イラストレーター
望月けい
小説『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズ表紙イラスト、ゲーム『クリミナルガールズX』キャラクターデザインなど、独特の色彩感覚とスタイリッシュでエッジの効いた描線で注目を集めるイラストレーター望月けいさんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2019年1月25日撮影)
※本人のご希望により現在は非公開となります。
Drawing with Wacom 093/ 望月けい インタビュー
望月けいさんのペンタブレット・ヒストリー
『クリミナルガールズX』メインヒロインイラスト
©MIKAGE LLC. ©Nippon Ichi Software, Inc.
――望月さんがデジタルで絵を描くようになったのはいつ頃ですか。
高校2年生になるくらいの頃にBamboo(CTE-650)を買ったのが初めてのペンタブレッドですね。元々アナログで絵を描いていて、自分のWebサイトに写メを撮ってアップしていたんですけれど、当時の写メは画素も粗くて。当時よく見ていた絵描きさんのWebサイトで、ペンタブレットで描いているというのを読んで、この先を考えたらデジタルにしたほうがいいかなと思い、近所の電器屋で安かったものを選びました。そこからPixivに投稿し始めて、よく2次創作イラストを描いてましたね。
――液晶ペンタブレットを使うようになったのは?
Bambooを5~6年使って、大学生の頃にCintiq Companion 2を買いました。作画ツールは、始めた頃はBambooにバンドルされていたCorel Painter Essentials 4を使っていましたが、途中でPaint tool SAIを買って、大学2年くらいの頃にそろそろCLIP STUDIO PAINTの方がいいかなと思い変更してからはずっとCLIP STUDIO PAINT EXを使っています。
――現在の作業環境はどのようなものですか。
Cintiq Companion 2もだいぶ使いこんでくたびれてきたので、去年、Wacom MobileStudio Pro 16(i7 512GB)に買い替えました。ペンはWacom Pro Pen 2を標準芯で使っています。実はキーボードを持っていなくて、文字を打つ時にはスクリーンキーボードを使っているんです。スクリーンショットの撮影や、CLIP STUDIO PAINTの参照レイヤーの変更など、ちょっとしたショートカットはWacom Mobile Studio Proのエクスプレスキーに、右クリックとShiftキーをペンのサイドスイッチに登録しています。アナログで描いていた頃から、ベッドに寝転がって絵を描くことが多くて、よく布団にコピックがついたりしていたんですけれど、そのままデジタルでもずっとベッドで作業していて……。そろそろ体によくないと思って、最近はコタツの上に置いて使うようになりました(笑)。
メインの作画環境はWacom MobileStudio Pro 16(i7 512MB)をコタツ机の上に置いて使っている。
元々、大阪と東京を行き来することが多かったり、気分転換でホテルにこもって作業することもあるため、デスクトップPCよりも、いつもの仕事環境を持ち運べるクリエイティブタブレットを好んで使っているとのこと。
フィルムやペンの芯など、あまりカスタマイズはせず、標準のまま使用することが多い。
横にあるのはiPad Pro(10.5inch)。
――今回、Wacom Cintiq Pro 24を使ってみた感想はいかがですか。
大きい! と思いました。使う前は普段の16インチと比べて大きすぎて使いにくいかもというイメージでしたが、やはり絵が大きく見えるほうが描きやすいですね。描いている時によくキャンバスの表示サイズを小さくして全体を確認するんですけれど、画面が大きい分、全体を客観的に見られないかもと心配していましたが、ぜんぜんそんなことはなく、絵の隅々まで見渡すことができました。ツールバーがキャンバスに被らないので、描くために絵を移動しなくてもいいのも楽でしたね。ただ、画面が大きい分、消しゴムツールとかメニューまでの距離が遠くなるので、ExpressKey Remoteみたいなサブデバイスを活用するのがいいかもしれないですね。
望月けいさんのクリエイティブ・スタイル
『世にも奇妙な商品カタログ① インスタント死神・
友だちクジほか』表紙イラ
スト
©Chizutokouro,Kei Mochizuki/KADOKAWA
――イラストを描かれる際のワークフローはどのようなものですか。
普段は丸と十字だけの大ラフでポーズを決めてから、詳細なラフを描いて、それを元に線画を描き、パーツ毎に色分けしてから影をつけて、最後に仕上げをして完成ですね。以前は影をつけて終わりでしたが、最近、厚塗りの様に塗り足す方法を覚えたので、最後の仕上げの時間が長くなっています。色を塗った後から、意外と線が太かったなとか、ここの線が無ければ綺麗だったのにと気づくことがありますが、線画に戻って修正するより最後に上から塗って直してしまうほうが速いので。
――全体のバランスを確認しながら線や塗りをまとめてブラシで修正するんですね。
全体のバランスは大切なので、けっこう気にしていますね。視線誘導とかも意識しているんですけれど、その結果、強すぎる部分と弱すぎる部分がでてきてしまうんです。引きで見ると自分ができていると思っていた箇所ができていないことがわかったりするので、キャンバスの表示を小さくして全体を確認するのを習慣にしています。
――線画にはどのようなブラシを使っていますか。
[Gペン]ブラシです。アナログの筆ペンやGペンの線の感じが好きで、漫画を読んでいる時に、つけペンの液だまりとか、角度によって太くなる線とか。そういうのをちょっと意識しています。物の素材感を出したり、柔らかい部分は線を細く、逆に強調したい部分は太くしたり。
――逆に、色の塗り方はすごくフラットな調子ですよね。
色はベタ塗り以外を極力、減らしたいんです。絵を描いていて一番楽しいのは、線のラインが美しいことなので、線を引き立たせたいんです。そうすると、塗りのタッチが邪魔になるんですよね。だから色塗りはなるべくフラットにして、線もベタで目立つようにしているんです。
絵全体のポイントにもなっている「髪」の色を際立たせるために、線に色を着ける「色トレス」の技法で髪の毛にかかる主線を目立たないようにしている。
髪の毛は色トレスを使うことを意識して、線画の段階から別レイヤーで描いておく。この色トレスは、望月さんが好きだという横髪が顔にかかるデザインを効果的に見せることにも繋がっている。
(動画では13:45あたりから望月さんが髪の毛に色トレス効果を施す作業を見ることができます)
――今回描いていただいたイラストで特に意識したポイントは?
普段は色白のキャラを描くのが好きなんですけれど、肌の色を濃い目に塗って、色黒なのか、暗い場所にいるのかどちらにも見えるような、色のわからなさで遊んでみました。あとは髪の毛を描きたかったので、ペンで動きのある髪の毛を描いて、それが映えるような画面の色構成にしています。構図も正方形ならではの面白い絵にしようとポージングを工夫して、全身を収めつつ、少しだけ足先を画面の外に出して広がりを示す、こじんまりと納まっている様で若干遊びのある構図にしてみました。
――望月さんの作品は、最初の印象で凄くカラフルに見えますが、使っている色そのものはワントーン低かったりするのが面白いです。
色は、隣り合う色同士の関係でくすんだり輝いたりするので、ビビッドな色を使えば絵が良く見えるというわけじゃないと思っているんです。ビビッドな色をそのまま置くよりも、色の掛け合わせによって、少しくすんだ色をビビッドな色よりも輝かせるほうが楽しくて。色単体で見るとそれほど強い色を使っていない絵を、見た人が「すごくカラフルだ」と感じてくれたら嬉しくなりますね。じっくり見た時に、色の仕掛けに気づいて驚いてくれたら、私の勝ちです(笑)。
『閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット』表紙イラスト
©木元哉多/講談社
――望月さんが今の絵柄になるまでに影響を受けたクリエイターはいますか?
原点は漫画『いでじゅう!』(2002~2005年/小学館)のモリタイシ先生の絵です。中学生の頃に兄のもっていた単行本で読んで、デッサンとデフォルメのしかたに「こんな絵が上手い人がいるんだ!」と驚いて、自分もこんな絵が描きたい! と思ったのがイラストを描き始めるきっかけになりました。自分の絵の始まりとして、デフォルメ感とかはモリタイシ先生の影響を受けています。
――望月さんの描くキャラクターは独特のデフォルメが効いています。
リアルなところは残しつつ、全体的にはデフォルメをしています。自分ではあまり気づいていなかったんですが、最近、デフォルメが強いといわれることがあって、自分の絵は頭身低めなんだ……と思いました。ちょっとだまし絵っぽいものが好きで、パースとかを面白くしつつ、でも画面的には破綻していないみたいな、絵の面白さを追求していた結果、そうなっているのかなと。
デフォルメをどうするかは、かなり頭を使う部分ですが、リアルに描くのとはまたちがった脳の部分を使っている感じなんです。デフォルメの「良さ」がその人の絵の「味」になってくるので、デフォルメのセンスは重要だろうなと思っています。
望月けいさんのクリエイターズ・ストーリー
『ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト』FILE:06 デザイン画
©KAIYODO, Mizutama Keinojo, Kei Mochizuki All Rights Reserved.
©2018 Wonder Festival Project Office All Rights Reserved.
――望月さんがイラストレーターとしてお仕事をするようになった経緯を教えてください。
高校生になってからイラストを描き始めて、高3くらいでソーシャルゲームのイラストのお仕事をいただくようになったので、その頃から自分は絵の道に進むんだろうなと思っていました。面倒くさがりで、好きなこと以外はやりたくないので、受験勉強とかも嫌だったんですよ。だから進路も芸術系にしようと、大阪芸大の短期学部マンガ学科に進みました。最初はゲーム会社に就職をして、しばらくしてからフリーのイラストレーターになろうと考えていたんですけれど、就活もめんどくさい……となって(笑)。
卒業する頃にはそれなりに安定してお仕事を頂けていたので、なし崩し的にフリーランスになって今に至ります。好きに絵を描いていたら流れのままに、という感じですが、自分の絵が大好きなので、イラストレーターとしてやれる自信もありました。
――最初からフリーランスで、お仕事を増やすために何か工夫をされましたか?
大学では、ポートフォリオを作って持ち込みにいきなさいと教えられたんですけれど、それをやるくらいなら死ぬ気でネットに投稿するよ! と思い、必死で描いた絵をアップし続けました。いろいろ運がよかったと思いますが、TwitterやPixivのおかげで最初からフリーでも仕事ができています。新規の案件は基本的にメールでいただくことが多いですね。
――これまで手掛けた中で、印象的なお仕事はありますか。
ワンダーフェスティバル2018[夏]の『ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト』で、フィギュアのデザインをさせていただいたのが自分の中ですごく嬉しかったです。美少女フィギュアが凄く好きで、自分のイラストの立体化がひとつの夢だったので。しかもトップメーカーの海洋堂さんの企画で、原型師さんもすごく腕のある方だったので、いいものを一緒に作ることができたという喜びもありました。
同じ頃に、書籍の表紙も描かせていただいたのですが、『閻魔堂沙羅の推理奇譚』(著・木元或多/講談社タイガ)というシリーズで、初めての表紙イラストが講談社さんのミステリー小説というのも嬉しくて。続刊でも継続して表紙を描いていますが、最近その1巻に重版がかかったと報告があり、ちゃんと作品のヒットに繋がってくれてよかったと思いました。
『これは学園ラブコメです。』(小学館ガガガ文庫)表紙イラスト
©草野原々/小学館
――これから先、お仕事やプライベートで挑戦してみたいことがあれば教えてください。
めちゃくちゃあります! やったことのない仕事は全部挑戦したいですが、なにより大好きなアニメに関わりたいです。錦織(敦史)監督の絵に憧れて『アイドルマスター』を観ていましたが、最近になって、自分がいいなと思う作画が、みんな河野恵美さんの手掛けたパートだということを知ったんです。Pixiv ONEで一緒にライブドローイングをした米山舞さんの影響も大きくて、アニメーターさんの描く線のよさを吸収できたらなと思って勉強しています。まだまだ課題はありますが、いつかアニメのキャラクターデザインをやってみたいですね。
個人的な夢としては、自分の絵が街中に現れてほしいんです。キャンバスから飛び出して紙媒体以外の場所に絵が印刷されているのが好きなんですよ。自分の手を離れていったような感覚がよくって。渋谷PARCOの建て替え工事現場に、『AKIRA』のウォールアートがあったじゃないですか。ああいう感じで、大きな建物の壁とかに、絵を描かせてくれないかなあ……と夢想しています(笑)。
――最後に、望月さんにとって液晶ペンタブレットとはどのような存在か教えてください。
「無くてはならない存在」と言う必要もないくらい、あってあたりまえの物ですね。絵を描くために生きているので、液晶ペンタブレットは、日常的な自分の動作の一部分なんです。絵を完成させるまでの工程の一つとして、意識しなくてもそこにある。空気と同じくらい、生きていく上で必要なものですね。
取材日:2019年1月25日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
望月けい
イラストレーター。高校から大学時代にかけてソーシャルケーム『Re:サイタル』『ミリオンチェイン』 (サイバーエージェント)等のイラストを手掛け、大阪芸術大学短期学部デザイン美術学科を卒業後、フリーに。スタイリッシュでエッジの効いた絵柄で独自路線を築いている。 人気歌い手・れをるのメジャーデビューCD『極彩色』のアートワークや、『ワンダちゃん NEXT DOOR プロジェクト』FILE06 のキャラクターデザイン、小説『閻魔堂沙羅の推理 奇譚』シリーズの表紙イラストなど幅広いジャンルで活躍中。日本一ソフトウェアの人気タイトル『クリミナルガールズ』10 周年プロジェクトとして発表された VR 対応ゲーム 『クリミナルガールズ X』ではキャラクターデザインを担当。2019年4月にはイラストを 担当したライトノベル『これは学園ラブコメです。』(著・草野原々/ガガガ文庫)が発売予定。