利用想定機材
- Wacom Cintiq Pro 32
- Wacom Flex Arm
- ノートパソコンや小型のPC
- 持ち運べる椅子
2019年4月~5月に行ったアンケートのその問いに7割以上もの人が気に入っていないと回答した制作環境*。また、大きいペンタブレットの導入についても大きさがネックになるという回答が多数を占めました。そこで、こちらのアンケートをベースに、且つSNS等で見られる皆様の制作環境を参考にしつつ、勝手に#理想の制作環境を提案するプロジェクトを開始いたしました!!!皆さんの理想に近い環境が提案できるか…乞うご期待です!
*「いいえ」と「どちらでもない」の回答の合算です。
2019年4月19日~5月にかけて、Googleフォームによるオープンアンケート*を実施いたしました。その結果を一部、ご紹介いたします。
*回答数:112件
専用の作業スペースを持っている方は約6割。どちらともいえないという方も含めると約75%の方が何らかの作業スペースを保有していることになります。
そんな作業スペースですが、気に入っていますか?という問いに対しては約70%の方が気に入っているわけではないという回答になりました。
その理由としては、圧倒的にもっと作業スペースが欲しい!そして次点がもっときれいにしたい、続いてキーボードなどの機材の場所が使いにくいというご意見が上位を占めました。
また、大きいサイズのペンタブレットへの興味については、使いたいと思っている方が半分以上!とはいえそれを妨げる要因として、1位は圧倒的に価格ですが、次点に作業スペースが足りないという結果に。
そして、最後にワークスペースに必要なものは?というフリーアンサーに、多くの方が音楽を上げていました。また、そして机や場所に関する希望、そして集中力などが見受けられました。
これらのアンケート、ならびにSNSで見かける皆様の作業スペースを参考に下記をキーワードに置き、#理想の制作環境をデザインしてみようと思います。
キーワード:没入感、物を置くところ、プライベートスペースになること
キーワードをもとに、プロジェクトメンバーのデザイン担当:青沼優介さんに、ラフデザインを3つ提案いただきました。
コックピット風なので、自分以外は誰も見えません。そのため没入感は半端なく、完全な独立スペースになります。暗めの空間を想定しているのでライティングなどにもこだわりができるのがポイントです。ゲーミングPCを置いてみたらかっこよさそうですね。
まさかの外へ出かけるプランです。外だけでなく、コワーキングスペースに置いていただいても、没入感が出せること、折りたたみ式を想定しているので、それなりにコンパクトになるスペースです。最近は車からも充電が可能ですので、キャンプ場でもクリエイティブ作業ができてしまうこともあるかもしれません!
ドラムセットは好きなものを好きな場所にセットして使えるように、こちらのワークスペースも好きなものを様々な角度、置き場所でセッティングして使うことを目的にしています。丸っこいイメージなので、どんな部屋にもなじみやすいはずです。
いずれも本当にできたら気になる3案の中から、ワコムスタッフ、ならびに青沼さんと協議の上決定したのは、ミリタリー風ワークスペース!まさかの外に持ち出しプランです。
簡易的に組み立てができて、どこでも展開できるというラフさがアウトドア用品でよく見られるので、その造形を参考にしつつデザインに落とし込みました。解体すると全てのパーツが二つのボックスに収まってしまうという、キャンプ用品のような設計になっています。そのボックスはテーブルの両サイドと奥に、棚とパーテーションを兼ねた機能を持っていて、作業への没入感を演出してくれるとともに、自分好みに作業スペースを作り上げていくことができます。カラーバリエーションも、緑はあくまでイメージですが、青や朱色など、趣向に合わせたものも展開できると思います。天井には布がかかっていて、もしかするとそこに夜な夜なプロジェクターで映画を流しながら作業、なんてことも可能かもしれません。このように、使う人によって様々なことが考えられるように、随所に工夫を凝らしています。
2つのBoxからなるデザインを想定。2つのカートは重量も考え、カートで運ぶ想定です。もちろんどこかに置いておいてもかまいません。その場合の幅は縦横800mm,幅が400mmになります。コンパクトといえど、机なので当たり前に大きめです。
天板には軽くて丈夫なメラミン天板を採用。パタッと折りたため、且つWacom Flex armを取り付けても大丈夫な厚さと頑丈さを確保します。脚部は組み立て式です。3つのパーツからなる脚部はすべてアルミ製。ここでも軽量化を図りつつ、クロスデザインでがっちりした形状になりました。側面は穴あきアルミパネルを付けたポリプロピレン製。側面BOXを天板を支える構造にすることで、しっかりとした安定感が生まれます。
反対側の側面はエキスパンドメタル製。自由自在にフックをかけて使うことも可能です。しかも天井は実はテント生地です。パイプに入れてくるっとひらくだけの簡単構造です。今は他と合わせてグリーンでの想定をしていますが、白地であれば、プロジェクタのスクリーンとしても使えるかもしれません。
デザインに沿っての3D データ化が開始!ご担当いただくのは福井信明さんです。 3D 制作には数値を追いながら作成する CAD のような制作方法もありますが、今回は液晶ペンタブレットとも相性の良い ZBrush で作成していきます。Pixologic公認インストラクタ ーでもある福井さんによる制作フローとそのポイントについて特別に教えていただきました。
使用機材:Wacom Cintiq Pro 24
使用ソフトウェア:ZBrush 4R7
このソフトウェアに搭載されている ZModeler。これを利用するとプロダクト系のデザインが今までよりも格段にやりやすくなります。作るものによって変わりますが、パーツを 6 面体キューブで作り、それを引き延ばしたり削ったりして作っていくため、より直感的に動かせる分、制作のスピードを加速させることができるツールです。
では、実際に作り方を追ってみましょう。
前、横から見た図面を事前に Adobe Illustrator や Photoshop などで作成し、正面図と横幅がきっちりあっている画像を作面成します。これを ZBrush 上のフロアに貼っていきます。画像の位置や大きさの調整をすることもできます。
図を基に 1 つ 1 つのパーツを作成していきます。図面に合わせて作業していくのですが、この時の作業が ZBrush ならでは! まるで段ボールを切るかのように角を切り落としたり、厚さゼロのペーパークラフトのようなもの作り、それをドラッグして厚みを付けたりと、画面を動かす手の動きそのままで形を作っていくような作業でパーツを作成していきます。今回は同じようなパーツがいくつかあったので、ベースを作り、それを複製してパーツを増やしていきました。
切ったり伸ばしたり、厚さを出したりと、すべてをペンでダイレクトに触った方が圧倒的に速いです。そういう作業をするためにもやはり液晶ペンタブレットが一番いいなと思っています。また、大画面だとソフトウェアのツール置き場にも困らないことがとてもいいですね。
今回のデザインには金属メッシュパーツがあったのですが、こちらの制作にはちょっとしたコツがあります。元になる筒状のモデルを1 つだけ作り、それを数値入力によって縦横に任意の数を配置していくことができます。この配置については、適当ではなく、幅に合わせて縦横きっちりと配置します。ただし、元になる1 つだけは本物ですが、他はすべて仮のものです。そのため、確認フローでもう少し網目は大きくとか小さくなどのリクエストが来ても後戻りは簡単です。しっかりとデザインが確定した後に確実に本当の穴を開けていきます。
箱、網、テーブルの脚、上部テント部分などをパーツごとに作成し、図面に合わせて組み立てていきます。そしてそれぞれを別々に管理していくこともできます。CGでの作業は「前の工程に戻る」ことができますが、ZBrushでもパーツごとに作業工程を前の状態に戻すことができます。パーツ を分け、それぞれ個別に修正可能な状態になっているかどうかは修正時の手間を大きく左右してきます。
パーツの組み立てでは、ペンで感覚的に配置していくことになります。この組み立てのためにもパーツ分けをどう準備しておくかがとても重要になります。
今回はある程度パーツを細かく分けましたが、「なるべく分けずに作る」方法もあり、その方が感覚的・スケッチ的に手早く作成できますが、後戻りもなかなかしにくいという点も…。作成する内容によって、やり方は変えていくのがよさそうですね。
簡易的に組み立てができて、どこでも展開できるというラフさがアウトドア用品でよく見られるので、その造形を参考にしつつデザインに落とし込みました。解体すると全てのパーツが二つのボックスに収まってしまうという、キャンプ用品のような設計になっています。そのボックスはテーブルの両サイドと奥に、棚とパーテーションを兼ねた機能を持っていて、作業への没入感を演出してくれるとともに、自分好みに作業スペースを作り上げていくことができます。カラーバリエーションも、緑はあくまでイメージですが、青や朱色など、趣向に合わせたものも展開できると思います。天井には布がかかっていて、もしかするとそこに夜な夜なプロジェクターで映画を流しながら作業、なんてことも可能かもしれません。このように、使う人によって様々なことが考えられるように、随所に工夫を凝らしています。
福井さんによる3Dデータですが、せっかくの機会なので実際に形にしてみよう!ということでご協力をお願いしたのは株式会社ミマキエンジニアリングさんです。
ミマキエンジニアリングさんはインクジェットプリンタのメーカーで、その技術を活かし日本初の国産フルカラーの3Dプリンタを開発しました。それが今回出力をお願いすることになったUV硬化型インクジェット方式3Dプリンタ『3DUJ-553』です。
2Dインクジェットプリンタで培った色の技術力によるこのプリンタの強みはなんと1,000万色以上のフルカラー造形ができること!! また、サポート材(造形の際に必要となる素材)は水溶性。水につけておけば溶けていくため、制作した立体物にダメージを与えることなく綺麗に、且つ簡単に除去できるので、細かな表現が得意なプリンタです。
そして今回のこだわりのデザインと3Dデータを実際に作り出すべく活躍したのが、もう一つのミマキエンジニアリングさんのプリンタの特徴でもあるクリアインク!今回はこのクリアインクの中にすべて入れてしまうという新たな試みで3Dフルカラープリントにチャレンジすることになりました。
ミマキエンジニアリングさんコメント
今回のデザインを初めて見た際に、かなり細かく、細いデザインが施されていたので再現しにくいだろうなと思っていました。
その際思い付いたのが、クリアインクの活用です。透明表現はもちろん、クリアインクとカラーインクを同時に使用することで、色付きのクリアインク表現が可能です。今回のように細かい造形物を守るために使うというのは初チャレンジです。
※クリアインクとカラーインクを活用して造形すると、写真のような色付き半透明の造形となります。
では、実際の作り方を見ていきましょう。
今回はクリアインクの中に造形を入れる印刷のため、外側のクリアの部分のデータと、中の造形の2つのデータを用意しました。これを専用のレイアウトソフト「Mimaki 3D Link」上でデータをレイアウトしていきます。
このデータをプリンタに送り、いざプリントの開始です。
印刷はプリントデータを1枚1枚スライスして重ねていくようなイメージで行われます。実際に出来上がった造形物は造形盤面と垂直となる部分に積層縞(せきそうじま)が見えます。この積層縞は出力後、サポート材をとってから研磨すればつるつるの状態に仕上がります。
UV硬化型インクジェット方式3Dプリンタ『3DUJ-553』での出力の様子
※撮影のため特別に3Dプリンタのカバーを開けております。
今回の造形は約12㎝の立方体。この立方体を約20時間で印刷していきます。
印刷が終わったらサポート材をざっくりとへらで取り、水の中へ。しっかりとサポート材が取れたら自然乾燥させて完成となります。
研磨前のテスト印刷のデータです。
ミマキエンジニアリングさんコメント
デザイナーさんが作ったデータを造形し、青沼さんに自ら作ったデータの造形をご覧いただいたときに、「想像以上です!」と言ってもらえたことがとてもうれしかったです。また、今回、VRで3Dデータを見せてもらったのですが、その3Dデータが実際に手に取ってみることができるという新たな提案の仕方を体験することができたのもとても良かった点です。
青沼さんがデザインし、福井さんが3Dデータ化、ミマキエンジニアリングさんでフルカラー3Dプリントした実際の造形物を下記イベントでお披露目します!!!
プロジェクト開始から3か月という駆け足で作り出した#理想の制作環境をぜひ体験しにきてください!
ワンダーフェスティバル2019[夏]
コミックマーケット96
デザイン担当
東京藝術大学 美術学部 デザイン科教育研究助手
青沼 優介
2011年に武蔵野美術大学 造形学部工芸工業デザイン学科を卒業し、その後東京藝術大学大学院 美術研究科 デザインへ進み、2016年修了。2018年には「息を建てる」(DiEGO表参道/東京) などをはじめとするデザイン、アート分野で活躍する。2018年にはTOKYO MIDTOWN AWARD 2018 アートコンペ グランプリを受賞。
3Dデータ化担当
HOPBOX
福井 信明
デザイン事務所代表/3Dアーティスト/Pixologic公認インストラクター。3DCGや3Dプリント、ZBrush関連のイベントを企画・主催・運営多数。造形イベント、美大・専門学校でのセミナー活動
書籍 & YouTube「ZBrushCore超入門講座シリーズ」
SketchFab、UE4などのリアルタイムレンダリング系でも作品を発表中。
3Dプリント担当
株式会社ミマキエンジニアリング
株式会社ミマキエンジニアリングは大判インクジェットプリンタ/カッティングプロッタ/3DモデリングマシンやRIPソフトウェアの提供を通じ、大型UVプリント機などによるパネル/ポスター/横断幕の業務用印刷出力用途をサポートしています。
ワコムのユーザーの皆様…アンケートに回答いただきました皆様他、ユーザーの皆様
監修:ワコムスタッフ
青沼さん
コメント
お話を頂いた際、液タブのためのテーブルをデザインするという試みは、逆説的というか‥。趣味趣向の強いユーザーの皆様と、どうやってデザインという行為で仲良くできるんだろう‥。と悩みました。そして、どんな場所でも使える。なんなら外にだって持ち出せる。そんないい意味でのラフさがいいかもな。という結論に。もっと気軽に液タブを使って欲しいな、という思いも込めて、使い方はユーザーの皆様にお任せで。どんな場所でも、しっかりと集中できるような空間設計にしています。