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アニメーション監督
石田祐康

2018年8月17日より公開中の映画『ペンギン・ハイウェイ』(原作:森見登美彦)が話題のアニメーション監督・石田祐康さんによる、液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!

Drawing with Wacom 086 / 石田祐康 インタビュー

『ペンギン・ハイウェイ』キービジュアル
©2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

――最新作『ペンギン・ハイウェイ』は、これまでオリジナル作品を発表してきた石田さんにとって初めての原作ものですね。
これまでオリジナル作品を作ってきたので、まさか原作ものをやるとは思っていませんでした。自分は焦らず着実にやっていきたいタイプなので、原作という土台の上で、どう組み立てれば劇場長編にできるか、そもそも完成させられるのかを試してみたかったんです。スタジオコロリドで長尺の劇場アニメを作るというだけで、初めてのことはもういっぱいなので、今までのオリジナル作品以上に、まずは基本に忠実に作っています。

――森見登美彦さんの原作は、すごくスタジオコロリドの作風にあっている内容だと感じました。原作はどのように選ばれたんですか?
みんなのお薦めや、自分がいいと思う作品を集めて候補を選んでいきました。『ペンギン・ハイウェイ』を選んだのは、自分がやりたいことがほとんど全て描いてあって、親近感があったからです。少しビターで奥行きのある大人っぽい部分もあるので、アニメにするには難易度が高いですが、一番惹かれました。

――森見さんの小説は独特の語り口で、これまでに映像化された作品もそれぞれ特徴的なものがありますね。
湯浅政明監督(『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』)や、吉原正行監督(『有頂天家族』)のアプローチとは雰囲気を変えたかったので、めちゃくちゃ多いモノローグを使わずにどうするかを考えました。『ペンギン・ハイウェイ』は主人公が純粋な小学生なので、あえてひねらずに自然体な感じで表現しています。基本を積み重ねることで、学ぶことも多くありました。

『フミコの告白』より
©ishidahiroyasu

――石田さんは学生時代に発表された自主制作アニメ『フミコの告白』(2009年)で大きな注目をあつめましたが、デジタルでアニメーションを作られる様になったのはいつ頃ですか?
美術科の高校に入って間もない頃に、友達からペンタブレットの今となってはかなり初期型のFAVO(F-410)を借りて使ってみたんです。それまで色鉛筆や絵具でガシガシ描いていて、こうできたらいいのにと思っていたことの多くが出来るようになる…自分でもFAVOを手に入れてお下がりのPCで絵を描き始めました。高校の頃、2000年代頭はちょうどWebでFLASHやGIFアニメの作り手が活躍していた時期で、自分もそういうものを大量に見ていたんです。蛙男商会さんとか、ポエ山さんみたいな人もいれば、りょーちもさんの様な半分商業の人もいたりして、すごく感化されました。それで、高校2年生の頃にポエ山さんのFLASHアニメ入門書を読んで、初めてデジタルでアニメーションを作ったんです。『愛のあいさつ-Greeting of love』(2004年)という、クラシック曲にのせて青年が船で色々な世界を旅していく4分くらいの映像でした。

『空色の梦(ゆめ)』より
©ishidahiroyasu

――Web以外の、一般的なアニメーション作品からの影響はありましたか。
クオリティの高い劇場アニメやOVAを観るのも大好きで、BS放送で押井守さん、今敏さん、なかむらたかしさん、大友克洋さん、庵野秀明さんなどの大人な濃いアニメ作品にどっぷり浸かって、井上俊之さん、沖浦啓之さんみたいな有名アニメーターの名前もだんだん覚えていったので、商業凄腕アニメーターとWeb系のアマチュアアニメ作家の両方に触れながら育ったんです。自分で作るとなると、手が届きそうなアマチュアのFLASHやGIFアニメに親近感がありましたが、最終的なビジョンとしては劇場アニメを思い描いていたので、素人なりに良いと思う部分を真似しながら描いていました。高校の卒業制作で作った『空色の梦(ゆめ)』(2006年)では当時の自分ができる限りのクオリティを目指して、FAVOで頑張って背景を描いていたら、兄がIntuos3(PTZ-630)を授けてくれたんです。そのおかげもあって卒展では10年ぶりという特別な賞をもらうことができました。

――京都精華大学に進学されたのも、アニメーション制作を意識されてのことですか。
大学でもペンタブレットを使ってデジタルでアニメを作ろうと思っていましたが、自分の理想に近づくには板のペンタブレットでは追いつかないと思い、「自分には作らねばならないものがある」と親を説得して、発売されたばかりの液晶ペンタブレットCintiq 12WXを購入して、それで短編アニメ『フミコの告白』を制作したり、イラストや漫画を描いたりしていました。卒業制作の『rain town』(2010年)はこれまでの集大成的なものにしようと考えていたので、1回生の時から計画を練ってイメージボードを描いたりしていたんですよ。

『rain town』より
©ishidahiroyasu

――当時の石田さんのブログで、Cintiq 21UX(DTK-2100/K0)を買った報告を読んだ記憶があります。
『rain town』の制作中に、TV Paintの使い方を覚えたので制作に使いたいと思っていたのですが、タイムライン表示のUIのためにどうしても広い画面が欲しくて、ちょうどよくまた発売されたCintiq 21UXを買いました。黒光りするボディがかっこよくて、嬉しくてブログにも載せていました(笑)。『フミコの告白』で得た賞金のおかげで貧乏学生からは脱していたので、あの頃は卒業制作のための機材をいろいろ買い込んでいたんです。このCintiq 21UXは卒業後も『陽なたのアオシグレ』の制作まで使っていて、『ペンギン・ハイウェイ』の現場でも未だに他のスタッフの下で活躍していました。

――現在の石田さんの制作環境はどのようなものですか?
『陽なたのアオシグレ』(2013年)の後でCintiq 13HDに買い替えて、何本か短編を作りつつ『台風のノルダ』(2015年)まで使い倒しました。その後に企画立案のために場所の融通が効くCintiq Companion2を買い足し、自宅と会社で2台を併用していました。そして『ペンギン・ハイウェイ』(2018年)が始まり、その制作途中、新しいWacom Pro pen 2を使ってみたくてCintiq Pro 16を導入して現在に至ります。Cintiq Pro 16はスタジオの誰よりも先に買いましたが、すごくよかったので、すでに動いている社内作品のメインスタッフ用にスタジオにも導入してもらいました。Cintiq 13HDを使ったときに、しばらくこれでいけるなと思っていましたが、Cintiq Pro 16の画素密度の高さは本当にすごい。デザインと描画面の質感も最も良いです。Wacom Link Plusで安定して4K接続できるようにもなりましたし、描いていて本当に気持ちいいので、またしばらく使っていきたいです。

『陽なたのアオシグレ』より
©studio colorido

――最近はデスクをスタンディング仕様にされていますよね。
整体で、ずっと同じ姿勢でいるのはよくないと言われたので、立ったり座ったりしながら描けるようにしたんです。また、Cintiqをほとんど垂直に立てて、首を下に向けないで描くようにしたら、だいぶ楽になりました。これは紙だと絶対にできないポジションですね。すごく集中してやりたい時にはCintiqを寝かしても使いますが、ほとんどの場合は立てたままで対応できています。デジタル作画の思わぬ有り難い恩恵ですね。

――今回使っていただいたCintiq Pro 24はいかがでしたか。
アニメーターは時間内にどれだけ早く仕上げられるか、鉛筆でサッサッと素早く描くような速度についてこられるかが大切なんです。Cintiq Pro 24は大画面になったのにCintiq Pro 16やMobileStudio Proよりも若干ですが反応速度が上がっていることに驚きました。演出、作画業はコマ単位でタイミングを見ているので、遅延があるとすごく気になってしまいますが、Cintiq Pro 24はかなり快適ですね。『ペンギン・ハイウェイ』のキービジュアルはポスターサイズの絵をCintiq Pro 16で描いたところ、B2サイズで印刷してみたときに、もっと描き込んでおけばよかったと思う部分もあったのですが、Cintiq Pro 24を使っていたらそういうことはなかったかもしれません。普段の仕事では小さくラフばかり描いているので気づきませんでしたが、細かな絵を描くイラストレーターにとってこのサイズの有効性はありますね。

――ペンはいかがでしょうか。
いまはWacom Pro Pen 3D(KP505)を愛用しています。サイドスイッチが3つあるこのペンはなんだろうと思って調べてみたら、3DCGだけじゃなく2Dでも使えるらしいと知って使い始めました。スイッチは下から消しゴムツール、右クリック、マッピング切り替えを設定しています。ペンを持ち替えることなく線を消して即座にまた描き始められるのは、デジタルの利点をフルで活かせています。Cintiq Pro 16は描画面に程よく摩擦があるので、普段は標準芯、緻密な線画を描きたい時にはフェルト芯と使い分けています。基本的に摩擦が強いほど体力が奪われるので、ササっと描きたい時は標準芯です。今回のCintiq Pro 24でのドローイングではフェルト芯を使いました。

『ペンギン・ハイウェイ』より
©2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

――石田さんはアニメーションを作り始めた時からデジタルでしたが、ここ数年、アニメ制作におけるデジタル作画の注目度が高まり、ツールの選択肢も増えています。
大学時代はFLASH、Stylos、TVPaintを使っていましたが、スタジオコロリドでデジタル作画を始める際にはオーソドックスなRETAS STUDIOのStylosを選んでいました。今ではもう古いツールになっていますが、『ペンギン・ハイウェイ』でも他のツールと混在しながら、スタジオの基本的なツールとして使用しています。『ポレットのイス』(2014年)まではプリプロ、レイアウトまで紙で作業していましたが、『FASTENING DAYS』(2014年)からはレイアウトもデジタルで描くようになり、『台風のノルダ』でコンテにCLIP STUDIOを使い始め、以降は企画書やイメージボードもデジタルになっていきました。『ペンギン・ハイウェイ』では初期スケッチに至るまですべてフルデジタルで、絵コンテにはStoryboard Proを、作画にはTVPaintを導入し始めました。このスタイルはしばらく続きそうです。

――『ペンギン・ハイウェイ』でもデジタル作画の恩恵は大きかったのでしょうか。
スタジオとしてはこれまでにない長編作品で、本編までフルデジタルというわけにはいきませんでした。デジタルで対応できる原画マンも限られているので、興味を持っているアニメーターに声をかけてスタッフの一員になってもらったりしています。『台風のノルダ』の時は、なし崩し的に紙とデジタルが混在する形になってしまったので、『ペンギン・ハイウェイ』では腹をくくって、WIT STUDIOさんにお願いするカットは全部紙で、というように最初から紙とデジタルをパートで分けるようにしました。クライマックスに「ペンギンパレード」と呼んでいるアクションパートがありますが、ここはデジタルの恩恵を活かしてかなり面白い絵を作れたと思っています。

――今回描いていただいたイラストも、『ペンギン・ハイウェイ』の登場キャラクターですね。
何を描こうかいろいろ考えましたが、お姉さんの横顔が一番描きやすかったので。横顔が映えるキャラクターで、本編中で主人公のアオヤマ君の歯に糸を結ぶお姉さんが個人的にすごくセクシーに見えたのを思い出して描きました。毎日のスケジュールの中で今日は何カット上げなければ……という状況だと、描く喜びを忘れがちで、趣味の絵が描けなくなるんです。本編の制作が終わってからは楽しくて毎日ラクガキをしているので、今回も気持ちよく描くことができました。

『ペンギン・ハイウェイ』より
©2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

――長編映画を完成させたばかりですが、次にやってみたいことがあれば教えてください。
しばらくは、ツールの使い方を進化させたり、絵を上達させるために短編やCMのような作品で絵作りを楽しみたいですね。イラストや漫画にも挑戦したいです。メカ好きとしては、新しい機材に触れるのも遊びの一環なので、Cintiq Pro 24を触るのも面白かったですね。今はカスタムブラシを作っているだけでも楽しいんですよ(笑)。

――最後に、石田さんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
「相棒」ですね。作品を作り始めたその最初の時からここまで一緒にいたわけですし(笑)これからも共に作品を作り続けていくと思います。これだけお世話になっているので、ワコムには他のデバイスに負けて欲しくないんですよ。迷いたくないんですね。他の追従をまったく許さない性能のものを作っていただければ、迷わず使い続けることができますし、プロの仕事をするためには、絶対的にいいモノにはお金を惜しまないです。個人的に将来さらに期待したいのは、先にお話したアニメーターが求める速度感を極めてほしいですね。ワコムさん、どうか頑張ってください!これからもよろしくお願いします!!

取材日:2018年7月10日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)



画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。

石田祐康
アニメーション監督。愛知県立旭丘高校在学中にアニメーション制作を始め、京都精華大学マンガ学科アニメーション科に進学。2009年に発表した自主制作アニメ『フミコの告白』が第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、2010年オタワ国際アニメーションフェスティバル特別賞など数々の賞に輝き、注目のクリエイターとなる。2011年の卒業制作『rain town』も第15回文化庁メディア芸術祭で新人賞を獲得。卒業後は大学の恩師である杉井ギサブロー監督の『グスコーブドリの伝記』映像助手を経て、スタジオコロリドに参加。2013年に劇場デビュー作品となる『陽なたのアオシグレ』を発表して以降、同スタジオで『ポレットのイス』『FASTENING DAYS』(共に2014年/監督)、『台風のノルダ』(2015年/キャラクターデザイン・作画監督)など数々の作品を発表している。2018年8月17日より、森見登美彦の人気小説を原作とした初の劇場長編となる監督作『ペンギン・ハイウェイ』が公開中。

『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト
⇒ twitter:@tete_hiroyasu

作品との一体感を保ちながらダイナミックに制作できるWacom Cintiq Pro 24は世界トップクラスの色精度とペンの追従性を実現するプレミアムな4K対応の液晶ペンタブレットです。

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