イラストレーター
U35
アニメ『白い砂のアクアトープ』キャラクター原案や、ゲーム『シンスメモリーズ 星空の下で』キャラクターデザイン、ライトノベル『進化の実~知らないうちに勝ち組人生~』のイラスト等で知られるイラストレーターのU35さんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2021年8月16日撮影)
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Drawing with Wacom 122/ U35 インタビュー
U35さんのペンタブレット・ヒストリー
「白い砂のアクアトープ」Blu-ray第1巻パッケージイラスト(2021)
©projectティンガーラ
――U35さんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか。
社会人になってからになりますが、たまたまテレビを付けたときに放送されていたテレビアニメが面白くて、そこから一気にそのアニメにハマり自分でも絵を描きたくなったんです。それからネットで色々調べている内に「お絵描き共和国」というお絵描き掲示板に出会い、そこでデジタルで絵を描けるんだということを知りました。最初はマウスで描いていたのですが、ペンタブという存在を知りBamboo(第1世代)を買ってからは色も自由自在に塗れるのが楽しくて、時間ができた時は掲示板に絵を描いて投稿していました。
――初めて液晶ペンタブレットを使われたのは?
しばらく後に第2世代のBambooに買い替えて、ずっとそれを使っていた気がします。会社を辞めて専門学校に通い始めてからは、課題のアニメーション制作をする中で、色を塗ったり撮影作業をする際に学校にあったIntuos4を使っていました。液晶ペンタブレットは家電量販店などで見かけて気になっていて、貯金をしてCintiq13HDを手に入れたのが最初です。学校の授業が紙と鉛筆での作画が主だった事もあり、それに近い感覚で描けることに魅力を感じていたので、抵抗感なくすぐに馴染むことができました。
――現在の作画環境はどのようなものですか。
ずっとCintiq13HDを使ってきてこのサイズが手に馴染んでいたんですが、もう少しサイズアップしてみようかなと思い、1年ほど前にWacom Cintiq 16に買い替えました。PCはNECのLAVIEデスクトップ(CPU:Intel Core i7-7567U 3.50Ghz/RAM:8GB)にHDMI接続で繋いで使っています。作画に使うツールはSAI ver.1がメインで、最後の仕上げや素材の貼り付けなどにCLIP STUDIO PAINTを使うことが多いです。マンガを描く時はCLIP STUDIO PAINTがメインツールになりますが、まだまだ使えていない機能が多いので早く慣れていきたいですね。
――今回、Wacom Cintiq Pro 24を使って絵を描いてみた感想を教えてください。
見た瞬間から「でかい!」と思いました(笑)。私はストロークで線を描くのが好きなので、思い切り腕を動かしていたんですけれど、いつもよりスペースが広くて何だかそわそわしました。画面は解像度も凄くきれいで細かくて、見やすいなという印象です。16インチモデルを使っている時は拡大縮小しながら描くことが多いんですけれど、Wacom Cintiq Pro 24だとあまり拡大しなくても全体を見ながら描けるのがいいなと感じました。今回は全画面にSAIのキャンバスを広げて制作しましたが、無理に広げなくても表示サイズを調整してツールパレットの配置を工夫したり、横に資料を並べて描いたりと自由度の高い使い方ができそうだなと思いました。
NECのデスクトップPC、LAVIE Desk All-in-one Da970(CPU:Intel Core i7-7567U 3.50Ghz/RAM:8GB)にWacom Cintiq 16を接続して使用。Wacom Cintiq 16は市販のスタンドで角度と高さを調節している。
ペンは標準芯で、作画ツールは主にSAI ver.1を使っているが、仕上げ作業にはCLIP STUDIO PAINTも併用。ショートカットなどは左手側に置いたキーボードで入力している。
Wacom Citniq 16にかかっている黒いものは右手用グローブ。
U35さんのクリエイティブ・スタイル
GA文庫「〆切前には百合が捗る」2巻
カバーイラスト(2021)
©Yomi Hirasaka / SB Creative Corp.
――U35さんが普段イラストを描く時のワークフローはどのような感じですか?
SAIでラフを描いて、ある程度下描きができたらキャラクターのシルエットを適当な色で塗りつぶして、線だけではわからない画面内の余白とのバランスを確認します。線画のクリンナップはパーツ毎にレイヤーを分けて、その時に使われる絵の場面に合わせてデフォルトの[鉛筆]ツールやカスタマイズしたブラシなどを使って描いています。主線は黒で描いてから、不透明度をロックしてエアブラシや筆等で軽く色を乗せて塗りと浮かないように馴染ませていきます。
――線画のレイヤーもパーツ毎に分けているんですね。
勢いのある鉛筆の線が好きで、手のストロークを使って描いているので、クリンナップでも線が重なったりはみ出したりする部分が多くて。できるだけ最初に描いた線の勢いを殺さない様に消しゴムで整えていくんですけれど、レイヤーを分けておけば周囲の線に遠慮せず描いたり消したりできるんです。
――U35さんの絵柄はまつ毛や白目の処理など、目の塗り方に特徴がある気がします。
私の絵柄の場合、白目を強調しすぎると違和感を感じてしまったので、上の方だけ白く塗ってから馴染ませるイメージで、あえて下側に塗りの境界線を作らないようにしているんです。まつ毛のラインも黒のままだと目立ちすぎるので、エアブラシで周りの肌と馴染むような色を入れて印象が柔らかくなるようにしています。瞳もあまりレイヤーを重ねず、その場で色を混ぜながら塗るので華やかさはあまりないのかもしれませんが、深い色の中にある透明感が出るように意識しています。
――仕上げ工程で、塗りレイヤーの上にカラフルな虹のようなオーバーレイを乗せるのは、どのような効果があるのでしょうか。
いろんな色のオーバーレイを乗せることで、塗りに意外な変化が出るのが気に入って使っています。私の塗り方はフラットな鉛筆で影を置いた上に筆で伸ばしたり、透明色で削ったりの繰り返しで基本的にシンプルなので、できるだけ単調にならないように意識してムラを作っているんですけれど、その場の色を拾って塗るだけではそこまで変化が生まれなくて。オーバーレイを乗せることで、塗りだけでは表現できない微妙な色の変化が加わって、深みが出る気がするんです。全ての絵でオーバーレイを使っているわけではありませんが、乗せる色によっては予想外の面白いことが起きたりもするので、同じキャラを描く時でも微妙に色を変えたりしています。
「ひまわり」プライベートワーク(2018)
©U35
――オリジナルのイラストを描く時のネタ出しや資料集めはどのようにしていますか?
外を歩くのが好きなので、道でイラストのモチーフになりそうなものを見つけたら写真を撮るようにしています。空が綺麗だなとか、木漏れ日が綺麗だな、面白い模様に見えるなとか、その場の空気感を含めていろんな発見があるんです。キャラクターのポーズや表情はいつも悩むところで、何も考えないと無意識に同じものを描いてしまいがちなので、なるべく引き出しを増やしておきたいと思っています。仕事と違い描くシチュエーションが決まっていないオリジナルの絵の場合は、何か思いつくまでMVや撮った写真などを観ながら面白いポーズやアイデア等を探したりしています。
――特に好きなモチーフはありますか?
やっぱり夏の季節と、麦わら帽子とワンピースの女の子が好きです。こんな子は現実にいないぞと言われても、いいんだよ!って思いながら描いています(笑)。実際に見たことがないからこそ色々な夢が見られる事もあるはずなので、モチーフは自由でいいと思っています。
――今回、ドローイングで描かれた絵も「麦わら帽子とワンピースの女の子」ですが、夏らしい光の感じや空気感がすごくいいなと感じます。
光の描き方は透明感を出してくれる大切な要素だと思っていて、絵をギュっと引き締めてもくれるし、入れ方次第でいろいろな表情になるので、光をどう入れるかはすごく意識しているところです。もともと陰影が強いはっきりした絵が好きで濃いめの影を置いてしまう事が多いのですが、その中でもイラストらしさ、華やかさが出るように筆で色味を混ぜたり、オーバーレイを乗せたりして映える方法を色々試したのが今の私のスタイルになっているのかもしれません。
塗りレイヤーの上に合成モード[オーバーレイ]のレイヤーでカラフルな色を重ねてから不透明度を下げることで、塗りだけでは出せない微妙な変化が加わるという、U35さんの仕上げテクニック。
オーバーレイは一見ランダムに塗っている様に見えるが、ある程度結果を意識して色を使い分けているそう。麦わら帽子やワンピースの影部分を見るとそれぞれ異なった色味の変化がついているのがわかる。
※動画では16:02あたりからU35さんがオーバーレイを乗せる工程を見ることができます。
U35さんのクリエイターズ・ストーリー
「おくりもの」赤い羽根共同募金×ピアプロ 応募作品(2012)
©U35 / Crypton Future Media, INC. www.piapro.net
――U35さんがイラストレーターを目指すようになったのはいつ頃ですか?
小さい頃から絵を描くことは好きで色々描いていました。その中でも『デ・ジ・キャラット』のこげどんぼ先生のイラストの可愛さと綺麗さに衝撃を受けて、当時ひたすら模写をしていたのを覚えています。中学から陸上に専念し始めて、一度絵を描くことからは離れてしまったんですが、社会人になってから描くことの楽しさに目覚めて、アニメ熱が再燃する内に『天元突破グレンラガン』と出会ったんです。画面から溢れる熱量に感動して、自分もこんな風に誰かを感動させるものを作りたいと思い、会社を辞めて専門学校に入学を決めました。
――かなり思い切った選択をされたんですね。
胸の中にはずっと絵が好きだという気持ちは抱えていて、クリエイティブな世界への憧れもあったのですが、踏み出す勇気もきっかけもないまま陸上を続けていたんです。故障も重なったりと走ることに対して心が折れ始めていた時だったので、今思えばタイミングも丁度良かったのかもしれません。後悔だけはしたくなかったので、動けるうちに動こうと思い、今しかないという感じで「人生一度きり、ダメだったらまたその時考えよう」と、やりたいことをやる方向に突き進みました。
――イラストではなくアニメーション学科を選択されたのは?
当時はまだ「イラストレーター」という職業があることすら知らずにいたので、きっかけがアニメ作品だったことと、単純に絵の勉強がしたいという理由で選択しました。アニメーション学科でお世話になった先生には、見ることや知ることの大切さや、自分の足で歩いてロケハンで資料を探すことなど色々なことを教わりましたが、どれも私の知らない創作に必要なことばかりでした。学校で絵のことを学んでいく中でイラストレーターという仕事について知り、私は一枚絵で表現することが好きだという事にも気付いたんです。
「マギア・レコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝
アナザーストーリー」1巻表紙イラスト(2020)
©Magica Quartet/Aniplex・Magia Record Partners
――イラストレーターとして初めて仕事をしたのはいつ頃ですか。
専門学校に在学中で、2年生の時です。ボーカロイドが好きで自分でもよくボカロイラストを描いていて、初音ミクの携帯アプリ「ミクモバ」用の待ち受け画像を依頼されたのが初めてのお仕事でした。
――卒業後はそのままフリーのイラストレーターとして活動を始められたのですか?
アルバイトをしながらSNS等にイラストを投稿し続けていたのですが、どうすれば仕事に繋がるのかわからなくて。自分を知ってもらうにはただ絵を投稿して待ちの姿勢でいてもダメだと思い、そこからコンペに応募したり、オリジナルの絵も描くようにしたんです。2012年の「ピアプロ×赤い羽根共同募金コラボプロジェクト」で最優秀賞をいただいてポスターに採用された頃から少しずつですが絵を見てくれる人も増え、だんだんとお仕事につながる事も増えてきました。
――初めて書籍のお仕事をした時はどのような気持ちでしたか。
なにもかも初めてだったので、その時やれることを全部やった気がします。その頃の私は優しい表情が描きたくて、目を閉じて笑う絵ばかり投稿していたんですけれど、ある時、たまたま目を開けてニッコリする表情を描いたイラストをpixivに投稿したのを見た編集さんから連絡をいただいたんです。そのイラストは、最初は私自身がアップするのをためらっていたものだったので、びっくりしたことを今でも覚えています。描いたらとりあえず見せてみることも大切なんだと、その時思いました。
――U35さんといえばライトノベルのイラストを数多く手掛けられている印象ですが、最近はマンガの連載もされていますよね。
「まんがタイムきららMAX」(芳文社)にゲスト掲載された「FKSでいたいむ!」が初めてのマンガでした。いま「COMIC FUZ」で作画を担当している『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 アナザーストーリー』でも、連載にコミカライズ、アクションシーンと初めてのことづくしで全てが手探り状態ですが、どうすれば迫力が出るのかなど学ぶことばかりです。『魔法少女まどか☆マギカ』はリアルタイムで夢中になっていたアニメなので、自分がコミカライズに関わることになるとは夢にも思いませんでした。
「シンスメモリーズ 星天の下で」パッケージイラスト(2021)
©MAGES.
――現在放送中のアニメ『白い砂のアクアトープ』ではキャラクター原案を手がけられていますが、どのような経緯で作品に参加することになったのでしょうか。
オリジナルアニメのキャラクターデザインはすごくやってみたい事のひとつだったんですけれど、そこに至る道のりが全く想像できずにいたので、こういう機会をいただけて本当にありがたいです。プロデューサーからTwitterのDMでお話をいただいたのですが、私の同人誌やイラストを見て印象に残っていたことがきっかけだと伺ったので、ずっと好きなモチーフを描き続けてきて本当によかったと思いました。
――アニメのキャラクターデザインをやってみて、これまでのお仕事と違いはありましたか。
私もロケハンに同行させていただき、現地の空気感やにおいからキャラクターに繋がるヒントを探したり、みんなで一緒に作っていくという事をより強く感じ、新鮮でした。皆魅力的なキャラクターばかりで、デザインを考える時間がとても楽しかったです。
――ゲーム『シンスメモリーズ 星天の下で』(MAGES.)や、イラストを手がけたライトノベル『進化の実~知らないうちに勝ち組人生~』(美紅/モンスター文庫)のアニメ化など大きな発表が続いていますが、この先、やってみたいと思っていることがあれば教えてください。
キャラクターデザインのお仕事は楽しいので、機会があればこれからもどんどん挑戦できたら嬉しいです。
――最後に、U35さんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
私はペンタブレットでデジタルイラストを描き始めたおかげでもう一度絵を描く楽しさときっかけを貰いました。とても思い入れもあり、大切な存在です。
取材日:2021年9月7日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
U35(うみこ)
イラストレーター。専門学校を卒業後、フリーのイラストレーターとして活動を開始。この10月の新番組でアニメ化される「進化の実~知らないうちに勝ち組人生~」(美紅/モンスター文庫)をはじめ、「君に恋をするなんで、ありえないはずだった」(筏田かつら/宝島社文庫)、「〆切前は百合が捗る」(平坂読/GA文庫)など数多くのライトノベルでイラストを手がけている。2021年7月から放送中のアニメ『白い砂のアクアトープ』ではキャラクターデザイン原案に抜擢されたほか、にじさんじ所属のバーチャルライバー「東堂コハク」のキャラクターデザインや、恋愛ADVゲームの話題作『シンスメモリーズ 星天の下で』(MAGES.)のメインキャラクターデザイン、人気タイトルのコミカライズ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 アナザーストーリー』(芳文社)の作画担当など、幅広い分野で活躍し注目を集めている。
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