- 宗像
- 松江さんの写真は、単純に、いったいどうやって撮られているんでしょうか? 特殊な技術を使われているように見えるのですが……。
- 松江
- 実はなにも特殊なことはやっていないんです。大型カメラで撮って、そのフィルムをスキャンし、Intuos Proを使って補正し、データを作ってプリントする。特殊なことはなにもやっていない。
- 宗像
- となると、どうしてこういう不思議な写真が生まれるんでしょうか? 写真全面にピントが合っているように見えるし、普通はこうは写らないのでは?
- 松江
- カメラという機械の特性に忠実に、まっすぐに撮れば、写ります。ピントを合わせて、ブレずに、対象に対してまっすぐに。
- 宗像
- うーん、それは写真の基本中の基本ですよね。
- 松江
- そうです。僕の写真は、基本にものすごく忠実。
- 宗像
- でも、それなのに、なぜか不思議な写真です。
- 松江
- 基本とか原理への忠実さを誰よりも突き抜けて追求すると、普通ではないものが写ってくる。ただそれだけのことで、秘密はなにもないんです。誰にだって真似ができる写真だと思いますよ。
- 宗像
- 方法は誰にでも再現可能である、と。それは言葉にすれば簡単ですけれども……。
- 松江
- しっかり見て、しっかり計算して、しっかり、きちんとやるだけですよ。宗像さんもそうだけど、僕はもともと理系なので、つまり、科学ですよ。計算は裏切らないじゃない? 機械も裏切らないよね。
- 宗像
- 言われてみると私も、機械というか、科学が産み出す面白さへの興味でここまでやってきたようなものですね。
- 松江
- じゃ、話が早い(笑)。ペンタブレットを開発する面白さも同じだと思いますよ。写真も、カメラという機械と技術によって生み出されるものなので、きちんとその性能を最大限に引き出すようにすれば、結果がきちんと返ってくる。それこそが理系の持っている醍醐味なんじゃないかな?
- 宗像
- 先ほどの感性の話と違って、機械の性能を引き出すという部分に関してはとても明確なんです。
- 松江
- そう。それはフィーリングじゃない。努力というか、技術、技巧だよね。そこは限界まで頑張るしかない。
- 宗像
- 私たちのやっている製品開発も、データを採ったり、実験を繰り返したり、実は、地道な試行錯誤の連続なんです。
- 松江
- 写真だって同じですよ。撮影自体には危ないことがあったりして、冒険の要素があるんだけどさ(笑)。
- 宗像
- でも、絶えずそうしないと前には進めないし、本当に新しくて意義のある製品の開発もできないんです。
- 松江
- そう、写真を撮り続けていくことにも似たところがあるかもしれない。表面だけが目新しくて変なことをやってもなんの意味もないんです。消費されちゃうだけなんだな。そういう作品は、すぐに消えちゃう。僕の場合は20年以上、同じ正攻法で写真を撮り続けています。撮り方は変わらず、被写体の側が変わっていくだけなんです。
- 宗像
- 一度独自に作り上げた方法論が強い、ということですね。ブレずに、しかし新しいものを作らなくてはいけない。でも新しい方法や新しいなにかを産み出すのは、本当に大変なことですよね。
- 松江
- ワコムのペンタブレットであっても、やはり独自な部分こそが持ち味になっているはずだと思うんですよ。
- 宗像
- そうですね。オリジナリティと、筆圧や描き味をはじめとする使い手の感覚の部分。会社というか、開発者として一番こだわっているのはその部分ですね。
- 松江
- その開発に於いて、一番難しいのはどういう部分ですか?
- 宗像
- やっぱり、今までに世の中になかったものを産み出すことが一番難しいですね。1から始めて10に辿り着くのは、努力とブラッシュアップでなんとかなります。でも、0から1にジャンプするのが本当に難しい。
- 松江
- それは写真家も同じですね。努力とひらめきだよね。
- 宗像
- そうですね。そしてそこで産み出されたものを、デザイン、コスト、いろいろな要素を含めて磨いて、どれだけいいものにしていくか、と。本当に、ある意味、気合いと根性の世界です(笑)。
- 松江
- そう、理系といっても、やっぱり気合いと根性なんだよね(笑)。写真だって、すごくマッチョな仕事ですよ。一枚の写真のために、命を賭けて世界のどこにでも行くしさ。でも、やっぱりいい写真が撮れると、神経がピリピリ来るわけですよ。この快感には、何物にも代えがたいものがある。
- 宗像
- 望み通りのものができると本当に気持ちがいいんですよね。
- 松江
- そう。その気持ちよさのためだけにやっているんだよね。その快感のためにこそ、ものすごい枚数を撮って、ものすごく失敗するわけでね。
- 宗像
- どれくらい撮られるんですか?
- 松江
- 最近の空撮シリーズならば1時間で800枚は撮るね。ただ、やっぱり空撮は難しい。高さ、角度、光線の向き……。撮る時刻、場所、撮る対象を分刻みで決めて地図を描いて一発勝負で撮るんだけど、それでもやっぱり大変。一回のセッションで2000枚を撮っても、成功するのは数十枚くらいかな。
- 宗像
- そんなに……。
- 松江
- 大変だよね、本当に頑張ってるんだ、あんまり言いたくないけどさ(笑)。でも、写真が好きだからね。
- 宗像
- (笑)それは私の新製品開発の仕事でも同じかもしれません。やっぱり好きじゃないと続きませんよね。
- 松江
- うん、いつもなんでこんなに辛いのかな、とは思っているんだけどね。
- 宗像
- (笑)私はいつもポジティブ思考です。
- 松江
- いいなあ。僕はいつも気合と根性で乗り切ってるよ。
- 宗像
- いやいや、僕もそれは同じです。これからも気合と根性で新しい製品開発していきたいですね。今後ともワコム製品をどうぞ宜しくお願いします。
- 松江
- こちらこそ。あのさ、今度このビルに撮影に来ていいかな? 受付フロアからの景色が綺麗なんだよね。
- 宗像
- もちろんです!
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