イラストレーター
カオミン
風景や景観に対して特別な愛着を持ち、特に、時の経過とともに失われていくものの叙情を描き出すことにこだわりがある。少女のモチーフとともに描かれる美しいイラストには定評があり、『少女手帖』(集英社オレンジ文庫)の装画や『制服少女 School Girls Illustrations』(マール社)への寄稿などで知られるイラストレーター・カオミンさんによる、クリエイティブタブレット「Wacom MobileStudio Pro 16」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 081 / カオミン インタビュー
『鉄塔千鳥線』
プライベートワーク
©カオミン
――カオミンさんは昔から絵を描かれていたのでしょうか?
私は北海道出身なのですが、地元の風景や街並みが子どもの頃から好きだったので、この題材でよく絵を描いていました。喘息で入院しがちだったため、窓から見える線路や電車が楽しみで、より好きになっていったという部分もあると思います。後に、JR北海道の絵画コンクールに応募して、社長賞をもらったこともありました。それから、地元に炭鉱の廃墟があって、そこを見ることも好きでした。今でもこの廃墟を見るために地元に帰省したりしています。
――学校などでは絵を描く活動はしていましたか?
大学に入るまでは絵とは無縁な部活動ばかりしていました。小学校と中学校の頃は野球部で、高校では理科研究部です。そういうこともあってか、周囲に絵を描く趣味の友だちもおらず、私も自分が絵を描いていることを隠すような感じになってしまいました。私の実家はお寺なのですが、家族にも絵を趣味にする人はいなかったので、毎夜毎夜、布団をかぶってこっそり絵を描いていた記憶があります。
――大学ではいかがでしたか?
景観が好きだったことが高じて、上京して地理学科のある大学に入学しました。そこでマンガサークルに入りまして、同じような趣味の人と活動することができるようになりました。サークルでは機関誌の制作を中心に活動していて、私もイラストやマンガを制作しました。自分の作品を人に見てもらうのは初めてだったので、大きな励みになりました。
『少女手帖』
カバーイラスト
©集英社
――イラストレーターを目指すきっかけは何でしたか?
大学4年の時に、自分がやりたいこと、できることは何だろうということを考え抜いた結果、最後に残ったのがイラスト制作だったんです。ただ、それまでの自分の技量は仕事にできるようなレベルではなかったので、専門学校に入ることにしました。それまではアナログでしか絵を描いたことがなく、専門学校に入って初めてデジタルイラストを学びました。
――専門学校での勉強の様子を教えてください。
入学してみるととても上手いクラスメイトがいて、そういう人と自分を比較して非常に不安になっていました。不安を払拭するために、最低限、クラスで一番よいものを描こうという条件を自分に課してイラストに取り組みました。それから、毎日何かしらイラストを描き、着手したからには完成させるということを2年間やり通しました。その成果があったのか、専門2年目の頃には講師の斡旋で仕事を頂けるようになりました。また、卒業制作で廃墟をテーマにしたイラストを描き、Pixivで共有したところ、かなり反響がありまして、それをきっかけに商業の仕事をいただけるようになりました。専門学校卒業後は、ゲーム会社などに所属しながらイラスト制作しつつ、フリーでも仕事を請け負っています。
――仕事として絵を描いていく上で気づいたことや注意していることはありますか?
仕事で絵を描くようになって、人が何を求めているのかに自分がいかに無頓着だったかということを痛感しました。仕事を重ねる中でニーズをどう捉えるか、どう満たすかということを学んでいきました。それと、技術的にはできるはずなのに詰めが甘くてできない部分がある、という事態にも直面しました。自分の中で100%の出来だと思って提出したイラストが、先輩社員に手を入れられて、10倍くらいクオリティが上がってかえってくる、ということがあって、大きな挫折感を覚えました。私の技術が足りない場合のみならず、単純に気が回っていないなど、色々と要因があるのですが、そういうところを詰めていくことが仕事として絵を描いていくことなのだと思って取り組んでいます。
『いつもの場所』
プライベートワーク
©カオミン
――改めて、デジタル環境の遍歴についてお伺いできますか。
もともと父親のPCを借りて中学生の頃からインターネットをやっていましたが、デジタルイラストのための環境を揃えたのは、さっき述べたように専門学校入学からです。当初はBambooとSAIで絵を描いていましたが、すぐ後にMacbook Proを購入しまして、イラストソフトもCLIP STUDIO PAINT PROとPhotoshop CCを使うようになりました。専門卒業後にIntuos4 Mediumを導入し、後に会社の環境に合わせることを目的にCintiq 13HDに乗り換え、ちょうど最近、まさにWacom MobileStudio Pro 13を導入したところでした。これが私の最新のイラスト制作環境です。
――今回ご利用いただいたのはWacom MobileStudio Pro 16でしたが、使い心地はいかがでしたか?
それまで使用していたCintiq 13HDと比較すると、タッチ操作にさえ慣れてしまえば、イラスト制作という点ではかなり使いやすいと感じました。液晶の表示もシャープで、より繊細な描写ができるようになったと思います。実際、今回の作品ではあまり拡大をすることなく作業ができました。いざとなれば、もっともっと細かく描き込むこともできたと思います。また、専用スタンドを使うことで、より使用しやすい角度に調整できるのも魅力的です。
普段使用しているWacom MobileStudio Pro 13の感想になりますが、こちらは名前の通り非常に持ち運びがしやすく、それまでパソコンとペンタブレットを持ち歩いていた私には、一つのデバイスを持てばどこでも絵を描けるようになったことが非常にありがたいです。ちょっと外出したときにも使用したいというニーズが大きい方には13インチが、少しでも大きい画面で作業をしたいとか4K表示にこだわりがあるという場合には16インチが、それぞれ選択肢として用意されているのは嬉しいですね。
『ダウナーポップ 憂鬱カタログ』
ジャケットイラスト
©カオミン
――今回の制作イラストのコンセプトについて教えてください。
「過ぎていく時間の儚さ」をテーマに制作しました。作中で女子高生が振り返っていますが、実際にはどんどん前に進んでいる状況の、一瞬を切り取ったシーンです。奥に車が走っていますが、テールライトの輝きに流れ行くものというイメージを込めています。冬という季節感や、白い息、積もった雪なども、儚さを想像させるためのモチーフです。背景の建物は、実は1960年代の建築物を再現しています。ありふれた建物に見えますが、実はそこにも歴史があり、しかしいつ消えてもおかしくない――。切り取られた日常の一瞬一瞬の中に、そういうかけがえのなさがあるのだということを表現したくて、今回はこの絵を描きました。少女の表情を中心に、何か絵の奥に秘められたものがあるような感じを受け取っていただければ嬉しいです。
――最後に、今後の展望をお願いします。
これまではゲーム業界を中心に絵を描いてきましたが、小説などの書籍の仕事をさせていただく中で、もっとこの仕事をしていきたいと思うようになりました。ゲームの場合は特にストーリーとは関係のないキャラクターデザインを担当することが多かったのですが、小説の場合は、ストーリーなどの具体的な背景設定と絡めてキャラクターのデザインを考えることができ、それが自分の作風と合っているように思いました。ですので、この方面での制作をもっと突き詰めていきたいと考えています。
取材日:2018年2月8日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
カオミン
北海道出身のイラストレーター。大学では人文地理学を専攻し、田園都市理論などを学んだ。風景・景観というものに特別な愛着を持ち、そこにある「未練」のような叙情を描き出すことを追求しており、少女のモチーフと組み合わせることで多くの美しいイラストを生み出してきた。主要な仕事に『少女手帖』(集英社オレンジ文庫)の装画や『制服少女 School Girls Illustrations』(マール社)への寄稿がある。ゲーム業界でのイラスト制作からキャリアをスタートしたが、現在は紙媒体での活動をますます広げている。