イラストレーター
山本すずめ
創作集団超水道所属。絵本調のファンタジックなキャラクター造形から現実的な人物描写まで、そして繊細な風景から現実的な舞台設定まで、様々な世界観を描き分ける。主なイラストの仕事に『森川空のルール』(超水道)、『特区インスタントヒーローズ 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある、新進気鋭のイラストレーター・山本すずめさんによる、クリエイティブタブレット「Wacom MobileStudio Pro 16」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 079 / 山本すずめ インタビュー
『はじめてのO₂ Engine
〜Webブラウザで動くノベルゲーム制作ガイド〜』
表紙イラスト
©山本すずめ
―― 山本すずめさんが絵に触れるようになったのはいつ頃からですか?
親に褒められるのが嬉しくて、幼稚園児くらいからよく絵を描いていました。ものづくり全般が好きだったので、工作などもよくやっていました。特に思い出があるのはボードゲーム作りですね。こういうものを見せると、褒められたり驚かれたりと様々な反応がもらえるので、それが励みになりました。
――絵に本格的に取り組み始めたきっかけは何でしょうか。
小学生の頃に任天堂ファンの交流サイトを始めたのがきっかけです。当時流行していた「オエビ」(お絵かき掲示板)や「オエチャ」(お絵かきチャット)をサイトに導入したところ、ハマってしまいました。同年代の参加者にとても上手な人が何人かいて、そこから刺激を受けて、熱心に絵に取り組むようになりました。ただ、中学・高校では学業や部活に力を入れたため、ウェブサイトでの活動やイラストへの取り組みはかなり縮小することになりました。
――どういう学生生活だったのでしょうか?
生徒会の役員をやったり、吹奏楽部や軽音楽部で活動したりしていました。特に高校の頃はバンド活動に熱を上げていて、学外も合わせて3つのバンドに所属していました。文化祭のために自主制作映画を撮ったこともあります。高校時代は美術部にも所属していて、月一で部誌を制作したりもしていました。やりたがりな性格だったんですよね。それと、後に創作集団「超水道」を結成するミタヒツヒトくんたちと出会ったのが、中学生の頃でした。
「超局所的快晴」プライベートワーク
©山本すずめ
――創作集団超水道について詳しく教えてください。
分かりやすく言えばゲーム制作サークルで、2011年初頭からiOS向けの読み物アプリ(デンシノベル)を発表して、注目をいただけるようになりました。代表的な作品は『森川空のルール』です。当時電子書籍がまだ出始めた時期だったということもあり、かなり多くの方に注目していただけたようです。現在はバンドデシネ風の最新作『ghostpia』を制作・発表しています。
僕が超水道に入ったのは2010年の6月頃で、美大浪人一年目でした。美大志望だという話をミタくんにしたときに、経験になるかもしれないということで、ボカロPのCDジャケット制作を依頼されて、その流れからサークルに加わりました。以降の作品では、キャラクターデザインから情景イラストの制作までビジュアル周り全般を引き受けています。
――影響を受けた作品や作家について教えてください。
任天堂と宮﨑駿作品がいちばん大きな影響源です。任天堂の作品は幼い頃から、兄弟や友達と一緒にわいわいと遊ぶのが好きでした。時にはゲームが原因で喧嘩もしましたが、単なる作品鑑賞では味わえない「体験」がそこにありました。今は一人で遊ぶことが多いですが、手に取る前から遊び終えるまでのワクワク感は昔からずっと変わらず、緻密に作られたビジュアルやゲームシステムに、いつも感動しています。
宮﨑駿作品に関しては、たまたまテレビで見た『未来少年コナン』に感動したのがきっかけです。すごく表現が豊かで、バカバカしさとシリアスさが同居していて、冒険心も刺激されます。そこから一気に宮﨑駿監督のファンになりました。長らく作品を追っていると、宮崎作品はどれをとっても非常に奥行きがあり、同じ作品であっても、見る年齢やタイミングによって違う感動を覚えることが分かり、懐の広さに驚きました。
『ghostpia』イラスト
©山本すずめ
――イラストも含め、作品づくりの上では何を重要だと考えていますか?
ゲームや小説のイラストを制作する場合、一連の出来事の中での一幕を切り取ることになるので、状況がよく分からないということになりがちなんです。ですから、基本的には状況がしっかり分かるようにすることと、文脈が伝わるような画面構成をするように心がけています。その上で目指しているのが、見る人の琴線に触れる絵でありたい、ということです。具体的な秘訣はないのですが、自分が感動した作品と、今、広く人気がある作品を比較して、感動のポイントを模索することを日頃から心がけています。
――すずめさんは東京藝術大学(藝大)出身とのことですが、受験のきっかけや大学生活について教えてください。
きっかけは美術部の顧問に「藝大目指しなよ」と吹き込まれたことです。顧問のことが人間的に好きだったので、真に受けてしまいました。高校3年の6月から美大予備校に通い始め、藝大一本で受験して、一浪の後に日本画科に合格しました。最初は予備校内での実力差にかなりがくぜんとしましたが、最終的にはデッサンや静物着彩を純粋な気持ちで楽しみながら練習できるところまで行けました。ただ、この浪人期から超水道での活動が本格化したため、あまり大学での活動はできませんでした。興味の方も、映像やゲームなど、日本画の枠外に向けられていました。
――デジタルでの制作環境や遍歴について教えてください。
お絵かき掲示板の上手な投稿者に「どういう環境で絵を描いているのか」と聞いたところ、「マウスで描いている」と聞いたので、その環境で練習し始めました。ソフトは、たまたま父親が持っていたPhotoshop 6.0を使用していましたが、結局マウスには限界があり、上手くなりませんでした。超水道に入ったことをきっかけに板型ペンタブレットのBambooを使い始め、知り合いから譲り受けたIntuos4 Smallを経由して、今はCintiq 22HDとCLIP STUDIO PAINT PRO、Photoshop CCを、WindowsのPCで使用しています。外出先でラフを起こしたりするという用途で、iPad Proも持っています。
「みつけたー」プライベートワーク
©山本すずめ
――今回使用したWacom MobileStudio Pro 16の感想をお願いします。
これまでの液晶ペンタブレットと比較して非常に綺麗に色が出ているように感じます。また、解像度の高さも体感的に分かりました。同じ拡大率である範囲を表示したときに、こちらの方が高精細に表示されるので、とても描きやすかったです。ペンの視差も全く無く、非常に弱い筆圧で描いてもしっかり線を捉えてくれて感心しました。また、僕は普段からPCを持ち歩くことに慣れているので、Wacom MobileStudio Pro 16を携帯しても問題が無さそうです。制作環境をひとつにまとめたいという人にはかなりお勧めですね。
――今回の制作イラストのコンセプトを教えてください。
DwWがイラストレーターが絵を描いているところを撮影するという企画でしたので、そこからの連想で「絵を描く人」を描くというテーマを設定しつつ、青春っぽさを出すようにしました。ストーリーとしては、幼馴染の女の子と少し遠くにスケッチに来ていて、並んで描いているとき、ふと相手を見たところ視線が合ってしまった……というものです。注意したのは、女の子を逆光で捉えたところです。こうすると色のコントラストが高まり、見る人の視線が集まりやすくなるんです。同じような観点から光の加減も調整しています。また、人物が木陰に入っているという情報自体が、見る人の想像を刺激するだろう、という狙いもありました。最終的な仕上がりとしては、一眼レフで撮影された写真のような見た目を目指しました。
――最後に、今後の展望やメッセージをお願いします。
「超水道」では基本的に元となる物語があるため、優しい水彩調からコミカルなもの、アメコミ風、ホラー風など、さまざまなイラストを制作してきました。このため「山本すずめらしさ」とは何かという悩みを抱えることもあったのですが、近年はようやくこういった多面性を自分らしさとして受け入れられるようになってきました。ですので、このまま精進し続けつつ、商業作品での仕事の場もいっそう増やしていければと考えています。何かありましたらお声がけ頂ければ嬉しいです。
取材日:2017年12月19日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
山本すずめ
スタジオジブリやガイナックスなどの作品から大きな影響を受け、動的な文脈の中で静的なイラストを表現するとは何かを問い続けるイラストレーター。創作集団超水道に所属し、デンシノベル(ノベルゲーム)という、動画と静止画の中間ジャンルを中心に腕を振るう。物語とともにある絵を描くという観点から、絵本調の世界観から現実的な舞台設定での人物描写まで、様々な表現を描き分ける。超水道での代表作に『森川空のルール』、『ghostpia』。また、その他の媒体での仕事に『特区インスタントヒーローズ 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の装画などがある。