イラストレーター
あきま
日々の透徹した観察を源泉に、ノスタルジックであると同時にミステリアスな都市の風景や、独自の視点から構成された臨場感あふれる高層建築が特徴的な、『やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女』(講談社)の表紙イラストやマンガ「ミリオの空」(『Febri』Vol.45)などの作品がある実力派イラストレーター・あきまさんによる、クリエイティブタブレット「Wacom MobileStudio Pro 16」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 078 / あきま インタビュー
「巨大輸送機」
プライベートワーク
©あきま
――あきまさんが絵に触れるようになったのはいつ頃からですか?
それこそ物心つく前からですね。両親が美術好きだったもので、家にいろいろな画集が置いてありまして、そういったものを見るうちに好きになりました。特に好きだったのは航空絵画で、自分でも幼い頃からよく飛行機の絵を描いていました。父の仕事が航空機などと関係があったので、そういう画集を持っていたんだと思います。小学校6年生ごろになると父が趣味で油絵を描き始めたので、僕も一緒に描いていました。セザンヌやコローなどの風景画の模写をリクエストで描いたり、航空絵画を描いたりしていました。
――航空絵画とはどういうものですか?
主に欧米で描かれている航空機と風景を主題とした絵画のジャンルです。一般的にはアヴィエーション・アートと呼ばれ、日本ではあまりメジャーではないのですが、僕も兄もこういった作品が好きでした。その他にもプラモデルのボックスアート(箱絵)に影響を受けています。ハセガワのボックスアートを担当されている小池繁夫さんが特に好きでしたね。飛行機をたくさん描いたおかげで、航空絵画独特の空間感覚が身につきました。
――学生の頃はどのように絵に触れていましたか?
中学から絵画教室に通ったのですが、そのきっかけも父でした。父が美術年鑑で同じ市内で活動している作家さんを見つけたのですが、大学で講師をやっているような人だったんです。その方が自宅でやってるデッサン教室に行ってみたのが中学一年生頃で、それをきっかけに本格的に美術の勉強を始めました。どうせやるならいちばん高い目標を、ということで東京藝術大学を目指し、絵画教室に月一回通いつつ、家にヘルメスの石膏像を置いてデッサンの練習をするような日々を送っていました。着彩に取り組むようになったのは高校に上がってからですね。
「夜の散歩」
プライベートワーク
©あきま
――この頃は受験絵画に集中していたということでしょうか?
そうでもないです。飛行機の油絵や水彩画この頃も描いていましたし、高校2年生の頃から自分の興味が現代美術的な表現にシフトしたりもしました。その結果、受験的な意味で絵の技術を追究するという方向性は弱まりまして、いい意味で力が抜けていきました。受験勉強という意識をせずに絵の練習をしていたんです。そのおかげか、浪人せずに東京藝術大学の日本画科に進学できました。
――学部ではどういう活動をされていたんですか?
日本画科に入っておきながら、アニメの絵柄の作品や、写真を転写した作品、コラージュ作品など、現代アートの影響を受けた作品の制作に熱心でした。日本画科の先生にはあまりよく思われなかったのではないでしょうか。日本画科出身の現代美術家である村上隆さんは、ポップ・カルチャーを取り入れた表現を追究していましたが、僕自身も90年代のアニメなどに影響を受けていて、そういった雰囲気を継承したいという気持ちがありましたから、懐の広い現代美術により魅力を感じていたんだと思います。
――卒業されてからの進路を教えてください。
藝大日本画科の大学院を受験したんですが、落ちてしまいました。当然のなりゆきとも言えますが、いざ落ちてみると困りました。それで一年ほどいろいろと模索しました。藝大出身者だからといって画家として身を立てられるかというと、全くそういうことはありませんから、院に再挑戦することには気が引けました。ポップ・カルチャーを表現として取り入れていく上でも大学でない場所を探す必要がありましたし、何より自活していくためには商業的な作品ができた方がいいということで、それで本格的にデジタルイラストに取り組み始めました。練習のかいもありなんとかゲーム会社に就職することができまして、その流れで今に至っています。
「かわき」
プライベートワーク
©あきま
――デジタルでの制作環境や遍歴について、詳しく教えてください。
最初にデジタルに取り組み始めたのは大学卒業後で、それまではアナログ画材しか使ってきませんでした。Windows 7を搭載したPCに、Photoshop CS5.5、それからIntuos4 Mediumが最初の制作環境でした。特にIntuos4は愛機ですね。現在もほぼ同じ環境で制作をしています。それから、A3のスキャナを導入しました。飛行機のイラストを描くときに、機体はアナログで、背景をデジタルで、という手法を始めたんです。アナログの段階で、水張りをした紙にアクリル絵の具で描いていて、それを取り込む際にA3くらいの大きさのものが必要だったんですよね。実はこれと同じような手法を今もやっていまして、最近は、クロッキー帳にラフを描いたあと、それをiPhoneで撮影し、そのデータをもとにデジタルで仕上げるということをしています。撮影というプロセスによってちょっとしたノイズが生じるわけですが、それが作品の味わいになると考えてやっています。
――今回はあきまさんのいつもの制作プロセスとは異なり、Wacom MobileStudio Pro 16を用いてフルデジタルで執筆していただきました。
初めてのフルデジタルだったので大変新鮮でしたが、作業そのものとしては何の違和感もありませんでした。A4の紙にラフを引くことが多いのですが、ほとんどそれと同じような感触です。ことラフを作るということにおいては、普段の工程よりもはるかにスピーディにできました。デバイスの取り回しという面でも、16インチというサイズは非常に扱いやすいですね。キーボードのショートカットと、液晶にタッチするという動作を併用していくのも新感覚でしたが、思いのほかしっくりきました。
――今回の制作イラストのコンセプトを教えてください。
個人制作をするようになってから、高層ビルのある街並みと少女、という組み合わせでよくイラストを制作していて、今回も同じコンセプトを踏襲しました。見どころは奥行きや高さの雰囲気ですね。こういったスケール感を出すためには、描写の"粗密(そみつ)"を意識するのが重要です。端の方はあえて描き込みを適度に減らし、少女の顔周りの空間や視線付近の遠景などはしっかり描き込むというような形で、コントラストをつけます。今回はノスタルジックなテイストもつけたいと思っていたので、緑がかった画面にしてみました。フィルム風の色味になるためか、どことなく郷愁が生まれます。
「Lifting」
プライベートワーク
©あきま
――ダイナミックな構図があきまさんの特色だと思うんですが、どうやって発想しているんでしょうか?
自分の目で見たときにどういう風に見えるか、ということを重視しています。僕は普段外を歩いているときに、ビルの壁面や空調の室外機、駐車場といったものをよく観察しているんですが、資料写真を撮影したりはしません。印象を再配置することで、自分なりの絵画空間を作ることができるんです。空間のスケール感を出す上でも、本当はグリッドを引いてパースを強く意識した描き方をするのが王道ですが、僕の場合は自分の感覚頼みでやっており、そういう手法から生じたニュアンスが、今の自分の画風につながっているのだと思います。
――最後に、今後の展望やメッセージをお願いします。
もともと僕は現代美術が好きな日本画の美大生であったものの、なかなか定まった進路を歩むことができませんでした。それは今もそうで、コンセプトアーティストに憧れて航空機やメカに集中していた時期もありつつ、キャラクター表現に惹かれて少女の絵に取り組んでみたり、そこに背景を組み合わせて自分独自のゆがみを表現してみたりと、いまだに遍歴の過程です。こういった探究はずっと終わらないものでしょうが、日々の歩みを止めないことで、よりよい作品を生み出し続けられれば嬉しいです。
取材日:2017年11月21日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
あきま
ノスタルジックであると同時にミステリアスな都市の風景と、どことなく存在感が希薄な少女を組み合わせた、個性的なイラスト作品を生み出し続けるイラストレーター。日々の観察から得られた風景の情報を、主観的に再構成しすることで独創的な画面構成を実現する。最近の仕事に『やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女』(講談社)の表紙イラストやマンガ「ミリオの空」(『Febri』Vol.45)、『美しい情景イラストレーション 魅力的な風景を描くクリエイターズファイル』(PIE International)への作品寄稿などがある。