- ――絵を描き始めたのはいつ頃からですか?
- 物心つく前からよくガンダムとイデオンを混ぜたようなロボットの落書きをしていたのですが、中学生の頃に格闘ゲームのブームがあり、中でもカプコンのゲームキャラクターに影響を受けて自分もキャラクターを描きたいと思うようになりました。新聞配達のアルバイトをしてNECのパソコンを買い、『ロマンシア』や『DAIVA』といったパソコンゲームにのめり込みました。その頃『ログイン』というパソコン雑誌が出していたRPGやアドベンチャーゲームを自作できるソフトを手に入れ、ドットやラインで作った図形を組み合わせて自分でもゲームキャラクターやロボットを描き始めるようになっていきました。
- ――高校、大学はともに美術系の学校に通われたそうですね。
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高校は陶芸からグラフィックまでみんなが好きなことをしている学校で居心地がよかったです。また当時はファッションが好きで、特にビンテージスニーカーに夢中になっていました。例えば紫に緑といった強烈な色の組み合わせを見事に調和させた、日本人には思いつかないような独特な配色センスに魅力を感じました。
大学は美術系の学科でしたが情報系がメインの学校で、実技がほとんどありませんでした。そのため4年間アルバイトばかりしていてほとんど絵を描いていませんでした。しかし就職活動の時期にあらためて自分の進路を考えたとき「絵を描く仕事をしたい」と強く思い、応募する会社に提出するポートフォリオを作成するために再び絵を描き始めました。PCでのイラスト作成を初めて行ったのはこのときです。友だちの家でMacを借りて描いたのですが、アナログの手順と比べ画面上で彩色が行えプリントも気軽にできるというデジタルの便利さにカルチャーショックを受けました。
- ――どんな絵を描いたんですか?
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大好きだったジェイミー・ヒューレットの『Tank Girl』やディズニー映画を意識した作品でした。『Tank Girl』の現代的なファッションと風俗の描き方や、ディズニー映画のシンプルな描線や大胆な色使いは、現在の作風にも大きく反映されています。
ただ、就職活動は広告系の制作会社を受けていたため、僕の作風と合うところが見つからずなかなかうまくいきませんでした。そんなとき学校の紹介で受けたある企業で「君の作風ならゲーム会社がいいと思う」とコメントいただけたことをきっかけに、高いハードルと思い込んでいたゲーム会社への入社を考え始め、その結果SNKに入社できました。 - ――SNK時代はいかがでしたか?
- 周りがパソコンに詳しい人ばかりだったので、入社当時は周りに追いつくことに必死でした。またSNKは格闘ゲームがメインの会社だったので、僕のアメコミ風の絵はあまり馴染みませんでした。それでもキャラクターデザインがしたいと思い絵を描き続けていたのですが、そんなとき『パラッパラッパー』の大ヒットを受けてダンスゲームブームが起こり、「形部は絵が特徴的だからダンスゲームのデザインをやらせてみようか」とドリームキャストの『COOL COOL TOON』というゲームのキャラクターデザイナーに指名していただきました。
- ――『COOL COOL TOON』の制作を通じて何か変化はありましたか?
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準備期間をいただきふさわしいタッチを模索している中でIllustratorを使うようになりました。もともとキャラクターの輪郭線に色を乗せたいという気持ちがあり、それまではスキャンした線画をPhotoshop上でなぞって色をつけていたのですが、ドローソフトであるIllustratorならそれが簡単にできることがわかり今の制作スタイルができあがりました。
また雑誌掲載用に『COOL COOL TOON』のピンナップイラストを何度か描いたのですが、それを通じて編集者とのつながりが生まれ、会社の仕事とは別にイラストのお仕事をいただけるようになりました。それをきっかけに2001年にフリーランスに転身しました。 - ――フリーランスになってからはメジャーな広告のお仕事が目立ちます。
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フリーになって2年目の2002年に、FIFAワールドカップでアディダスジャパンが企画した『Adidas MANGA FEVER』というアンソロジーコミックがあり、ボールとスパイクとユニホームという主力商品3点の広告イラストを描かせていただきました。スニーカーを集めていたこともありいつかスポーツメーカーの広告を担当したいと思っていたため、お話をいただいたときはとてもうれしかったです。
「メカと少女」というモチーフを前面に出したのはソニーと大阪のラジオ局FM802の共同キャンペーンからで、ギターをかき鳴らすロボットと女の子の中間のようなキャラクターを描きました。またその後ソニーの「ネットワークウォークマン」とFM802主催のプロジェクトdigmeoutのコラボモデルのイラストも担当させていただきました。こちらもロボット少女をモチーフに描いたのですが、ソニーのお仕事ということで注目度が高く「女の子のロボットを描く作家」というイメージが広まったようで、それ以来「好きに描いてください」と依頼され何枚かラフを描いてみると、「メカと少女 の要素を含んだ案が選ばれることが多くなりました。
- ――東京ゲームショウのメインビジュアルも「メカと少女」のモチーフですね。
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そうですね。2010年から今まで5年連続で担当させていただいています。以前ゲーム会社に在籍していたため、東京ゲームショウのようなゲーム関連の大イベントに関われるのはうれしかったですし、かつての先輩や同期に自分の仕事を見てもらえるかもしれない点でも感慨深いものがありました。
またロボット要素を含まない仕事では、2011年の「ナイキ フリー」のワールドキャンペーンが印象深かったです。スニーカーマニアとして、アディダスの次はナイキをやってみたいという目標がありました。ただクライアントからのオーダーは「形部さんの絵柄でシンプルに走っている人の絵を描いてほしい」というものだったため、初めは直球勝負のイラストレーションに不安がありました。自分の画力に自信がなかったので、これまではアイデアやコンセプトで勝負するようにしてきたからです。しかしできあがった作品を広告会社の友人から「形部の特徴的な絵柄は広告としてとてもよかった」と言ってもらえ、この仕事を通して「君の絵はそのままで良いんだよ」と言われた気持ちがしてうれしかったです。
- ――2009年の巡回展など個人制作にも積極的ですよね。
- 初めは個展の企画だったのですが偶然時期が重なった結果、渋谷、代官山、大阪、アメリカのポートランドと4ヶ所で同じ内容の個展を行う巡回展になりました。展示のための作品はどこまでも細部を描き込めるデジタルイラストの利点を活かし、自分の好きなものを高密度に詰め込んだ連作を大きく引き伸ばして展示しました。僕のサイトのトップイラストはその作品のひとつです。山や大仏などもすべて手で描いているのですが、画面に表示されるサイズではよく写真と見間違われます(笑)。この巡回展は自分が今描いている絵を知っていただける場になったと思うので、機会があればまたやりたいですね。
- ――近年はアニメのデザインも手がけていますがいかがですか?
- 元々ロボットアニメで育ってきたため念願の仕事のひとつでした。一番最初に関わらせていただいた『セイクリッドセブン』は「石の鎧」という企画案からデザインしたのですが、鎧を着たヒーローというのは最近あまり見ないキャラクターだったのでどうすれば現代風のカッコいいデザインになるかかなり悩みました。最終的にジーンズを穿かせたりマフラーを巻いたりして、鎧という無骨なものに自分の好きなファッションの要素を足していくことで自分らしいデザインにしています。ただアニメのデザインは広告などとは異なるアニメ独特の工夫が必要なので、自分のデザインがどうすればうまく映像に反映されるのかまだ試行錯誤の段階です。
- ――現在は富野由悠季監督の最新作『ガンダムGのレコンギスタ』に参加していますね。
- ある日突然、富野由悠季監督から直接お電話がかかってきて参加することになりました。以前一度お会いしたことはあったのですが予想外の依頼で本当に驚きました。メカデザイナーのひとりとして参加していますが、本格的なロボットのデザインは経験がなかったので毎日ひたすら描き続けることで、仕事の中で新しい技術を身につけていく感覚を楽しんでいます。打ち合わせが始まってから3年ほど経ちますが、未だに勉強させてもらっている気持ちです。
- ――メカデザインで使っているツールは何ですか?
- 『Gのレコンギスタ』までは下書きは鉛筆で描き、それをスキャンしたものの上から板型のペンタブレットとIllustratorを使いトレースしていました。しかし今回のメカデザインでは線画が大量に必要だったためこれまでのやり方では追い付かなくなり、メインメカデザイナーの安田朗さんから線を描きやすいペイントソフトとしてCLIP STUDIO PAINTを紹介していただきました。またこれまでは板型のペンタブレットを何台か使っていたのですが、同じく安田朗さんの勧めで「Cintiq 13HD」を購入し使っています。
- ――本日「Cintiq 24HD touch」を使ってみていかがでしたか?
- 普段使っている「Cintiq 13HD」と比べ、拡大縮小せずに全体を見渡せる状態で描き続けられるため、一枚絵のイラストを描く場合はメリットが大きいと思います。ただ「Cintiq 13HD」には別のメリットがあって、描く際のストロークが短くて済むため長時間の作業でも疲れにくく、設定画などの細々としたものを数多く描くには適していると思います。
- ――形部さんの今後の目標は何でしょうか?
- 今までは広告のお仕事がメインでしたが、今後はアニメのデザインの仕事をもっとやっていきたいですね。子どもの頃からアニメに育ててもらったという気持ちがあるので、アニメのデザインに関われるのはとてもうれしいです。特にキャラクターデザインに興味があります。また日本で絵を描く仕事の中で、最も世間にインパクトを与えられるのはアニメの仕事だと思います。アニメを通じて自分がデザインしたオリジナルのキャラクターやメカが広く知られるようになることが今の目標であり、夢です。
- ――最後に次回登場いただけるイラストレーターの方の紹介をお願いします。
- コヤマシゲトさんです。コヤマさんとは『ガンダム Gのレコンギスタ』の現場で知り合い、「Cintiq 13HD」を勧めてくださった方のひとりでもあるのですが、数多くの作品でメカからキャラクターまで幅広くこなされる実力派の人気デザイナーです。何でも描けることはアニメ業界における重要な力なので、今後は今以上に活躍される方だと思います。またひとつひとつの発言に説得力があり、富野由悠季監督を含めアニメ業界のベテランスタッフもコヤマさんの言葉には耳を傾けます。人望のある人格者で本当に魅力的なクリエイターです。
Webサイト「too much monkey business」
作品紹介
『セイクリッドセブン』
製作:サンライズ、バンダイビジュアル、博報堂DYメディアパートナーズ、毎日放送/MBS
サンライズ制作のオリジナルアニメで、2011年のTVシリーズに続き2012年には劇場版も公開。形部一平さんがキャラクター原案の一部を担当されています。
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