イラストレーター上田バロンFR/LAMEMONGER?
目が特徴的で個性的なキャラクターイラストレーションを持ち味に、カラーや空間を活かしたイン パクトのあるビジュアル制作を得意とし、広告・出版・ウェブ・TV・ファッション・ゲームなどに展開している。 過去にWWD60’s MANIAにてNIKE広告、マクドナルドとのコラボ展、google chromeアーティストテーマな どのビジュアルワーク、NHK人形劇やPerfume、R.F.S高校ラグビーなどのキャラクターデザインなど。
- 使用タブレット
- Intuos4
- 使用歴
- 2007年ごろ
- きっかけ
- 作業効率を上げるために導入
イラストレーター 上田バロン氏
上田バロン氏の描くイラストレーションは、時にクールで時にキュートだ。アメリカンコミックのテイストを融合させた独特のイラストレーションからは他の追随を許さない確固たる世界観を感じることができる。イラスト界の第一線で活躍する上田バロン氏に、新しいIllustratorの可能性とイラストへの取り組みを伺った。
Illustratorとの出会い
全国高等学校体育連盟ラグビー専門部の公式キャラクターデザインを担当している
今ではAdobe Illustraotor を自在に使いこなし、緻密なイラストレーションを描くバロン氏だが、氏とIllustrator の付き合いは長い。
「初めてIllustrator に出会ったのは専門学校の頃でした。学校には音楽科やゲームデザインなど、いくつかのコースがあったのですが、当時はIllustrator を使ってイラストを描くことをまったく考えていなかったのでグラフィックデザインのコースを選び、そこでデザインの基礎を学び、ビジュアル制作や3D ソフトを使い様々な表現を試していました。そこではとくにIllustrator を使い込んでいたわけでなく、3D で使うテクスチャを描くときなどに使う程度でしたね。」
専門学校を卒業したのち、ディスプレイデザインの会社に就職することになったバロン氏は、パッケージの展開図など、主にデザイン業務としてIllustrator を使うことになる。
「当時はまだマッキントッシュを使って製図を描ける人間が少なかったので、会社の中でも重宝がられました。ミリ単位での精密な図も描ければ、綺麗なフォントも自由に出力できるIllustrator って、奥の深いソフトなんだなぁって実感しました。」
入社当時、まだ社内に2台しかないマッキントッシュはいつも奪い合いだったそうだが、仕事をしながらIllustrator の基礎をみっちりと学んだそうだ。そして、順調に仕事をこなすうちに三年が経過し、次のステップを意識するようになったバロン氏は、デザイン会社の退職を決意する。
「音楽が好きなので、以前から音楽に近い部分で仕事がしたいと思っていました。しかし、会社からは慰留を求められ、退社するギリギリまで会社の仕事をしていたので、次の就職先を見つけることができなかったんです。」
バロン氏の自宅兼作業場。これまでに描いたイラストや制作中のラフ画などがところせましと飾られている
そんなバロン氏が世に出るきっかけとなったのが、ラジオ放送局FM802 が主催する「digmeout」プロジェクトだ。関西エリアでは絶大な人気を誇るラジオ放送局であるFM802では、新人アーティスト発掘のためのオーディションを開催している。
ここで入選し、アーティストとしてのデビューを飾る人も多い。残念ながら、バロン氏はオーディションには落選したものの、これまでの活動を認められ、同局の番組におけるイメージキャラクターの制作やアートディレクションの仕事を請けるようになった。
イラストレーター“上田バロン” はこうして誕生した。
作品性を維持しながら新しい機能を取り入れる
書籍の装丁からキャラクターデザインまで、バロン氏が活動するフィールドは広い
バロン氏の作品は背景や服装のデザインなど、緻密な部分も含めて、すべてIllustrator を利用して描かれている。そこには線に対するバロン氏のこだわりがある。
「パスで線を描くって、他のソフトにはないIllustrator だけの良さですよね。ベジェを使えばあらゆる線が描ける。少ないポイントで如何に美しいラインを引くかということを常に心がけて描いています。」
ベジェの使い方で自分らしさを表現したいとバロン氏は語る。実際にバロン氏の作品を見ると、綿密なイラストレーションであってもポイントの数が少なく、シンプルなオブジェクト構成になっていることがわかる。
そんなバロン氏に最新版であるIllustrator CS5 について感想を聞いてみたところ、新機能の中でもとくに線幅ツールが気に入っているという。
「これまでペンツールでは、単一の太さでしか線を描くことができなかった。筆のタッチを再現するには大変な労力が必要だったわけですが、簡単にできるようになったことで、イラストの中でも使ってみたいと思いましたね。」
これまでにも、いくつかのバージョンアップを経験してきたバロン氏だが、新機能にはあまり興味が沸かなかったそうだ。しかし、今回のバージョンアップでは、点線の角を揃えやすくなったことなど、地味だが必要な部分での機能アップが計られたことで、より完成度が増したと感じたという。
「筆の角度をシミュレートできる絵筆ツールも面白そうですね。ペンタブレットを併用して作品の中にぼやけたソフトなタッチを加えると、これまでにないタッチができそうです。」
シンプルなラインで表現してきたこれまでのイラストと大きく変わってしまいそうだが、新機能とイラストレーションの作品性の関係についてバロン氏は次のように語る。
「新機能によってイラストが変わるのではなく、自分のやりたいことに対して新機能をうまく利用する。ソフトウェアに使われるのではなく、ソフトウェアを使いこなしてこそ、自分のオリジナリティが活きてくるのだと思います。」
今後、Illustrator がどのように進化していこうとも、自分の作品性を維持しつつIllustrator の新しい機能を使って、作品の幅を広げていければいいと語ってくれた。
8月9日から始まる企画展“ f eu” 用に書き起こしたオリジナルイラストレーション。
Illustrator CS5からサポートされた線幅ツールによって、これまで単一だったキャラクターのラインに強弱が含まれていることがわかる
ペンタブレットを利用して作業効率アップ
ワコムの最新ペンタブレットIntuos4を使って作業をするバロン氏。コードレスとなったことで、ますます作業がしやすくなったという
イラストの仕事が頻繁に入るようになると、やはり気がかりとなるのが作業時間だ。すべての仕事を自分一人でこなさなければならないイラストレーターならではの悩みでもある。現在、バロン氏はマウスとペンタブレットを併用して描画を行っているが、その背景には作業時間を短縮させる狙いがあった。
「プロになる以前にもペンタブレットを使ったことはあるものの、ペイントソフトで使うくらいで、仕事で使う機会ってあまりありませんでした。しかし、仕事が忙しくなってくると作業スピードを上げる必要が出てきて、ワコムのIntuos3 を購入してみたんです。」
実際に絵を描く作業はマウスを使わなければならないが、手のひらツールを使って描画エリアを移動させたり、虫めがねツールでの部分拡大など、これまでキーボードとマウスで行っていた動作をペンタブレットならすべて集約できることがわかった。
ペンタブレットを使うことで、見えない部分での作業効率が向上したことが大きかったそうだ。現在ではBluetooth に対応したIntuos4 Wireless を使用し、絶妙なオペレーティングで作業を進めている。
バッグブランド“ARTPHERE” から発売されたバロン氏オリジナルデザインのBlack Lion
忍者からインスパイヤしたキャラクターを組み込んだクールなバッグ
海外進出の夢
バッグデザインをはじめプロモーションアニメや立体などに展開されたBlack Lionのイラスト
大阪に拠点を置きながら東京とのビジネスを継続して7年目というバロン氏は、NHK の人形劇でキャラクターデザインを担当するなど、メジャーの仲間入りを果たしたバロン氏だが、今後はどのようなビジョンを抱えているのだろうか。
「自分の中で昔から、ブラックミュージックに対するリスペクトといいますか、自分自身の活動と共感していて、絵を通じて海外へも進出したい夢があります。」
と語るバロン氏だが、すでに海外の仕事をいくつかこなしている。Google Chrome のアーティストテーマを描く仕事では、ブラジルからファンレターが届くなど、絵を通じてコミュニケーションが広がり、自分の作品のファンがこんな遠い国でも楽しんでもらえることが励みになったそうだ。
「アクの強いイラストなので、仕事に結びつくまでが難しかったこともありましたが、自分で自分の絵を使いこなしてやろうという気持ちの方が強かった。自分の作品性を維持しつつもクライアントの人達とコミュニケーションを楽しみながら作品を仕上げていければと思っています。」
海外のメディアで上田バロンのイラストレーションが見られる日もそう遠くないだろう。今後のバロン氏の活躍に期待だ。