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イラストレーター/マンガ家
りいちゅ

ライトノベル『ひきこまり吸血姫の悶々』のイラストとコミカライズ、人気ゲーム『ライザのアトリエ』のコミカライズや、ななしいんく所属VTuberのキャラクターデザインなどで人気のクリエイターりいちゅさんによる「Wacom Cintiq Pro 27」を使ったライブペインディングを公開!(2023年7月12日撮影)

※ブラウザで動画が再生されない場合はYoutubeのワコムチャンネルでご覧ください。

Drawing with Wacom 140 / りいちゅ インタビュー

りいちゅさんのペンタブレット・ヒストリー

小林湖底『ひきこまり吸血姫の悶々』(GA文庫)
10巻カバーイラスト(2023)
©小林湖底/SB Creative Corp. イラスト:りいちゅ

――りいちゅさんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
中学生の頃にハマっていたアニメのファンサイトに設置されていたお絵描き掲示板やお絵描きチャットにマウスで絵を描き始めたんです。姉がワコムのペンタブレットを使っていたので、私もデジタルで描いてみたいとお願いして誕生日に買ってもらいました。自分のペンタブレットを手にしてからは毎日のように家族共用のPCを占領して、時間を忘れるほどお絵描き掲示板に熱中していました。

――液晶ペンタブレットを使うようになったのは?
本格的にデジタルで絵を描くようになってからも、しばらく板型のIntuosシリーズを使っていましたが、アナログのペンで紙に直接描く感覚が好きで、画面のポインターを見ながら描くことに馴染めない部分があったんです。それでCintiq 24HDを購入したのですが、私の背丈だと画面が大きすぎて使いきれない感じがあって。小さめのサイズなら自分の体格にも合うのではと考えてCintiq 13HDを手にしたらしっくりきたので、それからWacom MobileStudio Pro、Wacom Cintiq Pro 13、Wacom Cintiq Pro 16と小さめの液晶ペンタブレットを選んで使っています。

――現在の作業環境はどのようなものですか?
最近、買い替えたPC(CPU:Intel Core i9-13900K/RAM:64GB/GPU:GeForce RTX4070)に、Wacom Cintiq Pro 16とディスプレイを2枚(EIZO ColorEdge CS2740、EIZO FlexScan 24インチ)を繋いで使っています。サブデバイスとしてRazer Tartaros V2にCLIP STUDIO PAINT EXの基本的なツールやブラシの切り替えを登録して使っています。

――今回、Wacom Cintiq Pro 27を使ってみた感想はいかがですか?
ものすごく描きやすくて、即買いしてもいいんじゃないかというくらいでした(笑)。これまで使ってきたモデルも描き味はよかったんですけれど、Wacom Cintiq Pro 27はペンの先がピタッと描画面にくっついているような感覚で。手首に負担がかかる重いペンが苦手なので、Wacom Pro Pen 3はウエイトを抜いてペンを軽くできるのもいいですね。私は肩を痛めやすいので、肘から先で描けるサイズの液晶ペンタブレットの方が楽だと思っていたんですけれど、実際にWacom Cintiq Pro 27を使ってみて使い心地のよさに驚きました。

り い ち ゅ さ ん の 作 業 環 境

最近PCをパワーアップした、りいちゅさんの作業環境。配信者向けの高スペックPC(CPU:Intel Core i9-13900K/RAM:64GB/GPU:GeForce RTX4070)にWacom Cintiq Pro 16を接続して使用。
左側のディスプレイは色の確認などに使うEIZO CloreEdge CS2740、右側はサブで作業中にアニメを流したりするEIZO FlexScanの24インチモデル。
作画ツールはCLIP STUDIO PAINT EX。左手のサブデバイスはRazer Tartaros V2。右手に見えるのはElgato GamingのショートカットキーボードStream Deck XL。

りいちゅさんのクリエイティブ・スタイル

てにをは『また殺されてしまったのですね探偵様』(MF文庫J)
4巻 カバーイラスト(2022)
©てにをは イラスト:りいちゅ

――りいちゅさんがイラストを描く時のワークフローを教えてください。
フルデジタルで、CLIP STUDIO PAINTでラフを描いていきます。複雑な構図の場合はアタリから入りますが、描き慣れているポーズやアングルだといきなり下描きくらいの精度で描き始めてしまうタイプです。線画をクリンナップしたら塗りつぶしとブラシで塗り分けをして、塗り重ねていき、最後の仕上げで画面演出や加工をして完成という流れです。

――作画に使うブラシはどのようなものですか?
基本的に鉛筆っぽい質感のあるブラシが好みですね。線画はデフォルトの鉛筆ブラシを試行錯誤しながらカスタマイズしています。下塗りはGペンブラシのような硬めのブラシで、本塗りはダウンロードしてきた筆系の水彩ブラシをカスタマイズしたものをいくつか使い分けています。

――ドローイングでは、塗り工程の途中で何度も加算発光レイヤーを使った色味の変化を重ねているのが興味深かったです。
私の場合は、こうすればこうなるみたいな、お決まりの作業パターンみたいなものがないので、塗りながら求めている表現に合いそうなレイヤー加工を探して、ああこれだという感じで納得できるまで色を重ねていくようなことが多いですね。

――仕上げ作業的な加工で色味を変えて、その結果を見ながらまた塗り進めるという作業の繰り返しが、りいちゅさんの塗りの雰囲気を作っているんですね。
もともと鮮やかな色が好きで、加算発光を使うと色が強くなったり明るくなったりするのでよく使っていますが、最終的にしっくりこなくて、途中でいれた加工を全部とっぱらってやり直すこともあります(笑)。色を重ねて加工する時は、エアブラシで柔らかく色を乗せていて、いろんな色を混ぜた方が画面映えするのですが、やりすぎるとボケた感じになってしまうので……。最初からバチっと理想の色で塗れたらいいんですけれど、どうしても頭の中で思い描く色にならないので、悔しいなという気持ちで試行錯誤しながら塗り進めています。

――イラストを描く上で特に意識している部分はありますか?
躍動感があるイラストが好きなので、キャラクターの表情や髪の毛から空気を感じるような絵を描きたいと思っていて。髪の毛の長い女の子を描くことが多いのですが、重力に逆らって非現実的なところまで髪の毛に動きをつけたりします。シルエットを大事にしているので、髪の毛の流れに変化をつけることで、キャラクターを真っ黒に塗りつぶしても魅力的に見える形にしたいんですね。

――りいちゅさんはマンガも描かれていますが、マンガの場合はまた意識する部分が違ってくるのでしょうか。
マンガはカラーのイラストと違って白黒の世界なんですけれど、ある程度、絵が崩れていてもいいんですよね。イラストの場合は1枚の絵で完結するので、崩れてもいい場所が限られるんですけれど、マンガは力を抜いたほうがいい部分があって。ほとんどマンガを描いたことがないまま連載デビューしたので、その違いには苦しみました。マンガらしいバランスを目指していたんですけれど、最初の頃はどうしてもイラストみたいに丁寧に描きすぎてしまいがちでしたね。

彩月レイ『勇者症候群』(電撃文庫/KADOKAWA刊)
カバーイラスト(2022)
©Rei Ayatsuki 2023

――ライトノベルのイラストを多く手掛けられていますが、キャラクターはどのようにデザインしているのでしょうか。
ライトノベルのキャラクターデザインは、小説の原稿を読んでからデザインすることもあれば、設定だけで描くこともあるんですけれど、ありがたいことに私の好きに描いてくださいと任せていただいて、趣味に走って出したデザインでOKをいただけるパターンが多いです。たとえば『ひきこまり吸血姫の悶々』のコマリ様だと、目や髪の色、身長、性格みたいな設定に合わせて、ガチガチの軍服なのか、可愛げがある方がいいのかみたいなことを考えながら自分の好みを盛り込んでいった感じですね。

――ライトノベルのカバーや挿絵を描く上でのポイントはどこでしょう。
キャラクターのデザインに合わせた視線誘導ですね。デザインの中でここを見せたいというポイントを作ったら、イラストの中でその部分に目が行くようなポージングやレイアウトを考えます。ライトノベルのカバーだとフォーマットやタイトルの関係である程度パターンが決まってくる部分もあるのですが、基本的にレイアウトもお任せで描かせてもらっています。ある程度、タイトルを入れる部分は意識して開けておいてくださいと言われるんですけれど、最近はタイトルが長いことも多いので、カバー用のイラストは大き目に描いてデザイナーさんがトリミングして使ってもらえるようにしています。

――キャラクターデザインでいうと「ななしいんく」のVTuberのデザインも手掛けられていますね。
6人ユニット「緋翼のクロスピース(ひよクロ)」としてデビューした子たちで、「異世界」から「現実」に戻ってきたという両方の世界の要素をデザインで組み合わせる必要があったんです。そのさじ加減とあわせて、それぞれのタレントの個性も反映させないといけなかったので、最初に1人をデザインして世界観があっているか確認してもらい、そこにバランスをあわせて全員のデザインを組み立てていきました。VTuberはひと目でどんな子か分かるような属性をつけた方がキャッチーになるんですけれど、それがなくても魅力的なキャラクターにするぞという意識でデザインしています。

――りいちゅさんが描いてみたいモチーフや、表現があれば教えてください。
いつもとちがう味を見てもらって、こういうのも描けるんだと感じてもらいたくて。ずっと彩度が高めの絵を描いていたので、最近はマットな塗りを目指しているのですが、やればやるほどマットって何だろう……となって。流行の塗り方でも、自分の絵柄にハマらないと意味がないので、自分に合った表現というのはずっと探し続けているところですね。

ワ ン ポ イ ン ト テ ク ニ ッ ク

レイヤー合成モード「加算(発光)」や「オーバーレイ」などを使った色味の加工は最後の仕上げで使われることが多いが、りいちゅさんは塗り工程でもパーツ毎にエアブラシによるレイヤー加工を乗せて自分のイメージする色に近づけながら塗り進めている。いくつものレイヤー効果を重ねて塗り上げてから、更に仕上げ工程でも同様の加工をすることでただのグラデーションではない柔らかさと深みのある塗りが完成している。

※動画では12:39からりいちゅさんがレイヤー加工で塗りに変化をつける工程が見られます。

りいちゅさんのクリエイターズ・ストーリー

『看板娘』プライベートワーク(2023)
©りいちゅ

――りいちゅさんが絵を描くことを仕事にしたいと思ったのはいつ頃ですか?
小学生の頃に、好きなアニメのキャラクターを描いてみたら学校で友人が褒めてくれたのが嬉しくて。絵を描くとこんな風に喜んでもらえるんだという単純な感情で描き続けていたので、自分がイラストレーターとかマンガ家になれるとは思ってもいなかったんです。ネットで絵を描きながら、いろんな人と交流するのが楽しくて、pixivに絵を投稿しているうちに、ライトノベルのイラストのお仕事をいただいて。そんな身近にあることだと思っていなかったので、私でもできるんだって。それで、また仕事がもらえるかもしれないから頑張って絵を描こうと思いました。

――ネット以外の同人活動などはされていたのでしょうか。
同人活動のことは知っていたんですけれど、自分でやる勇気もきっかけもなくて、絵の仕事をするようになるまでイベントに参加したことはありませんでした。初めて「東方Project」の小さなイベントに参加してコピー誌を作ってみたら、本を手に取ってもらえたのが嬉しくて、私も本格的な同人誌を作ってみたいと言ったら、知人が背中をおしてくれてサークル活動を始めたんです。

――りいちゅさんの中で、プロのイラストレーターとしての意識が固まったタイミングはいつですか?
東京でイラストレーターさんの集まりに誘われて参加した際に、「東京に来たほうが出来ることも増えるし、いろんな機会にも恵まれるよ」と助言をいただいて。家に戻ってから1か月くらい、いろいろ考えた末に東京へ行こうと決意しました。その年に「絵師100人展 05」に選ばれたことで、イラストレーターとしての私にそれだけの価値を見出してもらえるんだという自信につながったのが人生の転機でしたね。

『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』
ファミ通クリアコミックス 表紙イラスト(2022)
©2019 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

――上京してみて、お仕事に変化はありましたか。
ずっと地元でフリーとしてソーシャルゲームやライトノベルのイラストを描いていたので、業界のことをほとんど知らないままだったんです。上京してからは依頼をいただいた会社に伺ったり、対面で直接打ち合わせをしたりと、人と関わる機会が増えて、よりお仕事をしているという実感が増しました。

――これまでのお仕事の中で、特に印象的だったものはありますか。
海外のイベントでのライブドローイングですね。同人で「東方Project」の二次創作をやっていた関連で、中国のイベントで絵を描いて欲しいと声をかけられて。上海と広州でライブドローイングをさせていただいたんです。中国でイベントに来てくれた人たちは、すごくピュアにオタク文化が好きなのが伝わってきて、楽しめました。アメリカのコンベンションでもライブドローイングで参加したのですが、こちらは特定のジャンルでなく、いろんなオタク文化が混然とした雰囲気のイベントで、いろんな人と交流できるのが楽しかったですね。

――イラストレーターだけでなく、マンガ家としても活動されていますが、マンガを描き始めたきっかけは?
上京する前から編集さんに「マンガを描きませんか」と声をかけてもらっていて。何度か打ち合わせをする中で、自分として描きたいものが分からず保留になっていたんですね。それで原作付きなら描けるのではと始めたのが「モーニング・ツー」で連載していた『四ノ宮小唄はまだ死ねない -BORDER OF THE DEAD-』です。

――人気ゲームシリーズ『ライザのアトリエ』のコミカライズも手掛けられていますね。
連載デビュー作で初めて本格的にマンガを描いた次にいただいたのが『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』のコミカライズだったので、私みたいな人間にそんな大きなゲームタイトルを任せていただいていいんですか?みたいな感じでした。そういう意味でも予想外のお仕事で、すごく嬉しかったので自分の中で代表作のひとつだと思っています。

『ひきこまり吸血姫の悶々』1巻表紙イラスト(2022)
©Kotei Kobayashi /SB Creative Corp.
Original Character Designs:©Riichu/SB Creative Corp.
©Riichu/SQUARE ENIX

――ライトノベルのイラストに加えてコミカライズも手掛けられる『ひきこまり吸血姫の悶々』はアニメ化も発表されています。
『ひきこまり吸血姫の悶々』は、1巻の原稿を拝読した時に「これは面白い!」と感じて、ぜひ自分にイラストを描かせてもらいたいという思いで、むりやりスケジュールに組み込んだ記憶があります(笑)。可愛いとコメディ、シリアスが絶妙な塩梅で書かれていて、原作イラストとコミカライズの両方を自分が担当しているので思い入れもある作品です。アニメ化のお話を聞いたときには「夢のひとつが叶った!」と感激しました。2023年10月から放送されるので、ぜひ見ていただいて、アニメが面白かったよ!という方は原作とコミカライズも楽しんでもらえたら嬉しいです。

――この先、りいちゅさんが挑戦してみたいお仕事や、やってみたいことはありますか?
また海外のイベントに参加したり、アニメやVTuberなど、もっといろいろなキャラクターデザインをしたいですね。いろいろな実績を積み上げることで、自分にも自信が持てるようになると思うので、どんなジャンルでも怖がらずに挑戦しようと考えています。今年、子どもが生まれたばかりで、イラストとマンガと子育てと忙しすぎて自分の趣味の絵を描いたりする時間はぜんぜん無いんですけれど、やりたいお仕事をやることが今のモチベーションみたいな感じかもしれません。

――最後に、りいちゅさんにとってワコムのペンタブレットとはどのような存在ですか?
一生一緒にいて欲しいです。君がいないと生きていけない……という気持ちで大事にしております。

取材日:2023年7月24日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)



画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。

りいちゅ
イラストレーター/マンガ家。フリーのイラストレーターとしてソーシャルゲームやライトノベルのイラストなどで活躍。『また殺されてしまったのですね、探偵様』(てにをは/MF文庫J)、『勇者症候群』(彩月レイ/電撃文庫)など人気ライトノベルシリーズのイラストを手掛けるほか、2020年には「四ノ宮小唄はまだ死ねない -BORDER OF THE DEAD-」(原作:大槻涼木/講談社)でマンガ家デビュー、人気ゲーム『ライザのアトリエ』(コーエーテクモゲームス)のコミカライズも担当。女性キャラクターのデザインに定評があり、「ななしいんく」所属のVTuber6名のデザインや、ゲーム『アズールレーン』(Yostar)のキャラクターデザインに起用されている。原作イラストとコミカライズを担当する人気ライトノベル『ひきこまり吸血姫の悶々』(小林湖底/GA文庫)はアニメ化が決定、2023年10月からの放送を控えている。

twitter:@rityulate
個人サイト「eterna-rdiare」

高い色精度と高解像度のディスプレイと、新しいペンテクノロジーWacom Pro Pen 3を搭載。クリエイターと作品の間で交わされる共鳴を存分に描きつくす、ワコムの最先端液晶ペンタブレットです。

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