イラストレーター
まご
アニメ「宇宙パトロールルル子」のキャラクターデザインや、「キルラキル」等のTRIGGER作品のSDキャライラストでも知られるイラストレーターのまごさんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2020年12月22日撮影)
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Drawing with Wacom 114/ まご インタビュー
まごさんのペンタブレット・ヒストリー
『宇宙パトロールルル子』初回生産限定版Blu-ray
ブックケース用描き下ろしイラスト(2019)
©TRIGGER・今石洋之/宇宙パトロールルル子製作委員会☆彡
――まごさんがデジタルで絵を描くようになったのはいつ頃ですか?
パソコンで絵を描く経験としては、子どもの頃にお父さんが持っていたPC-9801に入っていたKID98を使って、妹や弟と遊んでいたのが最初ですね。デジタルでイラストを描くということになると、2000年頃にゲームセンターでバイトをしていて、そこで店内のポスターを作ったりするためにPCに入れてあったAdobe Photoshopを使って描かせてもらったことがきっかけです。
――初めて使ったペンタブレットと、それからのペンタブレット歴は?
デザインの仕事をしている友達にAdobe Illustratorの使い方とかを教えてもらっていて、その流れでFAVO(F-401)を触ったのが初めてのペンタブレットです。しばらくFAVOを使ってからIntuos3に買い替えました。当時ハマっていた「セガラリー2」というゲームのインターネット掲示板に書き込みをする時に、絵も貼り付けるようになって。描いた絵をちゃんと発表する場が欲しくなって自分のWebサイトを作って絵を載せるようになりました。
――液晶ペンタブレットを使うようになったきっかけは?
Twitterで他の人が使っているのを見て、板型のペンタブレットよりも使いやすいんだろうなと感じていましたが、高価なものなので手を出せないなと思っていました。それがだんだん手頃な価格になってきたので、試してみてもいいかと思い切ってCintiq 13HDを買いました。今となっては、板型から液晶ペンタブレットに変わった時の感覚を思い出せないくらい液晶ペンタブレットに馴染んでしまいましたね。
――現在の作画環境はどのようなものですか。
4年くらい前に勝ったiiyamaのクリエイター向けPC(CPU:Intel Core i7-6700/RAM;16GB)に、Wacom Cintiq Pro 16を繋いで使っています。I-O DATAの19インチディスプレイをサブディスプレイにしていたんですけれど、狭すぎたので、最近、LGの24インチを足してトリプルディスプレイにしました。サブディスプレイは作画資料やTwitterを表示して使っています。ペンの芯とか設定は色々試してみたりはするんですけれど、リセットされたり買い替えたりしたときに環境を移すのが面倒なので、ほとんどデフォルトのまま使います。作画ツールは、始めた頃はAdobe Photoshopで、2008年くらいからSAIを使い始めて。ずっと漫画を描くのに使っていたComicStudioが終了してしまったので、覚悟を決めて去年からイラストもCLIP STUDIO PAINT EXを使うようになりました。素材っぽいものが欲しい時にはAdobe Illustratorを使うときもあります。
――今回、Wacom Cintiq Pro 24を使って描いてみた感想を教えてください。
とにかく画面が広くて使いきれませんでした。慣れないのもあって画面の下の方だけで作業してしまいましたね(笑)。普段もあまり拡大を使わないし、緻密な作画で描き込んだりしないんですけれど、続きものの仕事だと前に描いた絵を隣に置いて色見本として使ったりするんです。16インチだと狭くてCLIP STUDIO PAINTのウィンドゥの置き場所に困っちゃうので、Wacom Cintiq Pro 24なら広く使えるのが良いと思いました。
iiyama「SENSE∞」ブランドのPC(CPU:Intel Core i7-6700/RAM;16GB)にWacom Cintiq Pro 16を接続。ディスプレイはLGの24インチ、I-O DATAの19インチを加えたトリプルディスプレイ仕様。Wacom Cintiq Pro 16には市販のスタンドをつけて好みの角度にして使っている。
大切に使っている机はイラストレーターのあきまんこと安田朗さんから譲り受けたもの。
まごさんのクリエイティブ・スタイル
初音ミクマジカルミライ2016テーマソング
「39みゅーじっく」MVイラスト(2016)
©CFM
――普段、イラストを描くときのワークフローはどのようなものですか。
描きたいものを思いついたらとりあえずCLIP STUDIO PAINTで描き始めてみて、飽きなければ最後まで色を塗って完成させます。気に入らなければラフのまま捨ててしまったりしますね。使うブラシもあまり決まっていなくて、何も考えずにCLIP STUDIO PAINTを開いた時に選ばれているのをそのまま使うみたいな感じです。ラフができたら線画をクリンナップして、もう少し何か足したいなという時はまた下描きに戻るみたいなことをします。私はそんなに絵が上手いわけじゃないので、順序だてて完成に向かっていく感じではなく、ダメだと思ったらまた戻って描き直したりするんですよ。
――お仕事で描かれる絵の場合も同じですか?
仕事の場合は途中でラフの確認とかがあって後から戻ることができないので、ほとんど完成みたいな下描きにできるだけ色もつけて見せるようにしています。仕事を始めた頃はラフはラフなほどかっこいいと思っていて、筆ペンで描いて出したりしていたんです。でもそうするとクライアントがラフから想像する完成度が高くなりすぎて、後から自分が困ってしまうんですよ。だから仕事に限ってはここまで仕上げる自信があるという完成に近い下描きを提出することにしています。
――まごさんの絵は元気な感じの線が印象的です。
線を意識するようになったのは、アニメーターのすしおさんのお手伝いでイラストの下塗りをさせていただいた時に、線がすごくかっこいいと思ったのがきっかけなんです。それまで線は細くて均一なほど評価されると考えていたんですけれど、すしおさんの線は全然そんなことなくて汚かったり繋がっていなかったりするのにとてもいい感じだったんですよ。そういう線がいいなと思って自分でも真似しています。
――輪郭線を強調して描いているのは何か理由があるんですか?
アウトラインを太目の線で描くと絵がいい感じに見えるので、最近はアウトラインを先に描いてシルエットを決めてから、中を描きこんでいくみたいにしてます。私の絵はだいたい線画、肌、塗り、影の4枚くらいしかレイヤーがなくて、塗りが凄いという訳でもないので、見た人が可愛いと思うような形やシルエットはかなり意識しているつもりです。
――ドローイング動画では線画のクリンナップで顔を最初に描かれていましたね。
顔を描くと「絵」っぽくなるじゃないですか。その時描きたい順番で描いていますけど、顔が描いてあると完成に近づいた感じもして描くテンションも上がるので。やっぱり絵の中でも重要な部分なので、顔だけは線画もレイヤーを分けていて、後から気になったらいつでも修正できるようにしています。
LINEスタンプ「よく知らないけどね!」(2018)より
©まご
――今回描いていただいた絵で特に意識した部分はどこでしょう。
スニーカーが入るように全身を描こうと思いました。最近の流行だと瞳の情報量がすごく多い絵が人気なんですけれど、私の作風には向いていないなと思っていて、逆に真っ黒な瞳でも可愛く見える顔を描くのが自分の中で流行っています。このポーズだと後ろが寂しくなるなと思ったので、リュックサックにマスコットをつけるのは最初から決めていました。
――キャラクターが身に着けているスニーカーやリュックサックみたいなアイテムは普段から資料を集めていたりするんですか?
ネットを見ていて、気に入った女の子の画像とかを見つけたら保存していますが、絵を描くためというよりは、好きだから集めている感じですね。何か絵を描きたいなというときに、何も思いつかなったりしたら、集めた中から「これいいじゃん」というものを探したりすることはあります。スニーカーを描き込んだり、マスコットみたいな意味のありそうなものを絵の中に入れるのは、ぱっと見で可愛いだけじゃなくて、長く絵を見てもらえるための工夫です。身に着けているものの情報量というか、お楽しみ要素として「こういうものつけてるんだ」と楽しんでもらえたらいいなと。
――そういう部分でもすごくポップでキャッチ―な作風だと感じます。
キャッチ―はずっと目指しているかもしれないです。子どもの頃から絵を描くのが好きで、描いた絵を人に見てもらうためにはどうすればいいのかはずっと考えています。でもその割には流行のネタに乗ったりするのができなくて、自分の描きたいものを描いてないと楽しくないんですよ。だからそのへんをもう少し緩くできたらなと思っているところです。
――絵を描く中で影響を受けたクリエイターはいますか?
特定のこの人みたいに描きたいというのはなくて、いろいろな人の影響を受けていると思います。ネットで見ていいなと思う絵を描いている人がいたら真似して描いてみたりして、気に入ったら何でも取り入れてみようみたいな感じです。今はTwitterでも沢山、絵を描いている人がいるしPixivみたいなランキングが出たりもするので上手い人がいっぱいで刺激が凄いですよ。気にする必要はないと思ってもどうしても自分と比べてしまうんですよね。
キャラクターのアウトラインを他の部分の線よりも太目に描くことで、シルエットが強調され、絵を見る人に強い印象を残している。
線画に使うブラシはその日の気分しだいだが、CLIP STUDIO PAINTを起動したときに選ばれているデフォルトのGペンでそのまま描き始めることが多いとか。
※動画では1:52あたりからまごさんがアウトラインを描く様子を見ることができます。
まごさんのクリエイターズ・ストーリー
プライベートワーク(2020)
©まご
――まごさんが絵を仕事にしたいと思ったのはいつ頃ですか。
昔は絵の仕事といっても今のようにイラストレーターみたいな概念が無く、マンガを描かないと仕事にならないみたいな感じだったので、漠然とマンガ家になれたらいいなと思っていたけれど、そこに強い拘りはなくて。自分のWebサイトでイラストを公開したりしている内にカットや携帯サイトのイラストの依頼が来るようになったり、イラストレーターのあきまん(安田朗)さんのサイトの掲示板によく出入りしていたご縁で、仕事場の掃除とかお手伝いをしていた時に、あきまんさんが表紙を描いていた雑誌の編集さんに誘われてマンガを描いたりしましたが、収入としてはでそれだけを仕事にできる感じではありませんでした。
――あきまんさんの掲示板には後にプロとして活躍される方が何人も集まっていましたね。
当時はみんな学生だったんですよね。あきまんさんが好きだったアイドルのあやや(
松浦亜弥)さんの絵を描いたら、「これは天才です」ってすごく褒めてくれたのがすごい思い出なんです。今でも自信をなくした時はそのことを思い出して元気を出しています。
――本格的にイラストレーターとしてお仕事をするようになった経緯は?
精神的に落ち込んでいて何もしていない時期があったんですけれど、アニメ『忍たま乱太郎』にハマったことでメキメキ元気になったんです。ファンサイトを作って月1冊のペースで本を出すくらいの勢いで同人活動をしていたんですが、女性向けはイラストだけだとあまり見てもらえないので、再びマンガを描き始めたんです。同人で描き続けるうちに自分でも自信がついてきて、竹書房の編集さんに声をかけられて「まんがライフWIN」でWeb連載をすることになりました。
『キルラキル』グッズ用SDイラスト(2013)
©TRIGGER・中島かずき/キルラキル製作委員会
――同人活動によって復活したことが、マンガの仕事に繋がったわけですね。
何かに夢中になるパワーで力が出るみたいです。ただ、マンガの連載をしている当時も、バイトをしたり、広告デザイン会社に就職したりと絵以外の仕事もしていたので、絵を仕事にして働いていくぞという感じではなくて、なんでもやりますみたいな感じでした。
――まごさん自身でイラストレーターだと思えるようになったのはいつですか。
イラストレーターとして自覚をもつきっかけになったのは、2016年に『宇宙パトロールルル子』でアニメのキャラクターデザインをさせてもらったことです。それ以前から『キルラキル』のSDイラストを描かせてもらったりTRIGGERさんと繋がりはあったのですが、「そろそろやってみますか」という感じで自分の絵がメインのお仕事をいただいて。私はアニメの現場経験が無いので、同時期にアニメーターの米山舞さんが描いていた『キズナイーバー』の設定画を参考にして『ルル子』の設定画を描こうとしていたんです。その時に監督の今石洋之さんから「いつものまごさんの絵が正解なんだから、無理に合わせようとしないでいい」と言っていただいて。そこで自分の絵が肯定されたことで自信が持てて、イラストの仕事を頑張ろうと思えるようになりました。
――TRIGGERでの一連のお仕事がまごさんにとって大きな転機になったわけですね。
そうですね。ただその後でも好きなスニーカーに関わる仕事をしたいと思って靴屋の倉庫でバイトを始めたりして。自分は絵の仕事ができれば悔いが無いという感じのイラストレーターとは違って、興味がある仕事ならなんでもやってみたいと思うタイプなんですよね。高校生の頃にはお笑いにハマって毎週のように吉本の劇場に通っていたのですが、その勢いでNSC(吉本の養成所)に入ってコンビを組んでいたこともあるんですよ。色々なことをやりすぎて、自分でも何をやっていたのか覚えられません(笑)。
「初音ミク タイトー制服フィギュア」(2019)
©CFM / ©TAITO CORPORATION 2021 ALL RIGHTS RESERVED.
――イラストレーターとしては最近のお仕事状況はいかがでしか。
色々やりたいことがある中でも、イラストはお仕事として大事にしたいと思っていますが、上手い人が沢山いる世界なので、いつまで自分が依頼をもらえるかわからないじゃないですか。だから長く続けていくためには自分で仕事を作らないとダメだと思って、そのとっかかりにオリジナルのTシャツを作ってBoothで売り始めました。イラストレーターやマンガ家は仕事をするのに免許はありませんし、自己申告でなれる世界ですよね。Tシャツのブランドだって始めるのに誰かに宣言する必要はないんだから、やんわり初めてダメだったら止めればいい、くらいの気持ちでやっています。
――これから先やってみたいと思っていることはありますか?
何かやりたいと思った瞬間に、やれるかどうか調べてすぐ始めてしまうので、これからやりたいことというのは難しいですね……。香港にスニーカーストリートという場所があるので、行ってみたいと思っています。あとはアメリカの賑やかな都市とか、海外のこれまでいったことがない場所に行きたいですね。人生の残りの長さを考えると時間がもったいなくて、いつも何が自分にとって一番大切かという優先順位を考えています。今は自分史上で最高に精神状態もいいので、それを保つことを心掛けたいですね。元気なうちにできることをやらないと。
――最後に、まごさんにとってペンタブレットとはどのような存在か教えてください。
2000年から使っているということは、もう人生の大部分、ペンタブを使っています。マウスでカチカチやっていた頃に比べれば圧倒的にスピード感があるので、作業が速くなる分、人生の中でやれることが増える訳ですよね。いろいろやりたい中で今はイラストレーターを仕事にしているんですけれど、液晶ペンタブレットを買うことは、私にとってプロとして仕事をしていく決意表明のようなものだったかもしれません。
取材日:2020年12月22日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
まご
アニメ「キルラキル」SDキャラデザイン、服飾ブランド「PredatorRat」商品イラスト等を手がける。著作に4コマ漫画「ともだちマグネット」などがある。アニメ「宇宙パトロールルル子」ではキャラクターデザインとして参加。