『Cintiq Creators Mash-Up』で、それぞれのクリエイターの映像とコラボレーションする楽曲を提供してくれたのが、初音ミク出演のGoogle ChromeのCM挿入曲“Tell Your World”で世界的にも注目を集め、主宰する音楽ユニット「livetune」の活動も積極的に展開するkzさん。クリエイターの個性に合わせて、次々と表情を変えていく今回の楽曲は、クールでありながらも透明感と温かみにあふれ、kzさんの新たな一面を感じさせてくれました。しかし、『Cintiq Creators Mash-Up』は、6人のクリエイターの制作が、ほぼ同時に進められたコラボレーションでもありました。そんな中で、完成作品では「これしかない!」というくらい、各パートの動画と音楽がピッタリ合った展開を見せてくれたkzさん。どうしてこんな見事なコラボレーションが可能だったのでしょう?
「関さんと最初の打ち合わせで、全体の尺が約90秒、1人約20秒の作品をつないで1本の動画にすると聞いて、まずイントロが2小節、各クリエイターのパートが8小節×4人、アウトロが2小節という構成を考えました。その構成からちょうどいいテンポを探っていくと、『BPM=96』がベストという結論に至ったんです。特に今回は、作風の異なるクリエイターの方々とのコラボレーションということで、各パートごとに曲調の変化が必要でした。さらに各パートの切り替わりシーンも意識した曲作りだったので、キメのカットや映像の展開に合わせて曲の構成を考えていく、アニメーションの主題歌やサウンドトラック制作に近い感覚がありました」
夜が更けて、日が昇って昼に向かうイメージと
それぞれのクリエイターの作品が絶妙にマッチング
曲の構成やテンポという大枠が決まると、次にkzさんが取り組んだのは、それぞれのクリエイターのパートの曲調をどうするのか? という問題でした。なにせ、まったく作品を見ていないどころか、まだ会ったことがないクリエイターも何人かいるというコラボレーションでもありました。
「関さんとは、プライベートで何度か会う機会がありましたし、三輪さんの作品は以前から知っていましたが、他の方々とは完全に初顔合わせでした。みなさんの作風に合った楽曲を作るため、今までに制作された作品を見ながらイメージを膨らませていきました。関さんからは『女の子』がテーマであることと、全体を通して夜から昼に向かう時間経過を意識して欲しいというオーダーがあり、前半の三輪さん、YKBXさんとも作風がソリッドな印象だったので、曲もソリッドなテクノ系であれば夜のイメージと重なるのではと考えました。YKBXさんの作品は、他のクリエイターの方に比べてもアグレッシブで情報量も多い印象だったので、テンポも他のパートの倍速『BPM=192』にして『暴れる』感じを出してみたいと関さんに提案したところ、「それ面白いね!」と(笑)。
そして後半部分は、夜明け~昼までの時間経過をイメージ。水尻さん、青山さんのパートはお二人の作風に合わせて、前半の二人とは楽曲の印象もグッと趣が変わっていきます。
「水尻さんの世界観は、僕が今まで出会ったことのないものだったので……正直、悩みました(笑)。一番似合うのはドローンミュージックのような実験的な音楽かな? と思い、まずビートを取り去ってベース音を効かせたスローな雰囲気を出しました。イメージも夜明け、陽がゆっくりと昇っていく感じですね。青山さんの作品は以前から存じ上げていて、今作では実写の女子高生が登場すると聞いたので、まず楽器はピアノだなと。岩井俊二監督の映画『花とアリス』のイメージからか、僕の中では『女子高生=ピアノ』なんですよ(笑)。青山さんの作品には、以前から透明感と青い色調のイメージがあるように感じていて、絵画でいえば『印象派』的。それを楽曲に落とし込みました」
映像をより活かすための
音楽に隠された見えない工夫
「Cintiq 13HD」と、kzさんが使い慣れたDAWソフトウェアAbleton Liveを使用して制作されたという今回の楽曲は、リズムやシンセ音など全部で36トラックを使用。最もトラック数が多かったのは三輪さんパートで、リズムが3トラック、シンセが7トラックの合計10トラック程度。青山さんパートはリズムとピアノのわずか2トラックのみと、非常にシンプルな構成です。音色には最近使い始めたというソフトシンセReveal Sound Spireも導入されています。
「音楽の力って強いので、あまり音数を詰め込んだ曲だと、逆に映像の良さを打ち消してしまったりするんです。だから、今回の楽曲はなるべくシンプルな構成にしました。一番苦労したのはYKBXさんのパートですね。倍速のドラムベース風リズムトラックは、ドラムループのサンプルを細かく分割して、気持ちの良いノリをチマチマと手作業で切り貼りしながら探っていったので、けっこう根をつめました(笑)。今回はみなさんの動画パートが主役で、私が担当するのはそのメロディーですから、僕自身は作曲というよりも全編、伴奏を編曲していった感覚なんです。僕の音楽とみなさんの作家性が、上手くコラボレーションできていれば何よりですね」
ついに完成した
「Cintiq Creators Mash-Up」
コラボレーション動画について
「完成したコラボレーション動画は、それぞれのクリエイターの個性が発揮されているだけでなく、パートごとの展開が素晴らしく見応えがあり、さすが関さんのディレクションだと感心しました。なかでも水尻さんのラストの部分、ソックスから指が出て青山さんのパートにスライドしていくシーンは、僕の曲がそもそもベースをスライドさせた音を入れていたので、関さんが編集で映像をマッチさせてくれたのでしょう。とても気持ちのいい映像になっていて嬉しかったです。水尻さんの作品は想像以上のインパクトで、ジム・オルークの名盤『ユリイカ』のジャケットを彷彿とさせるシュールな世界。先に作品を見ていたら、どんな音楽にしようか、もっと悩んでいたでしょうね(笑)。三輪さんのパートは、白い制服の女の子のキャラクターが、これまでの三輪さんのイメージにはなかったので新鮮でした。YKBXさんのパートは、三輪さんと同じキャラクターを引き継いで描いているのが面白かったです。音楽も苦労したので、じっくり聴いていただけたらと。。。青山さんパートは、靴下や体をペンでタッチするという発想がすごい。将来の液晶ペンタブレットは、そういうインタラクティブなデバイスになるんじゃないかと想像してしまいますね」
「Cintiq 13HD」製品レビュー
ペンで直接「音」に触れるような操作が可能
ラジアルメニューでショートカットも効率的
「今回初めて、DAWソフトのオペレーションにCintiq 13HDを使ってみたのですが、ペンで画面上のDAWソフトのメニューを直感的に操作できるのは非常にラクでした。僕の場合、MIDIキーボードで手弾きして音を入力し、そのあとピアノロール画面で音を細かく修正、編集していくことが多いのですが、音程や音符の長さを変えるのも、画面に直接ペンで操作でき、とても効率的でした。五線譜に音符を書くのと同じようなダイレクト感があって、とても使いやすいです。また、とても重宝したのがラジアルメニューです。僕ら打ち込み系のミュージシャンがよく使うショートカットは、フレーズやトラックのコピー&ペーストなんですが、そのショートカットをラジアルメニューに登録すれば、液晶ペンタブレット上で操作が完結するので、すごく便利です。ペンのサイドスイッチに右クリック機能が割り当てられているのもいいですね」
液晶ペンタブレットが切り開く新しい音楽制作のスタイルは?
「そしてもう1つ、かなり気に入ったポイントが、Cintiq 13HDのサイズ感と専用スタンドの使い良さです。本体が軽く、スタンドが3段階に角度を切り替えられるので、膝に乗せても作業ができる。PCの前に座り込んで、打ち込み作業に没頭していると、身体に負担がかかります。どんな場所でも膝に乗せてゆったりと作業に没頭できるのは、とても気分がいいです。画面上の作業スペースも、タイムラインを表示したり、エフェクターのパラメータを操作したり、DAWソフトとして作業するには十分な広さだと思います」
「あとCintiq 13HDで実現したいのは、大学時代にペンタブレットで実験して挫折した、エフェクター的な使い方です。ビジュアルプログラミングソフトウェアのMaxを使って、ペンの動きや傾きから、エフェクターのパラメーターを自在に操作できたら絶対面白いと思うんです(笑)。大学時代に一度完成させたものの、操作が非常に難しくて実用化は諦めたのですが、ぜひまた挑戦したいですね。Maxは、いろんなミュージシャンがライブで使用していますが、こういったグラフィカルなインターフェースのソフトを使う際にも液晶ペンタブレットはとても便利だと思います。ライブは瞬時の操作が最も大事ですから、液晶画面の上でペンを使ってダイレクトに音を操作できるとレスポンスも良くて安心ですよね」
Profile kz(livetune) / 今プロジェクトの役割:Music
音楽プロデューサー / DJとして活動。またソロプロジェクトlivetuneとしても活動しており、初音ミク楽曲の制作や、SEKAI NO OWARIのFukase、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔などリアルボーカリストを起用した楽曲も制作している。
http://livetune.jp/