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映像クリエイター杉本健介POWER GRAPHIXX

2007年よりパワーグラフィックスに参加。Station IDやON AIR PROMOTIONを中心とした映像制作を行っている。最近の主な仕事に「ANIMAX 10th ANNIVERSARY ID」、「MTV & Levi’s presents Unbuttoned [the ivent]」、「MTV Vantan Billboard」、「VMC SPECIAL」などがある。

使用タブレット
Cintiq 12WX
使用歴
きっかけ

映像制作には実写の映像から1コマずつトレースを繰り返してアニメーションを創る「ロトスコープ」と呼ばれる手法がある。デザインスタジオ「POWER GRAPHIXX」のモーションデザイナー、杉本健介氏はスケートボードのライダーの動きにロトスコープを用いて30秒のオリジナル映像作品「HELLO! my name is seeker」を制作した。膨大なトレース作業を液晶ペンタブレットを用いて効率化する等、多数の工夫を凝らした制作過程について話を聞いてみた。

ゲームの映像も手がけるデザインスタジオ

「HELLO! my name is seeker」 dir:杉本健介|music:井原健志|skate:TIGHTBOOTH PRODUCTION

東京・代々木の高級住宅がずらりと並ぶ一角のビルの中に5人のスタッフで活動しているデザインスタジオ「POWER GRAPHIXX」がある。中に入るとデスクは手作りのもので、落ち着いた雰囲気が感じられる事務所だ。グラフィック・デザインからロゴマーク、ロゴタイプ、TVコマーシャル、MVなど多岐にわたり制作を行っている。PSP用ソフト「METAL GEAR AC!D2」やPlayStation3用ソフト「みんなのGOLF 5」のオープニングなど、恐らく誰でも一度は映像を見たことがあるのではないだろうか。

今回、話を聞かせていただいた杉本氏は、同社の中でCGやアニメーションの制作で活躍するモーションデザイナーだ。御邪魔した際にはBootCampを使ってWindowsを起動させたiMacとCintiq 12WXに向かって作業の真っ最中だった。まず最初に杉本氏にとってペンタブレットとはどのような存在なのかを聞いてみた。

「僕はスケートボードが好きで、普段から段差があれば飛んだり、台があれば飛び乗るようなスポットを探しています。一方、ペンタブレットではイメージボードや落書きを描いたり、コラージュを作ってアイデアを探っていきます。そのスケートボードとペンタブレットは”探す”という感覚が似ていますね。特にCintiqはノートをスキャンせずに直接描いてイメージを探せる、まさしく”探索ツール”だと思います」

コンセプト:スケートボードで街を滑りながらトリックスポットを見つけたり、
トリックを決めるイメージ映像(モーショングラフィックス)を制作。
ロトスコープや手描きイラスト、コラージュなど多数の種類の素材を使用して実現した。

STEP01 映像をざっくり並べたラフ映像の制作

「HELLO! my name is seeker」の面白いところは終始テンションが高く、マーカータッチのストリートアートが勢いよく展開していくところだ。特にアニメーションの作画が困難なライダーのアクションが実にリアルにできている。その秘密は実写からトレースするロトスコープにあった。杉本氏はロトスコープの経験が豊富で、大好きなスケートボードがテーマということもあり今作品にも使ってみたとのことだ。

しかし、ロトスコープは何日もトレース作業がかかることが多く、非常に手間のかかる手法だ。そのため、まず初めに素材をざっくり置いた状態のラフ映像の制作から始める。ラフ映像ができればどれだけトレースに時間がかかるのかも見えてくる。今回の作品の場合は秒間17フレームで静止画を書き出すことにして、トレースの枚数は500枚となる見込みとなった。また、線のタッチの複雑さもこの時点で検討して、1枚のトレースにかかる時間も試行錯誤をし、シュミレーションを行った。

「単純な線であれば1枚のトレースは1分。ちょっと凝った線のトレースは2分の時間がかかります。“どこまで凝れるか”とか“納期”などを考えて、最終的には単純な線にすることにしました」

ところでロトスコープの採用で気になるのは、After Effectsに搭載されているセル画のアニメーションのプラグイン「カートゥーンエフェクト」を使うことは考えなかったのだろうか。

「カートゥーンエフェクトは陰影を拾うので、“ズボンだけ”のような選択はしてくれません。やはり直接、手で選択して塗らないときれいにできないのです」


ロトスコープ前の実写映像を並べただけのラフ映像の状態

STEP02 ロトスコープでトレースする


トレースの元となる実写素材の状態

アウトラインを書き起こした状態

映像素材からPSD形式で約500枚の連番を書き出し、それを下絵にPhotoshopでトレースする。書き出したPSD形式の静止画にレイヤーを1枚足して、そこに手描きタッチの質感に設定したブラシでアウトラインやシワを描いていく。今回は凝った線のとり方をしていないので作業自体は単純だ。それでも500枚のトレース作業に1週間はかかると予想をした。できるだけの省力化と作業時間の短縮を実現したい。そこで、杉本氏が使用したのは、液晶ペンタブレットの「Cintiq 12WX」だ。結局、Cintiq 12WXを使うことで500枚のトレースを3日で完了させることができた。

「トレースは昼の12時から作業を初めてそのまま12時間ぐらい続けます。それが3日間で完了しました。ここまで効率よくできたのは姿勢です。Cintiqを使うと視線が下向きになるので、一日中作業をしていても疲れません。姿勢がよくないと疲れてしまって、立ち上がって背伸びをして気分転換を図る回数が増えます。それが集中力を切らすきっかけとなるのです。Cintiqを使うことでその回数は確実に減りました」


Cintiq 12WXを使って作業する杉本氏

ペンの設定はストリートアートのような雰囲気を狙うので、アウトラインは太めの「90」に設定した。「ペン」ツールは書き足すと濃淡が付いてしまうので、一筆描きのように一気に描く。この一筆描きができるところもCintiq 12WXの長所があった。

「通常のペンタブレットは線を外してしまうことがあり、アンドゥーでやり直しをすることがあります。Cintiqは視線とペン先の方向が一緒なので、ペンを止めずにぐりっとアウトラインを書くことができ、やり直しも減るのでトレース時間の短縮につながりました」


ブラシにはテクスチャを設定

トレースの最後の作業は塗りの作業だ。「選択」→「選択範囲の拡張(3ピクセル)」→「塗る」→「閉じる」という工程を1つのアクションにまとめて一気に作業を行う。「アウトライン」と「塗り」は連続で行わないで、アウトラインを約500枚連続で行い、塗りを約500枚連続で行うように別々の手順で行う。これも短縮化の工夫だ。


着色をした状態

STEP03 背景の素材の作成


今回使用したイラストレーター素材

背景の素材を制作する。ちょっとグラフィカルな素材はIllustrator、階段は3DCG、手描きの煙は直接描いたイラストも使っている。

「簡単なイラストはCintiqを使って手描きで描いて、そのままのイラストとして使いました。普段は紙に手描きでイラストを描いたものをIllustratorでトレースして清書しますが、Cintiqを使うと勢いのあるタッチに描けるので、そのまま使うことができました」

素材の色は白黒で作る。これもちょっとした工夫で、素材の時点で色を決めていても映像にしたときに「違う」と思うことがあるためだ。そのため、素材はAfter Effects上でまとめて色を決めるようにした。


Cintiq 12WXで描いたものをそのまま使った煙の素材

STEP04 素材の置き換え

すべての素材が完成したら、ラフ映像の素材を最終的な素材に置き換える。ラフ映像はざっくりと組んだだけなので、素材と素材をどう次に展開していくのかということをここで作り上げていく。杉田氏のこだわりは、カットとカットにはっきりとした継ぎ目のない映像の実現だ。例えば元の画面と次の画面を拭き取るように画面を切り換わる「ワイプ」で次の映像に入るなどトランジションにこだわっている。カットっぽい入り方をするのは曲の展開ががらっと変わったときのみとのことだ。

「トランジションは、“しりとり”のようなものですね。僕はカットとカットの間をばっさり切ってつなげるという作り方をあまりせず、つながるように展開するのが好みです。この“次に移るつなぎ=トランジション”を実現するところがモーショングラフィックスの醍醐味で、一番面白いところだと感じています」



人はいるけれども、後ろの背景がワイプでつながる。

ロトスコープの敷居が下がる

このようにして完成した「HELLO! my name is seeker」だが、制作中に悩まされたのは「After Effectsの安定性」だった。完成したレイヤー数は150ぐらいで解像度はHDの1280×720とPCにも負担がかかったためか、作業中にソフトが落ちることには悩まされたという。運がいいときは、「一回だけ保存できます」みたいな保存のチャンスもたまにあるが、フリーズの場合は保存していないと何時間前かの作業に戻ってしまう。「Ctrl+S」でこまめに保存することで地道に対策したとのことだ。

最後に「Cintiqでロトスコープは3倍ぐらい効率化されました」と杉本氏は語る。ロトスコープというと手間のかかる手法でなかなか気軽に使えるものではなかったが、Cintiqを使うことでこの問題に変化が起こりそうだ。今後、杉本氏はCintiq 12WXとロトスコープでどのような作品を実現するだろうか。今後が楽しみだ。

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