話目の「-Clematica Shoe Store-」はデビュー直後くらいに長編読み切りとして描こうと思っていたストーリーが元になっていて、2話目の「-Pandora's Boots-」は高校1年生の文化祭で出した部誌に描いたマンガを元に、新しい設定を加えてリライトしたものだったりします。この2本はそんな経緯があってずっと温めていた作品だったので、ようやく日の目を見せてあげられたという感慨深いものがありました。普段は現実舞台の学園ものがメインですが、こちらの世界観の物語もまたいつか描けたらなと思っています。
他にも、初めて30話以上の連載になった『ロッキン★ヘブン』も、自分が思っている以上に自分の中に染みついています。未だにアシスタントさんに指示を出すとき、うっかり「藍くんにトーン貼って!」と『ロッキン★ヘブン』の登場人物の名前を言ってしまいそうになります。今の連載(シュガー*ソルジャー)とは主役2人の見た目が似ているのでさらに…(笑)他にも初めて声優さんに声を当ててもらったりなど、色々な勉強をさせてくれた作品でした。
『クレマチカ靴店』(集英社)書影
©酒井まゆ/集英社
- ――現在連載中の『シュガー*ソルジャー』について教えてください。
- 前作の『MOMO』が自分の趣味が強く出たファンタジーだったため、次は王道の学園ラブコメをやってみようと思いました。『ロッキン★ヘブン』も学園ラブコメですが、ヒロインが元気いっぱいのかわいい女の子だったので、今度はコンプレックスを抱えるネガティブ思考な女の子ががんばる話にしようと、いつもこの子を幸せにしてあげたいと思いながら描いています。
『シュガー*ソルジャー』(集英社)第39話 ©酒井まゆ/集英社
- ――ストーリー作りはどのように進めていますか。
- 最終話の着地点は初めからぼんやりと決めていますが、途中のエピソードは読者の方々の反応を見ながら考えることが多いです。連載マンガは生き物だと思っているので、人気のあるキャラは出番を増やしたり、読者に好評だったエピソードは予定よりもふくらませたりとどんどん変化させています。告白、付き合うといった恋愛イベントを盛り上げるのはもちろんですが、大きなドラマの起きない普段の学園生活をいかにおもしろく描くかでよく頭を悩ませています。
- ――作画でこだわっているポイントはどこですか?
- 少女マンガなので、まずは顔をキラキラ魅力的に描くことです。そこからです。男女ともに最も気をつけているポイントですが、時間がかかるのは圧倒的に女の子キャラクターのほうですね。特に瞳の中のパーツは少し位置がズレるだけで顔全体の印象が変わってしまうので、とても注意しています。女の子が輝いて見えるよう、かといってやり過ぎてけばけばしくなってしまわないように、ちょうど良いバランスをいつも探っています。負の感情の表情を描くのも個人的には楽しいですが、やはりぱっと明るい華やかな絵を描いたときに、「少女マンガは良いね~」と感じます。
- ――酒井さんが初めてペンタブレットに触れたのはいつですか?
- 8年ほど前に友人の家で触らせてもらったのが最初です。そこで基本的な使い方を教えてもらいました。自分で購入したのは、『ロッキン★ヘブン』が完結する2、3ヶ月前で、当時販売されていた「Intuos3」でした。最終回の次の号から、すぐに『MOMO』の連載が始まることになっていたので、読者さんに視覚的にも気持ちを切り替えてもらえるよう、表紙や扉絵といったカラーイラストをデジタル作画に変えました。ウェーブヘアなど曲線が多くなる部分は、ペンタブレットのほうが圧倒的に描きやすいです。初めはPhotoshop 6.0を使っていたのですが、第7話の扉絵でSAIを導入してからは、より作画が楽になりました。
『りぼん』(集英社)2014年9月特大号表紙イラスト
©酒井まゆ/集英社
- ――本日「Cintiq 24HD touch」で描いてみた感想を教えてください。
- 液晶ペンタブレットは直接ディスプレイに描けるので、アナログに近い感覚で描けますね。また、手元を見ながら作業を行えるので、細かいパーツも自然に無理なく描くことができそうです。今日はカラーイラストの作画に使わせていただきましたが、モノクロ原稿の作画にも挑戦してみたいです!
- ――最後にマンガ家志望の読者へメッセージをお願いします。
-
創作のネタは、基本的には自分の経験や体験がきっかけになって生まれてくるものだと思うので、初期のうちにどれくらいのものを吸収できるかというのがとても大事だと思っています。日々常々のインプットも当然重要ですが、20代前半くらいまでに培った感覚・感性というのは良くも悪くもその後つきまといます。また、伝えたいイメージをどうやって画面に表現するか、いろんな方法を研究してほしいです。手段が多いほうが描けるものの選択肢が広がります。あとこれは私にも言えることなのですが、 絵の練習は顔だけ描くのではダメです。きちんと全身を描いて、できれば背景も想定して入れたほうが上達が早いと思います。同じく、ラフだけ描くよりも、ペン入れからトーンまで、最後まで完成させたほうがトータルの能力が身につきます。イラストでもマンガでも、描きかけで放置状態の作品が100本あるよりも、最後まで全力で仕上げた作品が1本あるほうが素晴らしいことだと思います。
何かを始めよう、練習しよう、というのに遅すぎるということはないと思う…思いたいので、思い立ったら即行動の精神でがんばりましょう! 私もがんばります!
取材日:2014年11月21日
インタビュー・構成:高瀬司
酒井まゆ
マンガ家。『りぼんオリジナル』2000年10月号に掲載された『プライマル・オレンジ』でデビュー。同年、『ボクたちの旅』で『りぼん』初連載。学園ものからファンタジーまで幅広く手がける実力派として知られる。代表作に『永田町ストロベリィ』『ロッキン★ヘブン』『MOMO』など。現在、『りぼん』にて『シュガー*ソルジャー』を連載中。
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