<株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム>
2016年に記録的大ヒットとなった「君の名は。」の新海誠監督を始めとする作家マネージメントから、国内外において数々の映画賞を受賞した「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」などのアニメーション映画の製作・制作・劇場配給・パッケージ販売、海外セールスまでを一気通貫で行っています。2019年夏、全国東宝系公開中の「天気の子」は、前作「君の名は。」超えの初週大ヒットスタートで注目が集まっています。
今回はVFXチームのチーフを務められた李周美(イ・ジュミ)さんにお話をお伺いしました。
使用している製品
- Wacom Cintiq Pro 16
インタビュー
Q1. 製品の利用方法や使用感はいかがですか?
作品に入る前はWacom Intuos ProのMサイズを利用していたのですが、作品に入ると同時にCintiq 13HDを使い始めました。この板型のペンタブレットから液晶ペンタブレットに変わったときの衝撃は本当にすごかったです。直感的に、それこそ絵を描いている感覚で描ける!と思った時はとても楽しくなりました。あまりにも劇的な変化だったので、少し慣れるのに時間がかかったくらいです。その後、今使っているWacom Cintiq Pro 16に変わりました。担当がVFX(ビジュアルエフェクツ)なので、そこまで表示の美しさが必要がないからというのもあるのですが4K表示は画質が良すぎるくらいな感じが個人的にはしています。ただ、4K表示だと縮尺した際、画面表示にボケが起きないのはとても良い点ですね。また、描き心地については、Cintiq 13HDと比べるとさらに滑らかな感じで描けるようになりました。
Q2. ペンタブレットを導入するメリットはなんでしょう?
今回、VFXとして使われるエフェクト素材、とくに作中でずっと雨が降っているので、とにかくたくさんの雨の素材を開発する役割で参加しました。最初は汎用素材と考えていたのでCGで作ろうと考えていましたが、同じ雨でもシーンによっていろいろなバリエーションが必要で、CGのシミュレーションでは量的な限界がくるなと予想がついたのと、CGだと物理法則にのっとった「正しい」跳ね返りしか描けないのでバリエーションに限界があり、必要な表現を優先するためデジタル作画を取り入れ、手描きにしています。今回導入した液晶ペンタブレットは画面に直接描けるため、紙に絵を描いている感覚と近く、直感的に描けることがとても役立ちました。
あと、意外なところで役立ったのが色指定の時でした。通常のアニメ制作ではなかなか無いのですが、新海監督の意図する映像表現を実現するために、カットごとに色の指定を行いました。色彩設計、ならびに助監督を務めた三木陽子さんのところで色を選ぶのにピンポイントでモニターをポンポンと押していけるので、とても便利でした。
Q3. 作品の見て欲しいポイントはどこでしょう?
映画「天気の子」
新海誠監督が作るビデオコンテで、監督の頭の中にあるストーリーと映像がすでに表現されているので、それをどう実現するかをスタッフ全員で話し合いながら制作していきました。みんなが向かうべきゴールに向けて挑み続け、それぞれのチャレンジを重ねていく中で、良いタッグが生まれたものがいくつもあります。私は本作品では撮影ではなくVFXとして、主に雨の表現を中心とした素材開発を担当しましたが、いくつかの特別なカットでは撮影まですべての工程を自分で行ったりもしています。
新海誠監督の作品には、「星を追う子ども」で初めて撮影チーフとして参加したのですが、すごく高いレベルを目指しているのだということを肌で感じると同時に、今まで自分が捉われていたやり方を踏襲しなくても、良い表現ができればいいんだと教えられて、自分自身のレベルを上げる体験になりました。今回の作品では、「言の葉の庭」で描いた雨を超えようと、1年間ずっと雨を観察したり、雨の出てくる映画を観まくったりして、雨の表現に本気で挑んでいます。
たくさんある雨のシーンでは、それぞれ何パターンもの雨の描き方があり、物にあたる雨、人にあたる雨、パースを意識した雨など各シーンに合った雨や波紋、水しぶきなどを表現しています。1カットに十数パターンの異なる雨の素材が重ねられていたり、ネオンや背景にある光源や色を加えていたりと、光と水にこだわって描いているので、そこも注目してもらえるとうれしいです。
© 2019「天気の子」製作委員会
「天気の子」は、映画を通して観てくれる人たちに感動を与えられたらと、自分の持っているものはすべて出し切りたいという思いで作ってきた作品です。もちろんお話の方もキュンキュンしてしまう展開で、自分たちで制作していたにもかかわらず、完成した作品を観たときには号泣してしまうほど素敵な映画になっています。何回観ても楽しいと思ってもらえる内容ですし、何度も観ることで新たな発見ができる作品だと思います!
映画「天気の子」
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