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映像ディレクター関 和亮株式会社トリプル・オー

1976年長野県生まれ。1998年ooo(トリプル・オー)所属。2000年より映像ディレクターとして活動を始め、2004年よりアート・ディレクター、フォトグラファーとしても活動。現在に至る。

使用タブレット
Intuos
使用歴
きっかけ
オペレーターの方がペンタブレットで操作をする姿が格好良くて

最近「トリプル・オー」のクリエイティブワークを見聞きする機会が多い。例えば、2011年4月から放送が始まったNHK連続テレビ小説『おひさま』のビジュアルとオープニングを手掛けた。また、ロックバンド「サカナクション」のシングル『アルクアラウンド』のプロモーションビデオを制作、これが文化庁メディア芸術祭(2010年度)のエンターテインメント部門で優秀賞を受賞し、さらに「SPACE SHOWER TV」のSPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDSでもBEST VIDEO OF THE YEAR、BEST ROCK VIDEO、BEST DIRECTORの3冠を獲得している。そして、テクノポップユニット「Perfume」が昨年11月に東京ドームライブで5万人の観客を沸かせるワンマンライブを行ったが、このライブで使用された映像もトリプル・オーが手掛け、その様子はNHKのドキュメント特番「MJ presents 密着!Perfume ドーム5万人ライブへの挑戦」でも紹介された。アートディレクター2名とデザイナー3名で構成される少数精鋭のプロダクションから、話題の映像作品が次々と生み出されている。Intuos4ユーザでもある同社の映像ディレクター、関和亮氏に制作活動の裏側を聞いてみた。

趣味の押し花がドラマのビジュアルになる

トリプル・オーは、CDジャケットや演劇ポスター、プロモーションビデオなどの制作で活躍中のデザイン・映像制作会社だ。代表の永石勝氏が1997年に設立し、布袋寅泰や藤井フミヤ、Perfumeといったメジャーなアーティストのアートワークやミュージックビデオの制作をはじめ、シアター・コクーンやオーチャードホールなどで行われる演劇のポスター制作なども手掛けている。

港区赤坂にある事務所に伺うと、まずアクリルやガラスの中に浮かぶ押し花のオブジェに目を奪われる。これらは永石氏が制作したもので、関氏はこの押し花をこう紹介する。
 「永石は押し花がすごく好きで、20年ぐらい続けています。以前、海外旅行中に気になった花をある本に挟んでそのまま忘れてしまい、しばらくしてその本を開いたらその押し花が当時のまま色あせずに残っていたことに感動したことがあったそうです。これがきっかけとなり、彼は“ずっと残すにはどうしたらいいのか”を考えるようになりました。今では低温のアクリルを型にゆっくりと流し込み、その中に押し花を入れることによって、作品として制作するまでになりました」
 最初は趣味で作っていたものが、今ではライブハウス「赤坂BLITZ」に寄贈してガラス張りのホワイエに200枚~300枚ほど飾られていたり、アクリルに閉じ込められた押し花の写真集「Telomere」を発売するなど、スケールの大きい活動となって続いている。さらに、NHKの連続テレビ小説『おひさま』のタイトルロゴにも永石氏の押し花が全面に使われている。『おひさま』のビジュアルとオープニングはトリプル・オーの制作だが、この大掛かりなプロジェクトに関氏が関わることになったのも、永石氏の押し花の写真集がきっかけだ。
 「打ち合わせでNHKの美術チーフの方に永石の写真集 “Telomere” を見ていただいた時でした。その中にあった押し花が“押されてもなお光輝いている”という、『おひさま』の主人公の生き様とクロスオーバーするところがあり、“ビジュアルに使えないか?”というオファーをいただきました。オープニングの制作では花の持つ生命力の表現に苦労しまして、最終的には “光を感じる” “光と共に輝いている” といった点をうまく表現できたと思います」

飽きない映像を目指す

関氏はPerfumeのアートディレクションも手がけているが、何といってもミュージックビデオの映像ディレクターとして知名度が高い。現にトリプル・オーが手掛けるミュージックビデオのほとんどは、関氏が中心となって作られている。関氏が映像制作に関わるようになったのは、学生時代に見た洋楽のミュージックビデオがきっかけだ。そのころから映像や音楽に興味を持ち、無我夢中で映像業界を目指してきた経験をこう話す。
 「高校生ぐらいのときの話です。僕は長野県出身なのですが、長野のような田舎は情報があまり入ってこないので、やはり自分でいろいろ探さなければなりません。当時は、イギリスの音楽ヒットチャートを紹介する “BEAT UK” など、洋楽のミュージックビデオを流す深夜のテレビ番組を食い入るように見ていました。そこで、ミュージックビデオというものをすごく意識するようになって、いつかはこういうものを作る仕事をしたいと思い、映像の世界を目指すようになりました。その後大学に進学したものの、なじめずに3か月で辞めてしまったのですが、アルバイトをしていた居酒屋の店長と映画監督の錦織良成さんが知り合いで、ご本人を紹介していただきました。Vシネマの制作現場からのスタートでしたが、これが映像制作の業界に入るきっかけになりました。いろいろな現場で先輩らに“ミュージックビデオがやりたい”と相談をしているうちに、永石と出会うことができたのです。仕事のやり方は “映像を手がけながらビジュアルもやる” という永石の影響を大きく受けています。そのスタイルはいまも継承していると思います」

関氏の映像は、常に新しい驚きを与えてくれる。2011年3月に発売されたバンド「ねごと」のシングル『カロン』では、ミニチュアで作成した風景を一眼レフカメラの動画機能で撮影し、リアルな雰囲気を醸し出しながら演奏シーンと融合させた映像が特徴の作品だ。2011年2月に発売された柴咲コウのシングル『無形スピリット』 では、本来であれば映像で撮影する動きを、1枚ずつ写真で撮影してプリントし、これらを机の上に置いた状態で改めてコマ撮り撮影して映像化したという、手の込んだ作品だ。さらに、2010年1月に発売されたサカナクションの『アルクアラウンド』 は4分間をワンカットで撮るという大胆な作品だ。どの作品も斬新なアイデアばかりで驚かされてしまう。
 「ミュージックビデオといっても、3分30秒、4分などの尺があります。セリフがあるわけではないので、仕掛けを組み込まなければ見ている人はどんどん飽きてしまうと思います。 “どのように飽きさせないようにするのか” を常に意識して制作しています」

ねごと「カロン」試聴サイト(ソニーミュージック)

柴咲コウ「無形スピリット」ビデオ試聴を含むサイト(ユニバーサル・ミュージック)

サカナクション「アルクアラウンド」(VictorMusicChannel)

Perfume(徳間ジャパン)

関氏の作品を見て気になるのは、鋭いアイデアをどのようにして生み出しているかだ。アイデアは日頃のちょっとした疑問から生み出されているという。何気ない疑問を映像化して作品を作ってみる。実験するような感覚で映像が作られるようだ。
 「 “あれがこうなったらどう見えるのだろうか?” “これがこういうふうに動いたら面白いのでは?” といったことをボーと考えることがあります。例えば、三本の煙突を違う角度から見ると1本に見えます。街中には実際にそういう風景があります。円柱は真上から見ると丸ですが、真横からみれば四角です。そういうものを何げなく生活の中で見つけてヒントにしています」

すべての操作をペンタブレットで行う


Intuos4 Largeを使用。マウスはほとんど使用していない


好きなペン先はエラストマー芯。ゴム製で摩擦係数がもっとも高い。

関氏は映像制作にペンタブレットを使用している。商業映像は基本的にポストプロダクション(以下ポスプロ)と呼ばれる作業で仕上げ工程が行われているが、若い頃にこの現場で見たペンタブレットに憧れたのが使用しはじめたきっかけだ。
 「最近の映像制作では、制作時間を短縮するためにオフライン編集(完成前の編集作業)を監督自身が行うことが多くなっていますが、以前はオフライン作業を専門オペレーターに任せていました。オペレーターの方がペンタブレットで操作をする姿が格好良くて、僕はその様に憧れていました。ペンタブレットを前にしていると “仕事できます” みたいな印象を受けたのです。そこで僕も最初は憧れでペンタブレットを導入しました。初めて購入したのは初代Intuosの最も小さいサイズのモデルでした」

関氏はマウスをほとんど使用しない。OS操作から映像制作アプリケーションFinal Cut Proの操作までをペンタブレットで行っている。デュアルモニタに合わせて大きめのペンタブレットを選び、ペン先も摩擦係数の高いものに変えているのが特徴だ。
 「あまり仕事の本数が多くなかった頃はマウスと併用していましたが、仕事が増えて作業スピードを上げなければならなくなり、自分で行う作業が増えてからはペンタブレットのみで操作を行うようになりました。今ではFinal Cut Proの操作だけでなくMacの操作すべてをペンタブレットで行っています。現在使っているのはIntuos4 Largeモデルです。普段はデュアルモニタで作業をしているので、スペースは横に広いのですが、マウスでは画面の端から端までカーソルを移動させるのに時間がかかります。Intuos4 Largeモデルを使用することで、2画面のカーソルの移動の負担は減っています。ペン先はゴムのエラストマー芯を選んでいます。鉛筆っぽいハードフェルト芯もいいですね。つるつるしているよりも、ちょっとでもひっかかりがあるほうが使いやすいです」

自分で興味が持てるもの、見たことがないものを作る

関氏が話題の映像作品を数多く送り出せる理由は、演出アイデアの斬新さだけではなさそうだ。普段から“自分が楽しいと思うか?”“現場で楽しんで作っているか?”という姿勢で制作していることも、見ている人を飽きさせない高いクオリティの作品を作り上げることができる理由の一つだろう。制作しているモノ自体を自らが楽しめなければ、それは面白いものではない。これは映像制作に限らず、どんなモノづくりにも共通して言えることではないか。最後にこう語ってくれた。
 「自分がやってみて楽しいとか、自分が見てみて面白い、自分が見てみたいという衝動を自身で感じられるかが大事だと思います。例えばおもちゃを作っているのであれば、作った本人がそのおもちゃに面白みを感じないのであればダメです。自分の興味が出るものをどのようにして作るかが勝負でしょう。
また、どこかで見たことがあるようなものは取り入れないようにしています。同じことをやるならば、もっと上手な人がいるでしょう。少しでも違っていたほうがいい結果を生むのでは、と思っています」

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