イラストレーター
Anmi
アニメ『ファンタジスタドール』のキャラクター原案や、ゲーム『アークナイツ』『ドールズフロントライン』などのイラストを手がけ、可愛く透明感のある女の子イラストで人気のイラストレーターAnmiさんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2022年5月7日撮影)
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Drawing with Wacom 130 / Anmi インタビュー
Anmiさんのペンタブレット・ヒストリー
「海で会おう」プライベートワーク(2021)
©Anmi
――Anmiさんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
コンピューターに詳しい兄がいて、自分も小学生くらいの頃から家のPCを使ってインターネットで好きなマンガやアニメの情報を検索して遊ぶようになりました。ネットのファンコミュニティで創作している人達に触れて、自分の絵もWebで見てもらいたいと思い、アナログで描いた絵をスキャナで取り込んだり、マウスで描いたりしているうちにペンタブレットの存在を知ったんです。どうしても欲しくて、親にすごくおねだりをして買ってもらいました。
――ペンタブレットを手に入れて、どのように使われていたんですか?
PCを使える時間があまり長くなかったので、色々なツールで試し描きをして遊ぶくらいでした。高校生の頃になると兄が入隊していたので、PCも好きな時に触れるようになりましたが、今度は親から遊んでないで勉強しなさいと言われるので、そこまで自由に使えたわけではなかったですね(笑)。
――液晶ペンタブレットを使うようになったのは?
ずっとIntuosを使っていたので、板型のペンタブレットで描くことに慣れていたのですが、お仕事でマンガを描くことになった時に「マンガ原稿の線を描くには液晶ペンタブレットの方があっているはず」と思ってCintiq 24HDを買いました。予想どおり線を描くのがすごく楽になり、作業スピードも上がったので、マンガ以外でも液晶ペンタブレットが手放せなくなって。新しいモデルが出たら気になって、とりあえず買ってみようというくらいワコムの液晶ペンタブレットがお気に入りになっています。Cintiq 24HDの他にCintiq Companionを使っていたこともあって、2作目のマンガを連載していた時はほとんどCintiq Companionで原稿の作業をしていましたね。
――現在の作業環境はどのようなものですか。
自作PC(CPU:AMD Ryzen 5 5600X/RAM:24GB)にWacom Cintiq Pro 24を繋いで使っています。サブディスプレイは最近、DELL U2311HからEIZO ColorEdge CS2740に買い替えました。Wacom Cintiq Pro 24はWacom Flex Armで設置して60度くらいに立てて使っています。普段使うペンは昔から手に馴染んでいるアートペンで、ハードフェルト芯を使っています。作画ツールは主にCLIP STUDIO PAINTで、特殊なフィルタを使いたい時や印刷用のCMYKデータの調整にAdobe Photoshopを使っています。CLIP STUDIO PAINTはクラウドサービスが充実していて、ブラシや素材もたくさん提供されているのがいいですね。
――Wacom Cintiq Pro 24の使い心地はいかがでしょう?
すごく色が綺麗で描き心地もいいですね。以前は液晶ペンタブレットを使っている時もサブディスプレイを見ながら、ほとんど板型のペンタブレットみたいな使い方をしていたんですけれど、いまはあまりサブディスプレイに頼らずに作業できるようになりました。私の場合、大画面の液晶ペンタブレットを普通に机に置くと画面の奥が遠くて、描いている絵にも微妙にパースがかかるように感じてしまうんです。それもあってサブディスプレイを使っていたのですが、画面の角度を自由に変えられるWacom Flex Armをつけてみたらすごく良くて。PCでゲームを遊んだりする時は机の上を開けられるのも気に入っています。
自作PC(CPU:AMD Ryzen 5 5600X/RAM:24GB/GPU:GTX1060)にWacom Cintiq Pro 24とEIZO ColorEdge CS2740を接続。Wacom Cintiq Pro 24はWacom Flex Armで設置し、立て気味にして作画する。
主な作画ツールはCLIP STUDIO PAINTで、必要に応じてAdobe Photoshop CCを使っている。Wacom Cinti Pro 24の上に引っかけるように置いてあるキーボードで、レイヤー名の入力やショートカットを操作している。
Anmiさんのクリエイティブ・スタイル
「4月の絵」プライベートワーク(2021)
©Anmi
――Anmiさんがイラストを描く時のワークフローを教えてください。
CLIP PAINT STUDIOでラフを描いていきますが、カラーで仕上げる場合はカラーラフまで作るようにしています。その時に塗り分けでレイヤーを作るのですが、そのレイヤー構造をそのまま完成まで使って塗っていくことが多いです。最近は、線画も新しいレイヤーを作ってペン入れをしないで、ラフの線を削ったり加筆したりして、そのまま線画に使うことが多いですね。線画をクリンナップすると線は綺麗になりますが、そのぶん最初に意図していた線の太さやリズムが崩れてしまいがちなんです。最近は少しくらい荒く見えてもいいので、ラフの時の線画の魅力をちゃんと活かすようにしたいと思っています。
――塗り工程はどのように進めていきますか。
髪の毛と肌、服くらいのパーツ分けで塗りマスクを作って下塗りをします。塗りマスクでクリッピングした乗算のレイヤーに不透明水彩ブラシを使って影の色を塗り重ねていきますが、柔らかい雰囲気が欲しい部分にはエアブラシを、塗りのタッチを付けたい部分にはぼかしツールや指先ツールを使って塗りに変化をつけることが多いです。塗りに合わせて、線画でクリッピングしたレイヤーにも光源を意識した色を乗せて色トレス処理もしています。
――ドローイングでは逆光のイラストを描かれていますが、光の表現がイラスト全体の透明感を生んでいるように感じます。
逆光で描くとかっこいい絵になるのでよく使う表現ですね。光の演出はイラストを計画する段階から光源を決めておくことが大切です。キャラクターの輪郭、服や肌に光が当たったときにどこが明るくなって、どこから暗くなるのかという境界をちゃんと表現することで、ライティングの良さを見てもらいたいと思っています。
――絵の中で光が当たって明るくなっている部分がすごく印象的に見えます。
絵を見る人は影よりも光の方に目が行くので、明るい部分をより繊細に描画しておくと、それらしく感じてもらえるんです。光の表現は、通常レイヤーで明るい色を塗った上に、オーバーレイで光源を意識した色を重ねています。ドローイングでは左上の光源に近い方は白に近い暖色を、光源から遠い右下には寒色をオーバーレイのレイヤーで乗せました。さらに明るい感じを出したいときは、加算(発光)レイヤーを使ってハイライトを入れたりすることもあります。
「舞台で」プライベートワーク(2020)
©Anmi
――Anmiさんのイラストは透明感がある肌の塗りも魅力ですね。
最近は写実的な表現が流行っているので、服の質感とかはリアルに表現することが多いですが、肌は塗りでタッチを入れすぎると汚く見えてしまうので、あまり生っぽくならないよう意識して、あえてフラットに塗るようにしています。色を塗っている部分と隣り合った場所に白い部分があると眩しさが感じられるのですが、このコントラストが絵の透明感にもつながると思っています。
――キャラクターのポージングやファッションはどのように考えていますか?
イラストの参考にファッションのSNSなどはよく見ていますが、私の描くキャラクターはあまり服を着ていないのでコーディーネートという概念がほぼないんです(笑)。お洒落な服を着せるよりも、ドレスやランジェリーで女の子のシルエットやラインを可愛く表現したいという気持ちの方が強かったかもしれません。肌を綺麗に見せたいので透ける素材も好きですね。白い服でも生地の塗りに肌の色を入れて透け感を出すようにしています。
――キャラクターの顔を描く時に意識している部分はありますか?
顔については、リアルすぎないほうがいいと思ってあまり鼻を描かないようにしていたのですが、最近は少し考えが変わってきて、少しずつ立体感を入れるようになりました。まつ毛とかもアニメのキャラクターデザインくらいの情報量でいいと思っていたんですけれど、最近はもう少し繊細に描くようにしています。
――Anmiさんが描く顔の、頬から顎にかけてのぷにっとしたラインが可愛いです。
昔のアニメのキャラクターはこういうフェイスラインをしていたので、その影響かもしれませんね。すごく繊細な部分で、描き方を変えてみるとまったく別の絵柄になってしまうので、このぷにっとしたライン無しでは自分の絵柄が可愛くならないのではと思っています。
『アークナイツ』エイヤフィヤトラ(2017)
© Hypergryph
――絵柄的に影響を受けた作品やクリエイターはいますか?
韓国でもネットで「美少女」を検索すると日本の美少女キャラクターのイラストがたくさん出てくるんです。七瀬葵さんとか、「ToHeart」「こみっくパーティー」みたいなゲームの絵をいっぱい見ていたので、自分が描く女の子のキャラクターはそのイメージを追いかけているかもしれません。それ以外にも、大槍葦人さん、京都アニメーション作品の堀口悠紀子さんの絵柄からは大きな影響を受けています。
――女の子をモチーフにしたイラストを描かれることが多いですが、「美少女」がAnmiさんの作風のベースになっているんですね。
そうですね。女の子を描くイラストレーターとして知られるようになって、もう10年くらいなので、仕事の依頼もそういうモチーフを求められることが多いです。その分、新しい挑戦をするのがなかなか難しいのですが、いつか世界観や物語を感じさせるような絵を描けるようになりたいと思っているんです。ただ、それには絵に対する考え方そのものから変えていかないといけないので……。
――考え方というのは?
以前はイラストを描く時に、可愛い女の子を1人描くことができればいいと思っていたんです。でも最近は絵を描くためにストーリーを考えて、そのシナリオの中の一場面を想定して描いてみたりします。そのために歴史の本を読んだり、和服について勉強してみたり、これまでそういう苦労をあまりしてこなかったので。自分の絵について可愛いとか、透明感があると言ってもらえることが多いのですが、絵柄の流行は変化するものなので、それだけに頼っていたらイラストレーターとしてこの先生き残れるか心配で。自分に求められているものに応えつつ、新しい方向性を試していければいいなという気持ちです。
ライティングを意識した逆光の表現でキャラクターを美しく見せるAnmiさん。
オーバーレイや色トレスなどのテクニックを効果的に組み合わせて光の色を感じさせている。
塗りレイヤーを見ると肩や背中など光が強くあたる部分を白く残しているのがわかる。
シンプルだがこの塗りのコントラストが最終的に眩い光を感じさせているのに注目。
※動画では3:59からAnmiさんの塗り作業を見ることができます。
Anmiさんのクリエイターズ・ストーリー
「Febri Vol.29」表紙イラスト(2016)
©GAINAX/放課後のプレアデス製作委員会
――Anmiさんが絵を仕事にしたいと思ったのはいつ頃ですか?
小学生の頃から絵を描くことが好きで、マンガ家やイラストレーターになりたいと思っていましたが、親は安定した職についてほしがっていたので、大学の教育学科に進学しました。学校の先生になって、夏休みや冬休みの間に趣味で絵を描けばいいと考えていたのですが、実際に教育実習で子供たちを目の前にしたときに、そんな簡単な仕事じゃないと怖くなってしまったんです。
――そこからどのようにしてイラストの道に進まれたのでしょうか。
親を説得するのにも時間がかかりましたし、大学を卒業するまでしばらく猶予があったので、pixivに絵を投稿したり、交換留学生として日本に留学してみたりしながら、自分がどれだけ絵の仕事をできるのか可能性を探っていました。運よく、日本にいる間にイラストのお仕事がいただけるようになって、そこからだんだんイラストレーターとしての活動も広がっていった感じです。
――初めてのお仕事はどのようなものでしたか?
韓国で出版されるライトノベルの挿絵が最初のお仕事で、日本では『朗読少女』というアプリのアンソロジーにイラストを描かせてもらいました。とはいえ、これだけで食べていける訳でもなく、親からしたらイラストを描いて稼ぐという概念が未知のものなので。日本に来てから初めてコミティアにサークル参加した時に、ちょうど韓国から遊びに来ていたお母さんが会場までついてきたことがあったんです。そこでイラストの同人誌を買うために大勢の人達が並んでいる光景を目にして、初めてイラストレーターという職業の可能性を感じたのかもしれません。
―――サークル参加はコミティアが初めてですか?
オリジナルの女の子のイラストを描きたいと思うようになってから、コミックワールドという韓国最大の同人誌即売会にサークル参加していました。
――自分の中でイラストレーターだという自信が持てたのはいつ頃でしょうか。
それがないんですよ(笑)。いくつか仕事をもらえるようになっても、会社員ではないので常に仕事があるわけでもなかったですし。大学を卒業してから2~3年ならやり直せると思っていたので、しばらく頑張ってみて、続けていくのが難しければ諦めて別の道に進もうという気持ちでなんとなくやっていたら、いつの間にか仕事になっていた感じです。親も私が楽しく仕事をしているのを見て、それならいいかと思ってくれたと思います。
――アニメ「ファンタジスタドール」のキャラクターデザイン原案にも抜擢され、お仕事としてはかなり順調な滑りだしだったのではないでしょうか。
アニメのキャラクターデザインは、色々な縁がないとできないので、本当に運がよかったと思います。最初に「ファンタジスタドール」の話をいただいた時はびっくりしましたが、日本の業界のこともよくわかっていなかったので、こういうものなのかなという感じで。いま振り返ってみると、すごいことですよね。
――2019年には画集「CRYSTAL CLEAR Anmi作品集」も出されています。
『放課後のプレアデス』のコミカライズ連載でお世話になった一迅社の編集さんからずっと誘われていたのですが、なかなか自信がなくてずっと後回しにしていたんです。画集を出すということはイラストレーターとして一つの大きな夢でもあったので、これ以上は出すものがないというくらい、全てを詰め込みました。それだけに、画集が出た直後は自分の目標を失ってしまった感じがして、少し苦しかったですね。
『自分で切り開く道』「絵師100人展 12」出展作品(2022)
©産経新聞社/Anmi
――この先やってみたいお仕事とか、挑戦したいことはありますか?
最近はアニメを使ったMVとか、SNSで見られるような面白いショートアニメとかが流行っているので、自分の絵を動かして動画を作ってみたいと思っています。イラストレーターが活躍できる場所が増えたぶん、求められる能力も多様化しているのを感じます。
――最近のお仕事についてはいかがですか。
今は新しいお仕事は少し控えていて、『ドールズフロントライン』や『アークナイツ』のキャラクターのスキンのような継続して担当している仕事を主にやっています。あとは同人誌でオリジナルの作品を発表することですね。
――先月には「絵師100人展 12」で久しぶりに日本に来られて、イベントにも参加されていました。
コロナ禍で長い間、落ち込んでいましたが、絵師100人展のサイン会やCOMIC1に参加して、たくさんのファンの方や他の作家さんと会うことができたのはすごく元気がもらえました。次のコミックマーケットも参加したいと思っています。
――最後に、Anmiさんにとってペンタブレットとはどのような存在でしょうか。
自分にとって、ワコムのペンタブレットは「欠けたら困る存在」です。絵を描くのに長い間ワコムのペンタブレットを使ってきたので、もう他の選択肢はないですし、どれだけ他に描きやすいデバイスが出てきても、やっぱり仕事絵を最後まで仕上げるにはWacom Cintiq Proが必要なんです。だからこれからもワコムさんにはよろしくお願いします。
取材日:2022年5月14日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
Anmi
イラストレーター。韓国のライトノベル作品『일편흑심(一片黒心)』の挿絵で初めて商業のイラストを手がけ、その後、MF文庫J『アキハバラヴァンパイアナイト』などライトノベルのイラストやゲームのカードイラストを担当するようになる。日本への留学中にアニメ『ファンタジスタドール』のキャラクターデザイン原案に抜擢され注目を集める。同作のスピンオフ作品『ファンタジスタドールMix』やアニメ『放課後のプレアデス』のコミカライズなどマンガも執筆している。2019年には画集『CRYSTAL CLEAR Anmi作品集』を上梓すると共に、自身初の個展「SUPERBLOOM」も開催した。同人サークル「メガネ少女」として同人誌即売会にも積極的に参加している。
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