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キャラクターデザイナー
まごつき

人気アーティスト・ヨルシカや夏代孝明のMVなどを手がけるアニメーション制作チームHurray!のメンバーとして活躍するキャラクターデザイナーまごつきさんによる 「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2021年10月28日撮影)

※ブラウザで動画が再生されない場合はYoutubeのワコムチャンネルでご覧ください。

Drawing with Wacom 124/ まごつき インタビュー

まごつきさんのペンタブレット・ヒストリー

ヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」MV(2019)より
©ヨルシカ

――まごつきさんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか。
中学生の頃に学校で個人サイトを作るのが流行って、中にはお絵描き掲示板みたいなものを設置する子もいたので、そこで初めてデジタルで絵を描くということを認識しました。しばらくマウスで描いていたのですが、他のクラスの子が描いた絵を見て自分ももっと上手く描きたいなあと思って調べたところ、ペンタブレットというものがあると知ったんです。

――初めてペンタブレットを手にしたのは?
ずっと欲しがっていて、誕生日のプレゼントとしてWacom Bamboo Comic(CTE-450)を買ってもらったのが初めてのペンタブレットでした。すごくカラフルなパッケージでこれを使えば私もこんな絵が描けるんだとテンションが上がった記憶があります。

――液晶ペンタブレットを使うようになったきっかけは。
美術科のある高校を受験するために鉛筆デッサンの練習をする必要があり、そのまましばらくデジタルから離れていたのですが、大学2年生の頃にデジタルでアニメーションを作ることになって、試しに板のペンタブレットで描いてみたらどうしてもアナログの様には描けず、スピード的にも苦戦してしまって。液晶ペンタブレットならアナログと同じように描けると聞いてクラスメイトに借りてみたら、もう一瞬で鉛筆と紙で描くのと同じように描けて、自分が求めていたのはこれだ!となりました。

――それからすぐに液晶ペンタブレットで描き始めたのですか?
ワコムストアでCintiq 13HDを安く買うことができたので、それでアニメーションを作ったりデジタルでカラーイラストを描くようになりました。社会人になってからしばらくして、当時の最新モデルで少し大きいのに買い替えようと思いWacom Cintiq Pro 16を手に入れて今もそれを使っています。

――現在の作画環境はどのようなものですか。
raytrekのクリエイター向けPC(CPU:Intel Core i7 8700 3.2GHz/RAM 32GB)に、EIZOの24インチディスプレイ(ColorEdge CS2420-Z)とWacom Cintiq Pro 16を繋いで使っています。作画ツールはCLIP STUDIO PAINTがメインですが、最近は3Dでアニメーションを制作することが多くBlenderを使うことが増えています。Wacom Cintiq Pro 16は市販のスタンドで立てて使っているのですが、目線の高さに合わせたいのと、机を広く使えるようにキーボードが下に入るタイプのディスプレイ台を使って机の上に設置しています。

――今回、Wacom Cintiq Pro 24を使って描いてみた感想はいかがですか。
Wacom Cintiq Pro 24は普段使っている16インチモデルよりもかなり画面が大きいので、その広さを使いこなせるかなと思っていたのですが、すごく絵に集中して描ける感じがあって、欲しくなりました。キャンバスを拡大して見る時にも、描いている部分の周りまで見ながら描けるので、いつもより細かいところまで意識しながら描けた気がします。

ま ご つ き さ ん の 作 業 環 境

ドスパラのクリエイター向けPCブランドraytrekのPC(CPU:Intel Core i7 8700 3.2GHz/RAM 32GB)にEIZOの24インチディスプレイColorEdge CS2420-ZとWacom Cintiq Pro 16を接続。
Wacom Cintiq Pro 16は目の高さになるように市販のディスプレイ台の上に、18段階調節できるタブレットスタンドを使って立てて設置。
作画中はColorEdgeにCLIP STUDIO PAINTのナビゲーターを表示して色味などを確認している。右手のiPadは作業中BGMとして動画を再生するのに使用。

まごつきさんのクリエイティブ・スタイル

一般社団法人自転車協会「新しい自転車生活様式」(2021)
キャンペーンイラスト
©まごつき/一般社団法人自転車協会

――まごつきさんが普段イラストを描く時のワークフローはどのような感じですか。
CLIP STUDIO PAINTでラフを描くのですが、太めのブラシを使ってあまり細かい形まで決め込まないように描くことが多いです。ラフで描き込みすぎると、線画がなぞるだけの作業になってしまう感じがして。どの段階でも頭を動かしながら作業できる要素がある方が楽しいので、ラフはこんな感じになればいいなというところで止めつつ、線画をクリンナップする中で必要があれば下描きに戻って形を整えながら描き進めています。

――線画に使っているブラシはどのようなものですか?
仕事だと作品のテイストによって使い分けていますが、プライベートで描く時は線を引いただけで味がでるような、がさついた風合いのあるカスタムブラシ(ガサ伽サ線画ペン)を主に使っています。そもそもブラシの線が荒いので、描きながら線の1本1本にあまり気を使わなくていいのが気に入っています。

――塗り工程はどのように進めているのでしょうか。
今回描いたイラストはチームのテーマカラーである黄色を背景にしようと思っていたので、そこから全体の色彩を組み立てています。シンプルなレイヤー構成にしたかったので、分ける必要がない部分は1枚のレイヤーで[塗りつぶし(他レイヤーを参照)]ツールを使って塗り分けしています。ひととおり塗り分けたら、影用のレイヤーを作って影色を置いていき、さらに色トレスやエフェクトなどの効果を乗せて完成まで持っていきます。

――色トレスや影の部分に乗っているスクリーントーンの様な処理がすごく効果的に感じます。
生っぽくしたくない時に色トレスが有効だなと思い、よく使っています。線画のレイヤーでクリッピングした色トレス用レイヤーの全体を茶色で塗りつぶした後に、塗り分けに合わせて部分ごとにオレンジや黄色を乗せて線の色を変えています。トーン処理は最近のマイブームで、塗りにトーンを乗せることでお手軽に絵の情報量を増やせて、ただのアニメ塗りだけで終わらない感じになるのがいいなと思っていて。何かデザインしたような感じと、絵がパキっとして見えるのが好きで使っています。

――今回ドローイングで描いていただいたイラストで特に意識した部分はどこでしょう。
バストアップの構図にしたのですが、何か見せ所がないと面白くない絵になる気がしていろいろ考えました。目が大きいデザインのキャラクターなので、瞳が注目ポイントになるようテーマカラーの黄色と補色関係にある青系の色を使って、目を中心としてグラデーション的に情報量が入るようなイラストにしています。

――まごつきさんは、アニメーション制作チームHurray!のメンバーとして活動されていますが、チームではどのような部分を担当されているのですか。
コンセプトアートとキャラクターデザインをメインで担当しています。MVを制作することが多いので、代表のぽぷりかがアーティスト側にヒアリングした楽曲のイメージや制作意図を聞いて、実際の楽曲や歌詞と併せてイメージを膨らませていく作業が多いですね。最近は3Dを使って制作することが多く、2Dの作業だけだとポスプロで手が離れてしまうのが寂しかったので、メンバーにBlenderの使い方を教えてもらって簡単なモデリングも担当するようになりました。

――Hurray!が制作するアニメーションは作品毎にキャラクターのテイストやルックが異なっているのに驚かされます。
絵柄を固定してしまうと、ずっとそのテイストを求められるので、チームとしてもそこでアイデンティティを出したくないという気持ちがあったんです。毎回、新しいことにチャレンジしたいと思った時に、絵柄を固定すること自体が縛りになってしまうので、なるべく案件ごとにこの内容であればこういうルックが合うんじゃないかと提案させていただいています。

「あなたから聴く物語」PRイラスト(2021)
©EISYS/ZOWA/CatchyStuck/あなたから聴く物語Project

――最近は主線の無いアニメーションというスタイルで制作することが多いですよね。
主線無しのアニメーションは個人的にずっとやってみたいスタイルだったんですけれど、Hurray!を立ち上げた時は手描きのアニメーションがメインだったので技術的にも難しいなと思っていたんです。3Dでの制作に移行し始めた頃に、考え方によっては3Dも主線無しだと気づいて、ヨルシカさんの「だから僕は音楽を辞めた」のMVを制作する時に、主線無しのスタイルが合うんじゃないかと提案してようやく主線無しで動かすアニメーションを作ることができました。

――3Dを使うことで作品制作の幅が広がったわけですね。
表現の幅も広がりましたし、作る事ができる世界観も増えたんじゃないかと思います。Blenderにはグリースペンシルという空間上にペンで絵を描ける機能があって、キャラクターの表情を手描きでレタッチしたり、シーンによってはモデリングをせずに手で描いたキャラクターを動かしたりしています。2Dだとカメラワークやアングルを変えるには全部描き直す必要がありますが、3Dならトライアンドエラーもしやすいので、少人数のチームでアニメーションを作っていく中で自然とメインになっていった感じです。

――まごつきさんとしては、3Dを導入することで手描きではなくなることに抵抗を感じませんでしたか?
てっきりそういう気持ちが自分にもあると思っていたんですけれど、キャラクターを動かして物語や世界観を作ることが楽しいので、手で描く作業が少なくなるのが嫌だと感じることはないですね。そもそもキャラクターデザインやコンセプトアートを描いている時は2Dの作業が不可欠ですし、Blenderのグリースペンシルも結果的に3Dの空間で2Dの絵を描いているようなもので、実際の作業もWacom Cintiq Pro 16でBlenderを操作してペンで描きこむので、ほとんど違和感はありません。

ワ ン ポ イ ン ト テ ク ニ ッ ク

まごつきさんがよく使うという、影の部分にスクリーントーン状の模様を乗せるテクニック。
アニメ塗りの平坦な画面にひと手間加えることでデザイン的なアクセントになるという。
影部分のレイヤーで選択範囲を作成し、新規レイヤーに影と同じ形の白塗りマスクを作成。レイヤープロパティで[トーン]効果を適用して網点化し、ブラシで影に合わせた色を付けている。

※動画では14:10あたりからまごつきさんが影にトーン効果を乗せる工程を見ることができます。

まごつきさんのクリエイターズ・ストーリー

「秋」プライベートワーク(2021)
©まごつき

――まごつきさんが絵の仕事を目指すようになったのはいつ頃ですか?
小学生の頃から将来は絵を描く仕事をしたいと思っていて、マンガの勉強ができる高校に入りたいと親に進路相談したところ、いきなり専門性の高いところで学ぶよりも絵について広く学べる学校で知見を広めたほうがいいと言われて。高校の美術科に通ううちに自分の興味は思っていたよりも広く、マンガに限らなくてもいいんだと気づいて大学はより広く学べる美大に進もうと思ったんです。それでサブカルチャー方面で活躍する卒業生も多い金沢美術工芸大学に進学しました。

――大学ではどのようなことを学ばれたのでしょうか。
視覚デザイン専攻というコースで、わりとなんでもやるところなのですが、そこで仲間と一緒にそれぞれのスキルを発揮して作品を制作する面白さを知りました。いろいろやった中でもゲームと映像制作が楽しくて、悩んだ末、卒業後はゲーム制作会社に就職して、フリーになるまで4年半ほどキャラクターデザインの仕事をメインにやっていました。

――チームを結成して作品を作るようになった経緯は?
メンバーのぽぷりかとおはじきは大学の先輩なのですが、課題などで人手が必要な時に後輩が先輩の手伝いをすることがよくあったんです。2年生の頃にぽぷりかに誘われて課題の制作を手伝ったのをきっかけに、一緒にいろんな制作をするようになりました。私が卒業して上京するのとほぼ同時にぽぷりかが3人でチームを作るぞと言って立ち上げたのがHurray!です。最初に宣伝のため作ったチームのコンセプトムービーを見たアーティストの夏代孝明さんがMV制作の依頼をしてくれたのが初仕事でした。

――ゲーム会社でのお仕事と並行してチームでの制作をするのは大変ではありませんでしたか?
3人とも副業でHurray!の制作をする状態で、会社から帰ってきて23時くらいからチャットに集まって「さあやるか」みたいな感じで4時ごろまで作業して、また朝から会社に行くみたいなことをしばらく続けていました。体力的にきついこともありましたが、3人で頑張って何かを作ることが楽しかったし、会社ではやれないようなこともチームなら挑戦できたので、精神的につらいと感じたことはありませんでした。ヨルシカさんの「だから僕は音楽を辞めた」のMVですごく反響をいただいて。あの作品を作ったチームということで広く認知されるようになり、流れが変わった感じがありました。

夏代孝明「フロムトーキョー / 初音ミク」MV (2021)
キャラクターデザイン画
©Caramel Honey Pancake & TAKAAKI NATSUSHIRO

――現在は全員がフリーランスとしてHurray!での活動をメインにお仕事をされています。
ゲーム会社に勤めている中で、将来的にアートディレクターになることを期待されていたのですが、実際に小さなプロジェクトでその立場になってみると、自分にはディレクター職よりデザイナーの方が向いていると痛感したんです。それで転職を考え始めたのですが、ここだという会社が見つからず、Hurray!みたいな会社があったら一番いいのにな……とぼやいてみて、チームを本業にするという選択肢もあるかと気づいたんです。

――それで会社を辞めてフリーのクリエイターになったんですね。
そこに至るまで自分の人生設計にフリーランスという働き方が無かったので、勇気が必要でしたが、もし1年考えて気が変わっていなければ決断しようと決めて。それから1年後、気が変わるどころか早くHurray!を本業にしたいという気持ちの方が強くなるばかりで、ちょうど関わっていたプロジェクトも忙しくなる前段階だったこともあって、退職希望を伝えてフリーになりました。今はすごくこの働き方があっていると感じています。

――チームでの制作はどのような環境で行っているのでしょうか。
普段はそれぞれが自宅で作業しながらDiscordのチャットで繋がっていて、制作中に悩むことがあればすぐ通話サーバーで画面共有しながらああだこうだと話し合ったりしています。3人とも全員がフルタイムでHurray!に時間を充てているので、制作のスピードや物量も以前より増え、チームとしてこなせる仕事の質も変化したのを感じています。

――これまでのお仕事の中で、まごつきさんが特に印象に残っているものがあれば教えてください。
今年の夏にコンビニエンスストアのローソンで発売されたヨルシカさんのコラボ商品のパッケージイラストとデザインを担当させていただいたのがすごく思い出深い仕事になりました。全国のコンビニの棚に並んでいるということもあって、地元の友人や家族の手にも届いたり、フラっと寄ったコンビニで売られていたりするんですよね。SNSですごいたくさんのヨルシカさんのファンが写真を撮ってアップしてくれて、誰かの何気ない日常の写真の中に自分の絵が写っているという経験も初めてだったので、自分の仕事が届いているという実感を強く得ることができました。

ヨルシカ×ローソン「雨とカプチーノ~ビターカプチーノ」(2021)
イラスト/パッケージデザイン
©ヨルシカ

――年々、チームとしての活躍の場も増えていますが、最近のお仕事状況はいかがですか。
最近発表されたものだと、ゲーム『モナーク』のOPムービーの制作を担当したのと、夏代孝明さんの楽曲「フロムトーキョー」のMVを手がけたのが大きなお仕事です。MVの制作は定期的に依頼を頂いているのですが、ここ2~3年はMVで力の入ったアニメーションを作る流れがあって、すごく追い風になっているのを感じているので、ありがたいなと思っています。その分、すごい映像が次々と出てくるので、常に刺激を受けていますし、自分達も気を抜けないなという緊張感がありますね。

――この先、まごつきさんが挑戦してみたいと思っていることがあれば教えてください。
今はチームでイラストやMVといった受け手に対して一方的に届ける媒体で作品を作っていますが、理想としては受け手が感情移入して心を突き動かされるような作品を産み出せたらいいなと思っているので、ユーザーが自分ごととしてとらえやすいような、インタラクティブなメディアであるゲームに憧れを持っています。最近、面白いなと感じたゲームが少人数で作られたインディゲームであることも多いので、チャンスがあれば挑戦したいですね。

――最後に、まごつきさんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
私は、液タブのおかげでデジタルとアナログの境目がなくなって、できること、やりたいことが一気に広がったように感じたんですね。だから、幼い頃から絵を描く仕事に就くことが人生の一大事だった自分にとって、ワコムの液晶ペンタブレットは将来の選択肢を増やしてくれた恩人のような感じですね。今となっては紙や鉛筆と同じ、そこにあることを意識しないくらい当たり前の存在になっています。

取材日:2021年11月8日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)



画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。

まごつき
キャラクターデザイナー/イラストレーター。アニメーション制作チームHurray!のメンバーとして、主にキャラクターデザインやコンセプトアートを手がけている。金沢美術工芸大学デザイン科視覚デザイン専攻を卒業後、ゲーム制作会社を経てフリーに。大学の先輩であるぽぷりか、おはじきの2人と結成したチームHurray!で人気アーティスト・ヨルシカ、夏代孝明らのMVや企業CMなどのショートアニメを手がけている。イラストレーターとして書籍の装画も手掛ける他、コンビニエンスチェーンのローソンとヨルシカがコラボした飲料「雨とカプチーノ~ビターカプチーノ~」では製品パッケージのイラストからデザインまでを担当して注目された。

twitter:@haruno_168
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