時代を牽引するトップクリエイターと、ペンタブレット開発者による
連載対談Core Meeting(コアミーティング)
初回となる第一回、ワコム製品開発部・田村季大が、
イラストやマンガはもちろん、挿絵、ゲームのキャラクター・デザインなど、
幅広い分野で活躍する寺田克也さんに話を伺った。
1963年生まれ。イラストレーター・マンガ家。イラストやマンガをはじめ、ゲーム、キャラクターデザイン、小説挿絵など幅広い分野で活躍。早くからペンタブレットを使ったデジタル作画を手がけ、今なお業界を牽引する存在。
- 田村
- ワコムで1994年からペンタブレットの開発に携わっております、田村と申します。寺田さんにはずっと弊社製品をお使いいただいて嬉しく思います。
- 寺田
- 固いですね(笑)。リラックスしてください。
- 田村
- (笑)ありがとうございます。少し緊張致しますね。
- 寺田
- 今、こうして「Intuos」の進化を振り返るといかがですか?
- 田村
- そうですね、とにかくユーザの方々に喜んでいただくことだけを心がけてきまして、ハイ。
- 寺田
- ワコムさんとその製品は、われわれ絵を描く人間には絶大な信頼を勝ち得ている。僕自身、もう20年近くペンタブレットを使い続けていますし、周囲にもどんどん勧めてきましたよ。
- 田村
- ありがとうございます。
- 寺田
- この信頼の理由はどのようなことによると思われますか?
- 田村
- やっぱりユーザの目線で開発を続けてきたのが一番大きかったのではないかと思います。たとえば単にカタログスペックの数値を上げるだけであればそう難しくはないんです。
- 寺田
- いわゆる数字で表される性能ですね。
- 田村
- はい。でも、その数値とユーザさんの使い心地は別物なんです。本当に高い数値だけが描き手にとって便利なのかというと、それはちょっと違う。どのような部分の開発であっても、あくまでユーザさんの立場に立って、徹底して考えるようにしています。
- 寺田
- それはわかる気がします。初期の頃から不満はありませんでしたが、Intuosシリーズのバージョンが新しくなるたびに、あ、ここまで変わるのかという驚きがありましたから。そしてそれが描き手にとっても、とてもよく練られたものになっていると思います。
- 寺田
- これまでの「Intuos」の開発/進化のポイントはどのようなものだったのでしょうか?
- 田村
- やはりペン性能が一番の焦点になっていたと思います。描き手の身体の動きをいかにデジタルに変換するか、そのノウハウがそこに集中されるので。
- 寺田
- 確かにIntuos4になったときには、想像を超える大きな変化でした。あそこで初めて鉛筆と同じように描くことができるようになった。かすれも出るし、ちょっと触れたような、鉛筆の炭素が紙に薄く付くような感じもデジタルで表現できた。ものすごい驚きでしたね。
- 田村
- そう仰っていただけると嬉しいです。確かにIntuos4はわれわれにとってもエポックメイキングなものでした。あのモデルから、筆圧感知がそれまでの1024段階から2048段階へと倍増し、最小ON荷重が1gになり、非常に繊細なペン性能を実現することができました。
- 寺田
- 僕自身は、それまでもIntuos3には不満はなかったんですよ。しかし、まだ「上」があったのか、ここまでワコムさんはやってくれるんだな、という驚きがありました。
- 田村
- もともと、ワコムのユーザさんにはプロフェッショナルの方々が多かったので、そのような方々の信頼に応えたいという気持ちがあります。ですので、最初から高い目標値を設定する必要がありました。
- 寺田
- そのような、さらなる「上」を目指すという精神に触れると感動させられますよね。絵を描くのはニュアンスを伝える作業、線と線の微妙なつながり、目に見えているかいないかくらいの部分がものすごく大切なんです。
- 田村
- ありがとうございます。ただ、しつこいようですが、本当にわれわれはユーザの方々の目線で求められるものを開発していこうと思っているだけでして……。
- 寺田
- それは疑っていません(笑)。
- 田村
- 改めてお伺いしたいのですが、アナログでも絵を描かれる方が、ペンタブレットに求めているものとはいったいなんなのでしょうか?
- 寺田
- 僕自身は、ペンタブレットは画材のひとつ、なんです。紙、キャンバス、アクリル、鉛筆、筆……いろいろな画材があるように、ペンタブレットもそのなかのひとつ。そしてそれぞれの画材にはそれぞれの特性があるので、その特性を活かして自分の作りたいものを作っていくという感じですね。
- 田村
- ペンタブレットをお使いの時は、どのようなプロセスになるのでしょうか?
- 寺田
- 鉛筆で下絵を描いて、それをスキャンして取り込み、そこにペンタブレットで色を塗ったり仕上げをしていくことが多いですね。
- 田村
- 寺田さんが描く姿を拝見させていただいて驚いたのは、ほとんど「Undo」を使わないということなんです。デジタルの特性、利点として何度でもやり直しができるという部分が大きいかと思っていたのですが、そうではないんですね。
- 寺田
- いえ、もちろん「Undo」があったほうがいいです。というのは、いくらでもやりなおしが出来るが故に、気軽に描き始めることができるわけです。実際に白い紙に向かうと気後れするんですよ。失敗しないように、汚しちゃわないようにしなきゃな、とか。デジタルでそのプレッシャーがなくなったということは実はとても大きいことなんです。使う使わないの問題じゃなくて「Undo」の存在は大きいんです。
- 田村
- なるほど、それはやはり描く人ならではの視点ですね。
- 寺田
- ですからその意味では、僕もデジタルの恩恵をものすごく享受していると思います。
- 田村
- 開発者としては、実際の描き手がどのようにペンタブレットをお使いなのかがものすごく気になるんです。どの機能を、どのようにお使いなのかな、と。
- 寺田
- クリエイターひとりひとり、それぞれに違うでしょうね。
- 田村
- そうなんです。われわれ開発者の想いとユーザの方々の実情がどれくらいマッチしているのかな、と。
- 寺田
- 僕の場合は、普通に使っていて一見気づかないような部分の工夫が実はものすごいんだろうな、とは薄々感じていたんですけれども。
- 田村
- 寺田さんにそう仰っていただけると嬉しいですね。実は、われわれが最も力を入れ、最も技術を集中させ、ワコムのキーを握っているのはペン性能のほうかな、と思っています。ただ、開発者がものすごく力を入れた部分があまり気づかれないということは往々にしてありますから。
- 寺田
- (笑)どうしても普通はタブレット側に目が行っちゃいますもんね。
- 田村
- どうも、そういうことはあるようですね(笑)。
- 寺田
- でも、僕らは作品をつくりだしていく中で身体で知ることができていますよ。あ、なんとなく変わったな、とか、あれ、気づいたら、いつまでも描き続けられるようになってるな、とか。
- 田村
- 本当はそれでいいんだろうとも思っています。でもやっぱりユーザさんの直接のお声やご意見は、非常に貴重で興味深いものなんです。どんどんお寄せ頂ければと思いますね。
- 寺田
- クリエイターはそれぞれ自分ならではのメソッドを持っているでしょうし、われわれの側もあまり開発者さんとお話しする機会もありませんものね。
- 田村
- そうなんです。われわれ開発陣にとっても、今回のような機会はとても貴重なものなんです。現場の意見をより取り入れて、ユーザのニーズにより応えた製品を開発していくことができればと思います。
- 寺田
- 開発者の方がそう仰ってくださると嬉しいですよね。これからもクリエイターの側のメーカーであってほしいと思います。
- 田村
- 私たち自身もそう思っています!
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