イラストレーター
荻pote
アニメの一場面のような質感で、キャラクターのエモーショナルな瞬間を切り取る精細なイラストが人気のイラストレーター荻poteによる「Wacom Cintiq Pro 27」を使ったライブペインディングを公開!(2026年6月14日撮影)
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Drawing with Wacom 156 / 荻pote インタビュー
荻poteさんのペンタブレット・ヒストリー
個展「彗月」メインビジュアル(2022)
©荻pote
――荻poteさんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
子どもの頃から絵が好きで、描いたものを周りの友だちに見せていたんです。高校生になって初めてオタクの友人ができて、深夜アニメとかいろいろな沼に引きずり込まれたんですけれど、その流れで、今の時代はデジタルで描くんだと教えてくれて。高校生のお小遣いでも手に入れやすかったBamboo Fun(CTE-450)とSAIを使って描き始めたら、アナログにはない「プロっぽさ」が絵に宿って感動したのを覚えています。友人たちも絶賛してくれたので、どんどんデジタルイラストにのめり込んでいきました。
――液晶ペンタブレットを使うようになったのは?
しばらくBamboo Funを使っていて、大学生活の中盤くらいにCintiq 22HDに買い換えました。当時、試し描きをしてみて、上位機種に比べて値段が控えめだったのもありますが、画面の色味が自分の好みにあっていて、こっちがいいと選んだ記憶があります。液晶ペンタブレットは感覚的に描けるので、使い始めてすぐ慣れて、移行に困ることはありませんでしたね。念のため予備でWacom Intuos Pro Largeも持っていますが、ぜんぜん出番がありません。
――現在の制作環境はどのようなものですか。
自作PC(CPU:Intel Core i9-10900/RAM:32GB/GPU:NVIDIA GeForce RTX2070 SUPER)に、Cintiq 22HDと27インチの湾曲ディスプレイ(ULTRA PLUS UP-P27Q180)を3枚繋いで使っています。主な作画ツールはSAIで、キーボードに加えてサブデバイスのGriffin Technology PowerMateでキャンバスの拡大縮小などの操作をしています。
――今回、最新のWacom Cintiq Pro 27で描いてみた感想はいかがでしょうか。
発表されてすぐに新宿にあったワコムブランドストア(現在は西新宿でWacom Baseとして営業中)で試し描きをしたので、描きやすさは知っていたのですが、やっぱり全てがこれまでの機種の上位互換としか言いようがないですね。画面の発色もよくて見やすいし、ペン先の視差もほぼ無いので描いていて気持ちいいです。ペンは軽い方が疲れにくいと思うので、好みに合わせてカスタマイズできるWacom Pro Pen 3も面白いです。
白と黒で統一感のあるデスクに、オリジナルイラストの青が映える荻poteさんの作業環境。
自作PC(CPU:Intel Core i9-10900/RAM:32GB/GPU:NVIDIA GeForce RTX2070 SUPER)にCintiq 22HDを繋いでいる。
前面を取り囲むように設置された3枚の27インチ湾曲ディスプレイ(ULTRA PLUS UP-P27Q180)が壮観。描き上げたイラストは右手のiPadやiPhoneで色の確認をすることが多い。左手にはホイール型のサブデバイスGriffin Technology PowerMateや、YAMAHAのオーディオインターフェースAG03などが置かれている。
荻poteさんのクリエイティブ・スタイル
――荻poteさんがふだんイラストを描く時のワークフローを教えてください。
SAIで自由変形を使ってパーツの形やバランスを整えながらスケッチ(大ラフ)を描いて、ポーズや大体のレイアウトができたら線を整えて下描きにします。清書で線画をクリンナップしたら、パーツごとに作った塗り分けレイヤーでクリッピングしながら影をつけて着彩、ひととおり塗り終えたら発光やオーバーレイ、レンズフレアなどの素材を使って撮影処理を加えて仕上げることが多いです。
「effect」プライベートワーク(2024)
©荻pote
――ドローイングを見ると、ラフは線を変形させながら描くのに対し、クリンナップはストローク1発で綺麗な線にすることを強く意識している印象です。
意識はしていないですが、受験のデッサンでストロークを練習していた影響はあるかもしれません。アニメーターみたいな気持ちいいストロークで勢いのある線も大切なんですけれど、性格的に図形のような整った線にしたいところもあるので、ラフで描いた後に変形するようなスタイルになっていった気がしますね。両方の良さをもった、綺麗かつ勢いがある線を目指しています。
――アニメ塗りやセル塗りは線のきれいさも必要だと思いますが、作業の中で線画にかける比重は大きいのでしょうか。
線がきれいと言っていただくことは多いので、確かに他の方に比べると線にかける比重は大きいかもしれません。色は基本的に肌なら肌で、ベースになる固有色を大事にしたいタイプなので、カラーラフを作らずに塗り分けをしてから全体のバランスを考えて色を決めることが多いですね。
――仕上げ段階ではどのようなことをされているのでしょうか。
色を乗せ終わった時点で、最初に目指していたイメージにはほぼ近くなっているので、そこからは絵をまとめつつ、プラスアルファで何かいいことが起きればいいなという気持ちで、いろいろな効果を試しています。最初から完成形が見えているわけではなくて、とりあえず試してみて、よくなったと感じたものを採用する。手探りでどんどんトッピングしていくような感じですね。
――ドローイングで描かれたイラストでは、透明な素材の表現が目を引きます。
透明なものって、光の反射や屈折を入れることで情報量を増やしやすいんです。決まった描き方があるようでないので、自由に描けるのも面白くて、よく使っているモチーフです。光の屈折や反射みたいな、実物の物理法則を観察して描くというよりは、肌の色を映り込ませたり、光が乱反射しているような効果を加えたり、手癖でそれっぽく見える表現を探りながら描いています。
――荻poteさんのイラストの特徴的なスタイルは、どのようにして生まれたのでしょうか。
ひとことで言えばこういう塗りが好きだからなんですけれど、もともとサブカルチャーに興味を持ったきっかけがアニメでしたし、SAIで絵を描き始めたころにニコニコ動画やYouTubeで見ていたメイキング動画がアニメ塗りだったんです。それを真似しながら、京都アニメーションの『けいおん!』のような可愛い絵が描けたらいいなと、デジタルイラストにのめり込んでいきました。せっかく一枚絵を描くのにアニメの場面写1枚に負けていたらもったいないと思って、どんどん手を加えていった結果が今のスタイルですね。
――イラストを描くときに、特に意識していることがあれば教えてください。
ひと目で自分の作品だとわかることですね。自分のトレードマークになればいいなと思って、線画を途切れさせたり、レンズフレアのような効果も自分の絵にあった表現としてカスタマイズした素材を作ったりして、いろいろなアイデアを盛り込んできました。手描きのセクシーさが好きなので、整えすぎない手描きならではの部分も大切にしています。そういう独自のテクニックみたいな部分を真似されると嬉しい反面、差をつけなければとも感じるので、日々、自分だけの新しい表現を考えながら描いています。
「evidence」絵師100人展 大阪・関西万博篇 出展イラスト(2025)
©産経新聞社/荻pote
――オリジナルイラストを多く描かれていますが、作品のモチーフはどこから来るのでしょうか。
日常の中で自分の感情が動いた瞬間がとっかかりになっています。花火を見に行ったり、カフェで飲み物のグラスをきれいだと思ったり、音楽やファッションに惹かれたり……。そこから、どんなキャラクターやストーリーを乗せようかと広げていくイメージです。それ以外にも、ギターとか音楽のガジェットみたいなものを単純にかっこよく描きたいというモチベーションから始まることもあります。基本的には、自分が惹かれたものを、女の子のキャラクターに重ねて描くことが多いですね。
――「絵師100人展」のようなテーマのある展示で、荻poteさんはちょっと捻った構図やモチーフの作品を出されている印象があります。
僕はネガティブな性格なので、テーマをそのままストレートに描いても面白くないというのはありますね。晴れがあれば雨もあるように、ネガティブなものを美しく昇華したいという意識があって、その中でいかに自分らしさを出せるかを考えています。オリジナルイラストのモチーフは、以前はノスタルジックなものが多かったんですけど、いろんな土地に出張したりするうちに、都会的なカルチャーのよさもわかってきて。自分の中にも余裕が出てきたのか、もともと好きだったパンクミュージックみたいなのを絵の題材にしてもいいのかなと思えるようになってきました。
――絵を描いていく上で、影響を受けたクリエイターや作品はありますか?
イラストレーターだと、かんざきひろさんに大きな影響を受けています。学生のころはpixivが世界のすべてみたいな感覚だったんですけど、そこで目にした中でもとにかく絵がうまくて、「アニメ塗りでこんな絵が描けるんだ」と衝撃を受けました。今でも憧れの存在ですね。女の子の描き方では、京都アニメーションの『けいおん!』の影響が大きいです。ちょうどデジタルイラストを描き始めたころに夢中になって、あずにゃんを何度も描いていました。キャラクターの描き方だけでなく、キラキラした画面の仕上げなどにも影響を受けています。
アニメの一場面のような塗りに目がいきがちな荻poteさんのイラストだが、その魅力は線によるところも大きい。
ラフ工程はパーツごとに変形させながらキャラクターの造形を組み立て、下描きでは線を1本ずつ新しいレイヤーに描いては自由変形で調整しながらラフの線を整えていく様子が見られ、ストロークを活かして一筆できれいな線を描いていくクリンナップとは対照的。自身のトレードマークになっているという、部分的に線画を途切れさせるテクニックにも注目。
※動画では2:20から荻poteさんが下描きでラフの線を整えていく作業を見ることができます。
荻poteさんのクリエイターズ・ストーリー
逢縁奇演『こちら、終末停滞委員会。』(電撃文庫)
カバーイラスト(2024)
©Aiencien 2024
――荻poteさんが絵を仕事にしたいと思うようになったのはいつ頃ですか?
小さい頃から絵を描くことは好きだったのですが、当時はイラストレーターという職業を知らず、画家というのも大げさな気がするので、美術の先生になれたらいいなと思っていました。高校生になって、デジタルで絵を描くようになってから、趣味だと思っていたものが仕事になるんだと気づいて、だんだんそうなれたらいいなと思い始めた感じですね。
――学校などで専門的に絵を勉強されたことはあるのでしょうか。
高校の美術部に入っていて、大学受験のために画塾で基礎的なデッサンを学びました。大学は教育学部で美術教員をめざす課程に入って、3年生になると油絵とか彫刻とかコースがわかれるのですが、すごくクリエイティブで尊敬している先生がいたので、この人に学びたいと思って日本画を選択しました。直接的にいまのスタイルとは結び付かないですが、全て自分の身になっている気がします。
――ネットで個人的に作品を発表したり、同人活動をされたりはしていましたか?
本格的にデジタルで描くようになってすぐpixivやSNSにイラストを投稿するようになって、高校3年生くらいからpixivのランキングに入れるようになりました。オタクの世界を教えてくれた友人に誘われて、地元の小さなイベントでコピー誌をつくるのに始まって、ガタケットやコミケに参加するようになり、大学生の頃には本格的にオフセットの本を作って同人活動をしていました。
――初めて自分の絵が仕事になったときはいかがでしたか?
高校生の間に有償でイラストのオファーを頂くようになって、バイト感覚でお仕事を始めていました。初めての依頼は海外のゲームのキャラクターを描く案件で、かなり大きめのオファーで、筋肉ムキムキのイケメンキャラが中心だったんです。今思えば自分が描いているモチーフとのギャップがすごいんですけれど、まだ若くて怖いもの知らずだったので、ビジネスマナーとかメールの書き方を勉強しながら、命からがらこなしました(笑)。
――これまでのお仕事で、特に印象に残っているものがあれば教えてください。
行政の案件やお祭りのビジュアルみたいな、地元に密着したお仕事はどれも印象深いです。絵を見てくれた人のリアクションや盛り上がりを肌で感じられるだけでなく、よく知っている土地や文化のことなので、他の誰よりも高解像度でイラストに昇華できている感覚があって、やりがいも大きいです。イラストレーターになったばかりの頃に、地元の案件で描いた絵がボツになったことがあって、ずっと悔しい気持ちを抱えていて……。成長していろいろな仕事をこなす中で、地元からオファーを頂けるようになったときは、胸がスッとしましたね(笑)。
――ご自身で代表作と思っているお仕事はありますか?
いただいたお仕事や関わる企画についてはもちろん全力でやっていますが、自分のブランディングとして、特定の作品と結びつきすぎないほうがいいのかなと思っていて、あえて「代表作」みたいなものを作らないようにしているんです。求められるものの傾向が固まってしまうと自由に描けなくなる気がするので、意識的にクライアントさんやお仕事の種類を幅広くするようにしています。
――2021年にはマイルストーン的な画集『あいきょう』(KADOKAWA)を上梓、翌年には個展「彗月」を開催されていますね。
それまでの作品を全て出しきったので、個展が終わったときにはもうゼロになっていました(笑)。作品だけでなく、アイデアも全部乗せようという気持ちでやったので、ここから先また同じボリュームでやっていけるのかという不安もありました。でも、個展の後からどんどんお仕事が増えていって、クライアントワークでも自分の作風を発揮することを求めてもらえるようになったので、仕事が楽しくなりましたね。
『イラスト、命の宿し方』(KADOKAWA)
カバーイラスト(2026)
©荻pote/KADOKAWA
――この先、やってみたいお仕事や挑戦してみたいことはありますか?
アニメや音楽が好きなので、メディアミックス的な大きなプロジェクトで作品をつくってみたいです。「クリエイターチーム」って響きがかっこよくて、憧れがあるんですよね(笑)。僕はたまたまイラストが得意なので、それを突き詰めていますけど、動画やアニメ、音楽など、ほかのジャンルのものづくりにもすごく興味があるんです。いろいろなクリエイターと一緒にものをつくって刺激を受けたいし、あわよくば自分もちょっとかじってみたい。そういう仲間の一員になれたら、すごく楽しいだろうなと思っています。
――最近のお仕事について教えてください。
最近はありがたいことにキービジュアルのような案件が多いので、責任を感じながら気合いを入れて描かせていただいています。直近だと、イラストを担当しているライトノベル『こちら、終末停滞委員会。』(逢縁奇演/KADOKAWA)の6巻と、ZEN大学で講義した内容を元にした『イラスト、命の宿し方』(KADOKAWA)という書籍が発売されました。講師やトークイベントのお誘いも増えていて、違う土地に行って色々な世界を覗くことは自分にとっても刺激になるので、なるべくお応えしたいのですが、あくまでクリエイターとしてのスタンスが第一なので、泥臭くキャンバスに向かい続ける人間でいたいと思っています。
――最後に、荻poteさんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか。
日々の生活の中で、布団よりも長い時間を共にしていて、枕よりもいい夢を見させてくれる最高の相棒ですね。ペンタブレットとの出会いが、自分の表現をデジタルの世界に昇華させて、プロのイラストレーターにしてくれたと感じています。
取材日:2026年7月31日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
荻pote
新潟県出身のイラストレーター。アニメ調の精細な画風で知られ、幅広いフィールドで活躍している。エモーショナルな瞬間を切り取った画面構成と、魅力的なキャラクターが人気を得て、ゲームやライトノベルなどのキャラクターデザインやキービジュアルを多く手掛ける。2021年に個人画集『あいきょう』(KADOKAWA)を、2026年6月には自身の講義を元にした書籍『イラスト、命の宿し方「描きたい」を「仕事」に変える! 悩める絵描きの処方箋』(KADOKAWA)を上梓している。
⇒ twitter:@ogipote
⇒ Webサイト:Ogipote from いもむすめ。




