- ――村田さんが絵を描きはじめたきっかけを教えてください。
- 子どものころ、親戚に絵がとても上手なお兄さんがいて、絵をまねしようと思ったのがきっかけです。車や電車など僕が好きだったモチーフをよく描いてもらったのですが、パースを付けることで遠近感や立体感が表現されており子どもの目からはとても上手な絵に見えました。
『138°E』Vol.1(ワニマガジン社)
カバーイラストレーション - ――影響を受けた作家や作品を教えてください。
- 中高生のころは、マンガの世界で起こった「ニューウェーブ」というムーブメントに影響を受けました。大友克洋さんはもちろん、江口寿史さんや上條淳士さん、藤原カムイさんなどの、最低限のシンプルな線だけで伝えたい質感を表現するスタイリッシュな画面構成が衝撃的でした。また当時の子どもたちと同じように『機動戦士ガンダム』などのロボットアニメも大好きでした。ロボットというモチーフ自体にも強くひかれ、そのデザインや構造にも関心を持つようになりました。仕組みを知るためプラモデルを組み立て、関節のつながり方やパーツの動き方など様々なアイデアを組み合わせることで説得力のあるメカデザインが成立していることを知りました。
- ――専門的な美術の勉強はされていたのでしょうか?
- 芸術系の大学に入ろうと思っていたので受験に合わせ、美術予備校ではなく高校で開かれていた美大受験者向けの講座に通いました。それが専門的な勉強のきっかけです。デッサンをはじめ、日本画を描いたり立体物の制作を行ったりと、幅広い分野の制作を体験しました。また受験が近づいてからは、色彩構成など受験に関わる科目を集中的に習いました。色の三原則などの色彩の成り立ちや、調和して見える色の組み合わせを勉強できたことは、今の仕事にも役立っていると感じます。
- ――大学では何を専攻していましたか?
- 乗り物が好きでプロダクトデザインの世界に進みたいと思っていたので、主に工業製品などの立体物の制作を学んでいました。この製品の曲線はなぜこういう形なのか、もっと緩やかな曲線だったらどういう印象になるのかといったことを考えることで、デザインに関する理解を深めることができました。ただ、僕の好きなデザインは当時作られていたラインではなく、よりクラッシックなものだったため、インダストリアルデザイン以外の道に進むほうがいいのではないかと、ばくぜんと考えていました。
- ――お仕事として絵に関わりはじめたのはいつごろからですか?
- ATLUSというゲーム会社で働くようになってからです。はじめは『豪血寺一族』の背景のドットを打つ仕事や、対戦前に映るキャラクターを描く仕事をやっていましたが、次第に雑誌やポスターに載せる版権絵をメインで担当するようになりました。その後、『豪血寺一族』シリーズの2作目で登場キャラクターが増えることになり、デザインの社内コンペが開かれたのですが、僕の手がけたクララというキャラクターが採用されました。キャラクターデザインの仕事に関わるようになったのはそのころからです。
『画楽.mag』Vol.2(ホーム社)表紙イラストレーション
- ――イラストレーターとしてデビューされたきっかけはなんですか?
- ATLUSでの仕事や、平行して行っていた同人活動を見た編集者の方からお誘いいただいたのがきっかけです。『ウルトラジャンプ』(集英社)でカラーイラストを描いたり、当時はまだあまり刊行点数のなかったライトノベルの表紙イラストを描いたりしました。しかしだんだんとゲーム会社の仕事との両立が難しくなり、どちらかおもしろいと思えるほうに絞ろうと考え、イラストレーターとして独立することに決めました。
- ――『ウルトラジャンプ』でのお仕事について教えてください。
- 『ウルトラジャンプ』のイラストでは様々な表現方法を模索することができました。編集部からは「機械っぽいテイストを取り入れてほしい」というオーダーを受けたので、メカのモチーフと女の子のキャラクターが同居した表現を様々な組み合わせ方で試していました。「機械と少女」というモチーフは今でも好んで描いていますが、『ウルトラジャンプ』で描いていたときに試行錯誤できたことが今の仕事にも活かされています。
- ――画集について教えてください。
- これまで3冊の画集を出していますが、ブックデザインが好きだったこともあり、いつも書籍全体でひとつの作品として成立させたいと考えています。そのためワニマガジン社の社内デザイナーの方と相談しながら、自分でも様々なデザイン案を出しています。それ以前も、同人誌で珍しい紙を試したり特殊な印刷方法を取り入れたりとブックデザインのノウハウを学んできました。画集ではその経験を活かしながら、商品として成立する限界まで先鋭的なデザインを目指しています。ただ、最近ではシンプルに絵を見せるタイプの画集も作りたいと思うようになり、準備を進めている第4画集ではこれまでとは違うコンセプトでデザインするかもしれません。
第3画集『formcode』(ワニマガジン社)
- ――そのほか印象的だった仕事を教えてください。
- いろいろとありますが、はじめて責任編集を務めたフルカラーコミック誌『FLAT』や『robot』(共にワニマガジン社)は印象に残っています。フランスのバンド・デシネのような、フルカラーで発表する場もあったほうがより日本のマンガ表現が豊かになるだろうと思い、関心を示してくれた作家の方々から寄稿してもらいました。ありがたいことに反響も大きく、展覧会や海外での出版も行うことができました。
- ――海外での反応はいかがでしたか?
- 海外ではカラーのほうがわかりやすいということもあり、手応えのある反応をいただけました。いくつかの国で出版していただいたのですが、国ごとに印刷事情が異なり、日本と同レベルの印刷クオリティを保つことが大変でした。『robot』で使っていた紙が用意できず、別の紙を指定したり、色味をチェックしたりと、品質の維持にはかなり気を使いました。その結果、海外版も納得のいくクオリティに仕上がりました。
- ――今後チャレンジしてみたいお仕事はありますか?
- 個人でアニメーションを作ってみたいです。以前もアニメーションのキャラクターデザインに関わったことは何度かありますが、そのたびに「絵を動かす」というのはとても刺激的な仕事だと感じました。2Dでも3Dでもいいので、いつか自分で一から制作してみたいです。 それと、また立体物の制作を手がけてみたいと思っています。特に金属加工を取り入れた家具デザインに興味があります。 たとえばソファなら革と金属の心地よい組み合わせ方を探ってみたいです。
- ――村田さんがペンタブレットを使われるようになったのはいつごろからですか?
- 『LASTEXILE』というTVアニメのキャラクターデザインを手がけたときからです。そのころ僕は大阪に住んでいたのですが、東京に泊まりこみで『LASTEXILE』の仕事をする期間を作ることになりました。しかし仕事が予想以上に長引き、そのとき持ってきていた画材だけでは仕事ができなくなったため、iMacとPhotoshopと「Intuos3」を買い、使い方を教わりながら制作を行いました。それ以降は、主にペンタブレットでイラストを描いています。
- ――ペンタブレットを導入して作風に変化はありましたか?
- 使いはじめのころはアナログで出していた色味をデジタルでも再現しようとしていましたが、途中でデジタルならではの表現をしようと考えを切り替えました。アナログのマーカーの色数は多くても400色くらいですが、デジタルでは使える色の数に制限がないため、その特性を活かして絵の密度を高めるようにしていきました。たとえば雲や山といった背景の塗りや質感の表現は明確に豊かになりましたし、人間にかかる環境光の微妙な色合いなども表現できるようになり、絵全体の色彩設計がとても細かくなりました。
『robot』Vol.10(ワニマガジン社)
カバーイラストレーション
POSTMANBAG type 2 (ワニマガジン社)
- ――現在ペンタブレットは何をお使いですか?
- 「Cintiq 24HD」を使っています。板型のペンタブレットを使っていたころは、髪の毛先など絵の中でも細い部分を塗るときに、思ったところに色を置けないことがありました。そのたびにアンドゥをする必要があるため、絵を一枚仕上げるまでには結構な時間のロスを生んでいました。そのため、直接画面にペンを当てながら描ける液晶ペンタブレットが発売されたときには、すぐに「これだ!」と思い購入しました。アナログの描き心地と近いところが気に入り、それからはずっと液晶ペンタブレットを使っています。今日使った「Cintiq 27QHD」は、画面も大きいですし発色もきれいで、これまで以上に使いやすくなっていると感じます。
- ――最後に次回ご登場いただける方を紹介してください。
- イラストレーターの安倍吉俊さんです。イメージを定めて描いている僕と違って、常に自問自答しつつ、様々な完成像を思い描きながら制作している作家です。だから安倍さんの作品には、人によって見え方や受け取り方がぜんぜん違ってくる、シャガールの絵画のようなところがあり、そこが魅力だと感じています。
作品紹介
『夕やけだん団』
2015年4月1日より映画館の幕間にて上映されるショートアニメ『夕やけだん団』。村田蓮爾さんがキャラクターデザインを担当されています。
©Y.D.D
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