イラストレーター
前屋進
かわいらしいファンタジーの世界に住まう獣人たちから、どこかミステリアスでいて放っておけない雰囲気をまとったメイドたちまで、様々なキャラクターを豊かに描き出す。装画に『死にたがりビバップ -Take The Curry Train !-』(角川スニーカー文庫)や『本一冊で事足りる異世界流浪物語』(アルファポリス)のほか、様々なソーシャルゲームイラストでも活躍する、気鋭のイラストレーター・前屋進さんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 074 / 前屋進 インタビュー
『死にたがりビバップ -Take The Curry Train !-』
カバーイラスト
©うさぎやすぽん・前屋進
――前屋さんの幼少時について教えてください。
外で活発に遊び回っていて、小さな怪我は珍しくなかった子どもだったのですが、お絵描きも大好きで、よく紙とペンを遊び道具にしていました。もともと祖父と母が絵を描いていたので、その影響を受けたようです。そのせいで、将来の仕事として絵に関連すること以外が思いつかなかったほどでしたね。
――かなり初期から将来の夢が固まっていたんですね。
絵の仕事につきたいという気持ちははっきりしていましたが、具体的な職業としてはマンガ家しか知りませんでした。だからずっとマンガ家になりたいと思っていたんですが、あるとき先生に「先生は先生になるために先生になったの?」と質問したことがあります。というのは、小学生の頃はよく将来の夢を書かされることがあると思うんですけど、同じことを何度も書かされるのを不思議に思って、つい質問してしまったんです。そうしたところ、先生が苦い顔をしたので、夢が叶わないこともあるのだと思って焦った記憶があります。
――イラストレーターという職業を意識したのはいつ頃ですか?
小学6年生頃に妹から「絵も下手だし話もつまらないから、マンガ家にはなれそうにないね」と、突然厳しいことを言われたことがきっかけです。さすがにものすごく傷ついたんですが、冷静に考えてみると「確かに下手だしつまらない……!」と焦りましたね。それで色々と調べた結果、イラストレーターという職業があることを知りました。マンガは絵だけでなくお話を考える必要があるけれど、イラストレーターなら絵だけに集中できるから、いけるんじゃないか、と思いました。いま思うと、単純に比較できる話ではないので、安直な発想でしたね。
『LORD of VERMILION ARENA』
カードイラスト
© 2014-2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
――絵の勉強への取り組み方について教えてください。
高校受験の準備も兼ねて、夏期講習などを中心に美術予備校に通い始めました。専門的なことを学べて嬉しかったですね。自分の実力も客観的にわかりましたし、思い込みを捨てるきっかけにもなりました。それまでは、道具にこだわらずペン一本だけで絵を描くのがカッコいいことだと思いこんでいたんですが、先生から「お前らは弘法ではないんだから色々試せ」と言われ、実際に様々な画材に触れました。勉強にもなり、何より楽しかったです。
――その後の進路はどのようになりましたか。
高校でも予備校でも油絵をやっていたんですが、周りに油絵で仕事をしている人がいなかったので不安になり、職業として身を立てていくなら画家ではなくデザイナー寄りの仕事がいいのではないかと考え、桑沢デザイン研究所に進学しました。実は母やいとこも桑沢出身で、身近な学校だったんです。当時の桑沢は三年制で、最初の二年間は学科に縛られず、三年次に初めて専門に分かれるんですが、私はデザイン科には行かず、イラストレーション科に入りました。実際に学んでいく中で、やはり絵を描くのが好きなんだと気づいたんです。
――卒業後は早速イラストレーターとして独立されたのでしょうか。
小さなイラストのカットの仕事を細々とやっていたのですが、それだけでは生計が成り立たなかったので、バイトもやりながら生活していました。イラスト系のコンペやイベントに出展しながら、なんとかチャンスがつかめないか……と思っていましたが、振り返ってみると、焦りが先走ってしまっていて、そういう余裕のなさが絵にも出てしまっていたかもしれません。
「本一冊で事足りる異世界流浪物語」
第8巻カバーイラスト
©結城絡繰
――苦境の時期があったんですね。転機になるようなことはありましたか?
私はもともと、絵本的な絵柄やデザイナー的なイラストをメインに描いていたんですが、pixivでは趣味の一環としてキャラクターイラストのようなものを投稿していました。2012年くらいにソーシャルゲームが流行して、pixivを通じて仕事の依頼をもらえるようになりました。こういったタイプの自分のイラストが仕事につながるのだという発見をしたので、そこから猛勉強してこの絵柄を学びました。さらにこの絵柄を研究していきたいと思っていた中で、友人が勤めていたことをきっかけにソーシャルゲームの会社に所属し、そこでさまざまな経験を得ました。
――具体的にはどのような経験でしょうか?
ハイレベルな環境に身を置けたことですね。先輩方の実力が非常に高くて、忙しいにもかかわらず非常に優しく面倒を見てもらえて、私自身も熱心に勉強することができました。所属する前と後の違いが自分でもはっきり分かるくらい成長できたので、先輩方と会社には本当に感謝しています。仕事を通じて初めて学ぶことや考えることも多く、「この環境は自分の身の丈に合っていないのでは……」と初めは怯えていましたが、思い切って飛び込んでよかったと思っています。
――そもそもデジタルイラストにはどのように取り組んでこられましたか? 現在の制作環境も合わせて教えてください。
中学校の入学祝いに祖父からPCを買ってもらいました。最初はペイントで遊んでいましたが、後にお絵かき掲示板を使うようになり、特に高校の頃はどっぷりハマりました。最初はマウスで頑張っていましたが、中学三年生の頃にintuos2を導入し、専門学校時代にIntuos3に買い換えました。その後、会社でCintiq 24HDを使うことになったことをきっかけに、自宅の環境も同じにしました。液晶ペンタブレットに慣れると、もう手放せないですね。
ソフトは、イラスト教本などをきっかけに知ったPhotoshopをずっと使っています。導入にあたっては母からライセンスをもらったのですが、デザイナーをしていた母には、Photoshopは写真の加工をするものであってイラストを描くツールではないという思い込みが強かったので、説得が難しかったという思い出があります(笑)。
『LORD of VERMILION ARENA』
イベントイラスト
© 2014-2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
――今回使用したCintiq 27QHD touchの使い心地はいかがでしたか?
デザインがフラットなのでよりスマートに感じました。ボタン類がExpressKey Remoteにまとまっていますが、とっても便利で素晴らしいですね。私は普段はキーボードのショートカットキーを多用するのですが、このデバイスがあればもうそちらを使う必要がなさそうで、自由に設置場所を動かせたり、手で持ちながら操作をしたりできるということも、私にはとても嬉しいです。純正品ということでデザイン上の統一感もありますし、未来感が溢れていてとってもカッコいいですよね。ぜひ導入したいと思います。
――今回の制作イラストはどういうコンセプトで描かれましたか?
ちょうど暑い時期ということもあり、涼しい絵にしたいというのが最初のイメージです。青を基調色にしつつ、暑そうなメイドの服も半袖にしてみました。花のモチーフを入れましたが、これによって絵の中に高さという情報が生まれたかなと思います。背景とキャラが分離しないように、肌のピンクと背景の青の差し色として黄緑をあしらうことで、色味を調和させました。普段から、背景の色を人物の線や装飾にも混ぜるようにしています。また、顔・手・リボンという順で、視線が移動していく際に見る人がストレスを感じないような経路を意識しました。それから個人的には、指の絡み合いが艶っぽくなっているところが見どころかなと思います。
――最後に、今後の展望をお願いします。
現在はフリーで活動していますが、やりたいことに対して自分の手がようやく追いついてきたのかな、と思えてきたので、この調子でどんどんチャレンジをしていきたいと思っています。自分が好きなこと・やってみたいことを外に発信した結果、お仕事につながることも多いので、恥ずかしがらずに、これからも自分の好きなことを信じて、外に出していきたいと思います。
取材日:2017年7月6日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
前屋進
かわいらしいファンタジーの世界に住まう獣人たちから、どこかミステリアスでいてそこはかとなく放っておけない雰囲気をまとったメイドたちまで、様々なキャラクターを豊かに描き出すイラストレーター。装画に『死にたがりビバップ -Take The Curry Train !-』(角川スニーカー文庫)や『本一冊で事足りる異世界流浪物語』(アルファポリス)があるほか、ゲーム『LORD of VERMILION ARENA』(スクウェア・エニックス)では様々なカードイラスト、イベントイラストを担当した。