世の中にいろんなおしごとがあるなかで、具体的な職業はまだわからないけれど「とにかくクリエイティブなことがしたい!」「なにかデジタル制作に関わることをやってみたい!」と夢を抱いている方も多いはず。
この「デジタルペンのおしごと図鑑」では、ワコムのペンタブレットを使っておしごとをしている方にインタビュー!
第5回はアメリカのアニメーション映像業界で、ビジュアルデベロップメントなどで活躍されている伊藤より子さんにお話を伺います!
ビジュアルデベロップメント
伊藤より子さん
伊藤より子さんは、アメリカで、アニメーション制作のおしごとをしています。はじめは、ドリームワークスというアニメーションスタジオで、背景画家としてキャリアをスタートされました。その後、ビジュアルデベロップメントアーティストとして映画『マダガスカル』や『シュレック』シリーズを手がけ、日本人として初めてアニー賞(Annie Awards)のプロダクションデザイン個人部門にノミネート。最近の代表作には、アートディレクターを務めた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)、デザイナーとして関わったNetflix Animationの映画『Ultraman Rising』(2024)、カラーライティングスーパーバイザーとして参加した『Tokyo Over Ride』シリーズ(2024)などがあります。これまでにたくさんのアニメーション制作に携わり、アートディレクターやプロダクションデザイナーなど、映像の大事な分を作るおしごとをたくさんしてきています。では、ビジュアルデベロップメントとはどんなおしごとなのでしょうか?
おしごと内容を教えてください
主にアニメーション映画のおしごとなのですが、今やっているのはビジュアルデベロップメントといい、アニメーション制作に入る前の、キャラクター以外の世界を作り上げるおしごとをしています。
まず台本があり、こういうお話ですとなったときに、キャラクターデザイナーさんはキャラクターを作りますが、私は環境をデザインします。つまり、キャラクター以外の周りの世界を作っていきます。その世界を作るために、まずスケッチをして世界観を作ります。これは「コンセプトアート」という工程で、最終的に映画で見るきれいな絵を描きます。それが終わると、ロケーションデザインという工程に移り、細かな場面とその場所をデザインします。
映画はいろいろな場面が登場するのですが、その場面を一つずつ、置いてある小物や、部屋、風景の様子、そこにあるものはどんな形をしていて、どんな色をしているか、また、そこに光が当たるとどんな感じに見えるのかという細かな設定を作るおしごとになります。アメリカのアニメーション映画は見ているとどんどん色が変化していくと思うのですが、その1シークエンス(1つのまとまったエピソード)ごとに変わる色もすべて決めていく、この過程を「ライティングカラーデザイン」といいます。
デジタルペンを使うおしごとを教えてください
基本的にはチームで動くのですが、最初は映画の設定チームが背景などのアートを描いていきます。これはAdobe Photoshopというソフトウェアを利用して描いていくのですが、このPhotoshopの作業はデジタルなので、ペンタブレットを使います。仕事上の工
利用している機材を教えてください
Wacom Movink 13を使っています。私はノマドという、特定の場所ではなく、いろいろなところで仕事をするスタイルをとっています。今までは16インチのWacom Cintiq 16を持ち歩いていたのですが、Wacom Movink 13はかさばらないので本当にノマドには最適です。接続も簡単で、USB-Cケーブル1本で接続できるのがとても素晴らしいです。つないだ瞬間に起動しますし、左右どちらでも接続できるのも良いですね。
絵を描くときはペンでの細かい作業が多いので、精緻な線を引くときにも遅延が全然なく、本当に気持ちよく描けます。視差についても、もうわからないくらい、紙に描いているような描き心地なのでとても描きやすいです。また、今までマルチタッチ対応の液晶ペンタブレットを使っていなかったので、操作に不安があったのですが、全く違和感がなく使いやすいです。
これからクリエイターを目指す人たちへのメッセージ
私がこの業界に飛び込んだときは全くの手探りでした。1980年代は日本のイラストしか見る機会がなく、初めてアメリカのイラストレーターさんの展示会を見たときにすごくカルチャーショックを受けました。“洋画”、と聞くとものすごく重たい、美術館にあるような絵画になってしまうし、画家になろうというのはハードルが高かった。でも絵を描くのは好きなのであとで後悔するよりも、外に出て絵を習ってみたいという思いが強く、アルバイトをしてお金を貯めてアメリカへ行きました。
これが私の始まりですが、やっぱり自分が何が好きか、というのはわからない人も多いと思います。もし自分がすごく絵が好きでやりたいと思っても、誰かがこれがいい悪いって決められることもあります。そのためには感性を磨くのが一番大切ですし、プラス、経験も同じくらい大切だと思います。
自分が好きなのが「絵」だけじゃなく、何の「絵」が好きなのかだったり、好きなものがあれば、自分のデザインセンスをインプットすることができると思います。それは趣味からでも作れると思います。例えば釣りが好きだったら、釣りをするために船を観察する、その船が浮いている海を見る、海の下にある世界を見れば魚がいて…など、知識がどんどん入ってくるはずです。机に向かっているだけじゃなくて、目で見て触れて、経験していくことも自分の絵の強みになっていくと思います。
プロフィール
- 21歳で渡米し、Academy of Art Universityのイラストレーション学科を卒業。1997年にDreamWorks Animationに背景画家として参画。その後、ビジュアルデベロップメントアーティストとして映画『マダガスカル』や『シュレック』シリーズを手がけ、日本人として初めてアニー賞(Annie Awards)のプロダクションデザイン個人部門にノミネート。最近の代表作には、アートディレクターを務めた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)、デザイナーとして関わったNetflix Animationの映画『Ultraman Rising』(2024)、カラーライティングスーパーバイザーとして参加した『Tokyo Over Ride』シリーズ(2024)などがある。これまでにSony Animation、Illumination Entertainment、Netflix Animationなどの作品にも携わり、アートディレクターやプロダクションデザイナーを歴任。アメリカの映像制作現場で30年以上活動を続ける傍ら、映像のコンサルタントや企業でのアーティスト教育、ワークショップ開催などを通じて後進の育成にも尽力し、講師としても活動中。2024年、blue gradation, Inc. を設立し、代表取締役に就任。
- www.yorikoito.com
- https://www.blue-gradation.com
- インタビュー日:2024年12月10日
- ペンタブレット:Wacom Movink 13
- 使用ソフト:Adobe Photoshop
Wacom Movink 13
ワコム史上、最薄・最軽量のペンタブレット。イラストやスケッチ、アノテーションなどプロ向けの制作にも適した高性能な描画性能と、ディスプレイ性能を備えています。