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イラストレーター・デザイナー小田島 等

イラストレーター/デザイナー。1972年東京生まれ。桑沢デザイン科在学中に、スージー甘金氏に師事。95年よりCDジャケットや書籍のデザインを多数手がける。その一方で、音楽雑誌を中心にマンガやイラストを描く。著作漫画に『無 FOR SALE』(晶文社)。共著に、『2027』(ブルースインターアクションズ)。細野しんいちとのユニット「BEST MUSIC」名義でアルバム『MUSIC FOR SUPERMARKET』(Sweet Dreams)をリリースしている。監修本に『1980年代のポップ・イラストレーション』(アスペクト)がある。現在、初の作品集『ANONYMOUS POP 小田島等作品集』(ブルースインターアクションズ)が好評発売中。

使用タブレット
Intuos4
使用歴
きっかけ

サニーデイサービスのCDジャケット、やまだないとの単行本をはじめとする多くのデザインを手がけ、自身が「かわイラスト」と呼ぶ独特のイラストを描く。その一方で、「BEST MUSIC」名義で音源を制作、ASYL DESIGNの佐藤直樹らと「絵画部」を結成する……。クリエイター・小田島等の存在は、マンガ家の大橋裕之やイラストレーターの中村佑介、そして無数の若手クリエイターに密かに影響を与え続けています。では小田島さんは、いったいどんな環境で創作活動を行っているのか? 記念すべき連載初回は、小田島等さんの現場に潜入します!

テキスト・松本香織
撮影:CINRA編集部

キーワードは「セコハンポップ」


どこか懐かしさを感じさせる作品が並ぶ展示会場

「自分が作っているのは、中古風のいわば『セコハンポップ』。古いものが好きなんです。なんだか、ちょっと古い、っていうのをずっとやっています」。自身の作品を語ってもらったとき、小田島さんから最初に飛び出したのは、この言葉でした。当日おじゃましたのは、ちょうど小田島さんの個展を行っていた展示会場。「たとえば、あの壁にかかっている作品は日用品を集めて撮ったものなんですけど、あれを観た人に『ありがとうございます!』って突然言われたんですね。あそこに写ってるのは全部、花王製品で、その人は花王の人だったんですよ(笑)。そう、この必然こそが、『セコハンポップ』の深度です」。

このように、身の回りにあるもの、匿名と見られているものに価値を見出す。みずからの活動に「アノニマス」という言葉を結びつけるのは、そうした姿勢から来ているのでしょうか。「それもあるんですけど、自嘲も入ってるんですよ。今までやってきたことは無個性としか言いようがない、という。僕、東京の子ですから。もし僕が売れてたら『フェイマスポップ』にしてましたよ(笑)」。

とはいうものの、小田島さんがその活動領域としているデザインやイラストレーションには、商品のよさを最大限に引き出す機能が求められます。小田島さんはアートディレクション的な視点から、あえて個性や作家性を消そうとしてきたように見えなくもありません。

「もちろん、それはありますよ。自分はクライアントさんに喜んでもらうことを第一に考えていて、今まで経験してきたこと、物づくりの中で培ってきたことを応用していかないと失礼だと思っています。でも、それを『エゴだ』と言われてしまうことがないこともないんですよ。僕はこういうのやったら面白いぞ、と出血大サービスのつもりでやっているんだけど、わりとスクエアに捉えちゃう人もいますからね」。

ある小説の装丁をしたときは、自信満々でデザインを送ったにもかかわらず、編集者に「小説に見えない」とダメ出しをされ、2時間で15種類ほど別案を作って送ったことも。「そうしたら、作家さんが『そんなの止めてよ、小田島さんが最初に作ったのがいいんだから!』と編集さんに言ってくれたんです。僕も『だろ?』と(笑)」。


取材中も、ひっきりないしにお客さんが訪れていました。

折り紙に「永遠」を見る

そんな小田島さんが初めて「アーティーなるもの」(編集部注:アート的なるもの、の意)を認識したのは、横山やすしと堀江しのぶが司会を務め、81年から91年にかけて放映されたテレビ朝日の番組『ザ・テレビ演芸』だったといいます。「小5くらいのとき観てました。イカ天みたいな番組で、漫才の人が多かったんだけど、デビュー当時のダウンタウンや竹中直人さんも出てた。審査員には糸井重里さんみたいなニューウェーヴ派の人と、昔気質の演芸評論家みたいな人が混ざってたんですよ。日曜昼3時からやってたけど、子どもが観る番組じゃないようなバグが発生してました。たとえば、白い板が置いてあって、竹中さんが顔を出したり引っ込めたりするネタ。『牛乳は好きですか~? …あ、足つった!』って言って板の裏に消える、というだけの。それをダサい日本のお茶の間でぼんやり観てた(笑)」。

東/西、前衛/保守がハイブリッドに混交している――『ザ・テレビ演芸』という番組の魅力は、小田島作品にも通じるところがあるようにも思えます。

小田島さんは東京都港区育ち。しかし、「東京に生まれたとかあんまり関係ないかも」というとおり、その暮らしは清貧的だったそうです。「僕は呑み屋の息子で母子家庭だったんです。だから、ほんっとマザコン。わりと清貧な家庭で。おもちゃだって友達はミクロマンを買ってもらって捨てたりしてるのに、うちはそんなの買ってもらえなくて、ずっと折り紙なんですよ。で、金と銀のは使わないでとっとく(笑)」。

おもちゃは買ってもらえない。だから、「折り紙に永遠を見るしかない(笑)」と言います。「そういうのが自分の表現にいまだに響いてますね。人にいうと、『何言ってんの?』って言われますけど」。

「アノニマスポップ」とは何か


まさに、これまでの集大成。必見のマスターピースの数々。ここでしか読めない、豪華著名人の解説も。

ただ、東京で育っただけあって、小田島さんの周囲には『ガロ』のバックナンバーが揃っているような書店がたくさんありました。そうした空間で、小田島さんは中学生のとき、その後の人生を変えることになる一冊の本に出会います。

後の師匠、イラストレーターのスージー甘金の『郵便ポスト・モダン』です。「親に釣竿を買う、と嘘ついてその本を買いました(笑)」。小田島さんはこの本を手引きに、アートや音楽などのカルチャーを学び、やがてその成果は作品に結実していきます。

1995年のデビューから数えて、今年で15周年。その集大成ともいえる作品集『ANONYMOUS POP』がこの5月22日に刊行されました。編纂にあたり、膨大な作品を見返す過程で感じたことを、小田島さんはこう語ります。「自分の作品には『抒情』と『笑い』があって、それがどこか通底してる。決してその二つは分けられないことに気がついた」。

「僕、大阪が大好きで、昨年3カ月間、大阪に住んでいる友人の家に安く住まわせてもらったんですね。大阪にはゆるキャラがいっぱいいるんですよ。大阪人はそういうキャラクターを看板で主張させたら日本一なんですよ。資本主義が野放図に氾濫してるんです、いい意味で。いつも行ってた弁当屋にも、よく分からない牛のキャラクターがいて(笑)。それは、世の中にあまたある牛キャラを総合してできあがっている、アノニマス、つまり匿名の牛なんですよ。見てるとある日は笑えるし、ある日は悲しくなる。ここには永遠と刹那が同居している、とさえ思いました。そしてこれが僕の求める『アノニマスポップ』なんだと。いわゆるおしゃれなモノも好きだけれど、もうええやん、ここに答えがあるんや。って思った」。

ポップでありながら抒情的、抒情的でありながらどこかおかしい。さまざまな感情を喚起してやまない豊かさこそが『アノニマスポップ』、小田島作品の魅力かもしれません。「自分の世界を混ぜたいんですよね。リミックスの世代ですから。僕は元々レコード好きで、マニアックな音楽を調べていくと、いろんなルーツとつながっていたりする。デザインでもある意味同じで、隔たった時代、たとえば20年前のデザインとコミットできたりする。僕もそういった『強度』を感じるデザインをつくりたいと思いますね」。

小田島式・どこでも仕事術


展示、書店、喫茶、演奏、上映、朗読、集会、講座など、さまざまなことが行われる「路地と人」。ギャラリーではなく、「人の行き来する部屋」だそう。

さてそれでは、いよいよ小田島さんの仕事場のヒミツに迫っていきます。とはいえ、小田島さんは現在、決まった仕事場を持たない、というスタイルを実行しています。いわば「どこでもオフィス」です。最低限必要な道具だけを持ち歩き、佐藤直樹さんのASYL DESIGN、映像と音楽のクリエイティブ・グループThor Production、曽我部恵一さんのROSE RECORDSなど、さまざまな場所に移動して仕事をされています。

今日の仕事場は、ちょうど小田島さんの展覧会を開催中(2010年5月24日現在)の「路地と人」という神保町の多目的スペース。「神保町はハタチくらいから好きなんです。古本屋好きだし。住もうと物件探したりもしました」。

ところで、なぜオフィスをかまえないのでしょう?「去年までは下北沢に仕事場があったんですけど、一人で仕事をしていると、鬱々とするじゃないですか。パソコンだし。だから、人のところに行ってやるといいんですよ。ちゃっかりしているけど(笑)」。

かつては自分の机に好きなおもちゃやレコードを置いて、カーテンはこれで…と俺の城的にオフィスをかまえて環境を整えていたことがあるけれど、「でも全然ダメなんですよね、落ち着かない。僕、本当につげ義春タイプなんですよ。彼のマンガを読んでると、近所にまた違うアパートを借りた……みたいな、母体回帰への拒絶ともとれる描写が出てくるでしょ? あれ、120%意味がわかります(笑)。そろそろフラフラしているのもダメだから、自分の家で仕事したほうがいいと思うんですけど、なんかイヤなんですよね。仕事しないで『ミヤネ屋』とか観ちゃいそうで(笑)」。

そんな小田島さんがいつも持ち歩いているデイパックの中には、どんな仕事道具が入っているのでしょうか?

ヒミツ道具1 ノートパソコン

「ハイテクには疎いです」と言う小田島さん。移動式の仕事スタイルには必須のノートパソコンは、「めっちゃ久々に買い換えた」というMac Book。パソコンを買い換えるタイミングは「規格が変わるとか、必要に迫られたら。いつもそんな感じですね」。

このパソコンには、制作でもっともよく使うというIllustratorのほか、Photoshopなどのグラフィックソフトももちろん搭載しています。

小田島さんのパソコンとの付き合いは十数年前、PowerMac7200にまでさかのぼります。「まだ完全データ入稿じゃない頃だったから、プリンタで200倍で出力してから紙焼き機で50%に縮小してエッジを消し、版下に貼って入稿する…みんなそうやってましたよね。

完全データ入稿になってきたのは、97、8年くらいかな。マガジンハウスとか、大きな出版社から出ている雑誌が先んじてそうしだして、驚いたのよくおぼえてる」。

ところで、今のパソコンは何代目?「2、3年に一度買い換えてるとしたら…6代目? 7代目? 分からないなあ、執着ないので」。

ヒミツ道具2 ペンタブレット

使い始めたきっかけは「みんな使っていて薦められたから。触ってみたら、5、6分くらいですぐに違和感なく使えました。けっこう直感的なツールだと思った。マウスより描くスピードが圧倒的に速いんです。使っていて気づいたのは、これは手描きの素養が試されるな、ということですね。Life is coming back! じゃないけど、絵筆が帰ってきた! と思った」。

「今までマンガをつくるときは、ペンで紙に描いて、スキャナで取り込んで色をつけてた。でも最初からペンタブで描いちゃえば、全部デジタルでできるよね。当たり前だけど」。こう語る小田島さんの絵の魅力とは、「荒れ」を取り込んだ表現にあります。「僕ね、機械の使い方のバグ的というか、隙間的なものを楽しんでるんです。たとえば絵でも、コピー機にかけて、少し荒らしたものを取り込むっていうのを繰り返すのね。だからロゴなんかでもポテッとしてたり、ちょっと傷が入ってたりする。最近はコンビニにあるコピー機も性能よくなっちゃって、それができないんですけど、ペンタブならさらに細かいことができるから、何か面白い手法を開発してみたいですね。僕の中にある直感力というか、『幼稚力』を用いて(笑)」。

ヒミツ道具3 コピー損紙

小田島さんは、主にラフを描くときのために、いつもコピー損紙を持ち歩いています。「その理由は前に言った『自分の机じゃ仕事できない』っていうのと同じですよ、つげ義春的な(笑)。ノートを持っていても、途中で使うのやめちゃうんです。今日持ってきたコピー損紙は、この前出た作品集(『ANONYMOUS POP』)のですね」。

こうして描いたラフの中で「いいな」と思う部分があれば、周りを修正液で消し、作品として利用しているとか。

「あれ? 考えてみれば、コピー損紙じゃなくて、最初からデジタルで気ままにラフを描いちゃえば、後が楽なんだね(笑)」。

ヒミツ道具4 充電器

「どこでもオフィス」の小田島さんにとって、充電器はライフラインともいえます。

移動して仕事をしていると、必然的に携帯で連絡を取り合うことになります。しかも、毎日かかってくる件数がけっこう多い。それが電池切れを招く一つの要因です。

「充電器はいつも持ち歩いてますね。マクドナルドや出先で充電する」。

もう一つ、電池切れの大きな要因はTwitterなのだとか。「携帯でTwitterやってるとすぐなくなっちゃう。もうめっちゃ見てます、Twitter。1時間に1回は見ますね」。

一度、登録してみたものの、最初は難しくてすぐやめてしまったといいます。再びやろうと思ったのは、今年の1月、タナカカツキさんに手ほどきを受けたから。

「たとえばmixiだと、コミュニティで『北欧家具デザイン』に『タナカカツキ』を追加して『おれ、分かってる』とこを見せなきゃいけないじゃないですか(カツキさんごめんなさい)。それが面倒くさい。でもTwitterを始めてめっちゃ楽になりました。Twitterって冗談とか情報取り入れた俳句みたいなもんなんですかね? こう、携帯でTwitterを見る姿勢も、短冊を見る姿と似ているしね」。

さて、小田島式・どこでも仕事術、いかがでしたでしょうか?『アノニマスポップ』の感覚を大事にしている小田島さんならではの、漂うように自由な創作姿勢を知ることができました。たまには職場以外の場所に移動して仕事をしてみるのも、気分転換になっていいのかもしれません(上司の許可さえ下りれば)。登場したヒミツ道具の使い方も、ぜひ参考にしてみてください。

そんな小田島等さんの作品やイベント情報が見られるのはコチラ!

講師を務める美学校の講座「絵と美と画と術」の生徒を募集中!

初作品集『ANONYMOUS POP』も好評発売中!

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