イラストテクニック第211回/nばた
第211回は、nばたさんの登場です!
CLIP STUDIO PAINT EXを使ったイラスト作成過程を紹介します。
nばた
現在ゲーム業界でのデザイナー業務の傍らイラストレーターとして活動しています。
躍動感を感じるものややパワーのある活き活きとした描写を表現することが好きです。流体と食べ物の作画にハマっています。
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ラフ
今回制作するイラストでは「冬に食べたくなるものをできるだけ詰め込む」「食べ物からも被写体のキャラクターの雰囲気からも暖かさを感じる、ポジティブな絵にする」ことを描写の主軸としました。
冬のとある家の中、たくさんの料理を並べて色とりどりの料理を人々が楽しむ途中、ふと手元のお椀を見ると何やら可愛らしい小人が舌鼓を打って宴会に参加していた…といった世界観のイラストに仕上げることが最終的な目標となります。
被写体の存在感と背後に並ぶ食べ物の両方をしっかりと主張させたいので、ややカーブがかった俯瞰の見下ろす画角にしました。
また、ラフ時点では被写体の女の子は両目を開けていますが、「料理の美味しさに舌鼓を打っている」描写を強調するため線画以降は両目を閉じる形に変更しています。
線画
ラフに沿って、メインの被写体となる人物の線画を起こします。
線画に使用したツールは「薄い鉛筆 9px」です。
少しざらつきが入ったアナログ感のあるスケッチ調の筆跡が好きなので、ペンツールではなく鉛筆ツールを使用しています。
背景は明確なアウトラインはなしで描き起こすため、線画はありません。
下地色の配置
人物の線画を終えたら、今後の作業を効率的に進めるために選択範囲を以下の手順で作成・保存しておきます。
①サブツール「自動選択(他レイヤーを参照選択)」で人物外の空白部分を選択
②画面上部タブ「選択範囲」内の「選択範囲を反転」を選択→「選択範囲を縮小」で1~2pxほど縮小させる(色を置いたときに線画からはみ出すのを防止するため)
③同じく画面上部タブ「選択範囲」内の「選択範囲をストック」を選択
作成した範囲をストックしておくことで、今後の作業で塗り残しやはみ出し等の修正が発生した際にいつでも範囲を呼び出せるためです。
作成した選択範囲を適用した状態で、人物の下地色をサブツール「塗りつぶし」で置いていきます。
画面左のサブツール内では「他レイヤーを参照」を選択し、画面右のレイヤー階層では線画レイヤーにチェックを入れます。この状態でパーツごとにレイヤーを作成し、色を置いていきます。
人物:肌の塗り
人物の肌に影を入れていく前に、血が通って赤みが出ている部分(今回では頬)や被写体の角度的に平面となっているが立体的に見せたい部分(鼻先)に色を付けます。
頬:
主に目尻下を中心に、目のラインに沿う形で赤みをつけた後、骨格的に出っ張っている頬骨部分にもう少し赤みを強めた色を柔らかく置きます。
今回は健康的な血色にしたいので、肌の色を少し濃くした赤みがかったオレンジ色を選んでいます。
鼻先:
こちらは立体的に見せることが目的なので、単純に肌の色をそのまま濃くした色味を鼻先に乗せています。
肌に影を入れていきます。
今回のイラストは、コンセプト的に背景との位置関係による影の整合性は重要でないため、基本的なやり方で落ち影や立体影を入れていきます。
個人的にデザインチックな表現よりも実際の肉付きに沿ったリアルな陰影を施す形が好きなので、健康的な肉付き・立体感になるよう意識します。
また、私の場合、細かい調整はひと通り画面内の構成物を描いた後に行います。
個々のパーツをそれぞれに完成させていくのではなく、適時全体を見ながら形を整えていき、理想に近づけていくイメージです。
そのため、各パーツの作業ではしっかり完成と言えるほどの描き込みはしません。
人物:髪の塗り
ここから人物の髪と耳・尻尾の毛部分に塗りを入れます。
前準備として、髪と毛にグラデーションをエアブラシツールで入れました。
「髪色を最終的に温かみのある桃色に仕上げたい」ことと、「光源が女の子の頭上(食卓の上の照明)にある構図である」ことを踏まえ、頭の頂上に寄るに連れて明るく淡いオレンジ色を乗せる形にしています。
乗算で影を入れていきます。
髪と毛部分はそれぞれ下記のように塗りのアプローチを多少変えつつ、適時全体を見ながら塗りを入れていきます。
髪:
長い髪の毛が束として集まっていることを意識し、髪部分のうち半分はざっくり目に影を置く。置いた後に部分的に消しゴムツールなどで削り、髪の流れを出す。
毛(耳、尻尾):
髪よりは短い毛の高密度な集まりであることを意識し、髪よりも細かめに毛の流れを意識して塗りを入れる。
人物:表情の塗り
表情パーツ(眉毛、目・鼻・口)に色をつけます。
線画全体の色味を、より茶色に寄った肌色に馴染む程度に変更し、まつ毛のキワや毛先はより彩度の高い赤茶色を乗せます。
両目とも閉じている表情は、目を開いている時より単純な情報量は少なくなってしまいます。しかし、今後の調整で表情の強調具合はいくらでも整えることができるので、現状は気にせず色置きを進めます。
上下のまつ毛が合わさったことによる立体感を出すために、まつ毛の内部に薄い水色を置きました。
人物:衣装の塗り
これまでに作業した肌や髪パーツの塗り影の角度や、衣装の各パーツの質感を踏まえつつ、衣装に塗りを入れていきます。
基本的には季節感を考慮し厚めの外套・生地を想定した衣装構成ですが、パーツごとにイメージする素材からどのような具合に影が入るのかを考えて塗りを進めます。
例えば赤のレギンスは脚のラインに沿った光沢のある硬めの素材、マフラーは尻尾よりも細かい毛でより高密度なファー、などです。
背景の仮入れ
主要被写体である人物にひと通り塗りを入れたので、いったん背景を進めるフェーズに入ります。
今回のイラストのテーマのひとつとして「冬に食べたくなる・冬に食べるとより美味しいグルメを和食メインで絵に複数取り入れ、あたたかさを感じる一枚にする」を設けているので、それに沿う形で絵の中の空気感を構築していきます。
構図内で一番手前の近景を作画します。
女の子が座っている食器は、漆塗りの光沢や汁椀の素材の質感等を踏まえながら作画していきます。
今回の汁椀のように、歴史的文化や技法で作られているアイテムを作画する際は、書籍やネット等でそのアイテムのパーツごとの名称や形状の所以などを事前に調べると、描写の説得力がより増します。
女の子は蓋の上に座っている構図です。蓋部分の作りについて、定められた形状や構造の遵守すべき決まり等はありませんでした。ですので、所々にアレンジを加える形で描き込みを進めます。
後ろにはうどんを配置し、食べ物の特徴を活かすために箸で麺を持ち上げている描写にしました。
麺に絡む水滴やスープの液体表現は、特にハイライトの大きさや面積を意識して入れることでシズル感(瑞々しい印象)を出しています。
ハイライトは食べ物をより魅力的に魅せる手法として有効であるため、うどんを構成する食材ごとにタッチを使い分けて描き加えます。
逆にかまぼこや刻み葱といった、表面にそこまで照りが入らないマットな食材にはハイライトを入れません。
食材の中でメインで魅せたいものは持ち上げている麺と卵だったため、ハイライトの有無や描き込み量の差を用いて作画を進めました。
この描き込み量を使い分ける手法は以降の背景でも使います。
中景に位置する食べ物を作画します。
こちらには肉まんとすき焼きを選んで作画しました。
食材だけでなく、それを入れている容器の質感は実在の形状と構造に沿う形で、色合いも美味しそうに見える温度感を探りながら落とし込みます。
この時点でいったんテーブルをラフで作画し、全体の構図を確認しました。
テーブルの端から最奥までを、若干カーブのかかった滑らかな俯瞰パースによる形状にしたかったため、以降はこのパースを意識して作業します。
イラストが室内の景色であることを強調するために、テーブルの最奥に窓やカーテン等を置きました。
窓のガラス部分には外の電飾の映り込みや、遠い建築物のライトをイメージした粒状のエフェクトをぼかし強めで入れています。しかし、この窓自体がイラストの中で特に目立たせたい部分ではないため、描き込みはそこまで行わず止めています。
遠景におでんやラーメン、お酒などの要素を配置しました。
遠景と近景の描写の差を出すために、これらの描き込みはほどほどに留めています。色の差で面を出して描写するイメージです。
賑やかで幸せな空間を色のコントロールで演出したかったため、うるさくならない温度感を探りながらカラフルな色使いを意識して各アイテムを作画していきます。
また、この時点で中景に配置した肉まんをふたつに割って湯気が出ているところを加筆しました。
加えて中〜遠景の食べ物に湯気のエフェクトをざっくり追加し、エフェクトの温度感を確かめます。
全体の調整.01
人物と背景をひと通り配置し終えたので、これからイラスト全体の調整(加筆修正)を行う作業に入ります。
この段階が作業の山場なので最も時間をかけます。
「冬に食べたくなる・冬に食べるとより美味しいグルメを和食メインで絵に複数取り入れ、あたたかさを感じる一枚にする」「賑やかで幸せな空間であることを表した絵にしたい」。
こうした理想の形に、どのようにすれば近づけられるかを考えながら作業を行います。
まず、女の子の顔周辺の描き込み具合と情報量を強化するために、細めの毛束を何本か新規で追加します。
また、女の子の「美味しい食べ物を頬張って嬉しそうに笑う」姿を強調したかったので、頬にご飯粒をつける・右頬をもう少し膨らませる等も加筆しました。
ご飯粒は、あまりに多く顔に付けすぎると意地汚い食べ方に見えかねないため、口元と箸先にひとつずつで「今まさに食べ切った瞬間なのかな?」と絵を見る人が想像できる形に調整しています。
主要被写体の女の子の視認性をもう少し上げたいので、以下を追加しました。
① 「下地色の配置」の工程で作成した女の子の選択範囲を適用。
②新規レイヤーで選択範囲内にパステルオレンジで塗りつぶし。
③ レイヤー効果を「スクリーン」に切り替え・ぼかし加工。
上記作成レイヤーの透明度が100%だと悪目立ちしてしまうので、透明度を25%程度に下げて、柔らかくエフェクトがかかる形に収めています。
また、背景のおでんを取ろうとしている手や、テーブル上のクロスにパッチワークをイメージした柄を描き込むなど、絵の中の臨場感を高めるためのアイデアを随時反映していきます。
全体の調整.02
前回の01では人物を中心に調整を行ったので、それに合わせた背景や被写体周辺の調整を行います。
被写体の周囲に配置している食べ物にほぼ共通している「湯気が出る熱さ」という要素を一枚の絵としてもう少し強調しました。
以下のような温度感で、食べ物によって多少湯気のアプローチを変えています。
① おでんやすき焼きなどの、常に高温を維持させているものは絶えず湯気が発生しているので食材を入れている範囲を丸々覆うようなイメージで小さい湯気を複数置き重ねる。
② 半分に割った肉まんは、割ったことによって内側に溜まっていた熱が一気に解放されるので、狭い範囲で流れを持った形をイメージして湯気を描く。
イラストの女の子が「実際の人間とは異なる不思議な存在」であることをさりげなく表現するために、顔の周辺に花のエフェクトを追加します。
① 色はめでたい印象の強い金色を選び、多少筆跡を残すラフさで、うるさくならない程度の数を散りばめる。
② 輪郭に金色が見える程度に表面に白を塗る。
③ レイヤー効果を加算(発光)に設定した新規レイヤーを②のレイヤー上に作成し、赤やオレンジ色等の暖色を使いエアブラシで軽く発光させるように置く。
④ ③の上にクリッピングマスクで淡い緑色を部分的に置き、薄くプリズム感を出す。
加算や覆い焼き等の発光レイヤー加工は、少し用いるだけでも即座に画面内に華やかさが出るため多用しがちですが、使いすぎると画面内の光源がばらけてしまい逆に安っぽさが出てしまいます。使用する際は全体の温度感を都度確認し匙加減を調整します。