- ――絵に興味を持たれたきっかけは何ですか?
- 小学生のときに図書館で挿絵のある本を読んだことです。元々漫画が好きだったのですが家の事情であまり触れる機会がなく、代わりに本を読むことをすすめられていました。推理小説や児童文学に始まって幅広く読んでいたのですが、挿絵が文字から想像したもの以上に印象的な世界を描いてくれることに感動し、それ以来、さらに絵が好きになりました。特に印象に残っているのが新版『指輪物語』に載っていたアラン・リーの挿絵です。どうすればこんなに世界観をつめた絵が描けるのかと、刺激を受けました。
- ――絵を描き始めたのはいつごろからですか?
- 漫画的な絵を描き始めたのは小学生のころからです。ノートにキャラクターや背景を描きながら、世界観の設定や物語を考えるといった遊びを続けていました。中高生のときにはすでに絵を仕事にしたいと考えていたため、ひと月のノルマを決めて絵の練習を続け、大学生になってインターネットを使うようになってからはペンタブレットを購入し、ホームページにCGイラストを載せるようになりました。また就職活動ではオリジナル作品の設定画集を中心に、絵の基礎力も求められると思い、独学ではありましたがデッサンや骨格標本を写したものも入れ、ポートフォリオを作成しました。
- ――どちらの会社に就職されたのですか?
- CAPCOMさんです。中学生の頃、友だちに『ヴァンパイア』という対戦格闘ゲームを教えてもらったことがきっかけで、ファンになりました。キャラクターも色もすごく好みな上にテンポよくなめらかに動く画面に刺激を受け、他にもCAPCOMさんのゲームに慣れ親しんでいたので就職を希望しました。キャラクターを骨格から区別して設定するといったシルエットデザインの基本はCAPCOMさんのゲームから学んだところが大きいです。
- ――デザイナーとして仕事を始めたころのエピソードを教えてください。
- 2006年に発売されたゲーム『大神』で初めてキャラクターデザイナーとして参加させていただきました。200体ほどのキャラクターが出てくる作品なのですが、そのうちの約半分のデザインを担当しました。メインデザイナーを務める先輩のテイストに沿ってデザインする仕事でしたが、合わせやすいフォーマットを設計してくださったため進めやすかったです。ただコンセプト上、限られたタッチの中で数多くのキャラクターを描き分ける必要があったため、デザイナーとしての発想力が要求されました。
- ――メインデザイナーとして関わった作品を教えてください。
- 代表的なものとしては『BAYONETTA』とその続編『BAYONETTA2』です。 『BAYONETTA』シリーズの場合はベヨネッタという女性キャラクターが主人公なので、アクションゲームが好きな男性ファンの心をつかむことはもちろんですが、同時に女性的な感性も取り入れてほしいというオーダーを受けました。そこで身体にフィットしたスーツへ背中の肌露出を大胆に入れる事で、メリハリのあるセクシーさを男性に感じてもらえるように意識しつつ、全体のまとめ方はシックなモードファッションの意匠を取り入れた形にすることでバランスを取っています。
- ――どのような手順で作業されたのでしょうか?
- まずいただいたオーダーを踏まえて、ディレクターが求めているものを探っていきました。 デザイン作業というのはただ見た目を整えていくという作業ではなく、設定と仕様をいかに落とし込むかという中身を作る作業ですので、絵柄も含め、組み込む要素ひとつひとつには理由があります。時に追加設定のネタ出しもしながら細かく詰めていきました。 こういった仕事の流れは『BAYONETTA』の神谷英樹ディレクターとの仕事で培われた部分が大きく、今でもとても感謝しています。 デザイン決定後は、キャラクターを実際ゲーム内で動く3Dモデルへと落としこみます。3Dモデルにはゲームの仕様上、様々な制約があるのですが、デザインコンセプトをそのまま反映していただくために3Dモデラーの方々と調整を重ねていきました。たとえば質感表現については、素材ごとに写真素材を集め細かくすり合わせをしました。主人公キャラクターは、一画面の中で他のオブジェクトや背景美術、効果などと調和しながら同時に目立つ必要があるため、必ずしも最初にイメージした質感がゲーム中でうまく映えるとは限らないので、コンセプトを保ったまま、実際どういった質感であれば最も見映えがするかを繰り返しテストしました。
- ――3Dモデルのキャラクターをデザインするにあたってどのような事を意識していますか?
- ゲーム画面の中でキャラクターがどれだけ動いても美しさが崩れないデザインにするように気をつけています。『BAYONETTA』の主人公・ベヨネッタの場合、かなりアクロバティックなアクションを行うキャラクターなため、どこの関節をどう動かしてもある程度破綻なく見えるようデザインすることを心がけました。また、最近のHDゲームは画面を保つ為に情報量を多く持たせる場合がありますが、キャラクターは様々な角度、サイズで映ることを考えるといたずらに要素を盛ると逆に見づらくなってしまう可能性があります。ですので自分がキャラクターをデザインする際は、ベースをなるべくシンプルに設計するように意識しています。
- ――そのほかでキャラクターデザインをするときに気をつけている点を教えてください。
- いかに設定と仕様を吸収し、存在感を出すかという点です。具体的にはシルエットとカラーリングの配置にかなり気を使います。 たとえばベヨネッタは女性主人公ですが、男性主人公だった場合に比べて手足を短く設定してしまうと、アクションゲームとしてこじんまりしたプレイ感覚になる可能性があります。そこで、「現代の魔女」であるという設定とも合わせて、リーチの問題を解決し、なおかつ魔女らしいただならぬ雰囲気を醸し出せるよう頭身を高めにデザインしました。また「髪の毛を触媒にして契約魔獣を召喚する」という仕様から、彼女のコスチュームは魔力を持った伸縮自在な髪の毛によって編み上げられているものという設定になっています。その設定がわかるように、服のところどころに髪の毛がほどけてなびく部分を残し、特徴的でありながら動かしていて気持ちのいいシルエットを作りました。カラーリングの配置はシルエットの視認性を高めるために有効な手段のひとつです。ベヨネッタは視認性としては厳しい「シックな黒」がベースでしたので、身体の動きがわかりやすいように、ボディラインに沿ってアクセサリーを配置するといった調整を加えています。
- ――デザインをするうえで影響を受けたアーティストを教えてください。
-
学生のころから貞本義行さんや安田朗さん、宮崎駿さんのデザインにはいつも刺激を受けています。お三方のデザインする主人公キャラクターは、ベーシックでシンプルな構成であるにもかかわらず、ひと目で主人公だと見分けられるところがとても好きです。また、設定と仕様に沿った必要なラインを残した上で、どんな動きをしてもそのキャラクターとわかる機能性も非常に勉強になります。
- 元々私は感覚的に欲しいと思ったパーツをつけてデザインする事が多かったのですが、仕事という枠でデザイナーを務めるには、それだけではうまくいかない場合もありました。そういった経験の中で改めて、お三方のような見た瞬間に把握できる機能的なデザイン設計の部分がいかに大事かを再認識しました。
- ――仕事で心がけていることはなんでしょうか?
- 媒体や企画の目的によってデザインのルールは変わるので、ケースバイケースのフォーマットを作成できるように、なるべく幅広くアンテナを広げたいと思っています。また、日常で目にしているものは全てデザインの材料なので、気になったもの、感じたことはすぐにメモしてその内訳を考えるようにしています。 人が好きや苦手と感じるものについて「なぜそう感じるのか」と中身を考えることを通じて、そのものが持つ記号の本来の意味を確かめていくことも、デザインに役立つひとつの方法だと考えています。
- ――島崎さんがデザインされる際のツールを教えてください。
- 高校まではアナログの画材で描いていましたが、大学1年生のとき父親が家族共用のPCをもらってきたと同時に「FAVO」を購入し徐々にデジタルに移行していきました。その後もう少し大きいサイズのペンタブレットがほしいと思い「Intuos3」に買い替え、ゲーム会社に入ってからは「Intuos4」で仕事をしていました。2010年にフリーで仕事を始めたとき「Cintiq 21UX」を購入し、現在は「Cintiq 24HD」を使っています。今では仕事をするうえで絶対に欠かせないツールです。
- ――液晶ペンタブレットのどのようなところに魅力を感じますか?
- アナログの経験から入ったので、直感的に描ける点に非常に魅力を感じます。また「Cintiq 24HD」の画面サイズであれば、別ウィンドウで資料を開きながら絵を描くことができとても助かっています。3Dキャラクターのアートの仕上をする場合もあるのですが、非常にデリケートな調整になる事が多いので、そういった際にも大きな画面と直感的に反映してくれる筆圧感知の正確さが役立っていますね。
- ――島崎さんの今後のお仕事の予定や展望を教えてください。
- 最近はゲーム以外の媒体からもご依頼をいただくことが多くなったため、そこでもきちんとした成果をお返ししたいです。またキャラクター以外のデザインにも広く関わっていきたいと思っています。 デザイン以外では、漫画に興味があります。ゲーム会社に入る前はデザインか漫画かで迷っていたこともあり、フリーになった今、再びチャレンジしてみたいと考えています。世界観を一から作るという仕事が好きなので、そういった今まで培ってきた経験が活かせればと思います。
- ――最後に、次回ご登場いただけるイラストレーターの方をご紹介ください。
- ワダアルコさんです。イラストレーター、デザイナー、漫画家と幅広く活動され、華やかで印象的な画風がとても魅力的な方です。どんな仕事でもその時自分に求められているものをすばやく的確につかまれる方で、仕事への姿勢にも刺激を受けています。デザインに関しても鋭敏な感覚をお持ちなので、ぜひお話をうかがってみたいです。
作品紹介
『ベヨネッタ2』
対応機種 :Wii U™
ジャンル :クライマックス・アクション
発売日 :2014年9月20日
希望小売価格:7,700円(税別)
発売元 :任天堂株式会社
開発元 :プラチナゲームズ株式会社
島崎麻里さんはキャラクターデザインを担当されています。
※Wii Uは任天堂の商標です。
©2014 Nintendo ©SEGA
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