造形作家安藤賢司
ゲーム雑誌の企画記事内においてキービジュアル撮影用の小道具やオブジェ造形を担当。そのままプロの造形作家となる。バンダイ『S.I.C』シリーズの原型を担当。竹谷隆之と共に、「原型師がマスプロダクツ製品のパッケージに名前を刻まれる」という偉業を成し遂げる(※同シリーズの『平成仮面ライダー』のほぼ全てを安藤氏が原型制作担当)。アニメーション作品の設定担当など、立体造形に留まらず、その活躍は多岐に渡る
- 使用タブレット
- -
- 使用歴
- -
- きっかけ
- ー
プラモデル好きの少年が、完全独学で様々なヒーローを具現化する造形作家に
バンダイの『S.I.C.』と呼ばれる超合金玩具シリーズをご存知だろうか? 『人造人間キカイダー』や『仮面ライダー』シリーズの人気キャラクターたちをモチーフにしたこのシリーズは、すでに50作以上の製品ラインナップを誇る人気シリーズだ。アート作品と呼べるほどのアレンジを加えられたヒーローたちが、高い造形レベルの完成品可動フィギュアとして流通している。これらの製品の原型制作を手掛ける造形作家の安藤賢司に話を訊いた。
○造形作家としてのこだわり
安藤賢司は1992年頃から、プロの造形作家として活動を開始した。ゲーム誌での造形の仕事をきっかけに、ゲームパッケージビジュアル用のオブジェ造形、『ファイナルファンタジー』のガレージキットのフィギュアの原型なども担当している。独特の造形で高い評価を得ている安藤だが、造形に関して専門的な勉強はしていないという。自身の造形テクニックやセンスに関しては「基本はプラモデル作りで、全て独学というか趣味の延長です」ということだ。
安藤氏の手掛けたオリジナルデザインの
造形物。完全にアート領域の作品である。
バンダイ製品の『仮面ライダー』シリーズや『スパイダーマン』、『エヴァンゲリオン』などの原型制作で安藤はその名を知られるようになる。安藤が原型を制作した玩具はハイエンドな印象があるとはいえ、一般的には玩具店やコンビニで販売されている。あくまでも「玩具」なのだ。その製品パッケージにクリエイターの名前が印刷されるという事は、安藤の登場まで、ほとんど前例のない事だった。
「バンダイさんの仕事は10年ぐらい前からですね。当時、映画の特撮撮影用のミニチュア作成仕事を手伝っていたら、声をかけていただいたんです。バンダイさんは大きな会社ですし、普通、原型師の名前は出ないのが当たり前です。最近は商品のキャラクターだけでなく、原型師やデザイナーのファンも多いですし、良い流れだと思いますね」
安藤が造形やデザインアレンジで意識するのは、「リアルさと思い入れ」だという。
「『仮面ライダー』や『スパイダーマン』の場合は、着ぐるみの再現ではない、リアルな生き物としての造形を意識します。”本当に変身してる”と想定した場合、それはスーツではなくて筋肉のはずですから。そういう意味でのリアルさは常に意識しています。あと、ヘソ曲がりなので、テレビ映像のままはやりたくないんです。画面上の姿だけでなく、物語やキャラクターの背景を意識してデザインに取り入れる。作品への思い入れが僕の頭の中で膨らんでいくので、それをデザインに落とし込むんです。ファン活動に近いという感覚もあるので、アレンジにしても、自分を出すというより、思い入れを形にするという感覚です」
安藤の造形の大きなポイントに「関節可動」がある。どれほど先鋭的な作品でも、玩具として成立させるには、「関節可動」という要素は欠かせない。
「僕は原型制作の段階で、可動まで考えています。ただ、関節が良く曲がるというだけでは駄目。可動部の見た目が悪いと仕方ないので、そこまで考えてデザインします。あとルールとしては、ヒーロー物の場合、劇中と同じ決めポーズを取れないと駄目なんです。素材に関しても、ある程度考えて原型を作っています。質感、耐久性、値段など、いろいろな条件がマスプロダクツ製品にはある。『この部分は金属で、ここはABS樹脂(プラスティック)、ここはソフビ……』というように商品の素材まで考えます。ただ単に質感だけでなく、量産時に金型から抜くという事まで考えて、素材選択をする場合もありますし」
○安藤賢司が原型を手掛けたバンダイ『S.I.C.』シリーズの一部
S.I.C.仮面ライダーキバ(発売中 4,725円)(C)2008 石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映
S.I.C.仮面ライダーゼロノス&デネブイマジン(発売中 7,140円)(C)2007 石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映
S.I.C.極魂 仮面ライダー龍騎(発売中 1,260円)(C)石森プロ・東映
S.I.C.極魂 仮面ライダーナイト(9月19日発売 1,260円)(C) 石森プロ・東映
S.I.C.極魂 仮面ライダーヒビキ(発売中 1,050円)(C)2005 石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映
ペンタブレットのおかげで、原型制作も効率化された
○造形作家は手で考える
「Intuos4」を駆使して『仮面ライダー電王』の
追加パーツ原型を制作する安藤氏
安藤の原型制作はどのように進められているのだろうか? 造形をする手は動かすという役割だけでなく、考えるという役割も担っていると安藤は語る。
「特別な事はしていません。エポキシパテを使って原型制作を行います。後はひたすら手を動かすという感じです。ひたすら手を動かしながら、頭でなく手で考えるという部分も造形にはあると思います。原型に着色されたデコマス(デコレーションマスター)完成までは、ひとりの作業で、そこまでが僕の仕事という感じです」
ひたすら手を動かすという造形の過程で、安藤はデジタルツールを大いに活用して作業の効率化を実現している。
「僕はデザインアレンジの段階で、デジタルツールを活用しています。大まかな手描きのデザイン画をスキャンしてPCに取り込み、「Photoshop」上で「Intuos4」を使って線の修正やペイントをします。その時点でIntuos4を修正やペイントだけでなく、マウスのようにも活用しています。「Photoshop CS4」はまだ未購入なのですが、CS4の新機能とIntuos4とはとても相性が良いとの事なので、組み合わせての活用には興味がありますね。今、 Intuos4でファンクションキーのカスタマイズを色々と試しているんです。僕はデザインの過程で、ラフに様々な着色を試してみたりするのですが、 Intuos4のファンクションキー設定で以前より、ずっと楽になりました。あと、「Intuos3」に比べてIntuos4は描き心地が本物のペンとほとんど変わらないので、これまでは手書きメモでやっていたデザイン初期段階のラフ画も、今後はIntuos4を使って直接デジタルで描いていくようになると思います。最近はアニメの設定の仕事もしているんですが、そういった仕事にも、当然ですが重宝しています。ラフでも、着色済みのほうがイメージが伝わり易いし、デザインも膨らみます。ただ、ラフの着色に時間はかけられません。Intuos4導入から、ラフ画着色が本当に楽になりました」
新作の原型制作のためのデザインアレンジに、「Intuos4」が使われている
自身が原型を手掛けた製品をもとにスクラッチ
したサイクロン号を手にする安藤氏
「Photoshop」や「Intuos4」を駆使する安藤。彼は今後は3Dデータを自身の造形に活かしていきたいという。
「3Dに関しては、『データを渡して、終り!』というようにはならないと思うのですが、活用していきたいという気持ちはあります。パーツの削り出しをする機械も最近良くなってきているし、ある程度は機械で荒削りして、最後のニュアンスは自分の手でやる。それだけでも、かなりの時間短縮になりますからね。例えば左右の手足を造形するとき、あらかじめデータを3Dで作成しておけば、それを反転して対応するという感じで、造形作業時間も短縮できますし」
これからの安藤は、クリエイターとしてどんな作品を造形していくのだろうか?
「造形でいうと、メカ、キャラ、怪獣など、なぜかこの世界では原型師もジャンル分けされてるんです。でも、僕はけっこう守備範囲広いので、メカでも美少女でも、ヒーローでも、何でもやりたいですね。あとデジタルに関しては3Dですね。造形にも活かせますし、アニメも最近は3Dが当たり前になってきているので、ちゃんと勉強していきたいですね」
「Intuos4」 -安藤賢司はこう使う
「Intuos4」は2009年4月に発売された「Intuos」シリーズの最新モデル。ここでは、安藤さん独自のファンクションキー設定を中心にタッチホイール設定、ペン設定などを紹介している。ファンクションキーの設定は、完全にデザイン画への着色とレタッチに特化したもの。
上部のファンクションキーは、主に着色に特化したもの(spot change:色の置き換え、pencil:鉛筆に似せたブラシ、level:レベル補正、color change:色相、彩度調整)。下部ではレイヤー中心に設定している(new layer:ニューレイヤ、group layer:グループ化したレイヤーを作る、multiplication layer:乗算モードでグループ化したレイヤーを作る、transparent lock:透明ロック※Photoshopの機能)。Intuos4をこの設定で利用することにより、自己のデザイン画やラフへの着色がよりスムーズにおこなえ、作業が効率化されたという。「手を動かして、手で考える」という安藤さんの造形作業の時間がより多く取れるようになったとのこと。
掲載:マイコミジャーナルクリエイティブ
http://journal.mycom.co.jp/articles/2009/09/14/andoukenji/