- ——絵を描き始められたきっかけから教えてください。
- おもちゃを買ってもらえなかったので、木を削ったり粘土をこねたりして遊んでたんですけど、その延長で小さい頃から描いてました。運動も勉強もすごくダメだったので、空想で遊ぶ感じですね。あとは家族が趣味で絵を描くような人たちだったので、その影響もあると思います。
- ——当時、影響を受けたマンガ家はいらっしゃいますか?
- ちばてつや先生が好きでした。『あしたのジョー』とか。でもちば先生は読むのが好きで、一番真似して描いてたのは松本零士先生の『ヤマト』でしたね。女の人を描くのがうまいというのが、どちらにも共通してますよね。戦艦とか兵器なんかの絵を描いて、自分用のマンガ雑誌を勝手に造っていました。
- ——地元を出られたのは大学からですか?
- とにかく地元の熊本を出たくて、福岡の大学の油絵科に進学しました。毎月油絵を描かなきゃいけなかったんですけど画材が高くて買えなくて。スケッチブックに描いた絵でスクラップブックを作って、それを作品だということにして教授に見せたら気に入られたんですよね。「こういうの描いておけばいいよ」ということになって、ほとんど油絵を描くことなく卒業しました(笑)。卒業制作入れて4枚位かなあ……。
- ——マンガを本格的に描き始めたのはいつ頃ですか?
- 高校生の頃、ヤングマガジンで大友克洋さんの『AKIRA』を読んで、他にもすぎむらしんいちさんや望月峯太郎さんが出てきていた頃で「ヤンマガすげえ」となって。すぎむらさんの『サムライダー』に何となく「分かる」という感じを受けて、そこで初めて描いて送ってみようと。マンガは日本語版の『スターログ』を読んで、真似して描いていて。大友さんの線の選び方が新発見で、それも真似しようと試みたんですけど全然描けなくて。あとは、作品で主張したいテーマもなかったんですよ(笑)。なんとか絵で話を持っていくという方向に行こうとしたんですけど、すごく難しくて。1年くらいかかってようやく1本描いて、大学の最後の年にアフタヌーンに応募しました。その作品が賞に引っかかって、短編を一本掲載できたんですけど、やっぱりお金も不安定だし、九州にいてマンガの仕事なんて全く想像できなくて。それで1回就職して、とりあえず辛抱しようと。神戸のステキなときめきゲーム会社に入社しました。
- ——ゲーム会社ではどういったお仕事だったんですか?
- 死語でいうところのドッターというか、グラフィッカーですね。昼は会社で、夜は会社の宿舎で、毎日死ぬ程マンガを描いてましたね。会社人ってやってみたらすごく大変で、早くここから卒業しなきゃと感じて、ひたすらマンガに打ち込んでました。
- ——会社勤めの傍らマンガを描くという、修行の期間ですね。
- いきなり上京するのが怖かったんですよね。賞はとってましたし、とにかく描いて、半年に1回ネームを持っていって。当時の担当がすごく怖くて「全然面白くねえよ」って言われて泣かされたり。その生活を続けて3年目に、連載しないかと言われて。
- ——念願のマンガ家デビューはいかがでしたか。
- 最初の頃はつらかったんですよ。わからないことばかりで。楽しいはずだと思ってたんですけど、しごかれながら描いてる感じで。好きで始めたはずなのに、なんでこんなにつらいんだろうとずっと思ってましたよ。担当から「スクリーントーン使えよ」とか「Gペン使ってみろよ」とか、オレを嫌いとしか思えないことばっかり言われて。『シングルアクションアーミー』や最初の数冊の頃は「絵も変えろ」みたいな感じ。今思えば親心だし、未熟なところがバレてたからなんでしょうけど。思った通りのマンガではなかったですね。
©ヒロモト森一/講談社
- ——過酷な状況下で、上京されたのはいつ頃ですか?
- アフタヌーンに2本連載した後、『要塞学園』を始める頃です。偶然、引っ越した先が寺田克也さんの近所で驚きました。以前からものすごくファンで、影響を直に受けて描いた短編を、桂正和さんが読んで憶えてくれていて。それがきっかけで寺田さんと知り合えたんですよね。他にも、漫画家の髙橋ツトムさんや憧れの造型師の韮沢靖さん、竹谷隆之さんとか、初めてマンガ家やクリエイターの知り合いができて「あー東京っていいなあ」という実感が湧きました。それまでは西の方でずっと一人で描いてましたから、北上してよかったです。『要塞学園』も最初の頃とは違って原作付きだったし、自由度が一気に上がって、やっとマンガが楽しくなってきて。
- ——原作付きのお仕事だと、やりづらさのようなものはありませんか?
- 人によるでしょうけど、オレはやりやすいです。選択の要素が生まれますし。何もお題がなければ全方向に行けてしまう分、広すぎて逆に立ち止まってしまうんですよね。原作付きだと方向が決まっているから、掘っていく作業だけになるので。あとは、喧嘩する相手がいますからね。戦う相手がいるっていうのは、うまくいけば面白い。
- ——『スターウォーズ』のコミカライズは、より原作の比重が大きかったのでは。
- もはや「ジャンル」ですからね。最初に描いた『ジェダイの復讐』はオリジナルそのままなんですけど、次は完全にジョージ・ルーカスの考えてないものを描こうと思って、敢えてダース・ベイダーを主人公にして。映画の中の描き方ではベイダーは完成しないと思っていたので、こうやってつないだら存在できるという観点で描きました。ジョージという「敵」がいたからラクでしたね。メジャーなものに「オラァ!」って向かっていくのは、パワーを発散させる方向がはっきりしてますし。
- ——映画『スターウォーズ』をご覧になられたのは?
- 小学生の頃です。映画館で観て、ものすごく感動して。家に帰ってすぐにコンテを切ったりしてました。カメラアングルとか、カット割りの早さとか、とにかく人生で一番びっくりした映画ですね。停滞したものを吹き飛ばす力があったというか、全てが新しかった。話がきたときは、マンガのゴッドに「描け」って言われてるんだなって思いました(笑)。運が良かったんですね。願っていれば叶うというか、そういったことが『スターウォーズ』に関しては多いです。描きたいことを描けてますし。機会があればまたやりたいですね。
- ——原作ものでいうと、『ポケットモンスター』でデザインも担当されています。
- 『ポケットモンスター』も、ダース・ベイダーなんかと一緒で、元があったので。デビルマンを描いたときもそうだけど、人のものだからそんなに破壊できない。破壊衝動を持ちつつリスペクトしつつ、ですね。線や形って基本的に発明だと思うし。ピカチュウも発明じゃないですか。丸に点がついただけのような短い線でできているのに、キャラとして受入れられるっていうのは、デザイナーが毎回ものすごい発明をしている結果なんだと思いますね。
- ——デビューから一貫して線に勢いのある作風ですが、こだわりを教えてください。
- 筆とかでビシビシ描くのがやっぱり面白いんですよ。オレが「マンガーズ・ハイ」と呼んでいる現象なんですが、何日も続けて描き続けていると、ハイになってますます絵を描くのが楽しくなるんですよね。あと、締め切り前に仕上げで血飛沫の部分をインクで一日中何時間も吹いてると頭がクラクラしてくるんですけど、これが超気持ち良いんです(笑)。
- ——一枚絵のイラストとマンガ、どちらもやられてますが、違うところはありますか?
- 使う脳みそがまず違いますね。マンガの方がコマや台詞を使って主張とか入れられるんですけど、イラストは1枚で語らなきゃいけないからすごいプレッシャーです。イラストは見た一瞬の勝負ですから。マンガは、時間や音を、コマのサイズ、位置と見え方でコントロールするのが面白いです。それによって見やすいマンガ、見にくいマンガができますからね。描いててうまくいったときや読んでくれた人が「泣けた」「笑えた」って言ってくれると嬉しいです。そう思ってもらえたっていうことは、きちんとコントロールできてたってことですからね。
©ヒロモト森一/太田出版
- ——映画がお好きとのことですが、描くこと以外で好きなことはほかにありますか?
- メイキング本とかを並べて、『ブレードランナー』のセットの図面を引く、というのを何年もやってます。何にも生産性がないから恥ずかしくて誰にも言えない趣味です。高2で観て以来ずっとあの場所に行きたくて。映画の中に勝手に入り込んで、3Dポリゴン化して図面に再現してます。うまくアウトプットしてやる必要がないので、すごく楽しい。何やってんだって感じですけど(笑)。
- ——今のご自宅の作画環境について教えてください。
- eMacを未だに使ってます。デザインが可愛いんですよね。iMacだと丸いけど、四角錐みたいで昔っぽいレトロな感じ。さすがに古いんで、ちょっと止まってたりします。OSも古いままなので、友達が来ると「これは古すぎる、何とかしろよ」って言われます(笑)。ペンタブレットはIntuos3で、ツールはPhotoshop5.5です。
- ——デジタル作業はどういった流れですか?
- 鉛筆で描いたものをスキャニングして、ペンタブレットで直しを入れて。以前はペインターを使ってたんですけど、時間がないときにPhotoshopを使っていたらすっかりそっちに慣れちゃって。塗りが早いんですよね。たまに気分転換で、取り込まずに色鉛筆や他の画材で描いたりもしますね。
- ——デジタルを導入されたのはいつ頃からですか?
- 『ジェダイの復讐』の頃ですね。寺田さんが既に使っていて「すごく面白いよ」って勧めてもらって。当時すごく高価だったし、ゲーム会社で使ってた頃から頻繁にフリーズしてたから、始めはおっかなびっくりで。eMacにしてようやくちゃんと使い始めました。最初の頃はまだ技が必要でしたけど、今は液晶ペンタブレットもあって自由度は高いし、デジタルの方が使い勝手はいいですよね。本当に楽しく使えてます。
- ——手書きでやられていた頃とデジタルの違いってありますか?
- デジタルは仕上がりもきれいだし、いろんな効果も使えますからね。あと、手描きで描いた紙を裏返して確認すると、すごく歪んでるのがわかるんですよ。必ずクセが出るので気になっちゃうんですけど、デジタルだとそれがあんまりないんです。はなっから自分の手を使っていない感じというか。身体の一部として使うというよりは、客観的に自分の絵を見られる要素の方が強いですね。紙に描くのは習字みたいなもので、気が張ってるんですけど、デジタルだったら気に食わなければバッて変えてしまえるし、その点で気がラクにもなりますね。 両方やってる方がいい効果があると思います。これは入魂したいから筆でやっちゃおうとか、鉛筆の線をスキャニングしてマンガに使おうとか。両方が混在していることが、楽しくなれることのひとつだと思います。
- ——ネタ帳に使われたスケッチブックも、見せていただくと楽しいですね?
- マンガだとコマに収めないといけないので堅苦しさがあるんですけど、スケッチブックだと限度なく描けるからラクなんですよね。他の方のスケッチブックも、見せてもらうと面白いんですよ。その人の脳みその中っぽくて。
- ——マンガ家、イラストレーターとしてのこれからの展望を聞かせてください。
- 描きたいことが大してないままマンガ家になったんですけど、年齢も経験も重ねてきて、ようやく表現したいことだらけになりました。1人で描くのも面白いけど、人とコラボするのは刺激的だし、アニメーションも素晴らしく楽しいし。昔の泣きながら描いてたオレに「今お前描きたいことないらしいけど、未来ではいっぱいあるから我慢しろよ!」って言ってあげたいですね。描き続けること、諦めないことはすごく大事。特殊な職業だけど、サラリーマンみたいに企画力やプレゼン力は必要だし、人間関係も含めて、画力とは別の力も重要ですよね。やっぱり基本はサービス業だと思いますし。
- ——では「イラストレーターのわ」ということで、次回登場いただける方をご紹介ください。
- 『アフロサムライ』の岡崎能士さんを。2年くらい前に早川書房でSF小説とイラストレーターがコラボする企画本があって、それをきっかけに初めてお会いしました。元々『アフロサムライ』がすごく好きだったし、家も近所同士だったので、話しているうちに仲良くなって。同人誌からサミュエル・L・ジャクソン主演でアニメ映画になるって、どういうシンデレラストーリーなんだって話ですよね(笑)。
書籍紹介
『HELLS ANGELS』
著者:ヒロモト森一
刊行:集英社
転校先への登校中、事故に遭い、地獄へ迷いこんでしまった天鐘りんね。そこは「三途ノ川学園」と呼ばれる学校だった…!?韮沢靖デザインによる個性溢れるモンスターたちを、ヒロモト森一が描く強力コラボレーション!
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、
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