イラストレーター/装画家
ふすい
現実を超えた透明感や空気を巧みに描き出すことで、そこにある"風景の感情"を具現化させるという志向を抱く。『スイーツレシピで謎解きを』(集英社)や『京都西陣なごみ植物店』(PHP研究所)など多くの書籍装画や、天月×96猫による「打上花火(歌ってみた/cover)」のMVイラストも担当した、気鋭のイラストレーター・ふすいさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 075 / ふすい インタビュー
『青いスタートライン』装画・扉絵・挿絵・見返し
©ポプラ社
――ふすいさんが絵に取り組むようになったきっかけはなんでしょうか?
気付いたときにはすでに絵を描いていましたね。あまり社交的ではなかったので、学校の休み時間や放課後などはずっと絵を描いて過ごしていました。ただ、絵を描いていたことで、クラスメートから「何を描いているの?」と声をかけてもらうことがあって、それは嬉しかったですね。
――何か関連するような活動はされていましたか。
小学校の頃だけ「四コママンガ部」に入ったんですが、あとは高校卒業までずっと帰宅部でした。でも、学校外ではいろいろな活動をしていましたよ。中学時代は、先生の紹介で地域の自画像コンテストや風景画コンテストに出品しました。高校では、たまたま学校行事が多彩だったこともあり、絵だけでは視野が狭くなってしまうのではないかとも思っていたので、伝統芸能や音楽、舞踊などにも取り組みました。
――ユニークな行事がある高校だったんですね。それが進学の決め手だったのでしょうか。
それもあるんですが、自分のコミュニケーション能力を鍛えなおそうと思ったことが最大の理由ですね。その高校は家から遠くにあって、地元の友人が誰もいなかったんです。そういうところであれば、人間関係をいったんリセットしてゼロから頑張ることができる、誰も知らない環境だからこそよりいっそう頑張らなければならないだろう、という気持ちを持っていました。いろいろと挑戦できたので、この決断はよかったと思っています。
プライベートワーク
©ふすい
――絵を描く上で影響を受けた作家はいますか?
新海誠さんです。テレビで映画『雲のむこう、約束の場所』の紹介を見て、その圧倒的な映像美に衝撃を受けました。新海さんが描き出す空と雲には、リアルなのに現実以上の美しさがあって、それまでの僕のイラスト観を一新しました。キャラクター表現という点では田島昭宇さんと小畑健さんです。それまで、キャラクターといえば頭身が低くデフォルメされたものと思っていたので、お二人の絵の繊細さやリアルさには強く惹きつけられました。色が少ないのに、線だけで現実感を表現されているところが特にすごいですね。
――高校卒業以降の進路について教えてください。
もっとイラストを学びたいと考えていましたが、就職のことも意識して、デザインも学べる専門学校に進学しました。一年目はグラフィックデザインを中心に勉強し、二年目でイラストを学びました。キャラクターイラストというよりは、広告やフライヤーなど、商業的な媒体で求められるイラストですね。同じことだけに取り組んでいただけでは得られなかった知見がいろいろと得られてよかったです。
――デジタル環境で制作されるようになったのはいつ頃でしょうか?
専門学校に入学してからです。それまではずっとアナログで、特にイラストについてはコピックを使って制作していました。学校で初めてMacに触れまして、学校の環境に合わせる形で自宅にも機材を揃えました。そのときの環境はPhotoshop CS3とIntuos3です。正直、学校に在籍していた頃は全然使いこなせませんでした。学校でも練習して家でも練習して……、ということを専門学校卒業後も3年くらい続けて、ようやくそれなりに使えるようになったという認識です。
プライベートワーク
©ふすい
――専門学校卒業後はすぐにイラストレーターになられたんですか?
いったんデザイン系の会社に就職しました。実は在学中に人生最大の挫折をしてしまいまして、作家性が求められる絵で勝負するのではない形でも、イラストやデザインに関われればそれでいいかと思ったんです。
――いったい何があったんですか?
恥ずかしい話ですが、友人の誘いでpixivを始めたら、あまりにも上手い人が大勢いて、それでショックを受けたんです。pixivを知る前は個人ブログに絵をアップしていて、比較的好評だったので、自分の絵に自信があったんですよ。その自信が打ち砕かれてしまいました。それまではゲーム会社の求人などにも応募したりしていたんですが、どんどん不安になってしまい、志望先の方向性を変えることになりました。
――現在はpixivでもかなり活動されていますよね。
そうですね。修行も兼ねて、就職後はpixivにコツコツ投稿をするようになりました。どうしたら見てもらえるんだろうということを真剣に検討して、自分の絵には背景という要素が足りないのではないかと思い、その部分を突き詰めてみると成果が出るようになりました。特に、2014年にあるコンテストに参加して、そこに出した絵を公開したところ、pixivのデイリーランキングで2位になることができたんです。そうしたら一気に閲覧数が上がり、それをきっかけにゲーム会社や出版社からもお声がけいたただくようになりました。その状況に舞い上がって、所属していた会社を勢いで辞めてしまったことがフリーのイラストレーター生活が始まるきっかけになりますね(笑)。
『京都西陣なごみ植物店』装画
©PHP研究所
――現在の制作環境について教えてください。
専門学校以来ずっとMacで、現在はCintiq 13HDを使用しています。実際に画面にペンを走らせて線を引いたり色をつけられるという、アナログライクな描き方ができる液晶ペンタブレットは手放せないですね。自分の場合は、画面とペンが離れている場合よりも、自分が思っていることを直接的に表現できるんです。ソフトはCLIP STUDIO PAINTとPhotoshop CCを使用しています。
――今回使用したCintiq 27QHD touchの使い心地はいかがでしたか?
学生時代に大きなキャンバスで制作をしていたので、その頃の感覚がよみがえりました。置くスペースなども考慮してCintiq 13HDを導入したのですが、大きな画面でのびのびと制作できることはたいへん魅力的ですね。遅延することもまったくなかったですし、次に買い換えるならぜひこの機種にしたいと思いました。
――今回の制作イラストはどういうコンセプトで描かれましたか?
「描いているものが具現化したらいいのになあ」というのと、絵描きが引きこもりがちになる中で「自然の中で絵を描けたら気分いいなあ」という、ふたつの思いがテーマ化しています。具現化した自然である「草木」「鳥」などは、「癒し」「暖かさ」の象徴でもあるので、そう見えるように光や色彩の表現に気をつけました。幻想的で柔らかいイメージを受け取ってもらえると嬉しいですね。制作している途中に、空間演出上の物足りなさを感じたので、背景の白い花畑や手前の鳥などのモチーフを追加しました。完璧な完成像を事前に持つことは難しいので、制作中は常に自分に「これでいいのか?」と問い詰めながら進行するようにしています。
『スイーツレシピで謎解きを』装画
©集英社
――ふすいさんの特色は風景だと思うのですが、それを描く上で注意されていることはありますか?
単に景観を描くのではなく、風景の「表情」「感情」を描き出すことが大事だと思っています。何も考えずに描くと風景というものは無表情なのですが、さまざまな形で感情を表現することができます。つまり、その情景が悲しいのか、嬉しいのか、そういうことを描き出したいんです。そのためには背景と人物を調和させる必要があります。風景が持つ感情というものは、絵全体から生じるものなので、背景と人物のいずれかだけが突出していてもうまくいかないんですよね。そういった観点のもとに、的確に構成することを心がけています。
――最後に、今後の展望をお願いします。
最近は書籍の装画を多くやらせていただいており、この仕事は今後も頑張ってやっていきたいです。モチーフとしては、現実的な題材が多いのですが、ファンタジックな世界観の絵にも挑戦していきたいと考えています。まだそんなに余裕はないのですが、ゆくゆくは個人制作も増やして、そこまでの活動の集大成として個展を開いたり作品を画集にまとめたりしたいというのが、現在の目標ですね。
取材日:2017年8月29日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
ふすい
現実を土台にしていながらどこか幻想的な透明感や空気感の表現が魅力で、描き出す情景の圧倒的な美しさに定評があるイラストレーター。風景に秘められた"感情"を具現化させるという美学を持つ。新進気鋭の装画家としてもますます存在感を増しており、『スイーツレシピで謎解きを』(集英社)や『京都西陣なごみ植物店』(PHP研究所)、『君と綴った約束ノート』(富士見L文庫)ほか、多数の作品を担当する。天月×96猫による「打上花火(歌ってみた/cover)」MVイラストなど、音楽関連のイラスト提供も手がけている。