マンガ家/イラストレーター
谷口菜津子単行本『わたしは全然不幸じゃありませんからね! 』『さよなら、レバ刺し~禁止までの438日間』などで知られる漫画家/イラストレーター、谷口菜津子さんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
谷口菜津子 インタビュー
- ――谷口さんが絵を描きはじめたきっかけを教えてください。
- もともとお絵かきはしていたのですが、積極的に絵を描きはじめたのは、幼稚園のころに母に画材を買ってもらったことがきっかけです。私は子どものころからあまり勉強ができなくて、いつもは家の中でLEGOを使って遊んでいるか、外で遊んでいるかでした。実家の周囲に山があり、自然に囲まれていたので、家の裏の森によく遊びに行っていたんです。ところが私の家族はみんな学校の勉強がよくできたので、勉強に興味を示さない私の様子を見て、母が「この子は将来きちんと働いて生活していけるか危ういぞ」と思ったらしいんです(笑)。そんな中で、ことお絵かきに関しては自発的かつ積極的に取り組んでいる私の姿を見て、この意欲をもっと刺激してあげて、ひょっとしたら埋もれているかもしれない才能を開花させてあげられればいいな、という気持ちで画材を与えてくれたようです。
『レバ刺しとわたし』表紙イラスト
©Natsuko Taniguchi
- ――本格的に絵を描きはじめたのはいつごろですか?
- 中学2年生くらいからは山遊びをする時間が徐々に減っていき、家や屋内で絵を描くことに時間を多く費やすようになったので、ライフスタイル的にはいわゆる「インドア派 になっていきました。その後、美術クラスのある高校に進学して、学校でもじっくりと制作に取り組むようになりましたので、本格的に絵を描きはじめたのはこの頃だと思います。大学は多摩美術大学に進学しまして、家から通うこともできたんですが、往復3時間もかかるので、それだけ時間あったら絵が描けるのではないか、と思い東京に住むことにしました。
- ――大学ではどういう勉強をされていたのですか。
- 現代アートを扱う「情報芸術コース」に在籍していました。入学してすぐのころは、とにかく才能を爆発させたいということばかり考えていたのですが(笑)、具体的な表現としてどういうことをやればいいかは、私の中で固まっていませんでした。在籍したコースは、インスタレーションや映像作品を作ることがカリキュラムに組み込まれていたので、自己紹介をする動画作品を制作したことがあります。
でんぱ組.inc『WWDD』(初回限定盤)ジャケットイラスト
©Natsuko Taniguchi - ――もともとマンガ家になりたかったのですか?
- 高校時代にもっと勉強しなさいと母に叱られ、書斎に閉じ込められたことがあったのですが、でもやっぱり勉強が嫌いだから母の本棚のマンガを読みあさっていたんです(笑)。そのときに西原理恵子さんのマンガやエッセイストの作品に出会い、こういうものがいいな、と思うようになりました。その影響で高校のころブログを書きはじめたのですが、エンターテイメント感があっていいねとたくさんの友人からほめられました。それが自分の中でブログを書く大きなモチベーションとなり、結局、大学に入っても意欲的に書き続けていました。そんなある日、先輩たちと遊んだという内容を、写真代わりに挿絵イラストをつけてエッセイ風記事としてブログに書いたら、いつもにも増してすごく反響がよかったんですよ。そのころちょうどブログ界でエッセイマンガが流行っていたので、それならば自分でもはじめてみようと思ったのが今の活動に繋がっています。実際、デビュー作になる『レバミシュラン』という企画がはじまったのも、そのブログを見た編集者の方から声をかけていただいたことがきっかけです。
- ――影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか。
- エッセイマンガを描く上では西原理恵子さんからいちばん影響を受けているんですけど、ストーリーマンガを描く上では雁須磨子さんや河内遙さんの存在が大きいですね。セリフの言い回しがうまくて、私がよくしゃべるマンガを好きだというのもあるんですけど、吹き出しを書き写したり置き換えたりして遊んだりもしました。他にも好きなマンガやエッセイはいっぱいあるんですが、その中でもこの方々は本当に神だなあと思っています。アーティスト的にはティム・バートン……って言ったら怒られちゃうかな。
- ――自然に対する興味もかなりおありなのですね。
- 昔、家の裏の森で遊んでいたときは、秘密基地を作ったり、木に名前をつけたり、植物が密集しているところを敵陣と妄想したりしていました。頭の中で箱庭を作るのがすごく楽しいんですよ。最初はついてきてくれた友だちもいましたが次第にみんな飽きちゃって、気が付くと私がひとりで遊んでいることの方が多かったんですけれど。いま私が森の絵を描いたり不思議な動物を登場させたりするのは、そのときの体験が反映されているのかなって思います。そのことが高じてか、自然科学に興味を持っています。単純に好きだというのもあるんですが、創作をする上ではしっかりした自分の箱庭を作りたいと思っていて、そのためには動物の仕組みや植物の構造などを知っている必要があると思います。自分が作り出す世界に確かな裏付けを与えたいんです。
iPhoneケース「空の庭」イラスト
©Natsuko Taniguchi
- ――お部屋にいろいろ模型を飾っているのも箱庭づくりの一環でしょうか。
- 子どもの頃、よくLEGOで遊んでいたのですが、マーベル・コミックに出会ったことをきっかけに、最近またハマり、集めはじめました。恐竜のフィギュアも飾っています。余談ですが、アメコミって本の中に見開きのポスターが入っていて、それがすっごく格好いいんです。LEGOを飾る際の参考にもなるんですが、私はこのポスターを制作の参考にもしています。これに限らず結構模型を集めてしまうので、おもちゃ部屋が必要になってしまうくらいです。こういう収集癖も箱庭を作りたいという想いが強いからなのだと考えています。
- ――谷口さんがはじめてデジタルツールに触れたのはいつですか?
- 小学校のころに家にMacがあり、そこに入っていたKID PIXというアプリケーションを使ってお絵描きをしていました。物珍しさもあってかなり頻繁に使っていました。ただ、しばらくの間はあくまでも趣味でした。大学に入学する際、カリキュラムとしてデジタルで制作をする必要があったので、本格的なデジタル画材としてMacとペンタブレットを購入しました。
- ――現在お使いのペンタブレットや制作ツールはなんですか?
- 大学入学時に購入した「Intuos3 がはじめて導入したペンタブレットです。かなり長持ちしていて、現在もそのとき購入したものをそのまま使っています。アプリケーションはPhotoshopです。当時導入したのはCS3だったと思うんですが、現在はCS6を使っています。私は基本的にアナログで描いた線画をスキャンして、それをデジタルで色付けするという工程で進めていますが、道具としてはペンタブレットとアナログ画材にあまり垣根を感じていません。私の作品はアナログ的な味わいのものも多く、こういう表現をする上で今のデジタル環境は、線画の修正や色の重ね塗り、それから仕上がりに満足できなかったときの作業の巻き戻しが簡単にできるので、大変重宝しています。
- ――今回「Cintiq 27QHD touch」を使ってみていかがですか?
- 今回、はじめて液晶ペンタブレットを使ってみたのですが、ぜんぜん違和感なく使えてびっくりしました。板型のペンタブレットを使って制作をしている人だったら、とてもスムーズに移行できるのではないかなと思います。今は、ペンタブレットだけだと線画がうまく描けないので、線画をスキャンして塗っています。私はこの作業自体が好きでやっていますが、液晶ペンタブレットを使うとこの工程を省略できて、制作がより効率的になりそうだなと感じました。たまにアクリルで油絵を描いたりもするんですけど、それに近い感覚です。いろいろなショートカットキーを設定して使えるExpressKey Remoteをもっと使いこなせるようになれば、今回かかった作業時間や工数を格段に短縮できそうですね。
イベント「CLAT Electronics」フライヤー
©Natsuko Taniguchi
- ――最後に今後の展望を教えてください。
- これまではレポートマンガをメインに活動してきましたが、ありがたいことに植物のイラストの仕事が増えてきましたので、この分野でも活動していきたいと考えています。大学生のころから作庭の技術に興味があって、庭園の造園学とイラストを結びつけた制作をしたいと思っていました。母がガーデニングを趣味にしていたこととも関係があると思うんですが、現実から切り離された異空間として、自分だけの楽園を作り出せるということに関心を持っていて、そういった作品をこれからも作っていきたいと考えています。
「谷口菜津子展」フライヤー
©Natsuko Taniguchi
取材日:2015年7月23日
インタビュー・構成:梵天編集部
谷口菜津子
マンガ家、イラストレーター。レバ刺しへの愛を熱く語ったブログでのエッセイマンガをきっかけに商業デビュー。多数の食レポマンガがあり、『わたしは全然不幸じゃありませんからね!』(エンターブレイン)、『さよなら、レバ刺し〜禁止までの438日間〜』(竹書房)などのマンガ作品が放つ独特な面白さが、ファンを掴んではなさない。植物や自然への関心もよく知られており、近年は植物モチーフでのイラスト制作も意欲的に行っている。
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