- ――コヤマさんが絵に触れるようになったきっかけを教えてください。
- 子どもの頃に読んでいた、絵の入った本や漫画が絵に触れた一番最初の体験です。絵があればそれだけで楽しいという子どもだったので、字ではなく挿絵ばかり注目して読んでいました。漫画は親戚のおじさんからもらった手塚治虫さんの作品が好きでした。
- ――小さい頃に好きだった作品はありますか?
- 兄の影響でロボットアニメが大好きでよく一緒に観ていました。ロボットさえ出ていれば満足という子どもで(笑)、中でも富野監督の作品は、都会的で、ある種の“最先端”という雰囲気を感じて大好きでした。その後、小学校高学年か中学生くらいの頃に『月刊ニュータイプ』で今も連載されている永野護さんの『ファイブスター物語』にはまり、高校生のときの友人からの薦めで、少女漫画や青年漫画、と様々なジャンルを読むようになりました。それでも20歳を過ぎて仕事を始めるまでは自分から進んで落書き以上の絵を描くことはありませんでした。
- ――絵を仕事にされるようになったきっかけは何ですか?
- 漫画家の西島大介さんと一緒に映像を作ったことです。西島さんとは『新世紀エヴァンゲリオン』が流行っていた90年代の半ばにゲームセンターで初めて出会いました。当時、彼はゲームセンターの店員で僕はゲーマーだったのですが(笑)、『エヴァンゲリオン』を通じて意気投合し、『DAICONFILM』の影響を受けて一緒に自主制作の短編アニメーション映像を作りました。そのときに初めてキャラクターの絵――稚拙ながら原画を描いたのですが、その映像がきっかけで編集者の大塚ギチさんに誘われてアンダーセルという会社の立ち上げに関わり、そこでイラストレーターとして絵を描く仕事をするようになりました。その後、イラストや短編漫画などいろいろ試行錯誤していた時期に貞本義行さんからお声がけいただき『トップをねらえ2!』へ参加したのをきっかけに、以後はアニメーションのデザインの仕事に関わらせていただくようになりました。
- ――コヤマさんにとってイラストとデザインの仕事はどう違いますか?
- 今の僕は、デザインの仕事をメインとしているので、自分のことはイラストレーターではなくデザイナーだと考えています。まず、イラストとデザインは絵に対する取り組み方が根本的に異なります。どちらも、クライアントの意向を踏まえて、お客さんに向けて画を作る仕事ではありますが、デザインの場合はその構造から意味性を踏まえてヴィジュアルを構築していくことが必須なので、すべてにおいて理由が存在します。「なんとなく格好良いイラスト」というのは存在するかもしれませんが、「なんとなく格好良いデザイン」というのは存在しないのです。ゆえにデザイナーの場合は関わるメディアの特性や知識を把握している必要があります。ひと口にキャラクターをデザインするといっても、ゲームならゲームに、アニメならアニメに適した形でデザインする必要がありますから。
- ――具体例を教えていただけますか?
- たとえば、アニメーションのキャラクターデザインでは縦縞模様の服は適さないと言われています。これはキャラクターを横に移動させたときに模様がハレーションを起こしてしまい、映像的に模様だけキャラクターと逆方向へ動いているように見えてしまうためです。また、デザインに含まれる形状の中でも台形という形は、短い辺のほうからカメラで捉えると“逆パース”という現象が起こってしまい、本来の形状が台形ではなく正方形に見えてしまったりすることがあります。そのため、どのアングルから見ても形が崩れないように、台形ではなく六角形にしてやることで形状とパースを表現する、などの細かい工夫が必要だったりします。そういった、ひと目見ただけではわからないような、デザイナーならではのノウハウを把握している必要があると思います。
- ――そうしたノウハウはどこで学んだのでしょうか。
- 『トップをねらえ2!』の現場で、鶴巻和哉監督とキャラクターデザインの貞本義行さんから相当時間をかけて教えていただきました。そこで基礎を教えていただいたおかげで今もデザイナーの仕事ができていると思うので、本当に感謝しています。特に貞本さんからはその後もデザイナーとして様々なことを学びました。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』ではアスカの新しいテストプラグスーツのデザイン原案を担当させていただいたのですが、その仕事を通じて、あらためて貞本さんによるプラグスーツのデザインがフィルムの中での機能性とデザイン性を両立させた、非常に考えぬかれたものだということを痛感させられ勉強になりました。
- ――最近コヤマさんがデザインの参考にしているものは何ですか?
- 日常的に溢れているものすべてですが、個人的に好きなものとしてアメリカン・コミックス・アートからの影響は強いと思います。キャラクターデザインを担当した『HEROMAN』を制作する際に改めてリサーチを行ったのですが、現在のアメコミは昔のような筋骨隆々なヒーロー以外にも、独特のデフォルメを加えてデザインされたものが多いんです。こうしたテイストは昨今の日本ではあまり見かけなかったので自分のデザインに取り入れたいと思いました。最近は日本のアニメを研究している海外のクリエイターも多く、ときには日本人以上にアニメを詳しく分析しています。そういった切磋琢磨を重ねてお互いにおもしろいものを作ろうとする思いはとても共感できますし、常にチェックしておかなければいけないと感じています。そのため、数年前からは、サンディエゴで毎年開催されているコミコン・インターナショナルというコンベンションへ参加しています。
- ――『HEROMAN』以外にも日本以外のテイストを取り込んだ作品はありますか?
- 僕がコーディネーターという役職で画面の色使いやデザインを決める役割を担当した『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』ではカートゥーン・アニメの思考法をデザインや画面構成に導入しています。当時、ちょうど今石洋之監督やコンセプトアートを担当された吉成曜さんもこれまでの日本のアニメの絵とは違ったテイストの絵作りをしたいという思いがあり、スタッフ間での目的意識がうまく一致した結果、ああいった作風になりました。この作品では今の日本のアニメではあまり使われていないようなメソッドを様々模索しました。
- ――どんなメソッドでしょうか?
- たとえば一般的に金髪のキャラクターは夜のシーンでは少し青みがかった暗く色を落とした髪の色にしますが、僕はあえて金髪を発光するような明るい黄緑色に設定しました。イラストレーションの世界でこそ珍しい表現ではありませんが、物理法則を守って作られるアニメの世界では行われないカラーリングを、イラストを応用した新しいメソッドとして導入しました。色彩設計の模索はアートディレクターを担当した『キルラキル』でも継続して行っていて、たとえば第8話の回想シーンでは過去、つまり情報量が欠如していることを表現するために、パレットも少ない色数で画面を構成しています。おそらく普通に観ている分には違和感なく、単なる赤いセピア調に見えるかもしれませんが、実は6色しか色数を使っておらず、シャツと肌は同じ色だったりします。これは赤と黒の2色だけで印刷された漫画雑誌の巻頭カラーページのようなテイストを持ち込もうとした結果、考えついた表現です。
- ――今後チャレンジしてみたい表現はありますか?
- やってみたいアイデアはたくさんありますが、今はまだ明かせません(笑)。ただ僕はメカが得意と思われがちですが、『キルラキル』のエンディングアニメーションで描いたマコのような、シンプルにデフォルメされたキャラクターの方が本当は好きなので、今後はそうした“ゆるい”タイプのキャラクターも手がけていきたいですね。“ゆるい”キャラクターというのは、一見簡単に描かれているように見えますが実はとても洗練されたデザインの上に成り立っています。また昨今のアニメの世界では密度の高さや複雑さが追い求められる傾向にあると感じることが多いですが、逆にあえてシンプルにデザインされたものの魅力をもっと打ち出していきたいな、と思っています。
- ――コヤマさんがデザインされる際のツールは何ですか?
- 絵の仕事を始めた当初は、アナログで描いた線画をスキャンしてマウスで色を塗っていました。ただ絵の仕事に慣れ始めた頃に、買っていながら使っていなかった初代「Intuos」に触れてみたところ、マウスよりもはるかに使いやすいことがわかったので、当時最新機種だった「Intuos3」を購入しました。その後しばらくして、独立してフリーランスになったタイミングで仕事をフルデジタルに移行した際に、「Cintiq 13HD」を購入し、MacBookProとあわせて現在まで使い続けています。
- ――液晶ペンタブレットの使い心地はいかがでしたか。
- 以前試しに使ってみたときはタイムラグが気になったのですが、今の機種は線画をアナログで描いていたときとほとんど同じような感触で描けるようになっているので、スムーズに移行することができました。特に「Cintiq 13HD」はコンパクトながら僕がデザインやイラストを描くうえで十分な解像度や性能を持っているうえ、どこへでも持ち運べてどんな現場でもいつもと同じ環境で仕事ができるという最大の利点があるので、僕にとっては理想的なツールです。アニメスタジオを渡り歩いて仕事をするフリーランスのデザイナーや、イラストレーターの知人たちにもよく薦めていまして、現在関わっている富野由悠季監督の最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』の現場でも、安田朗さんや形部一平さんが「Cintiq 13HD」を購入してくださいました(笑)。今日は「Cintiq 24HD touch」を使わせていただきましたが、大きいと没入感が違いますね。それでもやっぱり……僕はコンパクトな「Cintiq 13HD」が好きです(笑)。
- ――最後に次回ご登場していただくイラストレーターを紹介してください。
- 島崎麻里さんです。イラストレーターとしてだけではなくデザイナーとしても素晴らしい方で、島崎さんがキャラクターデザインを手がけたゲーム『BEYONETTA』が発表されたときに、ひと目で「このデザイナーはわかってる!」と直感しました(笑)。メディアに応じたデザインというものを非常に重要視されていることが作品からもはっきりと伝わってきて、同じデザイナーとして強いシンパシーを感じるクリエイターです。
作品紹介
『ガンダム Gのレコンギスタ』
ガンダムの生みの親、富野由悠季監督が手がけるガンダムシリーズの最新作。2014年10月2日より、MBSほか深夜アニメイズム枠にて放送スタート。コヤマシゲトさんはデザインワークスとして参加されています。
©創通・サンライズ・MBS
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