イラストレーター
せんちゃ
Vtuber「蒼乃ゆうき」キャラクターデザイン、ラノベ『ぼくの妹は息をしている(仮)』(電撃文庫)など柔らかくて可愛い雰囲気のイラストで人気のイラストレーターせんちゃさんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2019年11月28日撮影)
Drawing with Wacom 102/ せんちゃ インタビュー
せんちゃさんのペンタブレット・ヒストリー

「見つめる」プライベートワーク(2019)
©せんちゃ
――せんちゃさんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
小学生の頃からネットの絵チャットやお絵描き掲示板を見ていて、パソコンでも絵を描けるんだと思いました。調べていくうちに、ペンタブレットの存在を知り、これを使えば絵が上手くなれるんじゃないかと、その頃は思っていましたね。中学2年生の頃、お手伝いを頑張ったご褒美としてもらえた1万円で、これで買うしかない!と思い、すぐにBAMBOO(第2世代)とSAIを購入しました。ですが、実際は描いてみてもすぐには上手くならないし、むしろツールを使いこなせないのが嫌になってしばらく放置していました(笑)。高校に入ってからも息抜きとしてイラストを描いていたのですが、ツイッターでフォローしている人達や友人が目に見えて上達していくのに刺激を受けて、私ももう少し頑張ろうとデジタルで描くのを再開し、Twitterやpixivに絵をアップするようになりました。
――現在の作画環境はどのようなものですか?
PCを買い替えたタイミングでペンタブレットもIntuos Pro(PTH-651/K0)のMサイズにして、現在も使っています。よくイラストレーターのメイキング本で、使っている機材のところにIntuos4や5が書いてあるのを見ていたので、Intuos Proを手にした時はプロと同じものを使っているんだ! と気持ちがアガりました(笑)。ペンはフェルト芯が好きで使っています。作画に使うツールはマーカーの塗り具合が好きなのでPaint tool SAIをメインにしていますが、図形やフィルタの機能を使いたいときにはSAI ver.2やAdobe Photoshopも使っています。
――液晶ペンタブレットのWacom Cintiq Pro 24でイラストを描いてみた感想はいかがですか。
液晶ペンタブレットでちゃんと描くのは初めてで不安でしたが、使ってみたら描きやすくて驚きました! もっとラグがあるものだと思っていたのですが、反応がよくアナログで紙に描いている感覚に近かったので、普段アナログで描いている人にはいいだろうなって。画面も大きく、色も綺麗で見やすかったです。いつも細かい部分が見づらくて拡大縮小を多様してしまうのですが自分がいま何を描いているか全体の画面を見ながら直接描き込んでいる感覚がよかったです。

Waindows環境のデスクトップPC(CPU:Core i5-6500/RAM:8GB)に、24インチディスプレイ(左:BENQ GL2450b、右:DELL U2415)を接続してデュアルディスプレイにしている。
ペンタブレットはIntuos Pro(PTH-651/K0)Mサイズを左利きポジションで設置。
ペンは摩擦力のあるフェルト芯を愛用、作画ツールはマーカーの塗りが気に入っているPaint Tool SAIを主に使っている。
普段の作業ではペンタブレットと併用して作画中のメニュー選択や移動に右手のマウスを使っているとのこと。
せんちゃさんのクリエイティブ・スタイル

「凪あけぼの」生誕Tシャツイラスト(2109)
©せんちゃ
――せんちゃさんの描くイラストはどれも可愛らしさが溢れています。絵のモチーフ選びはどのようにしていますか。
可愛いと思う要素を膨らまして1枚の絵を完成させるように意識して制作しています。動物や可愛い小物、お菓子などが好きで、町中やネットで見かけたときに、可愛い!描きたい!と思うので、ひとつのモチーフから連想して他のアイテムなどを盛っていくことが多いです。動物や小物も好きですが、最近は女の子単体でも可愛く見える方法を模索中です。
――普段イラストを描くときはどのようなワークフローですか?
以前は紙に描いたイメージラフを写真にとって、それをSAIに張り付けて下描きにしていのですが、最近は初めからデジタルで描いています。ラフの上に線画を描き、パーツごとにレイヤーを分けながら鉛筆ブラシで色を塗り、新しいレイヤーを作りマーカーで厚塗りするように塗り重ねることを繰り返しながら色や影を整えていきます。レイヤーがすごく増えてしまうのですが、SAIのマーカーを重ねるとアナログのような暖かい雰囲気が出てすごく好きなんです。
――せんちゃさんの絵は線が柔らかい印象ですが、どのようなブラシを使っているんですか。
鉛筆だと線がはっきりしすぎなので、設定を変えた筆で線画を描いています。線が柔らかいのと、筆圧で濃淡が出てくれるのがよくて。鉛筆だと何度も線を重ねると汚くなってしまうのですが、筆なら塗りとも馴染んでいい味になってくれるのかなと。荒い部分は消しゴムで削りながら整えています。仕事の絵ではあまりしないようにしているのですが、趣味絵などのときは全体を整えた後に、厚塗りをして調整することもあります。

「しゃぼん玉」プライベートワーク(2019)
©せんちゃ
――線画と塗りの工程がはっきり分かれていないのが、結果的にイラスト全体の柔らかさに繋がっているんですね。この描き方にはどうやってたどりついたんですか?
描き始めた頃は本当に線画が上手く描けなくて、pixivに投稿されたメイキングを見ながら厚塗りやグリザイユ画法などに挑戦して色々やっている内に、線画が描けなくても絵を整える方法があることが分かってきて。アイデアを詰め込むラフの工程は好きだったので、ラフが出来た段階で色を置いてしまい、上からマーカーで厚塗りをして整える方法で描いていました。ゲーム会社で働き始めた時に、線画を描けないと仕事にならないということで、すごく苦労しました(笑)。自分の描きたい絵が通用しないことに葛藤もありましたが、仕事をする上で使いやすいイラストの作り方も学べましたし数をこなすうちになんとか線が描けるようになりました。
――ふわっとした感じの色彩もせんちゃさんのイラストの魅力です。色の選び方で意識していることはありますか?
淡くて柔らかい雰囲気のイラストが好きなので、優しい感じになるように色を選んでいます。淡くくすんだ色を使うのも好きなのですが、暗くならないように、暖かい絵にしたいというのはこだわっているところです。最近は新しい塗りにも挑戦してみようと思い彩度が高めの色を使おうとしていたりするのですが、なかなか思い通りにはいかないんですよね……。

せんちゃさんの線画は[鉛筆]や[2値ペン]のようなシャープな線のブラシではなく、柔らかく濃淡が出せる[筆]の設定をカスタマイズした線を重ねるようにして描かれている。
一見ラフな線に見えるが、[マーカー]による厚塗りと組み合わせることで、絵柄を柔らかくて暖かみのある効果に繋がっている。
淡い色調から水彩塗りの様な印象を受ける絵でも、よく見るとかなり厚く塗り重ねているのに注目。
※動画では6:11あたりからせんちゃさんがSAIのマーカーで厚塗りしていく作業を見ることができます。
せんちゃさんのクリエイターズ・ストーリー

「クローバー」プライベートワーク(2019)
©せんちゃ
――せんちゃさんがイラストレーターになりたいと思ったのはいつ頃ですか?
小学生の時からずっと絵を描くのが好きで、将来は絵を描く仕事をしたいなと思っていたんですけれど、担任の先生から「絵で食べるのは難しいよ」と釘をさされてしまって。それが無理なら出版社など、どうにかして絵に関わるお仕事をしたいなと思っていました。中高と絵は描き続けていたのですが、色々あり不登校気味になってしまって。SNSで仲良くなった方の中にイラストレーターとして活動している人がいて、いいなあと思っていました。既に留年していた高校2年生の時に進級が難しいかもという話になり、慕っていた先生から「やりたいことがあるなら通信制の学校にして卒業を目指したら」と言われて。イラストの学校に行ってその道に進みたいという思いはあったのですが、親からは普通に学校にも行けない人がやりたいことで食べていけるはずがない、まずは学校で勉強しなさいと反対されて……。結局は、卒業するために通信制の学校へ通いながらアルバイトでお金を貯めて、美術系の短大への入学金を自分で稼ぐことで認めてもらえましたね。
――短大ではどのような勉強をされていたんですか?
鹿児島にはイラスト系の専門学校が少なかったのと、当時の私は地方で頑張っていても誰も見てくれないと思い込んでいて。福岡の大きな同人イベントに出たいと思って福岡の短期大学に進みました。専攻を選ぶときに「デジタル絵が描けそう」というイメージでグラフィックデザイン科にしてしまったのですが、グラフィックデザインとイラストレーションは別物で、デザインで使うときのイラストは素材なんですよね。当時は、厚塗りの使いづらいイラストばかり描いていたので、先生からはたくさんお叱りを受けました(笑)。
――同人活動を始められたのも福岡に出てきてからでしょうか。
短大に入ったのを機に、よしがんばるぞ!と思いTwitterにも積極的に絵イラストを投稿するようにしていました。見てもらえる機会も増えてきたことや、好きな絵描きさんに自分のイラストを見てもらえることが嬉しかったですね。それで勢いがついたこともあり、今、できるうちに形に残る同人誌を作りたいと思いました。初めてイラスト本を作ってイベントに参加したら、そこでも手に取ってくれる方がいてくれたので、「絵を描くの楽しい! 頑張ろう!」って。活動を続けていたらそのうち画集のお誘いやソーシャルゲームのカードイラストのお仕事の依頼がくるようになって嬉しかったです。

Vtuber「蒼乃ゆうき」メインビジュアル(2019)
©Pictoria Inc.
――短大を卒業してからはどのような活動をされていたんですか?
次は東京に行きたいなと思っていて、就職先も沢山あるし大きいイベントもある東京に行くぞ!と東京のゲーム会社を探して就職活動をしていました。何社か面接し、スマホ用ゲームアプリの開発会社に採用をいただきました。でも、会社の環境が合わなくてだんだん辛くなってきてしまって……結局1年くらいで辞めてしまったんです。もうダメだ、でも仕事がないと東京にいられない……と悩んでいた頃に、Vtuberの蒼乃ゆうきちゃんのデザインをしませんかと声をかけていただいて。この先、どうなっていくかは分からないけれど、この子と一緒に頑張ろう、だから一旦会社を辞めてもいいかなって。それで思い切って会社を辞めて、アルバイトをしながら絵のお仕事を頑張ろうと決意しました。
――そしてフリーランスのイラストレーターとして活動を始めて、この11月に初めてイラストを手がけたライトノベル『ぼくの妹は息をしている(仮)』(電撃文庫)が発売されました。
夏頃に「作品のイメージにピッタリだと感じましたので、イラストをお願いできませんか」というメールが来て。ラノベのお仕事はいつかやりたいと思っていたのですが、私はまだ技術的にも足りていない部分が多いので当分は依頼がいただけないだろうと思っていたので驚きました。周りの知人から「ラノベはすごく大変だよ」と聞いていたのですが、実際やってみたらやっぱり大変でしたね(笑)。複雑なお話の小説なので、担当さんがストーリー展開の説明図を作ってくれたのですが、最終的にはとにかく「妹かわいい」で描いてくださいと言われて、じゃあとびきり可愛いのを描くぞ!って。描いている途中はこれで大丈夫なのかと不安もあったのですが、全て描き終わった後に著者の鹿路先生からDMで暖かいメッセージを頂いて、ああよかったとほっとしました。
――本が発売されて、周りから反響はありましたか?
鹿児島の両親や、友人も買ってくれたみたいで、嬉しかったです。書籍は形として残りますし、地方の本屋さんにも置いてもらえるのですごく憧れていました。コミティアに出た時も、買った本を持ってきてくださる方がいて。以前に福岡のイベントに出た時に来てくれた方が、わざわざ東京のイベントまで本を持ってきてくれたのは感激しました。
――ラノベが発売されてすぐに、pixiv FANBOXにせんちゃさん自身の不登校の経験を書いた文章を公開されていましたね。
イラストレーターとして活動を始めた時から、ずっとあのメッセージを発信したいと考えていたんです。自分は学生の時に上手くいかないことが多く、毎日、家では親と戦って、学校でも戦って、どこにも居場所がなくて苦しい思いをしていて。ちゃんと授業も受けれないし、卒業してもこの先どうなっちゃうんだろうと将来が真っ暗で、今みたいにイラストレーターになれるなんて全然、思えませんでした。あの頃の私みたいな状況の子が少なからずいると思うので、「私みたいにポンコツでもなんとかなることもあるよ」「今、上手くいかなくても大丈夫だよ」と、少しでもこの先のことを考える気持ちが楽になるように……という思いで文章を書いたら、予想外にいろんな人に読んでもらうことができて。お恥ずかしいんですけれど(笑)。

電撃文庫『ぼくの妹は息をしている(仮)』表紙イラスト(2019)
©2019 KERIMA ROKURO
――これから先、やってみたい仕事や挑戦したいことはありますか?
書籍やグッズなど、形に残ったりお店に並べてもらえるお仕事をこれからもやってみたいというのはあるのですが、それとは別に絵の展示をしたいとずっと考えています。イベントなどでお客さんに足を運んでもらえるのは、本当にすごいことだなって感じていて。応援の言葉が励みになっていて。でも即売会だとあまりお客さんとお話することもできないから、小さくでもいいので展示をしてみなさんにお礼を伝えたいです。
――絵を描いたり、イベントに出たりすることがせんちゃさんの力になっているんですね。
イベントといえば、中学生の頃に藤原ヒロ先生の『会長はメイド様!』が好きでファンブックにイラストを投稿して掲載されたことがあるんですけれど、それから数年たってイベントに出たときに、ブースにビラを配りに来た白泉社の編集さんが藤原ヒロ先生の担当さんだったんです。この前のコミティアにも顔を出してくださって「いつか一緒にお仕事がしたいと思っています」と言ってくださるのがすごく嬉しくて、それまで頑張ろうと思いました。
――いい話ですね! 最後に、せんちゃさんにとってペンタブレットとはどのような存在か教えてください。
私はペンタブレットがないとお絵描きができないので、線が上手く描けなくても色々な描きかたができるところがデジタルのいいところだなと思っています。もしデジタルイラストを描いてネットに公開したりしていなかったら、それこそ誰にも見つけられることなく、今もイラストレーターとしてお仕事をしていなかったはずなので、あの時お小遣いでBAMBOOを買って本当によかったです。
取材日:2019年11月28日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
せんちゃ
イラストレーター。鹿児島県出身。美術系の短期大学を卒業後、上京してスマホゲーム開発会社に入社した後、フリーに。サークル「sencyairo」としてコミックマーケットやコミティアなどのイベントに参加、柔らかく可愛らしいイラストで支持を集めている。2019年春にデビューしたバーチャルYoutuber「蒼乃ゆうき」のキャラクターデザインを担当。この11月には初めて表紙イラストを手がけたライトノベル『ぼくの妹は息をしている(仮)』(鹿路けりま/電撃文庫)が発売された。