イラストレーター/アニメーター
tarou2
ポップな描線とカラーリングで描かれた、動きを感じるキャラクターイラストで注目され、「キルラキル」「ダーリン・イン・ザ・フランキス」などの作品でアニメーターとしても活躍するイラストレーターtarou2による「Wacom Cintiq Pro 27」を使ったライブペインディングを公開!(2024年9月11日撮影)
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Drawing with Wacom 146 / tarou2 インタビュー
tarou2さんのペンタブレット・ヒストリー
個展「GUMMI」キービジュアル(2023)
©tarou2
――tarou2さんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
父がデザイン関係の仕事をしていて、小学生の頃からペンタブレットは触っていました。当時はArtPad IIでKid Pixや「ドラゴンボールZアニメデザイナー」とかで遊んでいたのを覚えています。本格的にデジタルで絵を描く様になったのは高校生の頃にお古のPCをもらって、インターネットのお絵描き掲示板に入り浸るようになってからで。家にあったWACOM FAVO(第3世代)を引っ張り出してきて、環境を作りました。
――ペンタブレットをどのように使われていたのでしょうか。
高校生の頃はAdobe Photoshopとかの使い方がよくわからず、お絵描き掲示板や絵チャットがメインだったんですけれど、専門学校に入ってバイト代でIntuos3を買ってから、だんだんツールの使い方を理解してきてそこから本格的にデジタルイラストを描くようになりました。学校にあったCintiq 21UXが初めて使った液晶ペンタブレットですが、学生にとっては高級品でしたし、当時はまだペン先の視差も気になったので、当面は板型のペンタブレットいいかなと思っていました。
――液晶ペンタブレットを使うようになったのは?
アニメーターとして仕事をするようになってからしばらくは紙で作画していたのですが、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」の頃からデジタル作画をするようになり、Cintiq 13HDを使わせてもらったんです。それでだいぶ印象が変わって、Wacom Cintiq Pro 16を購入してアニメもイラストも液晶ペンタブレットで描くようになりました。画面の視差もなく、解像度も4Kになったのですごく描きやすくなったのを覚えています。
――現在の作画環境はどのようなものですか?
HPのゲーミングPC「OMEN40L」(CPU:Intel Core i7-14700K/RAM:32GB/GPU: NVIDIA GeForce RTX4070 Ti Super)に、色を確認するためのディスプレイ(EIZO Coloredge CS2740)とゲーミングディスプレイ(HP OMEN 27)を繋いで使っています。液晶ペンタブレットは最近、Wacom Cintiq Pro 22に買い換えましたが、ちょうどレイアウト用紙が見渡せるくらいのサイズ感がいいですね。作画に使うツールはCLIP STUDIO PAINTで、特にサブデバイスなどは無くショートカットなどもLogicoolのMX Keys Miniキーボードで操作しています。
――Wacom Cintiq Pro 27の使い勝手はいかがでしたか?
4Kの高解像度は、引きの絵がすごく描きやすいです。自分の作画スタイルだとあまり大きな画面を使いきることがないので、Wacom Cintiq Pro 22を愛用していますが、背景を描き込んだりするなら27インチの大画面があるといいなと感じますね。視差もまったく気にならなくなっていて、Wacom Pro Pen 3はペン先がいままでのワコムのペンよりも見やすくなっているのも描きやすさを感じるところですね。
tarou2さんの作業環境。
Wacom Cintiq Pro 22の上部にLogicoolのキーボードMX Kwys miniを設置している。ディスプレイは左がゲーミングディスプレイHP OMEN 27、右がカラーマネジメントディスプレイEIZO ColorEdge CS2740。
イラスト、アニメともにこのデスクで作業する。
tarou2さんのクリエイティブ・スタイル
「carnivore」プライベートワーク(2023)
©tarou2
――tarou2さんがイラストを描かれる際のワークフローはかなりシンプルですよね。
そうですね。ラフで2段階くらい下描きをした後に、線画のクリンナップをしながら、ディテールが多い部分やデザインで悩みそうな箇所に下描き用のレイヤーを追加して、加筆しながら細部を固めていくような描き方をしています。レイヤー分けも線画、色、影、調整レイヤーくらいのシンプルな構成で完結することが多いと思います。
――小物やディテールなどは描き進めながら考えているようなところがありますね。
ドローイングの撮影では、コンセプトが曖昧なまま描き始めてしまったので、かなり悩んでいますね(笑)。途中で「お絵描きガール」にしようと考えついて、そういえば昔、こういう感じの絵を描けるおもちゃがあったよな……みたいに曖昧な記憶から資料を探したりしています。ふだんもガジェットやギアを描く時は、そういう既視感をベースに「こんな感じにすると面白いだろうな」という感じで自分なりのアレンジを加えて描くことが多いですね。
――オリジナルのイラストのモチーフや描きたいネタみたいなものは、日頃から蓄積しているものなんですか?
外出した際に、気になる形の物や建築物を写真に撮ったりはしています。ごちゃごちゃした路地裏や、いい感じに古びた集合住宅、街なかにあるステッカーだらけの自動販売機とか配電盤みたいなものを被写体にすることが多いと思います。
――作画に使っているブラシもかなりシンプルなものですね。
最近はずっとデフォルトのGペンを少しだけカスタマイズしたブラシを使っています。厚塗りでタッチをつけた塗りをするのが得意ではなくて、アニメ塗りをすることが多いので、線も均一な感じのほうがいいのかなと思っていて。ポップアート的な仕上がりも意識しているかもしれません。もともとあまり色に頓着するタイプではなく、そのぶん線でクオリティを担保しなければという気持ちはあります。
――確かに、ドローイング撮影の時間配分でも線画にかける割合が大きいように感じました。
頑張って塗ろうとしていた時期もあるんですけれど、自分の好みとしてパッと見でわかる絵にしたいというのがあって。細部の塗りまですごく凝った絵を見るのは好きですが、自分でやると処理が追い付かず、何をいちばん見てもらいたい絵なのか分からなくなってしまいがちなので、今のスタイルの方が情報量をコントロールしやすいんでしょうね。
――塗りや仕上げのスタイルはシンプルな一方で、随所で見られる色トレス処理は線の途中で色が変わるなど面白いです。
色面構成みたいなものを、塗りだけでなく線画でも表現できるといいなと思ってやっています。あまり厳格なルールはないんですけれど、明るい色で色トレスすることでハイライトの役割をしたり、物の質感に説得力を持たせられたりする。単純に線画黒だけだと画面が大人しくなってしまうとか、色数が増えたほうが映えるみたいな理由もあって、それをお手軽に解決する方法が色トレスみたいな感じで使っています。オーバーレイとかソフトライトみたいな処理は使いこなすのが難しいんですよ。
「SMUGGLER」プライベートワーク(2023)
©tarou2
――ガジェットや小道具に文字によるデザイン要素を入れることも多いですよね。
文字情報があるとプロダクト感を出せるのが気に入っていて、文字のデザインを入れることが多いです。物としてのデザインが少し緩かったりしても、文字を乗せることで締まってくれるので便利に使っています。
――tarou2さんがイラストレーターとして活動する上で影響を受けたクリエイターはいますか?
たくさんの方から影響を受けていますが、なかでも錦織敦史さん、すしおさんの存在は大きいと思います。お二人ともアニメーターで会社の先輩なのですが、イラストを描く際にも色使いやアートスタイルにちゃんと個性が出るクリエイターで、自分もいつかこんな風に描けるようになりたいなと思っていました。最近だと、ゲーム「スプラトゥーン」のデザインやコンセプトにも大きな影響を受けていて。キャラクターのファッションやアイテムに使われるモチーフが、すごく感度が高くお洒落なのに、尖りすぎることもなく誰でも親しみやすいゲームになっているのが衝撃的でしたね。
――イラストで描きたいモチーフや、テーマがあれば教えてください。
イラストで何をやりたいかというのは、ずっと模索している最中で、自分でもまだよくわかっていない気がします。趣味で描く絵に関しては、自分が今ハマっているものとか、好きなものを描いているので、ファンアートみたいな感じなんですよ。このスニーカーがすごくかっこいい!みたいなファン目線で。最近はキャンプに興味があるので、キャンプ用ギアを描いたりしたいですね。
線で色面構成を表現したいというtarou2さん。
線画に色を乗せる「色トレス」を使ってグラフィカルな画面を生み出している。
線をよく見ると、立体を意識してトレス線の色を切り替えることで、平坦な塗りの面に立体感が生まれているのがポイント。
線の太さが均一なかわりに、色トレスによって描線に変化をつける効果もある。
※動画では3:45からtarou2さんの色トレス処理の作業を見ることができます。
tarou2さんのクリエイターズ・ストーリー
「AIR PRESSURE」プライベートワーク(2020)
©tarou2
――tarou2さんが本格的に絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
小学生くらいの頃から絵を描くのは好きでしたが、ノートのラクガキ程度で、本格的に絵を描きたいと思ったのは高校生になってインターネットで自分の描いた絵を発表している人達の存在を見つけてからですね。最初はマンガ家に憧れて描き始めたんですけれど、吹き出しにセリフを書くのが恥ずかしくて早々にこれは無理だとあきらめて(笑)、そこからはひたすらお絵描き掲示板に入り浸たって、そこで知り合った人たちと交流したり自分のWebサイトを作ったりしていました。
――アニメーターを仕事にしようと思われたきっかけは?
高校卒業後に親が語学留学を勧めてくれて、1年ほどアメリカで過ごしていたんです。ホームステイ先のテレビで、深夜に「サムライチャンプルー」とか「フリクリ」、「カウボーイビバップ」みたいな日本のアニメがたくさん流れていて。それを観まくっているうちに、自分もこういうものが描ける仕事に就けたらいいな、と思うようになりました。
――海外に行ったことでアニメーターへの憧れが生まれたんですね。
そうですね、逆輸入みたいな感じです(笑)。帰国後に、現在は無くなってしまった「東映アニメーション研究所」に入学して、バイトをしながら通いはじめました。学べることをも多かったのですが、1年もたたないうちにバイトと学校の両立につかれてしまって……同じ苦労をするなら、絵を描いて働くほうがいいんじゃないかと考えて、ものは試しでアニメスタジオに履歴書を送ってみることにしたんです。
――アニメーターとしてのお仕事はどのようにスタートしたのでしょうか。
まずは動画マンとして、実践的な線の引き方をイチから教わる研修をうけました。それまで鉛筆で均一な線を描くことすら意識したことがなかったので、こんな綺麗な線を描ける人がいるのか!と驚き、自分もこの技を覚えるんだとワクワクしたのを覚えています。その後はバイトを続けていた方が楽なんじゃないかというくらいの大変な思いをしたんですけれど……(笑)。研修期間を経て「グレンラガン」の14話で初めて動画をやり、そこから2年ぐらいして「まほろまてぃっく」OVAで原画デビューしました。「めだかボックス」が終わったくらいでトリガーに移り、「ビビッドレッドオペレーション」で初めて作画監督をして、「キルラキル」以降は作画監督を担当することが増えました。
「東京カオス」コラボイラスト(2020)
©tarou2
――イラストレーターとしての活動はいつ頃から始めたんですか?
ライトノベル「ドウルマスターズ」のイラストを担当したのが、最初の仕事だったと思います。それから数年経ってからスニーカーにハマって、趣味でスニーカーの同人誌を作るようになったら、その絵を見てくれた方からイラストの依頼をいただく機会が増えたという感じですね。
――これまでのお仕事で特に印象に残っている物はありますか?
やっぱり「キルラキル」の思い出が一番強くて、とにかく大変でスタジオに泊まり込んで作っていたんですけれど、その時にすしおさんとか先輩方の仕事ぶりを目にしたことが、すごく貴重な体験でしたね。同僚と一緒に頑張っていたので、すごく一体感を感じる現場だったかなと。作監として関わった話数も多いので、思い入れのある作品です。
――イラストでお気に入りの1枚をあげるとするとどの作品でしょうか。
イラストだと、「東京カオス」というコラボレーション企画で描いた、学校の廃墟みたいなところで女の子がゲームをしている絵があって。かなり悩みながら描いた1枚ですが、自分でも気に入っているので、こういう世界観のシリーズはもっとやっていきたいなと思ってます。このイラストがきっかけになって、RADWIMPS「MAKAFUKA」のMVでキャラクターデザインをやらせていただいたので、自分の中ではコンセプト的に地続きになっているイラストです。
――去年(2023年3月)には、Pixiv WAEN GALLERYで個展も開催されていましたね。
個展「GUMMI」は自分が好きなものを表現できる空間にできたらいいなと思って、スニーカーと女の子のキャラクターをコンセプトの中心にしました。展示内容にいろいろ小ネタを仕込んだりするのが面白くて、展示の楽しさも知ることができたので、できればまたやりたいなと思っています。
――最近のお仕事状況はいかがでしょうか。
おかげさまで、イラストで描いているようなファッションやデザインを強みだと思っていただけることが増えて、アニメやゲームなどでキャラクターデザインのお仕事をいただくことが増えてきました。いろいろ進行中のものがあるので、楽しみにしていてください。
――最後に、tarou2さんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
ペンタブレットがあったおかげで、インターネットのお描き掲示板で色々な人と知り合うことができたし、デジタルがなければ趣味でカラーイラストも描けなかったと思うので、いま自分がいる世界の入り口になってくれた、とてもありがたい存在だと思っています。
取材日:2024年9月19日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
tarou2
フリーランスのアニメーター/イラストレーター。岩崎将大名義で「キルラキル」「ダーリン・イン・ザ・フランキス」『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』などの人気アニメの制作に携わる一方で、2020年頃からフリーのイラストレーターとしても活動。しなやかなポージング、ポップな描線と色彩で表現するイラストで人気を得ている。2023年には自身初となる個展「GUMMI」を開催、好評を博した。
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