『Cintiq Creators Mash-Up』に参加した個性際立つ6人のクリエイターの中でも、1番の個性派では? との呼び声も高い水尻自子さん。YKBXさんによる高速CGアニメーションから、女の子の足だけをゆったり描き出す水尻さんのアニメーションへの転換シーンは、作品内でも強烈な印象を残すシーンの1つです。このユニークな約20秒のアニメーション制作は、初顔合わせとなったディレクター関和亮さんとの打ち合わせからスタートしました。
関さんからは『女の子』というテーマを伝えていただき、その場で『女子高生』が面白いのでは? という話になりました。私自身、これまで女子高生をモチーフに作品を描いたことがなかったので、どうしようかな? という迷いはありましたが、少し前の女子高生のイメージと言えば、やはりルーズソックス。その時代ごとに長さや穿き方のスタイルに流行があるソックスは、女子高生を記号化して描く際にもっともわかりやすいモチーフだと思ったんです」
Photoshopのビデオ編集機能を駆使して
ラフから動画コンテ、実作品までを一貫して制作
そこで水尻さんは、「ソックス」をモチーフにしたアニメーションアイデアのラフをCintiq 22HD touchで描き、それをもとに約20秒の動画コンテを制作。関さんに提案してOKの返事が届くと、さっそく約200コマにおよぶアニメーション制作をスタートしました。
「じつは絵コンテを描くのが苦手なので、Cintiq 22HD touchで描いたラフから、そのままPhotoshopで動画コンテを制作し、そのデータを元にして本制作に入りました。Photoshopには、動画ファイルをタイムライン編集できる機能があって、それを活用しています。今作は秒間12フレームのアニメーションになっていて、一枚一枚のコマの動きを少しずつずらしながら、ただ黙々と描き続けていくんです」
描いては消してを繰り返し
集中しながら無心で描かれる「線の力」
シンプルな線と色だけで構成されている水尻さんの作品。こんなにも惹き付けられ、ずっと見てしまうのは何故なんでしょう? アニメを作る際に、水尻さんが最もこだわっているのが、生理的に「美しい線」と「気持ちのいいアニメーション」だと言います。
「1枚絵としても鑑賞に堪えうる美しさが欲しいので、一つひとつのコマを構成するラインは、Cintiq 22HD touchで何度も描き直しながら、ピッタリくる線を探していきます。線の微妙なカーブのちょっとした違いでも、アニメーションを動かしたときの気持ち良さは格段に変わる。描いては消してを繰り返しながら、ずっと集中して作業を行なっています。この作品は4日くらいで一気に描き上げましたが、後で振り返ってみたら、かなりのハイペースではあるものの、絵を描いている間は無心になれるというか、気がついたら1日中作業をしていたりと、時間の感覚を忘れてしまっていましたね(笑)」
YKBXさんのシーンからパスされた「リンゴ」も
水尻さんならではのアレンジで独特の仕上がりに
じっくりと線画を仕上げたら、次は着彩作業に取りかかり、すべてのカットが仕上がると、Adobe After Effects上で合成され、アニメーション作品が完成します。
「背景は微妙にグラデーションをかけていますが、私の場合は色というよりも線や動き重視なので、Photoshopのバケツツールでベタに塗りつぶしていくシンプルな手法をとっています。線も1色で描いていますが、Cintiq 22HD touchの筆圧を活かして、線の太さや濃淡をコントロールして、微妙な変化を出しているんです。最後に関さんから、YKBXさんのシーンから『リンゴ』がパスされると聞いて、急遽追加でリンゴを別のレイヤーとして描き加え、アニメーション動画と合成しました。私のアニメは、常にいろんな線が有機的に動いているのが特徴なので、リンゴも5、6枚の手描き絵をループさせてゆらゆら感を出して、馴染ませています」
制作スタートから仕上げまで、実作業約1週間という短い期間で集中しながら作られた水尻さんのアニメーション。独特の滑らかで肉感的な動き、スタティックな質感はこうして作られたのでした。
ついに完成した
「Cintiq Creators Mash-Up」
コラボレーション動画について
「私がふだん活動しているフィールドは、今回コラボレーションした方々とはまったく違ったので、これまでお会いする機会もありませんでした。ディレクターの関さんとも初めてご一緒したんですが、想像以上に私の自由にさせていただけ、クリエイティブに対する相性の良さを感じ、とても楽しく作れました。今までの私のアニメーション作品をご覧になられている方は感じられたかもしれませんが、今回の作品は私としては動きも速いし、しつこくもない(笑)。他の参加クリエイターのみなさんの作品といかに調和させ、20秒という短い尺の中でいかに私のアニメーションのゆったりしたペースを保ちつつ、ふわっとした動きや質感を出すことができるか? が個人的な挑戦でもありました。この動画を見てくださったみなさんにどう受け止められたのか、とても気になりますね(笑)。ふだん、アニメーション制作はとても孤独な作業なので、こうして1つの作品をみなさんと一緒に作れたことを嬉しく思います。また機会があればコラボレーションに挑戦してみたいですね」
「Cintiq 22HD touch」製品レビュー
Cintiq 22HD touchによるラフから一貫した制作で
集中力を切らさず、制作スピードにも直結
「今回初めてCintiq 22HD touchを使わせていただきましたが、じつは12.1型液晶画面のCintiq 12WXを4年くらい前から使用していました。液晶ペンタブレットは使い始めると、アナログと同じ感覚で画面に直接絵が描けるだけでなく、線や色の修正も直感的にすぐできるので、私のように線の細かいディテールにこだわるアニメーション作家にとっては、とても使い勝手がいいんです。特に下描きから完成まで一貫してペンタブレットで行なうと、紙をスキャンする手間も省けて、集中力を切らさずに作業を行なえます。液晶ペンタブレットで描くことは、制作スピードに直結するので、作業効率をあげるためには手放せません」
大画面液晶でのびのびペンを走らせるだけでなく
スタンドを使えば、画面の角度も自由自在
「Cintiq 22HD touchはCintiq 12WXに比べて大画面なので、絵を描くスペースも充分だし、動画プレビューもちょうどいいサイズで収まって作業がしやすい。線を引くときも肘を使って大胆な線も引くこともできれば、緻密な線を描き込むのも苦にならないので、このサイズ感はありがたいです。あと嬉しかったのが、専用のスタンドの使い心地の良さ。アニメーション制作は地道な作業。根をつめると12時間ほど机に座ったきりになってしまうので、角度を自由に変えられるCintiq 22HD touchのスタンドは、そのときどきの一番疲労の少ない体勢にセットできて助かりますね」
Profile 水尻自子(みずしり よりこ) / 今プロジェクトの役割:Animation
映像作家。手描きアニメーションを中心に、身体の一部をユニークな視点で捉えた独特のアニメーションを制作する。『レイナレイナ』(TOKYO MX)でアニメ監督デビュー。『文化庁メディア芸術祭』など受賞歴多数。