マンガ家
吉崎観音
連載開始から20周年を迎えたマンガ『ケロロ軍曹』、動物をモチーフにしたキャラクターが人気の『けものフレンズ』プロジェクトのコンセプトデザインなどで活躍する漫画家、吉崎観音さんによる液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2018年8月3日撮影)
Drawing with Wacom 087 / 吉崎観音 インタビュー
――『ケロロ軍曹』が今年で20周年を迎えますが、吉崎さんはいつ頃、マンガ家になろうと思われたんですか?
小学生の頃から読んでいた「月刊コロコロコミック」(小学館)で投稿募集しているのを見て、憧れていたんです。中学生になって、定番の手塚治虫先生や石ノ森章太郎先生が描かれたマンガ入門書を読んで、一通りやってみようと思い本格的にマンガを描き始めました。
高校2年生のときに小学館新人コミック大賞の佳作を頂きまして、担当編集さんに誘われて卒業後に上京しました。上京後しばらくは普通の仕事をしながら小学館に通っていたのですが、それだとやはり難しくて、編集部の紹介で克・亜樹先生のアシスタントとして働くようになり、そこで3年間お世話になりました。
ケロロ軍曹生誕20周年記念吉崎観音作品展
『ケロロ展 IN AREA 428』メインビジュアル
©吉崎観音/KADOKAWA
――雑誌「ファンロード」(ラポート)や「ゲーメスト」(新声社)にもイラストを投稿されていましたよね。
アシスタントをしながらネームばかり描いていて、完成した絵を描く機会が少なかったんです。それで絵が上達しなかったら困るなと思い、学生時代から読んでいた雑誌にイラスト投稿を始めました。そしたらある日、「ファンロード」の名物編集長、イニシャル・ビスケットのKさん(浜松克樹氏のペンネーム)から電話を頂いて、「君はマンガが描けそうだから、本誌のほうに描いてみてよ」と依頼されたんです。期せずしてマンガを描く機会を頂くことになりました。
――『FANTA&SWEAT』(1996~不定期連載)ですね。その後、『宇宙X兵衛』(KADOKAWA/「コミックニュータイプ」掲載)や『護衛神エイト』(スクウェア・エニックス/「月刊少年ガンガン」掲載)などの連載を経て、1999年に「月刊少年エース」(KADOKAWA)で『ケロロ軍曹』の連載が始まります。ユニークなキャラクターはもちろん、豊富なパロディや小ネタも人気を呼び、アニメ化もされるヒット作となりました。
『ケロロ軍曹』のパロディ要素といわれる部分は、自分の中にあるものをそのまま描いているので、入れすぎないように気をつけながら描いていました(笑)。
パロディは繰り返しているうちにマニアックな方向に行きがちなので、なるべく読者が共感してくれるようなものを選ぶようにしているんです。ガンプラやプラモデル関連でいえば、「瞬間接着剤が指についてうわっとなる」とか、「主人公機を買いたいのに戦艦しか買えなかった」みたいなことを、当時の友達の様子なども思い浮かべたりしながら。自分の思い出と、みんなの思い出との接点を大事にしようと思って描いています。
『ケロロ軍曹』単行本29巻表紙イラスト
©吉崎観音/KADOKAWA
――『ケロロ軍曹』は当初の読者層を超えて、幼年向けの「ケロロランド」(KADOKAWA)が創刊されるなど幅広い世代に読まれる作品になりましたが、これは最初から意識されていたんですか?
仕事を続けていく中で、オリジナルのマンガをできるようになったら、自分が子どもの頃に読んでいた藤子・F・不二雄先生、藤子不二雄Ⓐ先生のようなマンガが描きたいと思っていたんです。日常マンガというのは、描き続けるのに相当ハードルが高くて、始めた頃にはこんなに長く続けられるとは思っていませんでした。小さい子どもにも読んでもらえるようになったのはとてもありがたいですね。
――吉崎さんは魅力的なカラーイラストでも知られていますが、デジタルを使われる様になったのはいつ頃ですか?
最初はアナログで、カラーインクやコピックを使って塗っていました。ある時期に、カプコンのゲームのイラストがセル画とも違う、変わった塗り方になっているのに気がついたんです。どうもこれはPCで塗っているらしい、と。「PCなら無限に色が塗れて、絵の具を買わなくてもいい」という部分にものすごく惹かれて、飛びつきました。それで、Power Mac 8600/250というマシンを買って、『VS騎士ラムネ&40炎』(KADOKAWA/「月刊少年エース』掲載)の連載中から、カラーをデジタルで塗り始めました。アナログ画材の時は絵の具の量を気にして、色を薄めて薄めて塗っていたので、どうしてもケチケチした絵になりがちだったんですよ(笑)。アニメのセルみたいに、一面をムラなく同じ色で塗れることにも憧れていたので、デジタル彩色はありがたい存在でした。
――吉崎さんはデジタルに強いイメージでしたが、それ以前にはPCを使われていなかったんですか?
実はコンピューターは苦手なんです。PCもたまにゲームをやらせてもらうくらいで、全然、触っていませんでした。
――実際にデジタル作画ツールを使い始めて変化はありましたか。
相変わらず、PCは苦手なままですね(笑)。そのかわり、自分は印刷の色校の作業を経験していたので、最初からCMYKを意識して色味を抑えた感じで塗ってみたり、思った通りの色を出したりすることはスムーズにできました。PCで塗り始めた当初は、カプコンイラストの質感や立体感を大切にした塗り方を一所懸命、参考にしていましたが、マンガ原稿のカラーとしては少し重たかったので、カラーページを大量に描く時には自分なりに簡素化したり、いろいろ試行錯誤しながらやっていました。
『ケロロ軍曹』単行本1巻表紙イラスト
©吉崎観音/KADOKAWA
――現在の作画環境はどのような感じになっていますか?
Power Macintosh G3、G4、G5と使い続けて、今はiMac retina 5Kのメモリ32GBです。ペンタブレットはIntuos Pro medium(PTH-651)です。Intuosのファンクションキーには拡大/縮小やスポイトを、ホイールにはキャンバスの回転を登録しています。ペンのサイドスイッチにはスペースキーを登録しておくと[手のひら]ツールを使うときに便利ですね。使わないスイッチはオフにして間違って押さない様にしています。ツールはCLIP STUDIO PAINT EXがメインで、スキャンや色調補正でPhotoshop CS6を使っています。
――マンガの制作にもデジタルは使われていますか?
マンガの原稿は、『ケロロ軍曹』を始めた時に、背景やリアルな立体物、宇宙空間など、手描きだと作業が重たい箇所をデジタルで作成して、プリントアウトしたものをアナログ原稿に貼りこむような使い方をしていました。日向家などはいろんなアングルでデータ化してあったのですが、プリンターを変えたら思った通りにスクリーントーンが印刷できなくなってしまったので、今は先祖返りしてオールアナログになっています(笑)。
――マンガ原稿は何人体制で制作されているんですか。
マンガは自分の他に背景作画が1人、仕上げ担当2人で作画しています。マンガの制作作業全般が好きなので、自分でもスクリーントーンの指示までひと通りやっています。イラストレーションの方は、一貫して個人作業です。イラストレーションはイラストレーターがかけた時間と全ての作業のパッケージだと思っているので、ちょっとしたゴミ取りとかも人にお願いすることはありません。
――イラストの制作工程について教えてください。
カラーイラストは、最初は紙にラフを描いて、そのラフからもう一度紙に線画をクリンナップして、そこからPCに取り込んで色を塗って仕上げています。最近、試験的にラフからフルデジタルで描いたりしていますが、板のペンタブレットよりも液晶ペンタブレットのほうが全体のプロポーションが取りやすそうに感じました。
『けものフレンズ』サーバル基本イラスト
©けものフレンズプロジェクト
――今回、液晶ペンタブレットCintiq Pro 24を使ってみた感想はいかがですか。
ほとんどデフォルトの環境で、液晶ペンタブレットが本当にユーザーフレンドリーなのかを人体実験するつもりで(笑)描いてみましたが、Cintiq Pro 24はとても描きやすかったです。液晶ペンタブレットだけで1枚絵を完成させたのは、今回が初めてかもしれないですね。描き味もよく、ペンの追従性も高いので、使っていて違和感はありませんでした。
以前にも液晶ペンタブレットは何度か試したことがあったのですが、残念ながら自分には微妙に合わなかったんです。でも、Cintiq Pro 24がその時の印象よりすごく進化しているので驚きました。デザインを考えている時など、勢いよく描きたいのに、紙からスキャンする手間を挟むことでイメージが途絶えてしまったりするのですが、これならフルデジタルで描くことができそうですね。
――吉崎さんの作品のような、ユニークで魅力的なキャラクターをデザインするポイントはどこにあるのでしょうか。
自分は特にデザインが得意だとは思っていなくて、好きなものや興味のあるものを大切に描いているという感覚でやっています。『ケロロ軍曹』の宇宙人はもともと好きなモチーフでしたし、『けものフレンズ』の動物も、興味を持ち始めたら底なしなんです。哺乳類だけではなく、爬虫類や鳥類まで広げると自分で決めておきながら、最初の頃はかなりしんどかったです(笑)。
鳥類の羽根の付き方ひとつとっても、他種多様なんですよ。でも、描いているうちに「この鳥とこの鳥は同じ羽根の付き方だ」みたいなことが見えてきて、「この子とこの子は仲間だったんだ!」と分ったりするんです。そういう部分を共感してもらえたら、キャラクターにも親しんでもらえるのかなと思います。
――モチーフをキャラクターに落とし込む手順はどのような感じですか?
基になるモチーフをザザッと描いてみて、全体のシルエットや、何が最初に目に飛び込んできて、どこが魅力的な特徴なのか、そういった最初の印象が消えてしまわない内に線で起こしていきます。もし印象的な大きな丸が二つあるモチーフなら、「大きな丸」という記号は最後まで大事にしながらデザインを仕上げていくようにしています。
どうぶつビスケッツ『さふぁりどらいぶ♪』
CDジャケットイラスト
©けものフレンズプロジェクト
――『けものフレンズ』のコンセプトワークでは、吉崎さん1人で大量のフレンズをデザインされているのに驚きました。
今は……全部で3XX体くらいかな(笑)。動物への興味が底なしに広がっていくので、この子を描いたら当然この子も描かなきゃ、と連鎖していくんです。そうしてキャラクターを作る過程で、どんどん動物の知識も増えていくので、その楽しさもキャラクターを産み出す原動力になっています。これが『ケロロ軍曹』にもフィードバックできると、すごく楽になるんですけれど……(笑)。
『けものフレンズプロジェクト』は動物を応援する企画なので、そのための機能がちゃんと働いてくれれば、自分の絵柄でなくても構わないんです。ただ、基礎となる部分の作業を分担してしまうと、楽にはなるけれど、どうしても軸がブレやすくなってしまうので、「フレンズを増やす」という根幹の部分は自分がやるようにしています。色々なプロジェクトが進んでいるので、楽しみにしていてください。
――最後に、吉崎観音さんにとって、ペンタブレットとはどのような存在か教えてください。
「絵の具がどんどん出てくる魔法の筆」ですね。デジタルのおかげで、好きな色を好きなところに無限に置けるようになったので。「無限筆」っていうと、ちょっと『ドラえもん』のひみつ道具っぽいな(笑)。
取材日:2018年8月3日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
©けものフレンズプロジェクト
吉崎観音
九州出身。1989年、第24回小学館新人コミック大賞で佳作を受賞、『メロン★サーガ』で漫画家デビュー。『ファンロード』(ラポート)『ゲーメスト』(新声社)への投稿でも知られる。ゲーム関連コミックやコミカライズなどを手掛けた後、1999年より「月刊少年エース」(KADOKAWA)で『ケロロ軍曹』を連載開始。代表作となる同作はアニメ化もされ、主人公・ケロロ軍曹は国民的キャラクターとして幅広い年代に親しまれている。2004年、第50回小学館漫画賞(児童向け部門)を受賞、2018年8月には連載開始20周年を記念して『ケロロ展 IN AREA 428』が開催された。マンガ家、イラストレーター、キャラクターデザイナーとして幅広く活躍し、自らコンセプトデザインを手掛けるメディアミックス企画『けものフレンズ』プロジェクトが大きな注目を集めている。
ジャケットイラストを手掛けたどうぶつビスケッツのCD「さふぁりどらいぶ♪」がJVCケンウッド・ビクターエンタテインメントより10月4日発売。【特設サイト】
⇒ 『ケロロ軍曹』公式サイト
⇒ けものフレンズプロジェクト公式サイト
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