初音ミク・ボーカロイドオペラ『THE END』、『ソチオリンピック』NHK公式放送のオープニング演出など、映像作品のディレクションを始めとして、アートディレクター、アーティストとしても活躍するYKBXさん。『Cintiq Creators Mash-Up』には、数年前に『文化庁メディア芸術祭』の受賞式を通じて知り合った映像ディレクター関和亮さんからのラブコールを受けての参加となりました。マルチな創作活動で知られるYKBXさんは今回、イラストを使ったCGアニメーションを担当。じつは『Cintiq Creators Mash-Up』プロジェクト発足当時、YKBXさんは全体の企画を考え始めていたディレクターの関さんから、真っ先にいくつかの相談を受けていました。個性的な参加クリエイターの作品をどう1つにまとめたらいいか? というブレーンストーミングがあり、その打ち合わせの中で、映像全体の方向性や、YKBXさんの担当パートのアイデアもまとめられていったそうです。ふだんは関さんと同じ映像ディレクターとしても活躍するYKBXさんだからこそ、求められた役割だったとも言えそうです。
「そして最終的に依頼されたのが、『女の子』がテーマであること、三輪さん、僕、水尻さん、青山さんの順に作品をつないでいくこと、僕のパートは2つの画面がある構成にして欲しいということ、そして『リンゴ』の画で始まって、『リンゴ』の画で終わってほしいということでした。それを聞いて、この映像における僕の役割は、1アーティストとして、雰囲気がまったく違う三輪さんと水尻さんのパートをスムーズに融合させる作品を作ることだなと思いました。さらに、kzさんによる音楽も僕のパートではBPMが倍速になると聞いたので、必要なのはまずスピード感。短いスパンで映像が切り替わる構成にしようと、アイデアを固めました」
ディレクター視点から
「三輪士郎さんの描いた『女の子』を
演出・編集する感覚があって新鮮でした」
完成した作品を見ると、三輪さんが描いた2人の女の子とYKBXさんが描いた女の子は、作風は違えど特徴が似通ったキャラクターであることに気づきます。すでにイラストを描き始めていた三輪さんのキャラクターをYKBXさんが引き継ぎ、さらにCGモデリングで描かれたリンゴを介して水尻さんにつなげる「作品の橋渡し」を意識したものに仕上がりました。
「2画面の構成にしてほしいという関さんからのリクエストもありましたので、三輪さんが描いた2人の女の子がその画面で対話している感じにしようと、僕なりのタッチでそのキャラクターの横顔を描いていきました。配色も三輪さんの絵に合わせています。なので今回は、自分が一から作品を作り上げるというよりも、ディレクター的な視点で、三輪さんの作品を僕らしく演出・編集する感覚があって新鮮でした」
キャラクターに生命感を吹き込むために
わずかに動く呼吸の動作をパペットツールで演出
その中でも、YKBXさんらしいこだわりは随所に見られます。映像全体で意識したのは、三輪さんのパートともリンクする「何かが作られていく過程を見せる感じ」。様々な素材を用意し、高速でコラージュされつつ変化していく演出によってその様子を表現。3DCGソフトMayaを使ってモデリングされたリンゴも、色や数を変えて何度も登場します。「変化」といえば、2人の女の子もよくよく観察すると……。
「人物を描く際はいつも生身らしさを表現したいので、2人の女の子に命を吹き込むため『呼吸』する動きをつけています。Photoshopで描いたキャラクターの頭、胸、顔などを部位ごとに8枚にレイヤー化して、After Effectsのパペットツールを使って各レイヤーを細かくナチュラルに上下へ動かすことでそれを表現しています。リンゴにも生命のモチーフ的な意味合いがあるし、最後に赤くなることで、そこにも命が吹き込まれた感じを出せればと。ちなみに今回の作品では、背景合わせて全部で100枚近くのレイヤー素材を作りました」
高速で展開する中に、さまざまな要素やこだわりが散りばめられたYKBXさんの今回の作品は、細部に目を凝らしながら見ると、より楽しみが増える映像になっています。スローモーションやコマ送りでよく見てみると、いくつもの新しい発見ができることでしょう。
ついに完成した
「Cintiq Creators Mash-Up」
コラボレーション動画について
「完成した映像を見た第一印象は、『こうなったんだ!』という嬉しい驚きでした。ディレクターの関さんとは数年来の付き合いで、この作品にもじつに関さんらしい、アイデア満載のフレキシブルなディレクションの魅力が感じられます。三輪さんの作品はとても格好良く、関さんの背景演出も素敵です。水尻さんはとても不思議。水尻さんのパートは見ないまま制作を始めたのですが、普通じゃないものが仕上がってくるとは思ってはいたけど、はるかに予想を越えていました(笑)。青山さんの作品には、このまま長編作品として見たとしても飽きない吸引力を感じます。そしてkzさんの音楽がそれらを一体化し、一緒になるはずのないものが融合したような、とても面白いコラボレーションになったと思います」
「Cintiq Companion」製品レビュー
ツールはデジタルでもアナログ感にこだわりたい
まるで紙に描くように画面に直接描き込むことのメリット
「僕は1990年代から発売されていたArtPadに始まり、その後は歴代のIntuosシリーズ(現Intuos Pro)を使い込んできたワコムのペンタブレットのヘビーユーザー。僕のような仕事、とくにイラストやグラフィックデザインには手放せないツールですが、液晶ペンタブレットは、購入したものの使い込んでいなかったので、今回Cintiq Companionを使って制作できたのは、とてもいい経験になりました。今作もそうですが、僕のイラストは筆圧による線の強弱や細かい部分の描き込みにこだわっています。女の子なら顔のホクロやピアスホール、ほつれ毛まで細かく描いて、生っぽさを感じてもらいたい。そしてツールはデジタルでもアナログ感にこだわりたいんです。だから、まるで紙にペンで描くように、液晶画面上に直接細かく描き込んだり、ストロークも効かせて強い線も描けるCintiq Companionは、とても使いやすかったです」
画像・動画編集だけでなく、3DCGも作れる
タブレット端末として外出先の打ち合わせにも対応
「そして、Cintiq Companionで一番驚いたのは、Windowsマシンとしてのスペックの高さです。タブレット端末としても手軽に扱えるのに、PhotoshopとAfter EffectsとMayaを同時に使っても、デスクトップPCと同じくらいスムーズに動きました。Mayaのモデリング操作やAfter Effectsのタイムライン編集など、最近のソフトウェアはかなり直感的な操作ができるように改良されているので、液晶ペンタブレットとの相性はとてもいいと思います。また、僕は作品を持ち歩いて出先で打ち合わせすることも多くて、Cintiq Companionなら、実際にその場でラフを描いたり、映像を作りながらイメージを共有できるので、クライアントへのプレゼンテーションにも役立ちます。ぜひ活用していきたいですね」
Profile YKBX / 今プロジェクトの役割:Illustration & CG Animation
各種映像作品のディレクションや制作に加え、イラストレーションやグラフィックデザインなど多岐に渡る。トータルアートディレクションを目指した作品を数々制作し、国内外の映画祭やイベントで高く評価される。初音ミク・ボーカロイドオペラ『THE END』では、全てのビジュアルのディレクション・共同演出・映像ディレクターを務め、2013年11月にパリ・シャトレ座での海外公演を行い成功を収めた。また、2014年には『ソチオリンピック』NHK公式放送のオープニング演出や、安室奈美恵のミュージックビデオ、GUCCI/VOGUEとのコラボレーションホログラムイベント、クールジャパンファンド六本木ヒルズへの作品提供、現国立競技場のクローズイベントの映像演出、世界初OculusuLiftで体感できるVR_MusicVideoをTentLondon、『Tokyo Designers Week』で発表するなど活躍の幅を広げている。
http://yokoboxxx.com/