- ――Uchidaさんが絵を描きはじめたのはいつごろからですか?
- 子どものころから好きだった『ジャンプ』のマンガ家や安田朗さん、西村キヌさんといったイラストレーターの絵を落書き帳に模写していました。特に鳥山明さんの『ドラゴンボール』はよく描いていた作品です。ただ当時は絵がうまくなるための練習というつもりはなく、遊びのひとつとして楽しんでいただけでした。マンガ家になりたいと思ったこともあったのですが、本気で目指すこともなく絵の専門的な勉強もしないまま大学は理工学部に入りました。
- ――本格的にイラストの練習を始めたのはいつごろですか?
-
就職活動をしていたときです。一般の企業から内定をもらったのですが「本当にこの仕事でいいのだろうか」という迷いが生まれて、趣味として続けていた絵を仕事にできないかとゲーム会社への就職を思い立ちました。応募にはカラーイラストとポートフォリオが必要だったため、そのとき初めて本格的にイラストの練習を始めました。またアナログでカラーイラストを仕上げるのは難しいだろうと思いCorel Painterを使ったデジタルイラストを描くようになりました。
その後セガにデザイナーとして就職することができたのですが、当時はPhotoshopの使い方もわからない状態で、機能の説明からボタンやロゴなどパーツごとのデザインテクニックまで一から教えていただきました。また仕事では3Dモデリングや2Dインターフェイスのデザイン、キャラクターデザインやメカデザイン、背景デザインまで様々な分野のデザインに関わることができました。絵のうまい同僚が多く、「自分ももっと画力を上げなければいけない」と、会社から帰ったあとも毎晩、睡眠時間を削って絵の練習ばかりしていました。仕事の基礎はすべてセガで教わったと思っているので、今でもとても感謝しています。
- ――フリーランスになったきっかけは何ですか?
- プライベートで描いたイラストをブログにアップしていたのですが、ブログ経由で絵の仕事をいただけるようになったことです。初めて仕事の話をくださったのは早川書房さんです。当時ブログに上げていたのは早川書房さんの本の表紙のようなリアルタッチのイラストではなくコミック系のものが多かったので、なぜ僕に声がかかったのだろうかと驚きました。参考のため、SF系の表紙イラストを多数手がけていらした加藤直之さんや末弥純さんの作品を拝見するようになったのですが、自分とのレベルの差にすごくショックを受けたのを今でも覚えています。それでも期待には応えたいと何度も試行錯誤を繰り返しました。
- ――早川書房のお仕事が、リアルタッチなイラストへのきっかけになったのですね。
- そうですね。当時の作風もブログをさかのぼると見られるようになっています。今見ると未熟で恥ずかしいので削除してしまいたいのですが、自分への戒めのために消さずに残してあります。また、若い人にもっとリアルタッチなイラストにも興味を持ってほしいと思っているので、コミック系のイラストから出発しても練習次第でここまで作風を変えることができるということを知ってもらいたい気持ちもあります。
- ――リアルタッチなイラストを描くためのコツはありますか?
- 取材に行くことは重要だと思います。リアルタッチなイラストの場合、細部まで自分の目で観察したり資料のための写真を撮ったりライティングを分析したりすることが作品のクオリティに繋がります。たとえば2013年に発売された『信長の野望・創造』のパッケージイラストを担当した際は、このイラストのために着物や甲冑を実際に試着できる資料館へ行き、それぞれの仕組みを自分の目で確かめるという作業からスタートし、作品を描いていきました。
- ――最近油絵を始められたそうですが、Uchidaさんの作風にどのように関係してきましたか?
- リアルタッチを得意とするベテランイラストレーターの方には、アクリルや油絵といったアナログでも素晴らしいイラストを描かれる方がたくさんいらっしゃるので、自分も挑戦したいという思いが昔からありました。そこで油絵の描き方を勉強するため、尊敬する油絵家の古吉弘さんが講師を務める絵画教室へ通うようになりました。今まではデジタルで油絵のようなタッチを出そうとしていたのですが、自分がいかに油絵に無知なまま描いていたのかということを思い知らされました。同時に油絵をきちんと勉強することで、初めて自分が描きたいと思っていた絵がどういう手順で作られているかが理解できました。今はそれをデジタルにうまく活かす方法を研究しているところです。
- ――リアルタッチなイラストへの愛着が一貫してますね。
- 同世代のクリエイターからは「もっと流行りのイラストを描いたほうがいいよ」とよく言われました。ただ自分の目指す方向性はどうしても曲げることができず、リアルタッチにこだわって描き続けてきました。リアルタッチなイラストが全盛だった時代には憧れがあります。今もカードイラストを中心にリアルタッチなイラストを描かれる方がいないわけではないのですが、もう少し興味を持ってくださるクリエイターが増えて、もっとリアルタッチなイラストを盛り上げていけたら嬉しいです。
- ――アナログとデジタルでそれぞれ参考にしているクリエイターはいますか?
- アナログでは加藤直之さんや生頼範義さん、長野剛さん、海外ではフランク・フラゼッタさん、アシュレイ・ウッドさん、ジョン・フォスターさん、フィル・ヘイルさんなどをよく練習のお手本にしています。デジタルではPainterを使うきっかけにもなった寺田克也さんです。寺田さんのイラストはリアルタッチでありながら「絵画としての味」が残っているところがすごくかっこいいと思います。色の塗り方は、廣岡政樹さんやタカヤマトシアキさん、JunnyさんといったPainterの使い方にオリジナリティのある方、海外ではコンセプトアーティストのクレイグ・マリンズさんから学んだところが大きいです。影響を受けた方はほかにもたくさんいるのですが、挙げ出したらきりがないですね。こうした方々に早く追いつきたいと、毎日絵の練習ばかりしています。
- ――練習ではどんなことをやっているのでしょうか?
- 鉛筆でのスケッチや、デジタルでの「色のスケッチ」がメインです。「色のスケッチ」というのは塗りまで行うスケッチで、たとえば化粧した女性の顔をカラーで描くと、思いもよらないところに青や紫が入っていたりといった発見をすることができます。対象の形を知りたいときはアナログで、色を勉強したいときはデジタルでというバランスです。
- ――絵を描くツールは何をお使いですか? 変遷も教えてください。
- 初めは就職活動のためにワコムの「FAVO」を買い2年ほど使っていました。その後入社してから一年ほどたったころに「Iutuos4 を使うようになりました。使用ソフトはPhotoshopとPainterです。Painterはとにかく色が塗りやすいので、Painterで線画と彩色まで行いPhotoshopで加工するという流れです。
- ――今回「Cintiq 24HD touch」を使ってみていかがですか?
- 画面に直接描けるところが直感的で使いやすいです。普段使っている板型のタブレットではモニターを見ながらペンの位置が適切かどうか探りながら描くことになりますが、液晶ペンタブレットでは描きたいところに直接ペンを置くことができるので余計なストレスなく描けました。
- ――Uchidaさんの考えるデジタルの魅力は何ですか。
- 一番は早さです。油絵を一枚描く間にデジタルなら3枚も4枚も描くことができるので、作業効率を考えると仕事をする上で欠かせないものです。またトライ&エラーがしやすいというのも大きな利点です。デジタルで描いていたからこそ試行錯誤を重ねることができたし、たくさんの絵を仕上げることができました。アナログで描いていたらこんなにたくさんの作品を発表することはできなかったと思います。
- ――今後の目標はありますか?
- こういう仕事がしたいというよりは、もっと絵がうまくなりたいというのが一番の目標です。まだまだ修行不足で自分が描きたい理想の絵にはたどりつけていないという思いが強くあります。これからも精一杯練習を続けて、将来的にはデジタルだけでなく、油絵でも仕事ができるようになったら嬉しいです。
- ――最後に次回登場するイラストレーターの方の紹介をお願いします。
- 形部一平さんです。アナログの魅力とはまた違う、デジタルでしか出せないカッコ良さを突きつめられたイラストレーターで、昔から大ファンでした。僕がデザイナーとして関わっている、富野由悠季監督の最新アニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』にメカデザイナーとして参加されていて、現場でお会いすることができたときは本当に嬉しかったです。仕事の中でメカデザインを少し見せてもらったのですが、形部さんだからこそできる独特なデザインになっていてあらためて感動しました。憧れのイラストレーターのひとりです。
ゲーム紹介
『信長の野望・創造』
発売元:コーエーテクモゲームス
大人気歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』シリーズの最新作です。Pablo Uchidaさんがメインビジュアルを担当されています。
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、尊敬するお友達を紹介してもらうコーナーです。
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