イラストレーター
北澤平祐
初野晴、中山七里、舞城王太郎、綿谷りさなど人気作家の装丁画や、『渋谷ヒカリエ6周年イベント シブピカ博2018』のキービジュアルなど、ふんわりとしたトーンを持つ独創的な作風で人気のイラストレーター・北澤平祐さんによる、液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 083 / 北澤平祐 インタビュー
――北澤さんとデジタルイラストレーションの出会いについて教えてください。
10歳からアメリカに住んでいて、向こうは褒めて伸ばす教育なので、それほど絵が好きでもなかったのに、高校のアートクラスの先生に褒められてその気になりました。それで、大学は卒業生の半数近くがウォルト・ディズニー・スタジオやニコロデオンで働いているくらいアニメーションが盛んな、カリフォルニア州立大学フラトン校というアートに強い学校に進んだんです。私が専攻したイラストレーションのクラスはどんな画材を使ってもよかったので、デジタルを使って描くことにしたのが始まりでした。
――学内での制作としてデジタルアートは一般的だったんですか?
学校にコンピューターラボがあって一体型の小さなMacintosh SEが自由に使えたんですが、当時はまだデジタルイラストレーションの草創期で先生も教えられる人がいなくて。今みたいにネットの情報も無いので、みんな手探りでやっていました。そのぶん、独創性があって面白かったですね。そのまま大学院に進んで、2年間くらい母校でデジタルイラストレーションの講師もやっていました。
――イラストレーターとしてお仕事をされるようになったのは?
一時帰国した日本で個展を開いた時に出会った奥さんと結婚することになり、26歳で日本に戻ってきたんです。最初の半年はギャラリーでバイトをしていたのですが、奥さんにそのままズルズルいくのはよくないと言われて、出版社に持ち込みを始めたものの結果はボロボロで。それで友達のCDのジャケットを描いたり、アメリカからくる仕事をやっているうちにだんだん日本での仕事の依頼も増えていきました。
FLOWER BY KENZO香水パッケージ
アートディレクション: Caius VON KNORRING (KENZO Parfums)
――そこから徐々に本格的にお仕事をされるようになったんですね。
転機になったのは、フランスのファンションブランド「KENZO」の香水を6種類デザインする仕事ですね。本当に謎で、いきなりメールが来て、来日した社長が会いたがっていると言われて、半信半疑で新宿まで行ってみたら「好きにやってください」と言われたので驚きました。 まだ自分のWebサイトにも仕事の絵がほとんどない頃だったので、あしながおじさんでもいるんじゃないかと思いましたが、おかげでそこから色々繋がっていくようになりました。
――書籍の装丁も数多く手がけられていますね。
同じ頃に、初めて講談社からミステリ作家の初野晴さんの「トワイライト・ミュージアム」の装画をお仕事を頂いたんです。書籍の世界は狭いみたいで、ひとつやると、それを見た別の出版社さんからも声がかかるみたいな感じで増えていきました。日本でイラストレーターとして認められたのは、書籍のお仕事のおかげですね。
――これまでで特に印象的なお仕事はありますか?
「フランセ」という洋菓子ブランドのパッケージデザインですね。デザイナーのカサイタツヤさんと二人で、初めてブランディングからやらせていただきました。全体の統一感を出しつつ、それぞれのパッケージを全て違う画材や手法で描くというコンセプトで作りました。 以前、河西さんと組んで大阪音大の100周年記念ポスターをやった時に、3種類のポスターを3人の違う人が描いた様に見せて欲しいというちょっと面白いオーダーで、それが上手くいった事がパッケージのコンセプトに繋がっています。
フランセシリーズパッケージ
アートディレクション、デザイン: 河西達也(ザッツ・オール・ライト)
写真:中村治
――お仕事の中でアナログとデジタルはどのように使い分けているんですか?
デジタルも画材のひとつで、水彩絵の具や色鉛筆と同列にワコムのペンタブレットがあると思っています。ただ、デジタル技術は進化するという点でアナログの画材と違っていて。液晶ペンタブレットの画面が精細になったり、色が綺麗になれば、わざわざサブディスプレイで確認する必要も無くなるので作業の集中力も高まりますし、作業効率が良くなったぶん、いろんな色を試してみたくなるので、絵そのものもかなり変わってくるんじゃないかと思います。
――作業スタイルの変化が、絵の内容にも影響してくるんですね。
仕事をしていると「〇〇の時の絵柄でお願いします」みたいな依頼をいただくことも少なくないので、ある意味では機材を変えて絵が変わることに怖さもあるのですが、実際に最新の製品を使ってみて4~5年分の進化をいっきに体験すると、さすがに驚きますね。 イラストレーターとして飽きられないためにも、新しいツールで絵に変化をもたらすというのは悪いことではないと思いました。
――北澤さんがペンタブレットを使い始められたのはいつ頃からですか?
たしか大学で小さいサイズのWacom Artpadを使ったのが初めてですね。自分で購入したのはIntuos2になってからです。最初の頃はマウスで描いていましたが、iMacが出た時にマウスの形が饅頭型に変わってしまって。「これでは絵が描けないよ!」と思ったのを覚えています(笑)。
――その頃のご自身の作画環境はどのようなものでしたか。
最初に買ったのが一体型のMacintosh Performa LC520で、次がPowerMac8500。その後、クラムシェルのiBook G3のデザインが気に入って、グラファイトカラーのSpecial Editionを使い始めました。 ツールは、バイト先で電話帳の広告を作る時にMacromedia Freehandを使った以外はずっとPhotoshopとIllustratorでしたね。
大阪音大100周年記念ポスター
アートディレクション、デザイン: 河西達也
写真: 中村治 スタイリスト: 萩原真太郎
――液晶ペンタブレットを初めて使われたのはいつ頃ですか。
日本でイラストレーターの仕事を初めてから、ワコムの17インチ液晶ペンタブレットを買いました。画面解像度も今の製品とはくらべものにならないくらい低かったですが、直接描けるというのが衝撃でした。それからアメリカに行ったときに買った北米仕様のCintiq 20WSX、その後にCintiq 21UXと買い換えて、現在はCintiq 24HDとCintiq Companion HybridをそれぞれiMacとMacBookで使っています。
――現在のお仕事でメインに使われるツールは?
ずっとPhotoshopを使っていましたが、2011年の震災の後くらいから仕事が伸び悩んでいて、試行錯誤する中ComicStudioを買ってみたのをきっかけに色々なスタイルの線で描けるようになり、仕事の調子も回復していったんです。そこからしばらくComicStudioを使っていて、そのままCLIP STUDIO PAINTに移行しました。昔は器用貧乏になるのが一番怖いと思っていたんですけれど、今は色々な画材を使って幅を広げることを武器にできたらと思っています。
――今回試していただいた最新のWacom Cintiq Pro 24はいかがですか。
まず画面の色がいいですね。サブディスプレイで確認しなくてもいいので、仕事の効率もアップすると思います。解像度も桁違いの別もので、ペン先の視差も全く感じなかったので、自分の作業環境に戻ったときに違和感がないかと心配です(笑)。
――プロペン2の描き味はどうでしたか。
すごくスムーズで繊細で、手のゆらぎみたいなものまでちゃんととらえてくれるので、下手なところもそのまま出てしまって、ごまかしが効かなくなりそうですね。ずっと昔にアナログみたいに描きたいと思っていた頃のイメージを超えて、本当に画材という感覚なので、自分の腕の方を鍛えて、この繊細さを強味に変えていかなければと思いました。
――日頃、デジタルで作品制作をする上で意識していることはありますか。
終わりを決めることですね。物理的な時間制限を設けて、それ以上にいじらないようにしないと作業が終わらなくなるんです。特に色は一度変え始めると、ここを変えたらこっちもという風に堂々巡りになるので。それでいて十中八九、一番最初の色に戻るので、その状態に陥らないように気を付けています。
ヒカリエ6周年イベントキービジュアル
アートディレクション、デザイン: 鳥井志保(原宿サン・アド)
――作品のイメージはどのように作られていくんですか?
小説の装丁画の場合はKindleで原稿を読みながらハイライト機能でキモになる部分をマークしておいて、そこだけプリントアウトして眺めたりしつつ、ネタを思いついたらスマホでGoogle Keepにどんどんメモしておきます。 アイデアが固まってきたらCLIP STUDIO PAINT PROでラフを描き始めますが、その時点では色を考えていないので、線画が完成した状態で初めて色を当てはめていく感じですね。
――表現の幅を広げるというお話がありましたが、作品の中でやってみたい表現というのはありますか?
イラストレーションをやり始めた時からデジタルを使っていて、アナログの画材で描くという意識がなかったので、デジタル的な方法論で描きながらもアナログにも見える表現、どちらでもない中間のようなものを描ければいいなと思っています。 最近のお仕事だと、最初から絵のタッチまで込みの形で依頼されることが多いので、絵の内容やコンセプトをしっかりと考えて表現していきたいですね。
――今回、描いていただいた作品もコンセプトを感じるイラストですね。
ワコムさんの企画ということで、ペンをテーマにコンセプトを考えました。以前、「WIRED」という雑誌でアナログとデジタルの違いについてインタビューして頂いた時に、結論としてやはりデジタルもひとつの画材としてアナログと同等にあるものだと思ったので、デジタルとアナログを50:50で表現できたらいいなと思って描きました。
――これから先のお仕事で挑戦してみたいことがあれば教えてください。
最近、デザイン専門誌「月刊MdN」の企画で初めて漫画を描いたのが楽しかったので、また描いてみたいですね。見よう見まねでしたが、CLIP STUDIO PAINT PROの機能を初めて使い切った気がしました(笑)。あと、音楽も好きなので、いつか「くるり」と一緒にお仕事ができたらいいな、と思っています。
――最後に、北澤さんにとってのペンタブレットとはどのような存在でしょうか。
信頼できる画材、進化する画材ですね。イラストレーターをやっている限り、ずっと付き合っていく物だと思うので、その進化に振り落とされない様に、自分のテクニックも磨いていかなければと思っています。
取材日:2018年5月22日
インタビュー・構成:Shinsuke HIRAIWA
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
北澤平祐
ふんわりとしたトーンを持つ独創的な作風で注目され、書籍やCD、広告ビジュアルから製品パッケージまで幅広く手掛けるイラストレーター。初野晴、中山七里、舞城王太郎、綿谷りさ等、数多くの人気作家の装画を手掛けているほか、近作では洋菓子メーカー「フランセ」のブランドデザインや渋谷ヒカリエ6周年イベントキービジュアルや東京ソラマチ「サクラ咲くフェスタ」のポスターイラストを担当するなど、その活躍の幅を広げている。先日、新作画集「The Girls of Harvest/ しゅうかくする おんなのこたち」を上梓した。
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