

Bambooはどなたにでも幅広く使っていただける製品シリーズです。スタイラスペンやタッチパッド、ソフトウェアも含めて、数多くのラインアップを揃えて、“紙に書く/描く”ことの色々なニーズに応えることを目標にしています。私はこちらの機構開発に関わっています。
このBambooはプロ向けではない製品なので、設計思想がプロ向けの商品とは少し異なっています。もちろん性能や機能は大切ですが、そのために大きくなってしまったり重くしたりするわけにはいきません。高機能を求めることは簡単ですが、そのために大きくなったり コストが高くなってしまったりするのは、Bamboo製品のユーザーが求めているものとは違っている気がします。そしてもちろん、多くの方々に親しんでお使いいただくためのデザインや使い勝手の部分もとても大切だと考えています。

Bamboo Padの開発にあたって一番気を遣ったのは、デザインと機構/機能とのバランス、そしてその上でどのように使い勝手の良さを実現するかという部分でした。私は製品の外側を担当する立場なのですが、そうですね、ひとことで言うと、なかなか大変でしたね(笑)。どんな基盤(ICチップなど)が中に入るかが決まらないとデザインは決まらないし、デザイナーの側からもいろいろな提案が出てきます。そのバランスがなかなかに難しい。

Bamboo Stylus feel製品のペンの開発にもかなりの手間が掛かりました。われわれはこれを「Wacom feel IT technologies」と呼んでいるのですが、“紙に書く”感覚を実現するためには、握ったときの持ち心地、書き味といった部分がとても大切なものになります。たとえば摩擦の量と描きやすさとの関係は、人によってかなり違います。ペンが滑りやすいほうがいいのか、ちょっと引っかかるくらいがいいのか。硬い感触と柔らかい感触のどちらがいいのか……。

ペン先がゴムのBamboo Stylusシリーズにおいても、それは同様に 感覚的なもので、データにすることがとても難しい部分があります。その微妙かつ適切なところをつかむために、試作品ができあがってくるたびに社内で試し、アンケートを採って研究をします。さらに外観や感触の部分はもちろん、構造や機能面についても考えないといけません。総合的な試行錯誤とテストを繰り返し、ようやくそのときの答えが出てくる。その研究結果から、6mm径のペン先ゴムについては柔らかいものと硬めのものの2種類を用意することにしました。また、さらに試行錯誤を重ね、最新のBamboo Stylus solo, Bamboo Stylus duoについてはペン先の径を1mm小さくしたものを採用できるようになりました。

また、Bambooシリーズは“書く/描く”ための道具なので、文具という側面もあります。文具としての完成度を高めるためには、文具を専門に製造されている工場のご協力も不可欠でした。“書く/描く”という行為は、一見非常に単純なものに思えるのですが、その感覚をきちんとデジタルで実現するためには、機構面やソフトウェアの面はもちろんのこと、アナログも含めた様々な面からのアプローチが必要になるわけですね。

様々な試行錯誤を経て、仕様や機構、デザインが定まってくると、それを生産するための準備に入ることになります。この段階になると、世界各地にある工場への出張が一気に増えます。現地で仕様の説明をし、サンプルを持ち帰ってチェックし、また工場に行き……と、なかなかハードな日々が続きます。いや、最初から結構ハードな作業が続くので、さらにハードになるというのが正直なところかもしれません(笑)。

ようやく製品が出来上がり、市場に自分たちが苦労して作り上げた製品が流通すると、さすがに嬉しいものがあります。自分たちが開発した製品が愛されて使われているのを見ることは、開発者冥利に尽きるというものです。このBambooも、もっと広く、より多くの人びとに使っていただきたいですし、開発者としてはその姿を見てみたい。特にBambooのような製品は、より広く受け入れられてこそ意味があると思っていますので。

われわれ開発者としては、いつもユーザーの皆さんの声を広く聞かせてほしいと思っています。実際、このBambooに関するアンケートを見たりすると、皆さんそれぞれで、いろいろな使い方をしてくださっているようですね。こちらが想像もしないようなものも多くあってとても面白く、大変に刺激になります。今後もユーザーの方々のニーズを反映させた、よりよい製品を作っていくつもりです。もちろん、Bambooの未来にも期待してほしいと思いますね。宜しくお願い致します。
